Scene8 -7-
「やっと到着か」
跳躍して距離を取ったレオンの上空をガーディアンズの翼、超速機動揚陸艦が横切り、そこから飛び降りホバリングによって着地したのはヘビーアームズ・スタイルとなったノエルだった。
「あなたが応援に来てくれるの待てたんだけど、なかなか来ないからこっちから来てあげた」
「到着そうそう胸が痛いジョークだな」
「剛田さんがそう言えって」
「それは伝えなくていいんだ」
イカロスの剛田がボソリと突っ込む。
「アクトの容体は?」
「まだ合身解除できてない」
「そうか」
少しトーンを落とした声で答えた。
「最初にアクトのことを聞くなんて余裕ある。助太刀は必要なさそうだけど早く終わらせるためにわたしも手伝う」
「ありがとさん。それにしても今日はよく喋るじゃないか。何か良いことか悪いことでもあったのか?」
「どっちを聞きたい?」
ノエルのらしからぬ返答の仕方にレオンは意地悪に返す。
「答えづらい方」
それに対して即答できず、四秒ほど間を置いてから口を開いた。
「わたし、ちょっとだけ……」
そこまで言ったノエルは左腕に装着しているガトリングアームのトリガーを引いた。
レオンの隣で狂暴なまでの連射の嵐が起こす轟音が、その先の言葉をかき消してしまう。
弾丸は分厚い装甲に阻まれ跳弾して辺りにまき散らされ、その一発がレオンの頭に当たった。
「ぃってぇ」
「ボーとしてると危険」
「してねぇよ」
撃ち込まれる百数十発の弾丸を物ともせずに機械虫は突進してくる。
散開して左右に分かれたガイファルドに対して二本の触覚がそれぞれに襲う。
ノエルが装着するヘビーアームズ・スタイルは、セイバーが使っていた物を応急修理したもので、痛んでいたフレキシブルアームとシールドは取り外して若干軽量になっている。
ノエルはホバーによって攻撃を回避しながらスナイパーライフルで頭部から順に狙って各所を射撃していた。そのさまは狙撃と言っていい制度で撃ち込まれていた。反対側ではレオンが重い足取りで転がりながら回避運動をしている。足がもつれかかりながら走るのだが、機械虫が右目を失っているためどうにか攻撃は受けずにすんでいた。
「イカロスへ。わたしたちはこの機械虫を倒す。そちらは逃げた機械虫を追って。こちらを片付けたらすぐに追いかける」
初めて見る大型機械虫に苦戦するガイファルドの援護をと考えていた隊員たちは、ノエルの言葉を聞き、急いで逃げていった機械虫の索敵を開始した。
「南南東方面に機械虫群発見。距離は約50キロメートル」
「わかった、だが無理しないでくれ。奴らのその場所での目的は達成されてしまったんだ。更にお前たちに何かがあったら最悪だからな」
「エマ、気を付けて」
「うん」
日奈子の言葉に優しく返事をしたエマは、通信終了間際もう一言。
「アクトをお願い」
こう付け加えて通信を切った。
「では我々は逃げた機械虫を追撃、足止めする。ジョー、艦を労わりつつ最大戦速だ」
「アイ・サー!」
「源十郎は機関の管制と調整を頼む」
「了解」
ここまで無理して最大戦速で飛ばしてきたイカロスの動力炉とインパルスドライブは、悲鳴を上げる状態だった。このイカロスはまだまだ手探りなオーバーテクノロジーで設計製造されている。それなりの仕組みはわかっても百パーセントの性能を発揮する機構と強度の物ではない。当然扱う人間も完ぺきに扱うことも管理することもできていなかった。。
イカロスの飛行音が遠くなっていくのを聞いて、ノエルは少しだけホッとしていた。その理由はもしアクトの意識が戻ったときに、この戦いに参戦しかねないという懸念があったからだ。
「フィーチャーフォースは使える?」
機械虫を挟んだ向こう側にいるレオンに通信する。
「おう、もう一発ならやれるぜ、でも半分くらいの力かもな」
「限界を超えて。作戦を伝えるから最後の力を絞り出して」
触覚の射程から離れていたノエルが機械虫に向かって走り出した。
ノエルはホバー移動しながら、右手に装備しているスナイパーライフルの砲身を左腕のガトリングアームの上に乗せて照準を付け、レオンに向いた顔を狙撃した。着弾の衝撃具合からフォースコーティング弾であることがうかがえる。
一方の触覚が高速で回りはじめ、接近するノエルに向かって振るわれると、ノエルは縦に横に動きながら両腕の銃器と背部や脚部のミサイルを放って付かず離れず牽制する。だが、撃ち出す弾は全弾フォースコーティングであることを考えれば、後先を考えない全力攻撃か、決着を想定した全力攻撃であるだろう。
最初は濃厚な力場と分厚い装甲によって弾かれていた弾丸だったが、今は少なからず確かなダメージを与えている。撃たれる機械虫はたまらずその太い脚で顔面を護った。
ノエルは更なる力を込めて攻撃し、脚の表皮となる装甲を切り崩すほどに一点集中させている。バックパックから連なるガトリングの弾倉は次々にアームを伝って流れ込み、フォースに包まれた弾丸を吐き出しながら薬莢を垂れ流す。
高速で振り回される鞭による結界の中で神経を擦り減らしながら回避運動と必中攻撃を続けるノエルを機械虫は脅威と感じたのか、動かず半身にしていた体をノエルに向けて接近しての踏みつぶし、背部から撃ち出されるエネルギー光弾、エアロバズーカ、そして一番の脅威となる二本の触覚という全力攻撃をくりだしてきた。
際どい攻撃はフォースフィールドで散らしつつ回避と捌きで逃れていたノエルではあったがそれも長くは続かない。崩した態勢を戻せなくなり、攻撃をする余裕がなくなっていき、とうとうエアロバズーカの直撃を受けてヘビーアームズ・スタイルはバラバラになってしまった。
転げるノエルに光弾が撃たれ、それをフォースフィールドでどうにか防御したところに真上から触覚が打ち下ろされてくる。
全力で肉体強度を上げフォースフィールドを上方に分厚く展開したが、亜音速ほどの触覚の一撃と地面とで挟まれればどれほどのダメージになるか想像もできない。しかし回避不能な状態のため反射的に身を固めることしかできなかった。
瞬きほどの時間で触覚は地面に到達し衝撃が地面を大きく弾いたが、ノエルはその衝撃に飛ばされただけで直撃してはいなかった。
「ギリギリセーフだな」
力んだ声の主は機械虫は背後から持ち上げるレオンだった。レオンが持ち上げたことで触手の照準がズレてノエルは難を逃れることができたのだが、こうして機械虫の背後を取って持ち上げることができたのは、機械虫の全ての意識と攻撃を自分に向けさせたノエルの陽動のおかでもある。
「チャンスは今」
起き上がったノエルは二本のハードダガーを引き抜いて、低空を滑るように飛び進み、バタつきだした機械虫の腹の下に滑り込む。
「フォーリーフ・クローバー」
グリーンの光が機械虫の腹の下で閃き、衝撃が巨体を揺らした。
ノエルはそのままの勢いで巨体を支えるレオンの前に飛び上がるように立ち上がり、スラスターを全開にしてレオンが支える機械虫を持ち上げながら叫んだ。
「決めて」
いつも通り抑揚はないが、力んでいることが伝わる言葉でレオンの背中を押した。
機械虫の支えから解放される瞬間にその右手に力をみなぎらせていたレオンは、溜めていた力を解放させてノエルが切り裂いた場所を目掛けて低い姿勢から伸び上がるように突き上げる。
「Take this!!」
ノエルが切り裂いた機械虫の装甲を右腕の生体装甲を傷つけながら強引にぶち砕いたレオン。その腕を肩までねじ込んでその奥にある巨大なコアを貫くと、正常な機能を失ったコアは暴走を始める。そのエネルギーは外側に向かって拡張し、巨大な爆発がレオンとノエルを飲み込んだ。




