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Scene11 -12-

  バルセイバーが繰り出した渾身の一撃が外れたと落胆した矢先、後方へ跳躍回避したウォリアーは左肩から左腰に掛けて切断されて大地に転がった。


  完全に疲弊しきった状態でありなが己の心臓部であるリアクターに鞭を打って今まさに飛び出そうとしていた赤と青の巨人も、上空で勝利を願っていた仲間も、何が起こったのかすぐには理解できずにいた。


  「て、敵セガロイド、左半身を断裂して沈黙しました」


  索敵士八島美紀のぎこちない報告を受けて数秒後、イカロス艦橋でドッと歓声が上がる。レオンとノエルもその報告を聞いて構えていた腕を落とす。ここでようやくバルセイバーがウォリアーを倒したのだと確信したのだった。


  「セイバーのソールリアクター出力低下、スピリットリアクターも高負荷により機能停止しました。バルセイバー活動限界です」


  喜びも束の間、動かなくなったセイバーの状態が気になりステータスを確認する。

  リアクター出力が強化外装の最低稼動圧力を下回ったことで動けなくなり倒れたと思われたバルセイバーだったが、理由はそれだけではなく、共命者であるアクトの著しい消耗が原因だった。


  通信を聞いていたノエルとレオンは倒れるバルセイバーに駆け寄った。

  強化外装と合わせて倍ほどの重量になったガイファルドをふたりがかりで抱え起こし、そのそばにイカロスが着陸する。


  「急いでセイバーを収容するんだ」


  そう指示した剛田は内心でかなり焦っていた。戦いの最後に起動させた強化外装のスピリットリアクターが原因だとわかっていたからだ。ソールリアクターの動力源となり、さらにスピリットリアクターに精神力を振り分けたその負荷たるや想像に難くない。


  未試験、未調整、初稼動といきなりの実践投入だったにもかかわらず、不具合なく動いてくれただけでもありがたいことだった。


  それが強敵に勝利という結果もともなったのだから万々歳なのだが、それも共命者であるアクトが無事なればこそだ。


  博士はメディカルロボットの起動を指示した。


  「PRM(ピラーロボット=メディカルシステム)起動してハンガーへ」


  バルセイバーを抱えイカロスの後部格納庫に向かっているレオンとノエルが立ち止まる。それに気が付いた八島が艦橋内に響く声で叫んだ。


  「セガロイドが動いてます!」


  モニターに映し出されたセガロイドはその左手に分断された右半身の腕を掴んで立っていた。


  「まだ戦えるのか!」


  「離陸準備急げ! 早くセイバーを収容するんだ」


  不気味に立たずむセガロイドはとても瀕死の状態とは思えない覇気を感じさせた。


  「セイバーをお願い」


  ノエルはレオンにセイバーを任せると腰に収納していた二本のダガーを再び引き抜いた。


  「馬鹿ななことはやめろ。あいつがどれほど力を残しているかわからないんだ」


  ノエルはレオンの言葉を聞かずにイカロスの前に躍り出る。


  「セイバーを連れて早くイカロスへ、これは隊長命令」


  エマが隊長に任命されてから始めて本気で下した隊長権限による命令を受け、レオンは黙ってイカロスへ向かった。それを確認したノエルは二本のダガーを構えてウォリアーの攻撃に備える。だが、レオンがバルセイバーを格納庫に下ろすまで、ウォリアーは微動だにしなかった。


  「よし。ノエル、おまえも早くイカロスへ」


  レオンがノエルに向かって叫んだその時、ノエルとウォリアーの間にミサイルが着弾する。


  「なんだ?!」


  レオンは急ぎ外に跳び出すと、A国の大部隊が迫っているのが見えた。さらに着弾したミサイルは、あわやイカロスへ直撃しそうになる。


  着弾したミサイルの爆風がセガロイドを避けて流れていくことから、セガロイドが展開する力場は顕在であることがうかがえた。


  「奴はまだ終わっていない。さすがにあれだけの大部隊を相手にする力は残ってるとは思えないが、それは我々も同じだ」


  警戒を解くことなく一歩二歩と後ずさりするノエル。今襲われた場合イカロス共々やられかねないという懸念は確信へと変わった。


  「さっきのA国の攻撃は威嚇射撃だろうが次もそうとは限らない。僕たちは同盟軍ではないどころか所属国不明の未知の勢力だからね。早く撤退しないとセガロイド諸共総攻撃を受けてしまいそうだ」


  A国を助けに来たのにそのA国に攻撃されてはたまったものではないと、イカロスは後部格納庫を開けたままゆっくりと上昇を始める。


  「さぁノエル!」


  レオンはノエルに声を掛けて手を伸ばした。


  「A国軍強襲戦車部隊の発砲を確認」


  数十発発射された砲弾は、セガロイドが展開する力場に負けることなくほぼ威力を減衰させず、わずかに軌道をそらしただけで着弾した。


  最新鋭の高機動戦車ワイルドウルフ。リニア駆動によって戦車に倍する機動力を持ち、各所に設けられたバーニアによって陸戦機とは思えない運動性を発揮する。


  主砲から撃ち出される螺旋弾はA級機械虫にも通用する威力を持っていた。まだ量産化は進んでおらず現在はここエリア132と一部の重要施設に配備されるのみで実戦はこれが初めてのことだ。しかし、この兵器は対機械虫世界軍事同盟にも公表されていない技術を使っており、今回の出動はやむなしといったA国の判断であった。

  余談だが、のちにA国もC国と同じように「開発中の試作機である」と言い訳することになる。


  爆圧に押されたセガロイドは、軽く100トンを超える巨体をふらつかせながらもガイファルドたちを見ていた。


  『(この傷は格下だと油断した結果だ。ギソーン[第二位]のバドルであると気づいたのにもかかわらず、今の世のバドルのあるじが軟弱だと決めつけた俺のミス)』


  「主力部隊攻撃の射程距離に入りました」


  「急速離脱!」


  ノエルが飛び乗ったイカロスが急上昇を開始した。そのイカロスとすれ違うように何かが飛来してセガロイドの前に降り立つと、激しい砲撃と爆撃により砂塵を巻き上げたその場所にバチバチっと電光が走った。


  内側から空気が膨張するように煙も砂も炎も弾けさせたその中から、ウォリアーに覆い被さり守る機械獣が現れた。


  集中砲火を受けたことで外皮はそれなりに損傷を受けている。


  イカロスの後部格納庫に入ったレオンとノエルはぐったりとその場に座り込み、外で何が起こっているのか気づいてはいなかったが、艦橋の隊員たちは腰が抜けるほどの衝撃を受けていた。確かに機械獣の登場に驚きだった。もう少し早くに現れていたら敗北は必至だったのだから。しかし、それよりも驚いていたのはその機械獣の横にウォリアーとは別の巨人が立っていたことだ。


  「やはりウォリアー以外にもいたのか」


  ウォリアーより細身で、コートを着た上に更に幾枚かのプレートを組み合わせたマントを纏っているように見える。体の各所に丸く黄色い球体が埋め込まれ、朱殷しゅあん色といった血液が黒っぽく変色したような赤い外装色が物言わぬ凄惨さを醸し出していた。


  球体がぼんやりと光りパリパリと電光が弾けている。マントのように背面から覆われた装甲を展開させて倒れているウォリアーを助け起こした。


  「(一歩遅かったですね)」


  「(いや、おかげでリベンジの機会を失わずにすんだ)」


  「(手ひどくやられているが、この時代のオルガマーダはそれほど手ごわいのですか?)」


  マントのセガロイドは体を切り裂かれたウォリアーを見て言った。


  「(これは自らの油断が招いたものだ。とは言え現在のバドルのあるじは未熟でありながら未知の力と技術があると言えるだろう。あの頃とは違った強さを持っている)」


  「(ならばもう一度その強さを楽しむためにその傷を癒さねばなりませんね)」


  そう答えてウォリアーの手を掴むとゆっくりと浮き上がる。


  A国軍は展開してセガロイドと機械獣を包囲すると一斉に砲撃を開始した。


  無数の弾丸、砲弾、ミサイルが襲い掛かり衝撃と爆発が幾度となく襲った。数十秒間の総攻撃が終わりA国軍はその周りを回りながら包囲網を狭めていく。もくもくと静かに煙が立ち込める上空を戦闘爆撃機が通過した時、一筋の閃光が打ち抜く。


  煙の中から現れたのは二体のセガロイドを乗せた機械獣だった。セガロイドたちはあの総攻撃を受けてなお、無傷でその場を飛び立った。


  そのあとを航空部隊が追従すると、マントと両腕を広げた巨人の肩部の球体が光りだし、数秒後にその光は雷のような雷鳴を轟かせ空気を斬り裂き航空部隊を焼き尽くした。そして、またいずこかへと飛び去っていった。

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