れれれれれれれれれれれ
(どどどどどどど、どう、どうし、どうしよう!)
あの様子ならきっとスカーレットはレノを呼んできてしまう!
もし、万が一シルバーバードが無いことにレノが気付いたら。レノアは想像の羽を広げた。
《ない!→お前!平民だと馬鹿にしやがって→この鞭が目にはいらんか!→あーれー!→死亡。》
なんとも言えないレノアの雑な想像の翼は即座にバッドエンドを叩きだした。
(これは不味い!)
重たく気怠い身体に再び鞭をうちレノアはベッドからはいでる。
いくら寒気が和らいだと言えどまだ高熱を帯びている身体は中々レノアの言うこと聞かず足がもつれてよろめいてしまう。なんとか近くにあったテーブルに手をついて身体を支えるも視界は歪んで頭は重たく感じてしまう。
「早く見付けなきゃ……。」
それでも無理をしてゆっくりともつれる足を動かせばバランスを大きく崩してしまった。
「「!」」
このままでは顔から床に打ち付けてしまうと思っていたが、幸いな事にレノアは床ではなく壁に体当たりする形でとどまれた。
壁にレノアが体当たりすると同時にかべから何かが落ち、チャリンと金属音を立てて床に落ちた。すかさずレノアがそちらに目をやるとそこにはレノアが探し求めていたシルバーバードのネックレスが落ちて居たのだった。
「あった!レノがくれたシルバーバード!」
喜びでレノアは壁から離れてシルバーバードのネックレスを取りに行こうとするも、なぜか壁に身体を固定されてシルバーバードをとりにいけないで居ることにレノアは気がついた。
(ん?)
そう言えばこんな所に壁なんて……?
そっと壁の方を見ればレノアはそれが壁ではなく、レノだと気付いた。
「れれれれれれれれれれれ!」
驚いてレノの名前が言えずに居るとレノはそっとレノアを横抱きにしてベッドへ座らせ、レノ自身はネックレスを床から拾い上げた。
「俺があげたときはブローチだった。」
レノの呟きを聞き我に返ったレノアは慌ててレノに事情を説明し出す。
「そ、それは!ブローチだと何処かに引っかかって無くなると悪いからってレイドがネックレスにしてくれて。せっかくレノがくれたからうれしくってずっとネックレスにして大切にしてたんだけど…。本当に大切にしてたんだよ!レノがくれたから……。」
決して適当には扱って居ない、大切にしてたんだけどうっかり無くなってて……。レノが持ってるとは思わなかったとレノアは弁明したつもりだったのだが、何故かレノは耳まで顔を赤らめてそっぽを向いていた。
「れ、レノ?レノのシルバーバード無くさないようにネックレスにして貰っただけなんだよ?レノがくれたから大切にしてたんだよ!」
何も言わないレノの誤解をとこうとレノアは必死で弁明すればするほどレノは何も言わずこちらを見なくなってしまった。
(だめだ……なんか終わった…。)
レノアは肩を落とし後は鞭が出てくるだけだと諦めて目を伏せる。
「ごめん…レノ。何を言っても無くした言い訳だよね。レノを傷つけるつもりじゃ無かったんだ。レノがそれをくれて嬉しかったのは本当だけど、もしレノが許せなかったらもう煮るなり焼くなり私を好きにして。」
そう言ってレノを見れば顔を片手で覆って隠したレノがやっと口を開いた。
「ごめん……リス。今はちょっと……。耐えられない。」
震えながらそう呟くレノにレノアは落ち込んだ。
(そんなにレノをまた傷つけてしまったのか……。)
そう思えば一瞬忘れていた気怠さや寒さが再びレノアを襲う。もうだめだ。
悪役令嬢だったレノアが遙人の記憶を取り戻し、なんとかバッドエンドを回避しようと奮闘してみた結果がこれだ。
何をしても所詮悪役令嬢は悪役令嬢。人を傷付ける事しか出来ないキャラクターなのだ。だから誰にも求められず遙人同様一人きりで短い生涯を終えるしか無いのだ。
(せめて……遙人と同じ年くらいまでは生きたかったな。)
レノアはもはや気怠さと悪寒しか残って居ない身体をベッドに横たえた。
せっかく入れて貰った湯たんぽも今は暖かいと思えない。
寒い……。
レノアはそっと目を閉じた。
「り、リス?」
急に無言になったレノアにレノが目を向ければそこにはベッドの上で小さく震えながら顔色を悪くし、肩で息をしているレノアの姿があった。
慌てて近づきレノアをキチンとベッドの中に入れ、まだ暖かい湯たんぽをそばにおいてやる。
「リス。すまない。直ぐに気付かなくて。」
そっとリスの頬を撫でればリスは弱々しく目を開けて温かいと呟く。
「リス?」
もう片方の手をリスの頬を挟むように当ててやればリスはモソモソとこちらに擦り寄ってくる。
「レノ…ごめんね。」
「っ!違う。俺の方こそすまない。リス?何か欲しいものあるか?まだ寒いか?」
「……寒い。」
「わかった、今湯たんぽを追加するからちょっとまってて。」
そう言うとそっとレノアから手を離し湯たんぽを取りに離れようとするレノの手をレノアは掴んだ。
「ごめん。レノ、嫌かも知れないけど……ちょっとだけ。ちょっとだけそばにいて。1人にしないで……。」
潤んだ瞳に見つめられて、レノはそのままレノアの傍にとどまることにした。
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