Scene8 -3-
爆破によって開放された狭い射出用カタパルトデッキの出口から、ジェットパックが外に跳び出したタイミングで何度目かの閃光が辺りを照らした。
「ノエル!」
接近しながらの電撃に回避が間に合わないと判断したノエルはフォースフィールドを全開にしてセイバーの盾となった。電撃はフォースによって八方に散ったが、それでも何割かはノエルへと流れ込み、ノエルは地面に倒れてしまう。
電撃を放った機械虫が再び上空に舞い上がりエアロバレットを発射すると今度はセイバーがノエルの盾となった。
「無事?」
ノエルの質問に、
「オレは大丈夫だ」
とセイバーが答えると、
「あなたじゃない、バリアブルガン」
と盾となる直前にセイバーに投げた己の武器の安否を気遣っていた。
「あぁ、こいつも無事だ。これがないと奴にとどめが刺せないもんな!」
セイバーがちょっと投げやりに言葉を返すと、上空で爆発が起こりエアロバレットの攻撃が止まった。
「セイバー、ドッキングします」
爆発の陰からジェットパックが飛来する。
それを見たノエルは、小さな呻く声を出しながら立ち上がり、セイバーに預けたバリアブルガンを掴んで走り出した。
「機械虫の損害軽微」
ガイファルド二体とイカロスの他、認識外のモノから不意の攻撃は意表を突けたのだが、やはり現代兵器とそう変わらないジェットパックの兵装では大した効果が得られなかった。そんな機械虫に向かってノエルは攻撃を再開する。
「ジェットパックに背を向けてください。ドッキングします」
「わかった」
通信士の我妻 日奈子はヴァーチャルコンソールを操作してジェットパック操縦していた。余談だが、日奈子はイカロスの副操縦士を兼任している。
セイバーの背部に迫ったジェットパックは二つに分割するように展開して機体を垂直に向けた。
日奈子が座るバランサーシートによって姿勢制御をしつつセイバーの背中のドッキングアタッチメントへとゆっくり迫まる。
「ドッキング」
セイバーの背部に接触し四つのロックがジェットパックを固定する。
「ジェットパック装着完了です」
「よっしゃー!」
気合を声に出すセイバーに日奈子はすぐに声を掛けた。
「電撃チャージまで残り一分四十秒よ」
「了解! 行くぜ、ジェットセイバー」
年齢より幼い声で伝えられた残り時間に対して威勢よく応えたセイバーは、ジェット・スタイルのセイバーをジェットセイバーと名乗り飛び立った。
四つのインパルスドライブとセイバーの腰部にあるフレシキブル・スラスター・アーマーのエアロジェットによって、セイバーは急加速で機械虫に向かっていく。どちらが速いかはわからないが、これで後れを取ることはなくなるはずだと博士と剛田、そしてセイバーは考える。ただし時間が無い。更に言えば、あの電撃を受けてしまえばジェットパックも機能停止によって今度こそお手上げなのだった。
最初のセイバーの突進による攻撃は思った通り回避されてしまう。背後からエアロバレットを撃たれるが、その機動性によってなんなく回避し、方向転換したセイバーが飛び蹴りを見舞った。
「メテオクストラーーーーイク!」
誰も知らない技名を発したセイバーの飛び蹴りも機械虫には当たらない。地面に向かって突進するセイバーはジェットパックを噴射させて減速し、体を捻って地面スレスレを飛びながら上昇する。
「テストではタイムラグが大きい上に噴射がピーキー過ぎて姿勢制御が上手くいかなかったのに」
驚き半分、感心半分で博士はセイバーの飛行を見ていた。
「博士のプログラムが上手くいったんじゃないんですか?」
「いや、いくらなんでもそこまでの調整はできてないよ」
「となると……使いこなしてるってことか」
機械虫の上を取ったセイバーは一度上空で静止する。
「やっぱり」
ノエルのやっぱりという呟きが指すのは、先ほど空中で機械虫の動きに対して追従したことだ。
共命者はダブルハートの覚醒によって著しく肉体が強化される。中でも反応速度といった脳の働きや神経系が何より大きい。だが、今のセイバーはノエルやレオンのそれよりも更に勝っていた。
「チャージタイム残り五〇秒」
この時点で機械虫に対して一撃も入れられていないことがジェット・スタイルでも優位に立てないのではないかという不安に拍車をかたのだが、セイバーとノエルだけは違った。
「博士、ジェットパックの出力リミッターをもう少し解放してください」
「それでもギリギリの出力設定なんだ。それ以上だと圧力に耐えられなくて長く持たなくなる。それにフレーム強度も」
「長期決戦はこっちに不利です。次で決めます。だから早く!」
その提案が自信からか、計算からか、はたまた焦りからなのか判断している猶予はなかった。
「我妻君、スラスター出力八十五パーセントへ」
「了解……しました」
ジェットパックのバーチャルコンソールに接続している日奈子はジェットパックの状態を常にモニターしている。博士の言う通り現状の設定でギリギリだったので、セイバーの要望は危険だと思えていた。
電撃チャージまで残り二十五秒。セイバーは機械虫に向かって特攻した。
「チャージタイム残り」
日奈子が心拍を上げながら残り時間を伝えようとしたそのときだった。機械虫の角から光が閃きセイバーを打ち抜いた。
都度七発の電撃の中で一番短かったチャージタイムが二分十五秒であっただけで、それより短い時間で撃てないという証拠にはならない。セイバーの覚悟を決めた特攻に対して、機械虫は二分というチャージタイムで必殺の電撃を合わせてきたのだった。
「あっ!」
隊員たちの誰もが口を開けてそれを見入り、セイバーの安否とその後の戦いの展開に絶望を感じたのだが、セイバーはその拳を機械虫の顔面へと打ち込んでいた。
「どうなっているんだ?」
格納庫のモニターで剛田と一緒に観ていた博士も疑問の声を漏らす。
空中で静止して対峙するセイバーと機械虫。先に動いたのはセイバーだ。二〇メートルという近接距離から攻撃を仕掛けると、やはり虫特有の素早い動きで攻撃前に間合いを外す。そう思いきや再びセイバーに迫り鉤爪の脚が閉じられた。セイバーも逆噴射によって後方に下がりこれを回避すると、スラスターを全開にして突進する。
「完全にあの動きに付いていってるぞ」
不規則に飛び回る機械虫を追従し、エアロバレットを交わし、単発ながら殴打を繰り返す。踏ん張りの効かない空中で態勢を崩しながらも姿勢制御による支えを使って格闘戦をしているのだ。
エアリアルファイト。三体のガイファルドの中でセイバーが群を抜いて高い能力となる。
セイバーが殴り続けるさなかで電光が走った。
だが、またしてもセイバーはそれをかわして見せる。
「発射するタイミングがわかるのか?」
稲妻の速度は時速にして約五十四万キロメートル。光速には遠く及ばないまでもとても見てから回避できるはずもない。ましてや狙った場所に着電させることができるというならいったいどうやって避けているのか? 理由はわからないかセイバーはそれができるのだ。
電撃を回避しながら攻撃を振りかぶり接近するセイバーに、機械虫は真下から鋭利な刺突武器を突き出した。
それは蜂で言うところの針である。最初こそ蜂に似ているなどと思ってはいたが、戦っているうちにそんなことはすっかり忘れてしまっていた。それをここにきて初めて繰り出してきたのだ。
セイバーの喉元に突き出された針だったがセイバーはエアロジェットによって姿勢を変えてこれをかわし、針を掴んだまま殴り付けた。
視界の外から不意に出された初見の攻撃を見事に捌いたセイバーにノエルは驚いていた。
「叩き落してやる!」
前転して頭部に踵を落とす。グラリと揺らいだ機械虫にジェット・スタイルとなった重量に速度を乗せた右腕を全力で打ち下ろし、機械虫を大地叩き付けた。
「いまだ!」
その叫びがノエルに向けられていたのは言うまでもなく、ノエルは一瞬の間も置かずにトリガーを引いた。
「待ってた」
バリアブルガンを連結させたロングライフルモードのフルバースト。それを最大に威力に高めたフォースコーティングによって撃ち放った。
フォースによって圧縮されたエネルギー弾は濃密な機械虫の力場を貫いて着弾すると、そのエネルギーを解放して大爆発を起こす。ここで初めて蜂型機械虫は苦し気な声を出した。しかし、バリアブルガンは耐久限界を超えて火を噴いてしまった。
この攻撃によってようやく機械虫に大きなダメージを与えることができ、背中のコブ状の機関をひとつ大破させることに成功する。
「やったぞ!」
今までの劣勢による空気が変わり、イカロス内で歓声が上がる。
「おらっ!」
ムカデ型機械虫と戦っていたときのような荒々しさが感じられる動きでセイバーが何度も打撃を打ち込むと、機械虫はまた空へと舞い上がった。
「まだ飛べるのか!」
舞い上がった機械虫だったがやはり飛行機関であったであろう背中のコブをひとつ失ったことで今までのように上手く飛べなくなっている。
ガイファルドたちにとって好機であるのだが、フルバーストの使用によって彼らの高火力兵装は失われてしまい、ノエルは追撃の攻撃をすることができない。
フラフラと飛ぶ機械虫を追ってセイバーも飛び上がるが、時折せき込むような噴射を見せるジェットパックは限界が近いことを伝えていた。
「ジェットパックの強度限界です」
吐き出すエアロバレットを限界を超えた運動性によって回避しながら接近したセイバーだったが、機械虫の頭上を取ったところで姿勢制御のエアロジェットが配されたフレームがひん曲がり、インパルスドライブのひとつが爆発した。
「この!」
空中でバランスを崩したセイバーは機械虫の角に捕まって落下を防ぐが、それが逆にピンチを招くことになってしまった。
その体は六本の脚によって抱き込まれ、鉤爪がジェットパックに食い込み締め付ける。
『まずった』
狭い空間で動けないセイバーは反撃することもできない。
そして更に追い打つように発せられた閃光に続いて轟音とセイバーの叫びが仲間の心に響いた。
両手で角を掴んでいるセイバーはその電撃をモロに受けてしまったのだ。
「この野郎。自分だって電撃食らってるだろうに」
ギシギシと背部のジェットパックを切り裂きながら機械虫は電撃のチャージをおこなっている。
「北斗、誘導弾発射だ」
ヤマト艦長が攻撃指示を出すがイカロスの現状がそれをさせなかった。
「誘導弾発射機構、作動しません」
「ならば艦首バルカン砲だ。撃て!」
バルカン砲は命中するものの、その火力では機械虫の動きを止めるには至らず、ノエルのジャンプでは機械虫まで届かなかった。
「イカロスでわたしを上空へ」
そう言ってノエルはダガーを抜き放つ。
ノエルと乗せようと降下したイカロスの上空でまたしても電撃がセイバーに放たれた。
チャージ時間は一分未満。元々チャージ時間は必要ではなく、最大出力でなければ大した時間を置かずに発射できたのだった。威力こそ低いが確実にセイバーはダメージを負っている。
鍵爪によって傷ついた背部のジェットパックはその電撃によって爆発し、もうその姿を留めていない。それにより鍵爪はセイバーの背中を切り裂き始めていた。
「セイバーは、アクト君の意識は?!」
艦橋に戻って来た博士に美紀は応える。
「意識はあります。ですが脳波はかなり乱れています。リアクター出力も不安定です」
「あの電撃をあと何発耐えられるか」
「ノエルを乗艦させました」
ノエルを上部甲板乗せたイカロスは機械虫に向かって上昇する。
「機械虫の上方へ連れて行って」
ノエルで駄目ならイカロスで特攻する。全ての隊員がそう考えていた。そんな決意を持って機械虫とすれ違ったとき、三度目の電撃がセイバーを襲った。
美紀と日奈子は目を覆い、男たちは拳を握り歯を噛みしめる。
「セイバー、リアクター出力低……下?」
妙な語尾で美紀がそう申告したとき、低い唸り声を上げたセイバーが掴んでいた機械虫の角を砕いて引き抜いた。
「ぬあぁぁぁぁぁぁぁぁ」
苦しみながら尚もセイバーを締め付ける機械虫であったが、セイバーの力によって損傷していた脚が一本破壊されて地上に落下していく。
「まさか、これは?!」
誰もが思い返す。セイバーの初陣でムカデ型機械虫を完膚なきまで叩き潰したことを。
「そうです、リアクター出力急激に上昇していきます。二千五百……、三千……、三千五百、四千……」
あのときの四千万馬力という推定を超え、セイバーのソールリアクターは四千七百万に達した。そのエネルギはセイバーの額のダブルハートに収束していく。
煌々と赤く染まったダブルハードから余剰光とエネルギーが漏れ出し、セイバーの頭部付近の機械虫の装甲がその力に押されただれたように変形し始めた。セイバーは組み付かれた機械虫の腕をほどかないままに、ダブルハートからそのエネルギーを解き放った。
「うおぉぉぉぉぉぉりゃあぁぁぁぁ!」
空間を歪めるような膨大なエネルギーが純粋な破壊の力の奔流となって機械虫を飲み込み破壊しつくした。過剰なまでのエネルギーは機械虫を塵も残さず消滅させて空の彼方へと消えていく。
支えを失ったセイバーは上空から落下して大地を砕いて着地し、再度大空に向かって吠えたあと静かに膝を折って大地に伏した。
「セイバー!」
ノエルには珍しく絶叫めいた声を上げてイカロスから飛び降り、急ぎセイバーに駆け寄る。倒れるセイバーを助け起こすと微弱ながらリアクターの波動を感じて少しだけ平静を取り戻した。
「大丈夫です、あのときと同じでリアクターの出力こそ低いですが現状では命に別状はありません」
「だが衰弱が酷いはずだ。ソールリアクターが未解明だという点を考えれば、どういった後遺症が出るかわからない」
「まずはイカロスを下ろします。応急修理をしてガイファルドを回収しないと」
艦長の指示で着陸したイカロスは作業ロボを使って急ぎ艦外と艦内からの作業を始めた。
「できれば見られたくないのだがな」
ガーディアンズは秘密結社である。可能な限りに人目に触れず情報を隠蔽しなければならないのだが、このあとはレオンの応援に行かなければならないことを考え、応急修理だけでも済ませなければならず、しばらく留まることになった。
対機械虫世界軍事同盟軍が包囲する中で、約1時間を費やしイカロスの修理を済ませたガーディアンズの一行は、セイバーが目を覚まさないままでレオンの応援に飛び立った。




