2日後
「婚約者になれて良かったじゃないか?」
紅茶を片手にレイドはテーブルに突っ伏した無言を貫く目の前の友人に声をかける。
「しかも、レノアの着替えも覗けたみたいじゃないか。さっきレノアがお前を監視しておけって言ってきたぞ。」
楽しそうに声を弾ませて笑うレイドをレノは舌打ちをしながら睨んだ。
「あれは事故だ。あんな姿が見れるとは思わなかった……じゃなくて、とにかく事故だ。たまたまリスを探してたらクローゼットから音がしたから……。」
チラリとレノがレノアがいる反対側のテーブルに目をやればたまたまレノアと目が合った。
「……っリス!」
レノがガタッと席を立ち上がればその動きに気付いたレノアはフンッと直ぐにそっぽを向いた。実は床に沈められたあの時から既に丸2日、レノアにレノは無視されていた。
レノアにそっぽを向かれヘナヘナと再び席に座り込むレノをみてレイドは笑ってしまった。
「で!レノ様と婚約者になれたんですね!無事にレノ様ルートにはいったんですね!?」
メリーは鼻息荒く、しかし反対側のテーブルにいるレイドとレノに聞こえないようにずいっと身を乗り出してレノアに問いだした。
レノアが熱を出した翌日には既に解熱してはいたものの、大事をとってレノアは学校を休んでいた。しかし、熱を出していた間なぜかレノがレノアの婚約者に決まってしまい全く状況が飲み込めずレノアは本日無理を言ってリリアン姉妹とあっちゃんを屋敷に招待してこれは何かのイベントなのかどうか相談していたのだ。
「これがレノルートなのかはわからないけれど、熱を出して気がついたら婚約者になってた。やっぱりこれってレノルートなわけ?」
これまでの経緯を全て話し、レノアはため息をついた。
「間違いなくレノ様ルートでしょうね。」
メリーが断言すると思わず変だなとレノアは首をひねりチラリとあっちゃんを見た。
「はるたん?どうしたの?」
レノアの目線に気付いたあっちゃんはすかさずレノアに声をかける。
「えっ……やっ……あの……。」
急に声をかけられレノアは思わず返答に詰まる。
(だって……レノはアノード嬢が好きだったんじゃないのか?)
あっちゃんを直視出来ないのはなぜだろう?
モヤモヤとした気持ちでレノアは俯いてしまう。
「はるたん?」
再び声をかけられる。
「いや……あの…。レノは…あっちゃんが……アノード嬢が好き……なんだと…思うんだけど…。」
思わずボソボソと呟くとリリアン姉妹とあっちゃんから物凄く呆れたため息がかえってくる。
「はるたん……それマジで言ってるの?」
だとしたら相当なバカだわとメリーが呟くとユアもあっちゃんも激しく首を縦にふって頷いている。
「何でだよ!だって、レノはあっちゃんを守るように言っても絶対俺の言うこと聞かなかったぜ?アノード嬢の言うことしか聞かないって……男って好きな子の言うことしか耳に入らないんだぜ?」
若干ムキになって言い返せば半目になったあっちゃんに鼻で笑われた。
「はるたん……男言葉になりすぎ。あのね……それって要するにはるたんから離れたく無かったって事でしょ。」
「え?」
「私もそう思いますけどね…。だってはるたんの言うこと聞いたらはるたんから離れなきゃいけないからじゃないの?あっちゃんははるたんの傍に落とす勢いで居なさいっておっしゃられたんでしょ?」
ユアもあっちゃんを擁護する。
「え?え?」
訳がわからないと言う顔をすればさらに3人から呆れたため息が漏れる。
「あのねはるたん……。レノ様の行動を思いだしてよ。あの日私が好きで心配だったらレノ様は私の所に来たんじゃない?でも私の所にはこないで濡れたはるたんを抱きかかえて速攻帰ってたよ?あ、でもレイド様はその後直ぐに来てくれたけど……。」
その時を思いだしたのか俯いて頬を赤くするあっちゃん。
「それに……一昨日、私達がはるたんにお見舞に来たときのレノ様のあの鬱陶しそうなお顔。あの冷たい眼差し。あぁ、あんな顔で攻められたい!」
うっとりと不穏な発言をするメリーに引きつつ、そう言えば皆が来てくれたとスカーレットに言われてた事を思いだす。
「そう言えば、遅くなったけどあの日は会えなくてごめん。来てくれてありがとう。」
ぺこりと頭を下げればあっちゃんが気を遣ってくれる。
「それは気にしないで。はるたんが具合悪くなってしまったのは私のせいでもあるから。ごめんねはるたん。」
「でも、そのおかげではるたんはレノ様ルートに行けたのよね。婚約者になるのは上半身裸鞭打ルートに必須だから今のところレノ様ルートに間違いはないんだけど、私の知ってるこのルートの入り方と今起こっていることがちょっと違うもの。だから若しかしたらこれは期待出来るルートなのかも知れないわ。」
メリーが鼻息く力説してきた。
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