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ラッキースケベ

 最近やたらレノの一緒に馬車に乗る機会が増えたとレノアは思う。それどころか急激にレノと会話をし、傍に居る時間も増えたと思う。

 青砥遙人の記憶を取り戻すちょっと前までのレノアにはきっと考えつかなかった状況だろう。

 それだけレノに少し過去の行いを許してもらえつつ有るのかも知れないとレノアは思った。それは喜ばしい事ではある。だけどその反面、このままうっかりレノルートに入ってしまい幽閉、鞭ウチは絶対回避しなければ行けないとレノアは気を引き締める。


 「で、レノはまた私を尾行してたの?」

 「……。」

 「女の子だけのお出かけだって言わなかったかしら?」

 レノはひたすら黙秘権を行使しているようでだんまり状態だった。

 

 (それかレノアにまだ怯えてるのか?)

 そう思えばもう少し柔らかく言った方が良いのかも知れない。少しくらいレノに優しくしたところでレノルートに急に行くことは無いだろうとレノアは考える。


 「まぁ、なんにせよ。今回は尾行してたの許すわ!さっきは助かったから。本当にありがとう。」

 「り……お嬢様。そんな!」

 急に態度が柔らかくなり、ペコリと頭を下げたレノアにレノは慌てふためく。

 「だけど……レノ。1つ絶対許さないのがお前……鞭持ってるね。」

 慌てふためくレノを無視してレノアは顔をあげると今度は態度が一変しレノを睨みつける。

 「え?」

 「レノ……前に言ったよね?鞭は絶対禁止だつて!それなのに鞭持ってて、あんな風に使うなんて……お前とはもう絶交だ。」

 万が一俺がレノルートに入って鞭打ちなんて絶対ごめんだ!ここは柔らかい態度ではダメだ。

 こう言うときこそ悪役令嬢っぽく!冷たく突き放さなければ。バッドエンドに近い幽閉、鞭打ちは何としても回避せねば!

 そんなレノアの気迫が伝わったのかレノはさらに慌てふためく。

 「な!リス!鞭は捨てる!もう鞭は持たないし使わない!だから!絶交の意味がよくわからないけど、絶交は……」 


 ガタガタ、ガタン。


 珍しく慌てふためくレノは馬車の突然の大きな揺れにバランスを崩して前のめりになってしまった。


 フニッ。


 前のめりになった身体を咄嗟に支えるべく両手を前に出したレノは柔らかいシートの背もたれに手をついた様だ。前のめりになったせいでレノはレノアに抱きつく形で密着してしまい恥ずかしくてろくにレノアの方へ向けないでいた。


 この馬車意外にシートは柔らかかったんだな?これならリスも乗り心地は良いだろうなどとどうでも良いことをレノは一瞬考えて気を紛らわせようとしてしまう。


 フニッ。


 「スミマセン。馬車だいぶ揺れたのですが大丈夫ですか?」

 御者が御者台から車内の2人に声がかかる。

 「大丈夫。」


 フニッ。


 御者台に背を向けていたレノは体制はそのままで振り返り御者に返答を返す。

 「……レノ………。」

 それまで沈黙していたレノアからドスの聞いた声が向かい側から聞こえレノはそこでやっとレノアの方に向き直る。もちろんバランスを崩したままの体制で。


 フニッ。


 そこで初めてレノは自分の身体を支えていた両手が着地した場所を知ることになる。


 フニッ。


 「て、てめぇ!いつまでも人の胸触ってんじゃねぇ!」

 顔を真っ赤にして潤んだ瞳のリスはなんて愛らしいんだろうとレノはレノアの表情に一瞬目を奪われた。それもあってレノアが座りながら振りかざした手を避けることが出来ず、なおかつまだレノに抱かれているままの体制だったためレノアの手はレノの急所にクリティカルヒットしたのだった。

 「お前!5回も!5回も私の胸もむなんて!変態!痴漢!最低!」

 顔を真っ青にし馬車の床に震えながらうずくまるレノをレノアは見下す。

 (り、リスの胸……や、やわら、かい…。お、大き、い、んだ、な。)

 悶え苦しみながらもレノは不埒な事を考える。そんなレノを知らずにレノアは顔を真っ赤にしてさらに叫ぶ。

 「馬鹿レノ!これで俺がお嫁に行けなかったらどうするんだよ!責任とれよ!変態!」

 (喜んで、とる!)

 薄れることの無い激痛に悶え、もはや冷や汗を流しながらもレノはレノアの言葉に歪に口角を上げる。

 (リスは…誰にも、渡さな、い。)

ここまでお読みくださりありがとうございます。


レノ、ラッキースケベ。

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