ニックネーム
(お、おかしいだろう。この状況。)
俺ことレノアははっちゃけパラダイス☆の悪役侯爵令嬢だったよな?なのに……何これどういうこと?
レノアは虚ろな目でドン引きして目の前の美少女を眺めた。何故なら今目の前の美少女はレノアに向かって壁ドンをしているからだ。いったいなぜこうなったのだろう。レノアは記憶を少し遡ってみた。
レノアは今日はちゃんとアノード嬢に謝ろうと思っていた。それなのに学校に着いた瞬間、逆にアノード嬢上の方からレノアのところにやってきていきなり人が来る事のない教室に押し込められ現状に至る。
「あ……あの……。アノード様。これはいったい。」
こんなシチュエーションゲームに合っただろうか?必死にレノアが考えているとその考えを遮るようにアノード嬢は話し出す。
「あなた、転生者でしょう。しかも日本人の男。」
アノード嬢に言われるとビクリとしてしまう。
(なぜそれを?)
何も言えずに黙っていると、アノード嬢は続ける。
「別に隠さなくていいわよ私も転生者だから。しかも貴方と同じ日本人よ。私は女だけど。ただ本当のこと知りたいだけ。」
「え?」
これには正直驚いた。俺以外にもこの世界に転生者がいるなんて。しかも同じ日本人だって?
「その反応。あなたやっぱり転生者ね。お願い貴方のことを教えて。貴方この世界がはっちゃけパラダイス☆ってゲームの世界だって知ってる?」
ここまで言われたら流石に黙ってはいられない。
「知ってる。俺高校の時にこのゲームしたこと有るから。俺は青砥遙人。前世は35才の男だったよ。君にしてみればオッサンかな?」
「ううん。でも…そっか……転生者だ。そっかー。」
目の前のアノード嬢はポロポロと泣き出した。
アノード嬢の前世、如月兎はゲームのアノード嬢と同じ16才の春に病死したらしい。兎は高校に入るなり直ぐに病気が発覚してそのまま帰らぬ人となってしまったようだ。だからせっかく入った高校では全く友達がつくれなかったそうだ。
このゲームは15才の受験が終わった時に両親にご褒美に買って貰ってからかなりはまってしまい、両手の指でも足りないぐらい何周もやりこむ位大好きなゲームだったそうだ。
だからヒロインになれた時は嬉しかったが、楽しみにしていた学校も日本と違い貴族階級社会の縦社会で子爵令嬢にとって窮屈なものだった。
そして、何より悪役令嬢レノアの毎日の虐め。逆らえない階級。
そこは流石に16才。いくらイケメンと恋が出来てもいじめられていることに心が折れかけていたなかの俺の「俺」発言。俺が転生者なら状況は一転するのではないかとわらにもすがる思いだったらしい。
(そりゃそうだよな。)
思わず壁ドンされていながらもアノード嬢を抱き締めた。と言っても多分160センチ位でヒールを履いているアノード嬢より小さいレノアは抱き締めたというよりは抱きついたと言う表現が正しいだろう。まぁどっちでもいいけど…。
「アノード嬢ごめんな。辛い思いさせて。ごめん。もう辛い思いさせないから。」
優しくトントンと背中を叩いてやればアノード嬢はレノアを強く抱き締めて更に泣き出した。
俺、本当にもっと早く記憶取り戻してれば良かった。レノアはひたすらアノード嬢が泣き止むまで背中をさすり続けた。
ーーーーー
「ごめんなさい。」
しばらく泣き続けたアノード嬢が落ち着いた頃呟いた。
「いや、別にいいよ。謝らなきゃ行けないのは俺の方だったんだから。本当にごめんな。辛かったよな。」
優しく頭をポンポンしてやればクスクスとアノード嬢は笑う。
「レノア様って前世は大人だったんですね。こんな風に優しくされたら好きになっちゃいます。遊び人だったんですか?」
「いや……遊び人ではなかったよ。」
(まぁ…チェリーではない程度に一応いたよ。続いた事はなかったけど…。)
「どんな人だったんですか?彼女は?あ、因みに私の35才は全然ストライクゾーンです。」
ひとしきり泣いてスッキリしたのか、レノアが同じ転生者で安心したのかアノード嬢は16才らしく好奇心丸出しでレノアに矢継ぎ早に質問を投げかけた。しかも抱き合ったままで。そして俺の前世はストライクゾーンなんだね君。
「あのさ……アノード嬢。」
「あっちゃんで良いです。」
「へ?」
「私はなんて呼ぼうかな?レノア様だから…れんちゃん?」
「いや……ニックネームじゃなくて。ちょっと離れない?」
「嫌です。レノア様可愛すぎて、なのになんか男らしくて私好きになっちゃったんです。」
アノード嬢の腕に更に力がこもる。
「いや、あの。それは嬉しいけどちょっと苦しい。」
「嬉しい!?じゃあ私とレノア様相思相愛ですよね?」
きたよ、これ。
昨日のレノといい、この子といい。おっさん今時の子よくわからない。なんで返答斜め上?
「いや、俺今の俺はちゃんと女だから!」
俺も精一杯腕に力を込めてアノード嬢を引き離す。
あー……苦しかった。
するとアノード嬢が捨てられた子犬の様な目で俺を見てくる。
「レノア様は私の事は嫌いなんですか?私が好きになると迷惑ですか?」
「う…、違うけど…。」
「じゃあ!」
一瞬で表情を煌めかせ再び俺に抱きつこうとしたアノード嬢を慌てて引き留める。
「待って待って!抱きつかれると苦しいから!それに俺今女の子だから!間違った方に来ちゃいけない!あ、ほらこれお詫びの品に持ってきた君へのプレゼント!これに抱きついて!」
慌ててポケットから手のひらサイズのティディー・ベアをとり出す。
「これ、君にお詫びの品!」
「レノア様っ!そんなに私のことを思って…!私!決めました!レノア様って前世は青砥遙人ってお名前だったんですよね?それならはるちゃんって呼びます!レノア様!私の彼氏になってください!私、はるちゃんが女の子でも中身が男の人だから大丈夫です!」
もーー。
やだ。
今時の子本当に思考回路がわかんない。
19才も離れると考え方変わるんだなー。
つい、遠い目をして考え込んでしまうとアノード嬢に抱きつかれかけたので慌てて制止する。
それから何とか説得と会話と制止を試みて、結局彼氏は勘弁して貰えたがアノード嬢をレノアはあっちゃんと呼ぶことになりアノード嬢ははるちゃん呼びを頑なに譲らず泣きおとしされた為それで折れることになった。
記憶年齢35才。16才の思考回路にただいま絶賛振り回されてます。
悪役令嬢はオッサンにはちょっと難しい……かも。
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