一夜目 山髪村
山髪村
「っと、到着。続きはまた後で、
忘れ物なら山の奥。
さぁ、いらっしゃい真斗君。
ようこそ、山髪村へ」
文お姉ちゃんは裂けたような笑みで
僕を迎え入れてくれた。
文お姉ちゃんのこの顔だけは嫌いだ、
怖くないのになんか怖い。
*
「ささっ、マナくん。上がって上がって!」
「お邪魔します。」
靴を揃えて、まず仏間に向かう。
盆飾りが彩られた賑やかな仏壇を前に
"今年もおばぁ達に逢いに来たよ。"
金台でヒトガタが燃え尽きるまで
御先祖様へ手を合わせ続けた。
***
【ヒトガタ】
真っ黒な紙でできたお人形。
山髪村でお線香の代わりにお供えしてる。
燃やすと真っ黒な煙が上がって煙い。
振ると中になにか入ってるみたいな音がする
***
「あっ!お夕飯食べた?」
『グゥ〜、、』
多少コンビニからの兵糧があったとしても
育ち盛りの胃袋には耐えきれるものではなく、正直なお腹の虫が空腹を訴える。
「え!?食べてないの!?
お腹すいたでしょう〜、
すぐになにか用意するから茶の間に座っててね!」
***
【じいちゃんのお家】
平屋建ての大きなお家。
村1番の豪農?だったみたい。
だから、果物園も畑も大きな倉庫も隣に建ってる。父さん曰く、
お化けが出るから夜は家から出ない方が良い。
だって。
でもワンコの"ポマード"がいるから怖くない
***
「さぁ!ターンとお上がり!……ってもインスタントの袋麺だけど、」
文お姉ちゃんは
眼鏡を湯気て曇らせた僕を前に
少し申し訳なさそうにカラカラ笑っている。
いただきます。
手を合わせ、ラーメンをすすりながら
じいちゃんにあっていないことを思い出した。
「……そういえば、文お姉ちゃん、じいちゃんは?寝ちゃった?」
文お姉ちゃんの顔が一瞬 固まり、微妙な顔になる。
どうしてだろう。
なんだか、まずいことを聞いたみたいだ。
「……姉さんから何か聞いてない?」
無言で頷く。
「……食事中に言うことじゃァ無いんだけど、
おじいちゃん、入院していないんだよね。
『バゥ!バゥ!アウォオオォン!』
果樹園の方からポマードの鳴き声が聞こえてくる。なにかに威嚇するような鳴き方だ。
ガダダ!
ダダダダダガダ!
ダダダダダダダダダ!
ガダダダダダダッダダダダダダダダ!
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!
玄関が凄い音で叩かれる。
爆音のような振動に何事かと、文お姉ちゃんの方を向くと……
先程とはまた種類の違う、暗い顔。
恐ろしいほどまでに冷えきった顔をしていた。
『 』
「ごめんね真斗くん。食器そのままで良いから
寝室行って朝まで出ないでね。
布団は敷いてあるから」
あまりの剣幕と状況で、
即座に肯定し小走りで屋敷の奥にある客間に向かった。
もう、風呂や着替えの事など頭に無く
用意してあった布団を頭からかぶり
震えながらも外の闇への恐怖から逃れようとするのが精一杯だった。