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戦場の詩

再臨

作者: 奥島左珠

ああ鈍色の曇天を頂き

ひとりいのりぬる男よ 誰そ

肉のそげた頬は個を失い

眼だけが凛然と耀いている

がらさみちみちたまふまりや

がらさみちみちたまふまりや

唱う唇に確信を嚙み

その頭に灰かぶり

泥染入る靴脱ぎて

ひとりいのりぬる男よ 誰そ



街の者はみな遠くを見遣る

部隊は川を越えたという

おどおどとその足音を測る

からしにこふに手をかける

だれかがわざとくしゃみをする



静けさは徐にその身を隠し

己が妻子を護らむと

民は自ら鬼となる

鬼は互いを鬼として

やがて銃火が放たれる



ある母幼子を抱きて小銃を持ち

若き兵士に立ち向きけり

がらさみちみちたまふまりや

がらさみちみちたまふまりや

われらが誇りを護りたまへ

鬼の意を宿せしその刹那

間に立ちたる一人の男



向けられしその銃の

口を塞ぎし掌

ああ

かの人の傷よ

かの人の傷口よ

執り成しの微笑よ

小さき御姿よ



しかれど

わき腹に受けしは一突きにあらず

力なく倒れ伏すとき

すでにかの面影去りにし

誰かその名を知るらむ

あまりにも短き再臨の基督

がらさみちみちたまふまりや

がらさみちみちたまふまりや

※がらさみちみたちまふまりや

一六〇〇年に日本語訳されたキリスト教の典礼文「どちりな きりしたん」に、「アベマリアといふオラショ」として収録されている聖母マリアへの祈りより引用。

恵みあふれる聖マリア(Ave, Maria, gratia plena, Dominus tecum)を訳すときに、gratiaを訳さず音のまま残した結果が、「がらさみちみちたまふまりや」です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 旧約聖書はイザヤ書に出てくる「苦難のしもべ」をほうふつとさせる内容だと思いました。 きっと、戦場で、あるいは悲痛の中に今も基督は再臨し、血を流しているのですね。
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