Additional Episodes NO.3 後編
「リンさんをタクシーに押し込んで帰してしまうなんてどうしたのですか?」
ロイドからの通信にたかぶった気持ちを抑えた低い声で返す。
「ロイド、レジ向かいの一番奥から三番目に座るガタイのいい紺色のスーツの男と、向かいに座るピンストライプのシャツの男を見張れ」
「その者たちなら今会計を終えて出ていくところです」
『オレのことを知っていて探っていたのか。それともたまたまあそこで話しをしていただけなのか』
スパイと思われる男たちふたりは店を出ると店向かいの無人タクシーの停留所に向かった。
「見おぼえはない奴だな」
タクシーはGOT本部とは反対方面に向かって動き出した。アクトは店の駐車場に止めてある会社の車は使わずに、同じようにタクシーに乗り込んで後を追う。
最寄り駅通り過ぎ五分ちょっと走ると、海沿いの道に入ってすぐの港へやってきた。
タクシーを降りて歩きだしたので、アクトもタクシーを降りる。
『目的の場所は船か?』
幸いにも街灯の間隔が広い薄暗い海辺の道。一般人は居らず男たちの仲間も居ないと思われるこの場所で、アクトはふたりに声を掛けた。
「おまえたち」
冷静ながら凄みを効かせた声を聞いて、男たちは振り返りアクトを見た。
「おまえたちに聞きたいことがある」
「あ?」
「ガイファルド、この名を口にしたな。そしてレオンとも。そんなに興味があるのか?」
夜の闇と街灯の逆光でお互い表情はよく見えていないのだが、ピンストライプのシャツを着た男がアクトを見て。
「お前は?!」
と少し驚いたような声を上げる。
「そうか、やっぱりわかってたんだな」
アクトの正体を、ガーディアンズ関係の者だとわかった上で、あのカフェレストランに居たようだ。
そう確信したアクトが構えを取ると、ガタイの良い紺のスーツの男も警戒の構えを取る。
「ガイファルドを調べているのか? レオンの性能を分析して調べているのか? どこまで調べたか話してもらうぞ」
自分たちの正体を勘繰られた男たちは焦り顔で腰引く。
「くそ、バレたのか」
常人にはわからない静かな威圧感を発してアクトがジワリと一歩踏み出すと、スーツの男が掛け声を上げて間合いを詰めてきた。
『なんだ、無防備に踏み込んできた』
その一見無謀とも思える踏み込みを警戒し、前に置いていた左足を一歩下げ構えを左にスイッチ。男はアクトの右腕の袖と襟首をがっしりと掴んだ。
引き寄せようとする力が発生する直前にアクトは一度腰を落とし膝に溜を作り、男がアクトを担ぎ上げようとした力を利用して左の拳を男の脇腹に打ち込んだ。
「せあっ」
だが、アクトの拳は角度を変えて男の腹の前を横切り、体は宙へと舞い上がった。
「おわぁ」
一回転したアクトは腰に何かの支えを受けて両足で着地を決める。
一瞬思考が止まったが、弾けるように跳んで間合いを開けて男を見ると、その男は投げ終わった姿勢で固まっていた。そして、不思議そうな顔で振り返る。
街灯が照らす暗がりの海辺の道に三人の男以外にもうひとり長身の男が立っていた。
「お怪我はありませんか?」
聞き覚えのある声を掛けたのはパートナル=ロイド三世。声を掛けた相手はアクトではなくふたりの男に対してだった。
「おい、ロイド。何してるんだ」
ロイドは一度アクトの顔を見てから男たちに向き直って頭を下げた。
「申し訳ありませんでした。彼に代わって深くお詫び申し上げます」
そう謝罪の言葉を述べるロイドにアクトの頭は混乱する。
「おい、そいつらはレオンの」
とここまで言ったアクトにバシッと手の平を向けて言葉を止めた。
「そうですね、熱心なレオンのファンですよね。わかります、わかりますよ。何を隠そうワタシもレオンの大ファンなんです」
ロイドは極秘事項を口にしてスパイの男に同調している。
「強いしカッコいいし、レオンはライゼインが敗れたときにも我らの窮地を救ってくれたガイファルドですから」
「おい、ロイド」
「彼はレオンではなく白いガイファルドであるセイバー信者なのです。だから他のガイファルドがチヤホヤされるのが嫌らしくて。頭に血が上ると人に突っかかっていくんです。今日はお酒が入っていたからなおさらですね」
いったいどうなっているのか頭を整理しているアクトに、ピンストライプシャツの男は指さして言った。
「そうだよ、こいつは以前も俺に突っかかって来たんだ」
「え?」
そう振られアクトはその男を見るがとくに見覚えが無い。
「前に俺がライゼインのことをちょっとディスっていたら、横から入ってきてギャーギャー文句いってきやがったんだよ」
『思い出した! 何ヶ月か前の帰宅途中にライゼインをバカにしていたのに頭にきて文句を言ってやったあいつだ』
「文句言われて当たり前だ! ライゼインのことをディスるやつは機械虫に踏まれて死ね!」
いつもは穏やかなアクトだが、ライトやゼインのことをバカにされるとタガが外れてしまうのだった。
「だからと言って暴力はいけませんよ。怪我がなかったから良かったものを、下手したら……」
続く言葉は声には出さずに目で告げられた。
「しかし、人類の救世主だったライゼインをバカにするのはどうかと思いますよ。世界の軍に目の敵にされながら世界のために戦った彼ら機動重機部隊と大隊長の神王寺雷翔。彼らが居なかったら貴方もその家族も親しい友人も死んでいたかもしれません。彼が怒るのも当然です。彼の他にも信者は居ますから、今後は暗い夜道で刺される覚悟しながらディスてください」
と語尾をゆっくり力強くして語った。
「では、お互い怪我もなかったということでこの場はこれで納めましょう」
ロイドの爽やかで穏やかな喋りにお互い毒気を抜かれ、男たちは船に向かって再び歩いて行く。
それを笑顔で見送ったロイドはアクトに向き直った。
「おい、ロイドどういうことか説明しろ。なぜあいつらはガイファルドのことを知っていて、お前はそれを見逃すんだ」
すると、アクトの通信機が鳴り、ディスプレイには博士と表示されていた。
ロイドを見ると澄まし顔で通信に出るように促すので、アクトはガックリと肩を落とした。
「はい、アクトです」
「やぁアクト君、連絡が遅れてすまん。さっきのやり取りもモニターしていたからわかっている」
「博士が何かやっていて、オレに知らせてなかったってことですよね」
「そういうことだな。でも面白がってとかそういうことではなくてだな、連絡が遅くなったのも君と僕の会議の時間がズレていたってこともあって。それに君がそんな行動に出るなんて予想できるわけないから」
一通り博士の言い分を聞いた上で、ことの真相を聞いてみると実にくだらないこだわりから起こった出来事だとわかった。
「せっかく僕が考えたガイファルドって名前や君らの相棒のカッコいい名前がさ、世の中で変な呼び名にされているのが気になってね。ちょっと暇な時間があったから情報操作でガイファルドの名を定着させようと情報を流してみたわけ。SNSを使って情報流したらマニアにウケたようで瞬く間に広まったよ。この勢いなら公式に定着するのは時間の問題だけど、明日にでもGOTでは公式に認定呼称するって発表しちゃおうかって思ってる」
つまりさっきの男たちはその情報によってすでに巨人をガイファルドと認定してその名を呼んでいただけということだ。
「個有名も巨人たちがお互いをそう呼び合っていたなんて書いたり合成動画で音声つけて流したら一発だった」
気を張っていた分ドッと疲れが押し寄せ、アクトは大きなため息をついた。
「良かったですねアクト。これでリンさんと話すときも気を遣わずに済みますよ。それと彼らに手を出さなくて本当に良かった」
そのことを思い返し改めて考えると冷や汗がドッと噴出した。
「いいですか。貴方はもう一般人とは一線を画す存在です。ダブルハートの覚醒を以って超人となったと言っても過言ではありません。もしあのときワタシが割って入らなかったら彼は重症、最悪死亡していたことでしょう」
そう、これがアーロンや博士が共命者を地上に出したくない理由のひとつだった。
敵に狙われるという危惧は当然として、力を持った者はその力を振るいたくなる衝動に駆られるものだ。
今回アクトはそれとは少し違うが、自分の強さに自信があるためあえて危険かもしれないことに踏み込んでしまった。
相手は一般人でスパイでもなんでもなく、アクトが必要以上に警戒、敵視したことで素人の無謀な行動すら裏の裏を読んでしまい、命を奪いうる攻撃をしかけてしまったのだ。
「ごめん、確かに先走ってしまった」
自分の行動がとんでもなく危険なことだったことを悟ってアクトは猛省した。
「こういったことを大事に至ることなく経験させることができて良かったですよ。またひとつ成長しましたね」
「おい、その言いようではおまえは全部知った上でオレを泳がせて直前に止めに入ったということに聞こえるんだが」
上目遣いでロイドの顔を見ると、
「察しが良いですね、その通りです。ワタシはあのカフェレストランですべての人たちの言動をチェックしてましたからね。当然博士がガイファルドの名前を拡散していたことも知っていたし、どの程度の速度でどのくらい広まったかもチェックしていました」
「またかぁぁぁぁ」
と拳を握りしめるアクト。
「アクトさえしっかりと状況を分析して冷静に判断できていれば、こんなことにはならなかったのですよ」
と、通信機からロイドと同じ声でアクトを戒めるのはPR3だった。
「今後は独断専行せず、自分の能力や立場も考えましょう」
「わかったよ」
PR3はパートナル=ロイド三世の遠隔自立思考型の外部端末で常にリンクしている。厳密にいえば同一人物なのだが、なぜか同じようなことを言われてもロイドに言われると嫌味に聞こえるのはなぜなのか? とアクトはロイドに対して素直になれずにいた。
「では帰りましょうか。あとでリンさんにフォローの連絡を入れておいた方がいいと思いますよ」
「おまえに言われなくてもするさ」
ふたりは社用車が止めてあるカフェレストランまで言い合いながら歩いて戻った。
ちなみに博士が世の中に流したガイファルドとは、
ground
Anger
ideally
fabricated
adamant
legendary
duelist
【地上の、怒りが、理想的に、製造した、強固な、伝説の、決闘者】
それっぽくなったと博士は自己満足に浸っていた。
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