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王家と裏王家

 「さてはて……。これは如何しましょうかね。」

 「うーん。困ったねー。こんな感じでバレるとはね。」

 ねっ、レノ?と呼ばれレノは思わず萎縮してしまう。何故なら、ここはエレク家当主の執務室で、レノの目の前にエレク家当主とその執事で有るスカーレットが全く笑ってない目を細めてレノを見つめていたからだった。


 「とにかく……バレちゃいけない子にバレちゃったんだから諦めるしかないかもね。よりによって第1王子にそのネックレスを見つかるなんて。まぁ、王に第1王子がチクった所でレノが本物だと言うことは王自体が知っているから心配は無いんだけどね。」

 ため息混じりに当主が囁けばスカーレットはこれも良い機会なのかも知れなかったですねと相槌を打つ。

 「とにかく、こんなものを送られて来た以上一度会いに行かねばいけないね。レノ、君の父上に。多分これは第1王子やその一派に対する建前なんだろうけどね。」

 ピラッとレノに一通の手紙を当主はレノに手渡す。

 そこには王からの直々のサインと共に王家の印を持つ者の虚偽判定を行う旨が記載されていた。

 「ところで、レノ?君は王子になりたい?それとも僕の……侯爵家子息になってたい?それによって僕らの作戦は違うんだけど……。」

 ニヤリと笑うエレク家の当主は実に楽しそうである。

 「俺は……俺は。」

 (リスに振り向いてさえ貰えるなら何だっていい。平民でも、貴族でも。)

 レノが答えかねて居ると多分何となく事情を察した様子のスカーレットが助け船をだす。

 「とりあえず、当日行ってみましょう。私も彼がどの位成長したのか間近で見る事が出来るのでとても楽しみですし。」

 「うわ……でた。こわっ……。」

 目を細めて楽しげに小さく笑うスカーレットをみてエレク家の当主はぶるっと震えていた。

 そして、その傍でレノは2人のやり取りを全く気にすること無くひたすらレノアの事だけを考えてぼーっとしていた。



 ーーーーー

 数日後指定された日時に王家に当主、スカーレット、レノの3人で出向くと直ぐに謁見の間に通された。

 流石王宮と言うべきか、周りは威厳を損なわないように並べられた質の良い装飾品で包まれその空間だけが特別なような錯覚に陥る。

 そして、その空間の中にこれまた威厳の塊のように鎮座する玉座には王が座っていた。そして、その王の横にはヘタレの化身もといシュワルツ王子がこちらを睨みながら立っていた。

 「よくのこのこと恥をさらしに来たものだ。こんな嘘つきを育ててしまってはエレク侯爵家の格も地に落ちたものですね。」

 

 開口一番にかなりの上から目線でもの申してくるシュワルツの言葉を鼻をホジリながら聞いていたエレク家の当主は実に面倒臭そうに鼻から指を引き抜いて今度はあくびをしていた。

 そんな様子のエレク家当主を目の当たりにしたスカーレットはため息を、王は苦笑いをしている。唯一、そんな態度に出られたシュワルツだけが顔を赤くして怒りだした。

 「なんと!なんと無礼な!いかにエレク家の当主とて!」

 「辞めなさいシュワルツ。今のはお前が悪い。」

 途中でシュワルツの言葉を遮り王が人払いをすると城の使用人達はわらわらとその部屋をあとにした。

 「なっ!父上!この者は侯爵家のものでありながら王子である私を侮辱したのですよ!」

 「まぁ、そんなにキャンキャン吠えるでない。エレク家当主は何も無礼な事などしておらん。むしろわざわざやってきてくれた客人にいきなり牙をむいたお前の方が無礼だと思うぞ。それにな……この方々はお前がその様な無礼な態度を取って言い方々では無いのだよ。」

 そう第1王子を嗜め、制止すると改めて王は玉座から降りエレク家当主とスカーレットの前に出て頭を下げる。

 「この度は家のバカ息子が重ね重ね無礼を働きまして誠に失礼いたしました。」

 「父上!」

 叫ぶシュワルツを尻目にスカーレットは全くと呟くとため息混じりで王に話かけた。

 「本当に……あの第1王子は昔のお前ソックリだな。何も知ろうとせず与えられた環境のみで考えて。それに加えて傲慢で……。見て見ろ、正に井の中の蛙じゃないか。あの子は大海どころか大空すら知らなそうな面をしている。いったいどういう育て方をしたらああなるんだ?お前ちゃんと子育てしたのか?」

 「すいません。アレはちょっと甘やかしが過ぎました。」

 しょんぼりうな垂れて謝る王を見てポカンと口を開けた王子は何も言えなくなっていた。もちろんそれはレノも同様で、当主に限ってはスカーレットと王のやり取りをニヤニヤと見つめていた。

 「ち、父上?な……なぜ?」

 もう本当に訳がわからないと言った顔でやり取りを見ていた王子は何とか声を絞り出しワナワナと震えていた。

 「いや、なぜって、お前建国のお伽噺知っているだろう?」

 父王は王子に語りかける。

 昔々デタラメな王様を女神の力を受けた王子が倒し豊かな国を開いた。それが現リグサイド王国。しかし、その話には続きがある。女神の力を過信してまた王子が父王の様にデタラメな王様にならないよう女神は王と相対する力、かつて魔王と呼ばれた力を王の監視役としていた。

 

 「これは半分はお伽噺、半分は本当の話だ。そして、その魔王と呼ばれた監視役としてバース家が存在していたんだ。だからこのお方は我が王家と対等の権力をもつ裏の王家、裏の王だよ。そして、私達の先生だ。まぁ、バース家の御子息様にはもう、我ら王家に仕えられないと見切りをつけられてしまったが故に今は力の移行をエレク家がになってくれて居るのだがな……。」

 「そ、そんなのはお伽噺だけの事じゃ……」

 「まだ解りませんかな?」

 王子がなおも父王の言葉を否定しようとするとすかさずスカーレットが言葉を挟む。

 「全く、物わかりのなってない子だ。本当に王の昔にそっくりだね。これはしごきがいがありそうだ。まぁ、残念ながら家のバカ息子が放浪の旅に出る今となれば誰か適任のしごき係がひつようなんだけどね。所でそれはさておき、今日は違う要件で来たんだが?ねぇ、レノ様?」

 ニヤリとスカーレットはレノを振り向けば、王も同じ方向を見て懐かしそうにその青い瞳を細めた。

 「あぁ、君が……メノウの……私のもう一人の息子か…。」

 そっと王はレノに近づくとゆっくり、ゆっくりとレノに手を伸ばし力なくレノの肩に手を触れた。

 「君のこの髪色はメノウにそっくりだね。……メノウを……君の母上を……守ってあげられなくてすまなかった。」 

 王がレノに触れている手は小刻みに震えていた。そこにはもはや王として威圧するような威厳はない。

 「私は……私は……君の母上を守れなかっただけじゃ無い、君すら派閥争いに巻き込んで失うかもしれないとずっと脅えて……。ずっと君がエレク家に大切にされているのに甘えて父と名乗れずここまで来てしまった……。こんな、こんな形で君を呼び出してしまって……すまない。」

 すまないと王はうな垂れて消え入りそうな声で囁いていた。

 「なっ!父上!コイツは王の名を騙ってるだけの不届きものですよ!父上には母上が居るではないですか!!父上!」

 「シュワルツ……お前にもすまないと思って居る。だけど……この子は。レノはまごう事なきお前の腹違いの弟だ。私の息子なんだ。」

 「そんな……。そんな!嘘だ!そんなの嘘だ!父上は母上を裏切っていたのですか!?父上は!」

 叫ぶシュワルツノにうな垂れる王。そこに1人の女性の声が割って入る。

 「あら、シュワルツ。私は裏切られたなんて思っていませんことよ?」

 カツカツと凛とした姿勢で1人の女性が入ってくる。

 「お久しぶりです。バース様、エレク様。そして初めまして、レノ。」

 その女性は3人に頭を下げるとゆっくりとシュワルツの傍に行き頭を撫でた。

  

ここまでお読みくださりありがとうございます。

ちょいと話が長くなりそうなので続きます。


新しい登場人物

シュワルツ母ちゃん(王妃)登場!

シュワルツキャンキャン吠えてます。

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