はいはい
レイドを睨んだまま、レノは直ぐにレノアを抱き寄せる。
「レノ……?」
抱き寄せられてから、なおもキツく抱きしめられる。
「はいはい。ちゃんとお前の姫を返しただろ?睨むな。」
レイドはまだ自分を睨みつけるレノを、たしなめれば不服そうにレノは目をそらす。
「え?姫って……。」
レノアはレノの腕の中でモゾモゾと動き、レイドへ顔を向けると、レイドはレノの腕の中のレノアに苦笑いを向ける。
「レノア?流石にわかれよ。ここに居る姫はお前だけだろ?」
(え…?)
それって…っとレノアは顔が赤くなる。
そんな事は気にぜすレイドはそれに、と言葉を続ける。
さっきも言っただろ?皆がお前を必要としているって。必要としてなかったのは、お前自身だとレイドは笑って教えてくれた。
「あ、あと。お前ら婚約破棄がどうのこうの騒いでたけど、そもそもまだ婚約破棄されてないから。」
レイド曰く、レノアはレノが婚約破棄を進めたと思っていたが、そもそもレノは婚約破棄の手続きすら取っていない。
破棄が成立していると思い込んでいるレノアの言葉で、沈んで居たのはレノだけれど、本当に破棄が成立したかまでは確かめていなかった。
故に、婚約破棄していないという真実にたどり着けていなかった。それなのに、二人とも拗れて揉めるのは、いかがなものかとレイドは溜息をついていた。
「いいか?二人とも。ちゃんと思いは伝え合わないと。一度きりの人生は大切にしないとダメなんだからな。レノアも!悲劇ぶるのは辞めて、ちゃんと相手の話を聞いてやれ。勝手にその乏しい想像力を羽ばたかせるなよ。」
そう言うとレイドはレノアの頭をくしゃくしゃと撫でて、屋敷の方に説明してくると歩き出して言った。
後に残されたのはレノアを抱きしめて微動だにしないレノと、抱きしめられたまま微動だに出来ないレノアだけだった。
レノアはチラリとレノの顔を見るが、レノの表情は優れない。
彼は何を思っているのだろう。
もしかして……とレノアが乏しい想像力を羽ばたかせようとすると、それより先にレイドの言葉が頭をかすめる。
『誰も必要としていないのはレノア様じゃないのか?』
(そうだ……遙人だってそうだ。捨てられるのが怖くて、深入りするのが怖くて。傷つかないように、最初から自分で拒否していた。)
それでは……ダメなんだ。
(私は……自分から離れて欲しくないって言ったことがない。いつも、誰かのせいにしている。)
「……レノ。レノの頭の中は私でいっぱいなの?」
顔が、身体が熱い。
きっと赤くなってるんだと自覚してしまう。
あぁ、でも、違ったらどうしよう……。
否定されたら……。
自分から聞いたのに、レノの顔がみれないで顔を伏せてしまう。
すると、抱きしめているレノの腕が更にキュッと締まる。
「……もちろん。俺の姫は……リス……レノアだけだから。」
(ど、どうしよう。)
いつもなら安心する腕の中が、今は激しく恥ずかしくて落ち着かない。
思わずレノの胸に顔を埋めてしまう。
(こ、これ以上レノの声を聞いたらおかしくなるかも……。)
心臓が煩い。
それでも……。
『お前は、離したくないと何か足掻いたか?離れないで欲しいと何かしたか?』
そうだ、ちゃんと今度は足掻いて見よう。
遙人が一度もしなかったこと。
気づけなかったこと。
大丈夫。
レノアなら……きっと出来る。
「レノ…。レノに、離れて欲しく……ないの。ずっと、レノだけの姫でいたい。レノが……好き。」
最後は凄く小声になってしまった。
でも、始めて自分から言った思い。
レノアの精一杯の足掻き。
しばらく、微動だにしないレノの反応がやっぱり怖い。
レノの胸に埋めていた顔をより深くレノに埋める。
(どうか……、どうか離さないで。)
それなのにレノは急に抱きしめていた腕の片方をレノアから離す。
(やだ……はなさないで。レノ。)
そう思って思わず、レノにしがみついてしまう。
すると、離した手で今度はレノアの顎を軽く押さえ顔をあげさせた。
「レノア……俺を見て。」
顔があげられ、レノとレノアの目線が絡まる。
「レノア……俺はずっと、ずっと好きだった。これからも……愛してる。離さないから。」
レノの青い瞳が綺麗に細められる。
やっぱり、レノは格好いい。
レノの笑顔にレノアが目を離せないでいると、レノの顔が徐々に近づいてきた。
ここまでお読みくださりありがとう御座います。
そろそろラスト見えてきました。
レノさん、レノアを勇気を出して呼び捨て。




