細マッチョ
「いや、別に用事はないんだけど……。なんか最初に会った頃とレノア君の様子が違うかなって。あの頃はもう少し男の子っぽくて良かった気がするんですけどねぇ。」
そう言われてレノアは、レノアの中の遙人に気付かれたような気がしてドキリとした。
(ま、まさか……コイツ転生者だって知ってて?)
よく考えれば初めて会ったときも、メリーから情報を得たシンと先生は共に居た。シンからレノアについて情報が流れててもおかしくない。
(まぁ……知られてた所で。……いや、余計な情報は流れない方が良いに決まってる。)
「あら、そうですかね?多少お転婆が過ぎただけです。でも、もう年頃なんだからって気付きましたからね。」
「ふーん。そうなの。それは残念。」
あっさり興味を無くした様子のエリック先生は、標本達を並べ始めていた。
「いや……だから。先生……。なんで私はここに居るんですかねえ?」
相も変わらず標本を嬉しそうに並べているエリック先生にレノアはあきれ顔で問いかける。
「うーん?僕の愛しのご主人様が直々に君にここに居て貰うように言ってたからかなぁ?」
「ご主人様って……シンですか………。」
(もしかして……これって……。)
シンを使ったメリー達の差し金だろうか?
だとすると、ここには長居しない方かいい。
「呼び捨てなんて恐れ多い!!!ご主人様は神です!あの愛らしさは永遠にホルマリンにでも漬けてとっておけたらぁ!」
ああ!ご主人様!!と身体をくねらせてはしゃぐ先生はもはや変態のように見える。
「………。私……帰っていいですか。」
もはや先生が何を言っているのか、全く理解出来ない。
レノアが地下を出ようとエリック先生に背を向けた時、うっかりレノアの肘がホルマリンの瓶棚に当たってしまった。
その反動で頭上にグラつく小瓶が視界に入ると同時にレノアは思わず目をつむってしまう。
「危ない!」
「!」
パリンと瓶が傍で割れる音とともに気持ちの悪い鼻を刺すような刺激臭が漂う。
そっとレノアが目を開ければ、エリック先生に庇うように抱き締められていた。
「え!エリック先生!?」
「あー。ゴメンね。さっきの瓶蓋が緩かったんだよね。しめなきゃとは思ってたんだけど。」
「先生……庇ってくれたんですか。ごめんなさい。」
レノアの代わりにホルマリンを浴びたのは先生だったようだ。
「うん。大丈夫。女の子がこんなの浴びちゃって皮膚がただれたら大変だからね。」
そう言ってレノアの前で先生は急に、モソモソとホルマリンがかかった上着を脱ぎだす。そして脱いだ服をそのまま割れた瓶の上に載せ、それでホルマリン液を吸収させはじめた。
服を脱いだ先生は色白の身体に似合わない割と筋肉質だ。いわゆる細マッチョ。
「ごめんね。ホルマリンは臭いから匂いが落ちなくてさ。だから面倒臭いし、いつも汚れた服で掃除しちゃうんだよね。あ、今換気口開けるから臭い大丈夫?気持ち悪くない?地下室だから籠もるんだ。」
エリック先生がレノアから離れて換気口を開ける。
確かに……異臭が部屋に蔓延していて心なしか気持ち悪い。それに何だか頭もクラクラする。
一歩踏み出せば視界が歪み思わず上半身裸の先生にしがみつく形で倒れこんでしまった。
「おっと!」
先生に抱き締められ、なんとか倒れ込む迄は行かなかったが匂いで気持ちが悪い。
「ごめん、出ようか。顔色が悪い。」
「すいません。」
「ううん。こっちこそゴメンね。」
レノアを抱きしめ支えてくれる先生は優しく微笑む。
(うーん。腐っても攻略対象者か……。)
「先生……、ライジングのライブ姿とか、シンの事が無ければモテそうですね。」
思わず失礼な事をレノアが呟けば、先生はそれじゃあ僕じゃないと笑った。
「そう?僕は男の子だろうが熱烈なファンだろうが、何だろうが好きなものは好きなんだよ。そこを否定しちゃったら僕じゃない。それより歩ける?無理そうなら連れて行くから。ここをいったん出よう。」
そう言うと先生はレノアを抱きかかえた。
「あ、自分で歩けます。」
「いいよ。顔色が悪いから遠慮しないで。」
「………それじゃあ…。お言葉に甘えます。」
そう言うとエリック先生はレノアを抱きかかえたまま地下室を後にした。
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エリック先生はシンが絡まなければ割と普通のイケメン設定。




