Scene5 -3-
現在、超速機動揚陸艦イカロスは地上七〇〇メートル上空からリリースポイントに向けて降下中だ。かなりの緊張を強いられていたアクトもセイバーとの合身を済ませると不思議と気持ちが落ち着いた。それをさせたのはセイバーとの人格融合によるものだ。逆にルークはレオンとの合身で無駄にやる気をみなぎらせていた。
「降下ハッチオープンします」
イカロスの後部格納庫の床が一部開いていく。上空二〇〇メートルまで高度が下がり地表がかなりの速さで流れていく。
「たっけー」
「すぐ慣れる」
左の肩を抱えるノエルの冷静な言葉を受けてアクトは下っ腹に力を込める。
「まもなく降下ポイントです。カウントファイブ、フォー、スリー、ツー、ワン」
セイバーを挟む二体のガイファルドの腰が少し下がる。
「「GO!」」
「うわっ」
セイバーはふたりに抱えられながら共に降下を開始。バンジージャンプの経験もないアクトは顔を引きつらせる思いで(セイバーは引きつっていない)迫りくる地表を睨んでいた。地上まであと三十メートルというところでレオンとノエルはスラスターを噴射させて三体の落下速度の八割を減衰させて着地する。と同時にセイバーをその場に座らせて、レオンは右にノエルは左にVの字で走り出した。
ちょっと呆然としていたセイバーにイカロスの索敵士兼戦力分析士からの指示が飛んでくる。
「セイバーは十一時方向の二〇〇メートル先にある丘にスタンバイしてください」
「りょ、了解」
立ち上がり狙撃ポイントに移動したセイバーは滑り込むように腹ばいになってスナイパーライフルを構えた。
「本来はスコープゴーグルとライフルセンサーを連動させますが、未完成ということでこちらでオペレートします。中心の標準が赤くなったら撃ってください」
「了解した」
『まずは戦闘領域の中心部。A級とB級を避けつつA国軍の支援だな』
下手に刺激して上位機械虫がセイバーに標的を移すのを防ぐために、まずはA国軍部隊の支援をする。そのあとA級と交戦に入ったガイファルドたちの支援に移行する手筈だ。それもA国が後退の指示に従えばの話だが。
「敏捷性の劣る戦車部隊をメインにと。ターゲット……」
スコープの照準が赤く変わる。
「トリガー」
セイバー指がトリガーを引くと五〇センチ口径スナイパーライフルが爆音と衝撃波を放って弾丸を撃ち出した。
「うおっ」
初弾を撃ったセイバーは予想以上の反動を受けて後方へ押されライフルを取りこぼしそうになる。秒速三千メートルを超える速度で撃ち出された弾丸は三・八キロメートル先のC級機械虫の左半身に炸裂した。
「命中です」
「ほんとに?!」
コアを捉えることはできなかったが、A国戦車を狙うC級機械虫は左胸あたりから左腕ごと破砕し横転した。
ライフルを構えなおして今度は取りこぼさないようにしっかりと固定する。
「ターゲット……いけ!」
再びの爆音と衝撃波を散らして発射された弾丸は、空気の壁を貫きながらスコープの赤い照準が捉えた機械虫の中心部に向かって飛翔する。そしてその弾丸は、後退しながら応戦する戦車部隊を踏みつぶそうとする機械虫のノドを撃ち抜き、その周辺が破裂させるように吹き飛ばした。
「よし!」
続く三射目も命中するが、四射、五射は的を外してしまう。これでも素人のアクトがセイバーとオペレーターの支援を受けての遠距離射撃としては悪くない結果だった。
五射を終えたところで左右からレオンとノエルがC級以下の機械虫を蹴散らしながら中央へと向かってくる。邪魔をしないように残りの二射を終えてマガジンを交換し一息つくと、スコープにはB級と交戦するノエルとA級に迫るレオンが確認できた。今頃A国軍に後退を指示しているんだろうと思い、そのA国軍を支援すべくスコープで探す。
「後退してる」
予想に反してA国軍はレオンとノエルの指示に従い、戦車隊とヘリ部隊が後退し始めていた。空軍の戦闘機も搭載しているミサイルと爆弾を全弾撃ち尽くしてから後退していった。
A国軍が後退を完了するとレオンとノエルが本格的にA級とB級と交戦を開始。セイバーはそれを支援するためにスコープから機械虫をターゲッティングしてロック。
「当たれ」
呟きながらトリガーを引き遠方で暴れるB級機械虫を狙撃した。さすがに胸部と腹部の中間辺りにあるコアをピンポイントで撃ち抜くことはできないが、腹部横のミサイル射出口をえぐったので支援攻撃としては成功だろう。素早く薬莢を輩出して次弾を装填しスコープを覗いてターゲッティング。このルーティンにそろそろ慣れてきたころ異変が起こった。
「地響き?」
うつぶせて狙撃するセイバーの体を震わせる地響きがスコープを揺らし照準を狂わせる。その振動は徐々に強くなり狙撃を完全に阻害し始めた。
上空を旋回するイカロスもスナイパーライフルと連動するセンサーによって照準が定まらないことでその状況に気づきオペレーターが索敵をおこなう。
「セイバーの真下ですっ!」
オペレーターが声を荒げたときはすでに遅く、セイバーは地中から跳び出した何者かに腹部を突き上げられていた。
数十メートル上空に押し上げられたセイバーの目の前を共に巻き上げられた大量の土砂の中から何かが飛び出す。それは鋭利なハサミのような牙を持ち、多数の肢を生やした長大な体を直立させた何かだった。
「なんだこいつ?!」
今までに誰も見たことのない新種と思しき機械虫が現れた。腹部を痛撃されて上空に飛ばされたセイバーは態勢を立て直すことなく背中から地面に叩きつけられた。
数キロ先で多数の機械虫群と戦うレオンたちもガイファルドの数倍の全長の機械虫を視認する。
「イカロス、状況報告お願い」
わずかな時間ではあるが呆気にとられるレオンだが、ノエルは状況を把握するため瞬時にイカロスへと通信を飛ばした。
「支援射撃をするセイバーの下方の地中より新種の機械虫が出現。セイバーを上空へと打ち上げました。全長は約五十五メートル、クラスは……」
キーボードを叩くオペレーターの手が止まる。
「C級です、コアが発するパターンはC」
「あれでC?!」
敵を殴りながらレオンは叫ぶ。
新たな敵の出現に少なからず慌てるガーディアンズの面々が分析と状況確認をおこなうさなか、新種の機械虫は直立させていた体を丸めて大の字で倒れるセイバーに向かって頭部から真下にダイブした。
大質量の体を重力に従って落とした機械虫は再び大地を破壊して土砂を巻き上げる。
もうもうとする砂煙の中で巨大な物体が接触する音が何度と起こり、ひと際大きな鈍い音の直後にセイバーが飛び出して、いや吹き飛ばされてきた。その体は生体装甲におびただしい損傷が見受けられ、明らかに深刻なダメージを負っていることがわかる。
「あれのどこがC級だ!」
見た目だけでなくその強さもまた今までにないものであった。
「分析完了しました。あの機械虫はその体の節ごとにコアを持っています」
「複数のコア」
博士は自らキーボードを叩き出す。
「司令より通信。レオン、ノエル共にセイバーの救援へ向かえとのことです」
「もう向かってるよ!」
荒々しい返答がされたときにはレオンもノエルも動き出していた。だが、多数の機械虫群の真っただ中に切り込んでしまったため、逆にそこから出られなくなっていた。
セイバーがようやく立ち上がった頃、立ち込める土砂を長い体を回転させて吹き飛ばした機械虫が姿を現す。
「このムカデ野郎!」
セイバーの言う通りその姿はムカデに酷似していた。違いと言えば一番前の脚が大きめの鎌状になっているということだ。ただ、見た目だけではわからない凄みが感じられる。アクトはその凄みにただただ体の芯まで震えるような脅威を感じるのみで、それがなんなのかはわからなかった。




