ゆいこのトライアングルレッスン-THE MOVIE-「居残り」
最初のゆいこの部分のみが小説家になろうラジオ投稿作品です。
--------ゆいこ目線
ゆ)「はぁ…居残りかぁ。」
私は肩を落とす。やっと夏休みに入ろうとしているのに、 定期考査の点が悪く、居残りになってしまった。
居残り用の教室に入ると、先約がいた。
た)「よっ、ゆいこ。」
ひ)「たくみだけじゃなくゆいこもか。」
ゆ)「そうだけど…。」
ひ)「ま、ゆいこらしいな。始めるか。」
ゆ )やりながら雑談が始まった。
た )「はぁ、今日の晩飯またシチューなんだけど。」
ゆ )「いいなぁ、美味しそうじゃん。」
た )「でも、ご飯にあんま合わねぇし。」
ひ)「ご飯にかけるの結構うまいけどな。」
ゆ) 「そうだよ、美味しいよ。」
た)「…別にどっちだっていいだろ。」
ゆ)急にたくみが静かにキレて、荷物をもって教室を出てしまった。
「あっ、たくみ!…どうしたんだろうね、たくみ。」
ひ)「分からないけど、あいつはすぐ機嫌戻すと思うから、ほっといとこ?それよりここまで終わらせようよ。」
ゆ)ひろしは私に教えようと少し近くに来てくれた。その気遣いにちょっとだけドキッとした。下校のチャイムが鳴る。その音は何かが始まる音みたいだった。
--------ひろし目線
ひ)たくみがゆいこのことが好きだなんてずっと前から知っていた。
隠しているつもりでもたくみは分かりやすい。それにゆいこもきっと、たくみのことが好きなんだろうなくらいは察しがついた。
それにゆいこは俺に相談してきていたから、両片思いなんだな、と特に二人の恋に関係のない俺はもどかしい気持ちでいた。
「たくみめ、ゆいこに告白してやればいいのに。」
ゆ)「ひろし、なんか言った?」
ひ)「なんでもないよ。母さんにクリームシチュー買ってこいって言われてたなーって思って。」
ゆ)「そっか。」
ひ)心の声が漏れていたとは驚きだが、そんなことよりも二人の関係は本当にもどかしい。
そんな中、定期考査も終わった。担任から2人ほど居残りに付き合ってあげてほしいと言われ、放課後の教室にひとり残る。
なんとなく誰が来るのかは予想できた。
案の定、考えていたうちのひとり、たくみが来た。
た)「わりぃ。俺、国語の点数悪くてさ。教えてもらってもいい?」
ひ)「やっぱりたくみか。先生から聞いているから、もうひとり来るはずなんだけど…。」
た)「多分ゆいこだと思うぜ?先生に呼び出し食らっているところを見たしな。」
ひ)そんなたくみの発言に納得し、確信した。たくみは本当は国語の点数は悪いと嘘をついているのだと。ゆいこが来ると知って来たことくらい俺には分かった。
そして急に教室の扉が開いた。
た)「よっ、ゆいこ。」
ひ)「たくみだけじゃなくゆいこもか。」
ゆ)「そうだけど…。」
ひ)「ま、ゆいこらしいな。始めるか。」
普段通りの雑談が始まるが、たくみは何故か少し怒ったような顔をしていた。
そしてしょうもない言い合いで静かにキレて教室を出ていた。
そんな怒らせるようなこと誰も言っていない。強いて言うならたくみと、ゆいこと俺の意見が噛み合わなかっあくらいだ。
ゆ)「あっ、たくみ!…どうしたんだろうね、たくみ。」
ひ)悲しそうな顔で勢いよく閉じられた扉を見て呟くゆいこ。そのあとここまで終わらせようと言ったものの、どこか上の空なゆいこ。おい、たくみのせいだぞ!
そこに、下校のチャイムが鳴り響く。だが居残りをする生徒はあと30分残れるのだ。だか、今のゆいこに勉強を続けさせることは不可能だと思ったその時、
ガタン
急にゆいこが立ち上がる。
「ゆいこ?」
ゆ)「ひろしごめん。たくみ追いかけてくる。」
ひ)「分かった。たくみに気持ち、伝えるんだろ?いってらっしゃい。荷物は後で届けるから。」
ゆ)「ひろし、ありがとう。頑張ってくるね。」
ひ)そう言って駆け出していったゆいこ。もうもどかしい気持ちを募らせなくていいのだ。
ゆいこの走る廊下を見ながら呟く。
「ゆいこ、ありがとう。これで諦められるよ。ゆいこのこと。」
--------たくみ目線
ゆ)「あっ、たくみ!…どうしたんだろうね、たくみ。」
た)静かにキレて教室を出た俺を引き留めるような声で、ゆいこが言っているのが聞こえる。
俺はそんなふうに言われても、教室には戻らない、絶対に。
全部、ゆいこのせいだ。
「ゆいこ、一緒に帰ろうぜ!」
ゆ)「あっ、たくみごめん。今日、用事があって寄り道しなきゃいけないから一緒に帰れないんだ。また明日ね。」
た)「そっか、また明日な!」
今思えば、あの頃からだった。ゆいこが何かと言い訳をして、俺と帰るのをやめたのは。そのくせして、ひろしとはときどき一緒に帰っているのを俺は知っていた。
「なんだよ、あいつら両片思いならひろしが告白してやれば丸く収まることだろ。俺には入る隙間も無いんだからさ。」
誰に言えるわけでもない愚痴を俺の気持ちとは正反対な綺麗な夕焼け空に向かってぼやく。
本当は、俺は居残りじゃなかった。ただ、ゆいこに会いたくてひろしにも嘘ついて居残りをした。
でもあの二人の空気感を見て、俺はお邪魔虫だって気づいて。あの二人の間に入る勇気は流石に俺にもない。キレてあの教室から出ていくきっかけが欲しくて俺から話を振った。
「はぁ、もういいや。」
そう思ったその時だった。
ゆ)「はぁ、はぁ、はぁ、たくみっ!はぁ、はぁ、はぁ。」
た)「ゆいこ?どうしたの?」
ゆ)「どうしたの?…じゃ、ないでしょ。はぁ、はぁ。しん、ぱいだから、おいっ…かけてきたのに…。」
た)ゆいこの息があがっている。わざわざ来なくてもよかったのに。
「わざわざ追いかけてきたのかよ。別に俺はいいんだよ。ひろしと仲良く勉強してればよかったのに。ひろし、心配してると思うぞ?教室に戻りなよ。」
ゆ)「たくみのせいだよ。」
た)……………………。
「えっ?」
か細い声で言うゆいこ。聞き取れたような気もするが、聞き間違いもしていたような気もして聞き返す。
ゆ)「たくみのせいだよっ…。」
た)ぽろぽろと涙を流しながら、そう俺に言った。
ゆ)「ずっとっ…たくみが、好きだっ…たの、に。…たくみは、私が…ひろしのことっ、好きだって、思ってたんで…しょ?だから、どうやってたくみに伝えればいいか…分かんなくて。ひろしに、相談のってもらってたんだよ…。」
た)ゆいこの口から溢れたその言葉に、俺は理解が出来なかった。ゆいこが俺のこと好き?そんなわけ無いだろ。
でもそう思う一方で、それが事実だとしたら俺がどれだけゆいこにひどいことをしてきたか。そう考えると俺はよっぽどひどい人間だと思う。でもそんな俺を、ゆいこは好きなってくれたというのだろうか?
「ゆいこ、ひどいことしてごめん。」
咄嗟にぽろっと出た言葉と共に、俺はゆいこを抱き締めた。
ゆいこは、まだ泣いている。でもどこか笑っていて、西に沈み始めた太陽と、南から昇り始めた月が、俺らを照らしている。
「月が、綺麗だね。」
--------ゆいこ目線2
ゆ)たくみがキレて教室を出ていったあと、ひろしがそっと近くに来て教えてくれようとしていたことに何故かドキッとした。
その時鳴った下校のチャイムが何かの始まりを告げていた。
私の中に、疑問が浮かび上がった。
(ドキッとしたのってひろしの気遣いだよね?それって私、ひろしのこと好きになったのかな。んーそんなこと無い。たくみが好きなのに。…もしかして今のチャイム、私がたくみに告白する「決意」を告げたチャイムなのでは?)
混乱した私の頭は、思考が追い付く前に体が勝手に動いた。
咄嗟に私は立ち上がっていた。
ひ)「ゆいこ?」
ゆ)「ひろしごめん。たくみ追いかけてくる。」
ひ)「分かった。たくみに気持ち、伝えるんだろ?いってらっしゃい。荷物は後で届けるから。」
ゆ)「ひろし、ありがとう。頑張ってくるね。」
こんなに受け入れてくれる人はなかなかいないのだろう。でもやっぱり、ひろしは友達以上には何故かいけない。
そんなことを思いながら、たくみを追いかける。
ゆ)「はぁ、はぁ、はぁ、たくみっ!はぁ、はぁ、はぁ。」
普段、あまり動かない私だが、頑張って走った。やっと後ろ姿の見えたたくみを頑張って呼ぶ。
た)「ゆいこ?どうしたの?」
ゆ)「どうしたの?…じゃ、ないでしょ。はぁ、はぁ。しん、ぱいだから、おいっ…かけてきたのに…。」
なんで私の気持ち、分かってくれないの…。
た)「わざわざ追いかけてきたのかよ。別に俺はいいんだよ。ひろしと仲良く勉強してればよかったのに。ひろし、心配してると思うぞ?教室に戻りなよ。」
ゆ)この言葉で、全てが分かった。きっとたくみは、私がひろしのことが好きだって思っているんだと思う。
そう思ったとき、無意識のうちに言葉が零れた。
「たくみのせいだよ。」
た)……………………。
「えっ?」
ゆ)やっぱり、たくみは私がたくみのこと好きだって気づいてない。
「たくみのせいだよっ…。」
我慢していた涙が、ストッパーが無くなったようにぽろぽろと落ちる。
「ずっとっ…たくみが、好きだっ…たの、に。…たくみは、私が…ひろしのことっ、好きだって、思ってたんで…しょ?だから、どうやってたくみに伝えればいいか…分かんなくて。ひろしに、相談のってもらってたんだよ…。」
驚いた顔で固まるたくみ。その1秒後、私はたくみの腕の中にいた。
た)「ゆいこ、ひどいことしてごめん。」
ゆ)止まらなくなった私の涙。だけど少し笑っていられた。
夕暮れ空と夜の狭間。満月が見えるその時間、たくみはこう言った。
た)「月が、綺麗だね。」
読んでくださりありがとうございました。
こんな青春したいなという欲望の塊でございましたが、お楽しみいただけたでしょうか?
女子中学生でもこんな恋できません。(ゆいこの三角関係羨ましい…)
中学生なのでまだまだつたない部分もありますが、他の作品も読んでいただけると嬉しいです。