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想い

 (……ど、ど、どうしよう。)

 

 何故か手錠をされたまま、レノアとレノは保健室に置き去りにされてしまった。

 皆がいなくなった後訪れたのは沈黙のみだった。


 チャリっと少し動かすだけで揺れる手錠をレノアはジッと眺めてしまった。レノアは右手、レノは左手を繋がれていた。

 (ど、ど、どうしよう。)


 話し合えよとは言われたが、一体どうしろと?

 というか、何となく気まずくてレノの顔を見れない。話しかける事すらためらわれてしまう。


 「……リス。」

 どうしようと悩むレノアに躊躇いがちにレノが話しかけてくる。その声にドギマギしながらレノアは顔をそらしてしまう。

 「な、な、何よ。」

 チャリと手錠をつなぐ鎖が揺れ、レノが動く気配が伝わる。

 「具合……動けそうなら、とりあえず帰るか。さっきレイドが鍵はスカーレット様に預けて有るって要ってたし。」

 「そ、そうね。」

 (そうだ。帰ってさっさと外して貰おう!と言うか、なんでこんな事されたんだろう……。)

 

 


 手錠を繋がれたままでは馬は乗れないと言うことで、帰りはレノとレノアは同じ馬車に乗ることとなった。

 婚約破棄だってもう処理はすんでいるだろう。

 要らないと言われてから、半年間ずっとレノを避けてきた。

 今更何を話せと言うのだろう。


 レノアは気まずくて仕方ない。馬車の窓から外を眺めれば、窓ガラス越しにレノと目が合った。

 しかし、車内の無言は続く。

 窓越しの目線は今度はレノからそらされた。


 (ほら……今更だよ。)

 レノは別に中直りを希望していないんだと思う。

 そもそもとレノアを必要とはしていない。


 好感度が下がった証明のイベントが起こっているのが何よりの証拠である。

 要らない者には好感度など持てないのが世の常だ。


 (屋敷についたらスカーレットに速攻で鍵を外して貰おう。)


 本当……何で俺はレノアに転生したんだろう。


 レノアは窓にコツンと頭を預けると瞳を閉じた。


 「……リス。もうすぐ着くぞ。」

 閉じた瞳をレノの声が開けさせる。

 「そう。それならさっさと鍵を開けて貰いましょう。」

 

 手錠が外れたら話し合うも何も無いんだし。

 「いや……それよりもリスに色々聞いて欲しい事が有るんだ。」


 (ぃまさら何を?また、要らないと言われなきゃいけないの?)


 「嫌だって……いったら?」

 レノの顔を見ずに突き放すように呟けば、チャリと鎖が動く。

 レノがレノアに近づいたのだ。

 そして、そっとレノアを繋がれていない右手でレノアの左頬に触れると右頬にキスをした。

 唇が頬に触れるだけの優しいキス。


 一瞬レノアは何が起こったか理解できずに固まってしまった。

 

 (ん?今……。)

 「リス。話を聞いて。」

 優しく、甘くレノが右耳で囁いたと思えば、今度は右の耳たぶへレノの唇が触れる。 

 「聞いてくれるって言うまでこうする。」

 そう言うとレノは耳たぶから再び頬へキスをしてきた。

 これにはレノアは、一気に顔だけでは無く体中が赤くなった。


 「なななななななななな!!なにするの!!」

 思わずレノを見ればレノの顔は思っていたより近くにあった。

 「やっとこっち向いてくれた。リス……話を聞いて欲しい。」

 そう言うとレノはレノアの唇に凄く近い頬にキスをしようとすればレノアは慌てふためき聞く聞く聞くと首をブンブンと振ってきた。

 

 (か、可愛い……。可愛すぎる。)

 半年ぶりに凄く近くでみたレノアの反応に今度はレノが顔を赤くして震えながら俯いてしまったのだが、今のレノアにはそれにすら気づく余裕も無くひたすらレノアは首をブンブンと振っていた。



 -ーーーー


 「き、気持ち悪い……。」

 屋敷につく頃にはレノアは首の振りすぎて馬車酔いしていた。

 「リス?大丈夫か?」

 

 (大丈夫じゃない……。レノのせいだ。レノが……からかうから。)

 うぷっと吐き気で口を押さえれば、レノアの身体はふわりと宙をまう。

 「ふへ?」

 「ごめん、手が繋がってるからちょっと抱き方おかしくなる。落としたくないから動かないでくれ。」


 落とされたくは無いので仕方なくレノアは大人しくレノに抱かれることにした。

 青白い顔のレノアと何処かウキウキとしているレノは端から見たら対照的だった。


 (レノに抱っこして貰うとか……。)

 半年ぶりか……?

 

 必要とされてないのかも知れないけれど、からかわれているだけかも知れないけれど。

 やっぱりレノの腕のなかは悔しいけれど、心地よく感じてしまう。


 レノアは多分自分の部屋に運んでくれているのであろう、レノの腕の中で目を閉じた。



 


 「………。」

 (なぜこの短距離で寝るんだ……。)


 レノは盛大に溜息をついてレノアをゆっくりベッドに下ろした。


 (ちょっと痩せたか?)

 レノもゆっくりとベッドに腰掛けレノアの頬に指を滑らす。

 レノの指がくすぐったかったのかレノアはコロンとレノと反対側に寝返りをうちかけるも、手錠が繋がって要るため出来なかったようだ。

 ううんと唸ると再びモゾモゾと今度はレノ側に寝返りをうってきた。

 

 この状況ですやすやと寝ているレノアを眺めながら、レノは苦笑いしてしまう。


 そっとレノアの唇をレノは自分の指でなぞる。

 (このまま、無理矢理リスを……。)

 一瞬レノアを汚すことを考えてしまったが、レノは首をふってその考えをすぐに否定した。


 

 

 半年間レノアに避けられ続けたのは正直堪えた。だから話し合う機会を得るためならばと、レイド達に言われたとおりエリック先生の部屋を訪れればあの姿の先生に抱かれたレノアを見て気が狂いそうだった。


 (というか、気が狂ったんだよ…。あれは、ダメだろ。)

 レノはレノアの唇から指を離すと、そっとアザになっている腕や足を見た。

 傷つけるつもりは無かった。


 だけど、『先生の所に居たいです。』そう言ってエリック先生にしがみつくレノアの姿がレノの脳裏に浮かび上がる。

 どうしてもあの時、黒い感情を隠す事が出来なかった。他の男、しかも裸の状態のやつにしがみついた事だけで無く、自分から逃げる事など到底許せなかった。

 

 逃がしたくなくて、咄嗟に偶々先生の所にあった鞭を打てば、あの脅えた様なレノアの顔。

 

 (あんな事ばっかりしてるから、リスにいつも誤解されてるんだろうな……。)

 リスの笑った顔が見たい。

 

 再びレノはレノアの頬に指を滑らせた。

ここまでお読みくださりありがとう御座います。


レノアはの〇太君並みに寝付きがいいようです。

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