黒いもや
「レノ……いきなりアレは無しじゃないか?」
レイドは溜息混じりにベッドで丸くなる友人に声をかける。
長身なのに無理矢理丸くなって居る彼の背中はどんよりと空気が重たい。まるで今にもカビが生えてきそうなほどだ。
「全く……。ん?」
再びため息を尽き友人から目線を外すとレイドは彼のデスクの上に光るシルバーバードに目をやる。
ここはレノの私室。
「レノアのシルバーバード……。なんでここに?っか、なんでネックレスチェーン切れてるの?」
そっと持ち上げればチェーンが壊れているのが解る。これは引っ張ったり、何かの力が加わらなければ多分切れないと思われるのだが……。
「おーい。レノの?お前まさかレノアに乱暴とかしてないよな?」
まさか!まさか!自分の友人は……。
「してない!したくても出来ない!」
「したいのか!?」
レノは即座に否定してくるがとっさにその内容に思わず突っ込んでしまった。
「じゃあなんでこのネックレスチェーンが切れてるんだよ?これは何か力が加わったんでは?」
指でチャラチャラとチェーンを絡めてレノを見ようと振り返れば何時の間にか傍に来ていたレノにネックレスを取り上げられる。
「俺に引っかかったんだよ。」
無理矢理キスした時にとは言わない。そして、実はレイドが作ったが故に嫉妬で持ってきたことも秘密でいい。
「……リスが探しててくれたのはこれだったんだな。俺があげてから大事にしてくれてたって……。嬉しかったって…。」
本当はあの時リスに返そうと思ったのだがチェーンが切れていたことや、リスの一言一言に喜びで舞い上がり完全に返すタイミングを無くして再びどさくさに紛れて持って帰ってきてしまっていた。
リスがこれを喜んでくれていた、大切にしてくれていた。俺があげたから。
レノはジッと柔らかい瞳でシルバーバードを見つめる。
(嬉しそうな顔しちゃって……。)
レイドは不器用な友人の顔を見てもう何度目か解らないため息をつく。
「じゃあ、早く返してやれよ。お前…返すの遅いと泣かせることになるんじゃないか?それはレノアの大事な物なんだろ?ほら、ちょっと直してやるから。あ、ちょっとこれ借りるぞ。」
レイドはレノからネックレスを取るとレノの机の上に有ったペーパーナイフの先端を器用に使いチェーンを直す。
「ほら、治った。今日中にでも返してやればレノアの機嫌も少しは治るんじゃないか?」
そう言ってシルバーバードをレノに向けて放り出せばレノは少し嬉しそうに受け取る。
「わかった……レイド。……ありがとう。」
ボソボソと小声でそっぽを向きながら呟くレノに思わずレイドはコロコロと笑いながら頭をガシガシと撫でてやる。
「お前…可愛い王子様だな。」
「!」
王子様と言う言葉にレノは思わず反応してしまう。
「なんで、俺が王子様なんだ!」
まさかレイドは秘密を……。
「ん?なんでって?レノアが姫ならお前しか王子様役いないだろ?騎士様って感じじゃ無さそうな位レノは微妙にヘタレだし。それに、お前どことなくシュワルツ王子に似てるからな。顔も何となくヘタレって感じも。」
一国の王子をヘタレと言い放つのは不敬罪に当たるのでは?とレノは呆れつつ、レイドの指摘に若干の冷や汗を浮かべる。
確かに……母親こそ違えど、シュワルツとレノは血の繋がった兄弟になる。似ている所は出てくるのかも知れない。
(まさか……リスはまだシュワルツを好いているのでは?俺とシュワルツを無意識に重ねているのでは……。)
一難去ってまた一難。
自分だけを見て欲しい……。レノの心に黒いもやがかかる。
「あんなヤツに似てない。ヘタレじゃない。」
声を絞り出すのが精一杯のレイドに対する抵抗だった。
「はいはい。とにかく今日中にでも返してやれよ。レノアの大切なものなんだから。」
再びレノの頭をレイドはガシガシと撫でてやると背を向け部屋を出ようとしてまた違う物に気付く。
「あ?レノ?お前鞭なんて使えるの?」
椅子の背もたれに小さく丸めて纏められた鞭を見てレノは首を捻る。
「……、リスが鞭嫌いだって言うからそれ捨てる所。」
「………。レノの一応言っとくぞ一応。」
くるりとこちらに踵を返しガシリとレノの肩を掴むレイドの顔は厳しい。
「間違っても絶対絶対絶対に!レノアに鞭なんて使うなよ。お前色々なんか抜けてるから言っとくぞ。鞭当てられて喜ぶ変態はなかなか居ないからな!即座に捨ててこい。これはかなりの確率でレノアに嫌われるからな。」
「わ、わかった。」
レイドの剣幕に推されレノは早急に鞭を手放す事に決めた。
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