~どぶねずみ~鉄砲玉の最後~
「おい礼二…今夜だ…新宿國龍会会長の里中弘二が動くのは……これを沈めりゃあおめぇも晴れて銀バッチ昇格だ……しっかりと…頼んだぜ……」
黒塗りフルスモークのベンツの中、左ハンドルの運転席、ブランド物のスーツ姿の男はそう言うと、札束の詰まった茶封筒と一緒に油紙に包んだ三八口径の拳銃を、後部座席に乗る十代前半の少年、久坂礼二に渡すのだった。
「うっす!必ず沈めてやるっすよ……」
兄貴分の志垣竜二の声がけに、彼、久坂礼二は力強く応えて、車を降りると、彼に深く頭を下げた。
兄貴の車を降りた俺は、新宿の街に成りを潜めて、夜になるのを待った。
そして、時刻は今日から明日へと、日付の変わろう二十四時。サングラスで顔を隠した俺は、愛人が経営するクラブから出て来た新宿國龍会六代目会長。里中弘二の一団に、正面から声をかけるのだった。
「新宿國龍会会長…里中弘二さんですね……貴方に私怨は無いが…死んでもらいます!」
俺はそう言うと、さっきわたされた三八口径のリボルバー式の拳銃を抜いて、躊躇する事無く、六発全弾を彼に撃ち込んだのである。
しかしその直後だった。彼を取り巻くボディーガードの組員達の銃弾が次々に俺の身体を襲った。
意識の薄れゆく中、俺の脳裏をよぎったのは、この強行に至る前に会った西新宿のショーパブで働く、対馬圭織と言う一人の女だった。
『圭織さん…あんたの……な…馴染みに…なりたかったぜ……』
うわごとのように俺は、そうつぶやくと、自分の身体から流れ出た血の海にその身を委ね、そして、事切れた。
Fin