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保健室

 「おや?どうしたの?」

 「いえ…。シン・ラミア様にそろそろレノア様をお迎えに行くように言われまして。」

 「………。」


 地下室のホルマリン部屋とエリック先生の教員部屋とは繋がっていた。

 ぶっちゃけ秘密部屋でも何でも無く、各教員部屋には資料室として地下にもう一つ部屋が有るとさっきエリック先生から聞いていた。

 そこからエリック先生に抱きかかえられ出てきた瞬間、レノアは違う意味で具合が悪くなった。


 部屋につくタイミングがまるっきり彼と一緒だったのだ。

 この半年間必死で避けてきた彼と。


「あ!そうなの?ごしゅ…、じゃなくて。ゴホン。シン様が言われたのか。うん。じゃあレノア君大丈夫?」

 「いや…、大丈夫じゃないです。まだ先生の所に居たいです。」


 (冗談じゃ無い。)


 ぐっと先生にしがみつく。

 「大丈夫?気持ち悪い?」

 先生がレノアを覗き込むようにすれば、レノアは必死で先生に向かってアイコンタクトを図る。

 (いやだ!レノの所には行きたくない。レノに帰れっていって!)

 (ん?あぁ、わかった!僕にご主人様の所に行けっていってくれてるんだね!ありがとうレノア君!)

 2人のアイコンタクトは思いっきりすれ違い、何故かウキウキしだしたエリック先生は、ほいっとレノにあっさりレノアを預けるといそいそと予備の服を棚から引っ張り出して着替はじめた。


 「じゃあ、レノア君お大事にね!あ、さっきのは僕たち2人だけの秘密ね!それと、レノ君はレノア君を保健室にでも連れて行ってあげて。ちょっと気分が悪いみたいだから。」

 「解りました。」

 エリック先生は爽やかに手を振るとさっさと部屋をあとにした。

 

 パタン。


 部屋の扉の閉まる音と当時に部屋に静けさが訪れる。

 (き、気まずい……。)


 レノアはそっとレノから離れて部屋を後にしようと足を速めれば、ガシリと腕を掴まれる。

 「何処に行かれるんですか?」

 冷たく素っ気ない声が頭上から降ってくる。

 顔は見てないが、声からするときっとまたゴミを見るような目をこちらに向けて居るのだろう。

 レノアは顔を見ないように俯いて関係ないとだけ答えた。


 「関係ない?どうして?婚約者なのに?そんなに先生がいいんですか?裸になって……何してたんですか?」

 掴まれた腕がギリリと締め付けられて痛い。思わず痛みで顔が歪んでしまう。それでもレノアはレノの顔を見ようとはせず俯いたまま答える。

 「自分が……レノ様が婚約破棄してきましたよね?それなのに婚約者?バカバカしいですわ。それに先生と何してようが貴方様には関係ございません。痛いから離してくださりませんか。」

 レノアの精いっぱいの抵抗。

 距離を置くように冷たく話す。


 (先生となんてどうでもいい。自分から婚約破棄したくせに。イラナイっていってきたくせに。いまさらなんだよ、ムカつく……。)

 何が婚約者だと心の中でレノアは毒づく。



 けれど、それが余計にレノを刺激したのだろう。腕に更に力が加わりレノアは思わず呻いてしまう。 

 「っ……!いたい……痛いから!」

 何とかレノを振りほどき睨み見れば、やはり冷たくゴミを見る目になっている。掴まれていた腕が酷く痛む。


 「つっ!そんな目で人を見るなら初めから見なきゃ良いでしょ!」

 そう叫ぶとレノに背を向け入口に走りだす。

 すると、突然ひゅっと風を切る音と同時にレノアの足に何かが絡まりつき転んでしまった。

 足に絡まった物をレノアが見れば、思わず絶句してしまう。


 足にはまさかの、鞭がからまっていた。

 (鞭!!?)


 「あぁ、具合が悪いって言ってたな。それなら保健室にでも運んで差し上げますよ。」

 全く光のない青色の目がレノアを冷たく見下ろしたかと思った瞬間、レノアはレノに抱きかかえられていた。

 「!!や、やめ!下ろして!」

 「暴れても無駄ですから。離す気はないので。」

 レノに運ばれながらレノアは全力でもがきバタつくが、レノアがもがけば苦しいほど余計にレノは腕に力をこめる。

 そして、そのままレノアはエリック先生の部屋からさほど遠くない保健室のベッドまで抵抗虚しく運ばれてしまったのだった。

 



 ドサリと乱暴にベッドに下ろされたレノアの顔色は悪い。

 

 「いい加減にしろよレノ!自分から婚約破棄したいっていってきたくせに今更なんなんだよ!」


 気持ち悪い。


 「……違う。」

 「違う?何が違うんだよ!今更何?王子にならないけど、エレク家でも乗っ取りたくなったの?公爵だけじゃ満足できない?俺はお前に利用される気はサラサラないからな!」

 段々男言葉になっている事にすら気付かず、レノア怒りに任せてレノをまくし立てる。

 「違う!違うんだ!」

 レノもまた、まくし立てられ声を荒げて答える。

 「何がだよ!」

 枕をレノに投げつければレノはそれを避けレノアの両腕を押さえる。

 「離せ!離せよ!」

 「リス!聞いてくれ!」

 押さえつけられた腕が痛い。


 けれどそれよりも、それ以上揺らされると………。

 「やめろ!やめないと!!」

 必死にレノの手を払いのけようとすればするほどレノはレノアを掴みにかかる。

 そのせいで、徐々にレノアの口内には酸っぱく苦い味が広がってくる。

 「や……やめ……やめ。」

 「リス!」


 (もう…だめだ……。)

 

 「うぷっ、うえぇぇぇぇ」 

 






 ーーーーーーー


 「…………。すまなかった。」

 「………。誰かが揺するから。」

 「ご、ごめんなさい。」


 エリック先生の所でホルマリンの臭いをかいで気持ち悪くなっていたところを、レノに揺すられたためレノアは吐き気が抑えられなかった。


 抑えきれない吐物は見事にレノア自身とベッドに大量にかかってしまっていた。

 おかげで荒げた声の攻防戦は終わったのだが、今だ気分が優れずレノアは動けないでいた。


 よりによって今日のドレスはロゼッタの手伝い無くして着れない様な代物だし、着替えも無いので着替える事ができない。

 ドレスについた臭いが余計に気分を悪くさせてくる。

 途方に暮れながらもレノアは違うベッドに腰掛けてベッドのシーツなどを処理してくれていたレノにふと、目を向けてしまった。


 (半年ぶり……か。)


 何故か不意に胸が締め付けられ息苦しくなる。それと同時にまた彼に何かを拒否され、自分はイラナイと認識させられたらどうしようと不安が心を渦巻く。


 彼にもう拒否されたくない。


 だから半年間逃げてきたのに……。

 どうして今更……。 

 これ以上傍に居たくない……。



 その時、レノと不意に目が合ってしまい慌ててそらしてしまった。それに気付いたレノは直ぐにこちらにやって来くる。


 「リス?ドレスが汚れてる。」

 「……。」

 

 (知ってるよ。でも、着替えもないし。)

 そんなことを言われてもこればかりはどうしようもない。


 今の自分は何となく惨めに感じてしまう。


 「……脱ぐか?」

 「は?」


 レノは急にレノアを向かい合って抱きしめる形になりドレスを絞めていた紐を慣れた手つきでほどき始めた。

 「や!ちょっ!やめ!」

 慌てて抵抗するも抱きしめられる形になっているため大した抵抗もできずにただ、もがいているだけの形になる。

 「リス?騒ぐな。まだ具合がわるいんだろ?気分が割るときは締め付けは良くない。これなら俺は何も見えないから大丈夫だ。」

 「いや!そうじゃない!そう言う意味じゃない!」

 (着替えがない!!というか、そばに来るな!) 


 パラリ


 慣れた手つきのレノはあっという間にレノアのドレスの紐をほどいてしまった。故に支えを無くしたドレスは開け、薄い下着のみのあられもない姿になってしまう。それなのにレノがドレスを脱がそうとする手は止まらない。


 「ちょっと!やめろってば!!!」

 レノアは再び必死に精一杯の力でレノを突き放そうともがけば、レノごと体制を崩しレノアを組み敷く形でベッドに倒れこんでしまった。


 「あ……。」

 「……。」


 

 上半身のドレスは脱げ、薄い下着のみのあられもない姿をレノに見られてしまった。


 (最悪……。)


 レノもそこでやっと何をしたか気づいたのだろう。慌てている様子のレノにレノアはポツリと呟く。

 「着替え……無かったのに……。」

 「!!」


 涙目で睨みつければ、レノはゴクリと喉をならす。

 「……リス。」

 レノはゆっくりとレノアの首筋に顔を埋めようと近づいてきた。

 「え?や!ちょっと!やめて!」

 

 (助けて!)


 「レノ様それは犯罪です!」

 声と共にレノは思いっきりベッドから突き落とされていた。

 「え?あ、あっちゃん?」

 「ふう!間に合った!はるたん大丈夫?」

 「あっちゃん!」


 レノアはあっちゃんに思いっきり抱き着いた。

ここまでお読みくださりありがとう御座います。


エリック先生のレノアの呼びかた

「さん」から「君」に変更です。

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