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俺は必要?

 結局レノアが騒ぐため返答は保留にしてもらい落ち着いた頃再び話し合う事となった。




 王宮からの帰り際エレク家の馬車に皆で乗って帰ろうとするなか、レノアはエレク家当主とスカーレットを先に帰しレノを引き留めた。

 そして、馬繋場までレノを連れてくると実は……とレノの愛馬を指さした。

 「………リス。まさかとは思うけど……まさかお前……。」

 レノが思わず半目でレノアを見下ろすとレノアはベロをペロリとだし苦笑いしていた。

 「いや……馬車より馬の方が早いじゃん?この子乗せてくれたし……。」

 相変わらずテへっと小さく舌を出している。

 「でも……リス…乗馬したこと」

 「無いけど出来た!」

 アハハと笑うレノアをみてレノは盛大に溜息をつきながら自身の愛馬を撫でた。本当によく振り落とさず運んでくれたものだと愛馬を撫でればドヤ顔でレノに顔を擦り付けてきた。

 

 (それでも……。)

 愛馬を撫でながらレノはレノアに見えないように顔を隠した。自分が裁かれてしまっていると勘違いでもこんな風に無茶をしながら助けに来てくれた。あまつさえリス自身が選んだ婚約者だと叫んでくれたことを思いだすと、とてつもなくうれしくて自然に顔が赤くなりにやけが止まらない。


 それでもコホンと咳払いしなんとか気を落ち着けるとレノアに一応の確認をとる。馬車が行ってしまったので、もしかしてだけど……。


 「リス……もしかしてだけど、まさかまたこの子に乗る気か?」

 「え?今更聞く?もう家の馬車行ったじゃん。レノが乗せてくれると思ってたから連れてきたのに?」

 ぷくっと頬を膨らませながらも可愛く自分を頼ってくれるレノアにレノは顔を隠しながら悶絶してしまう。

 「……解った。」

 何とか悶絶していることを隠し答えればレノアはその答えに満足げに頷いていた。

 「それならほら!いくよ!」

 よいっしょっとレノアが愛馬によじ登ろうとしがみつけば馬は嫌そうにブルルルと首を振る。

 「………リス…。それでよく振り落とされずにここまで来たな。」

 あきれ顔のレノにレノアはムッとして答える。

 「さっきは上手く乗れたの!だいたい!誰のせいでこんな無茶をしたと思ってるのよ!見てないで乗るの手伝いなさいよ!」

 「……仰せのままに。」

 

 突如レノアの身体は馬から離されたと思えばそのままレノに抱き締められ、気付けばストンと馬に乗る事が出来ていた。もちろんレノに抱き抱えられながら。

 「…………。あんたね……。私が苦労しながらやっと乗ったのに……。」

 恨めしそうに、だけど大人しくレノの腕の中で収まっているレノアは呟いた。

 「俺は殆ど毎日乗ってるから。」

 「……そうね。……乗せてくれてありがとう。」

 「いや……こっちこそ。色々ありがとうございます。あと、落ちそうなので出来ればちゃんと摑まって貰えると助かる。」

 レノがそう言えばレノアは別に落ちないわよ。と再び頬を膨らませつつレノにしがみついてくれた。




 「………レノは王子なの?」

 しばらく無言で馬を進めているとレノアはぽつりと言葉を発した。

 「………らしいな。」

 「らしいって……。なんでそんなに他人事なのよ。」

 レノアは何処か面白く無さそうにそっぽを向いた。

 「でも……王子になれて良かったじゃ無い。それに、お父様も居たんだし。」

 「父さん……ね。」

 レノもレノアの方に向かずに抑揚の無い声で答えた。

 「今更……王子やら父と言われてもな。正直、どう反応していいか解らないんだ。母さんはずっと父の事は教えてくれることは無かったし、俺は自分が平民だと思ってたし……な。それに王妃様は今は余計な派閥争いは無いと言っていたが、俺が王子になればまた自然と派閥争いは起こるだろうし。俺は……きっと本当は望まれていない存在なんだ。」


 (望まれていない存在……。)

 青砥遙人と一緒だ。遙人は望まれていなかった。だから捨てられた。

 でも、レノと遙人も違う。レノには母がいた。そして、手を伸ばせば父も居る。


 ボンヤリそんなことを考えていたら自然と言葉は呟きとして口をでる。

 「レノは望まれていないなんて事は無いよ。むしろ羨ましいよ。俺は……父さんにも母さんにも望まれなかった。それだけじゃ無いさ。社会的にも誰にも必要とはされなかった。んでもって、あっさりひかれて死んじまったよ。本当に……何の為に生きていた人生だったんだろうな、俺。」

 「リス?」

 レノがレノアの視界に入ってくるとレノアは思わずハッと我に返った。

 「あ、いや、うん。気にしないで!えーっと……とりあえず!その……レノは望まれてないなんて事は無いから!皆レノが必要だって思ってるからレノを大切にしてくれるでしょ?お父様だってスカーレットだって、レイドだって。」

 「リス……は?」

 「へ?」

 「リスは……俺が必要?」

 真顔で、レノアを求めるようにレノに見つめられ答を促されるとレノアの顔は赤くなる。

 「えっ…えっ……あー。何だよ急に…。」

 レノは馬の歩みを止める。

 「リスは俺を必要とはしてくれないのか?」

 レノアが瞳をそらそうにもレノがそれを許さないと言っているかのように瞳を絡ませる。

 「俺は……俺にはリスだけが必要だ。リスは……リスは俺を必要とはしていないのか?」

 「そっ……そんなの!」

 何とかレノから瞳をそらしてレノアはレノの胸にドスっと顔を埋めると小さな小さな声でそっと呟いた。

ここまでお読みくださりありがとうございます。


ゆっくりゆっくり更新です。

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