無くなったネックレス
(……ないなぁ。)
一通り部屋の中でネックレスを探したレノアはため息をついた。
いったいどこでネックレスを落としてしまったのだろうか。考えようにも頭がボーッとして上手く思い出せない。心なしか先程からベッドを降りて動き回っていたせいで余計に気怠くなってきている気がする。
(怠っ…。)
探し回るのを諦めてベッドにモソモソと戻るとレノアは目を瞑って考える。
(なんで……私、こんなにあのネックレスに執着してるのかしら?)
ネックレスなら既に色々持っている。
貰った物と言うくくりならばお父様やお母様から沢山の物を貰っている。それこそ高価な物だって沢山ある。でも、それらはたまたまレノアの手に渡っただけでレノア以外でもお金やタイミング次第では誰でも手に入れることが出来る物。
レノア以外が持っても良い物。
でも、あのネックレスはレノアの為だけに作られたもの。レノがレノアに謝りたくて持っていた物。自分以外が持てる物など遙人の時にはなにもなかったからかもしれない。
自分だけのもの。
それが特別な気がして、あのネックレスは手放せないのかも知れない。
レノアは遙人の感情を引きずっているのだと、そう思うと小さなため息がでた。
(あ、そう言えば……レノは何を謝ろうと思ってたんだろう?それにもしかしたらレノと一緒に居たときに外れたのかも知れない。)
まだ頭がクラクラして寒気もあるけれど、やっぱりネックレスの所在が気になって落ち着かない。レノアはベッドから再び出ると今度は厚手のストールをクローゼットから出すとソレを巻き付けてふらつく身体をなんとか支えながら部屋を後にした。
遙人の時だってどんな時でも独りでなんとかしてきた。レノアだってできる。
(ああ、でもレノに聞いたら……また、捨てたと勘違いされてレノのバッドエンドに近づくのかな?)
そんな事を考えて廊下をヨタヨタと歩いていると、向こうからレイドがこちらに駆け寄ってきた。
「レノア!?どうしたんだ?」
「ああ、レイド。どうしたの?あの子は?ごめん…もう大丈夫だと思ったんだけど、濡れてしまって先において帰ってて。ごめん、なさい。」
「いや、レノア。そんなことは気にしなくていいよ。アノード嬢の方はレノアのおかげで問題は解決したようだから。それより、聞いたよ。アノード嬢の代わりに水を被ったって。だからレノが慌てて君を連れて帰ったって……って、レノア!酷い熱じゃないか。」
虚ろな目をしたレノアを不思議に思ったレイドはレノアの額に手を当てて驚く。
「君の様子を見に来たんだけど。なにしてるんだ、こんなに熱を出して。」
慌ててレイドはレノアに自身のスーツを掛ける。
「あ、ごめんなさい。レノがくれたネックレスがなくって。せっかく貰ったのに……気付いたらなくって。それで、探してて。」
「俺も探しておく。だからレノアは今は部屋に帰って寝るんだ。ちょっとごめん。」
そう言うとレイドはレノアを横抱きに抱き上げる。
「れ、レイド?大丈夫独りで歩けるし、ネックレス探さなきゃ…。」
「そんなにふらついて歩いてなに言ってるんだ。俺もちゃんと探しておく。だから今は自分の事を考えろ!」
「ごめんなさい。あ……でも、レノには言わないで。私の不注意でレノ……きっと傷つく。」
レノアがうな垂れてレイドに呟やけばレイドは頷いてくれる。
「わかった。言わない。だけど、熱が下がるまでゆっくり寝てる約束を守れたらな。また探し回るならレノに言いつけるから。」
そう言うと優しくレイドはレノアに笑いかけた。
「わかった。ありがとうレイド。」
つられてレノアもレイドに微笑みかけた。
レイドに抱き抱えられ部屋まで運ばれる間にレノアの悪寒は酷くなってきていた。
(寒い……また熱が出るのかな?)
レイドに部屋まで運ばれベッドに戻されるとベッドの中は冷え切っており余計に寒さが増してしまった。
「レノア?ロゼッタさんを呼んでおくから今日は本当に寝てるんだ。ネックレスは心配するな。それと、アノード嬢がレノアに凄く感謝してたよ。レノア……ありがとう。」
優しく頭を撫でるとレイドはレノアの部屋をあとにした。レノアは部屋からレイドが出て行く気配を感じながら寒さに震えて眠りについた。
ここまでお読みくださりありがとうございます。
レノア風邪を引くの巻き。




