王子の襲撃
レイドとは教室で別れレノアは一人帰り支度を終えてから馬車を待たせている所へ歩いていた。
(レノが謝りたかったこと?10年前??何か有ったか?)
うーんとレノアは頭をひねる。
6歳の頃には既にレノに辛く当たり始めている。むしろ謝らなきゃ行けなかったのはレノアの方だ。
「はるたーん」
後ろから名前を呼ばれる声が聞こえレノアが振り向く。このニックネームで呼ぶのは3人しかいない。
「ユア?どうしたの?」
「はるたんが歩いているところを見つけて。それに昨日は途中で顔色を悪くしていたから気になってて。大丈夫?」
「ありがとうユア。もう大丈夫よ。昨日はちょっと衝撃が強すぎて混乱しちゃってて。所でメリーは?」
「それなら良かったわ。メリーはシンがさっそく連れて行っちゃった。もう!シンなんて想いが通じ有ったからって一日中メリーから離れないのよ!授業の合間にメリーを尋ねて、お昼休みは何処かに行っちゃうし。私はのけ者よ!」
ぷくっと頬を膨らまして怒るユアは愛らしい。
柔らかくクルクルと巻かれた茶色の髪をフワフワさせてくりくりの目を若干つり上げる。
(可愛いなぁ……。それこそういうのが小動物系なのでは?)
「レノア・エレク!」
ユアと話していたら突然名前を叫ばれる。見れば物凄い勢いで学校から青い何かが砂埃をあげて迫ってきた。
(アレって……。)
砂埃のなかの青い何かを見つければ王子ではないか!
(砂埃とか!漫画か!)
背景にドドドドとでも書かれそうな勢いで王子はレノアの前にやってくると今度はキキキッー!とでも書かれる勢いで止まる。
(まぁ……ゲームの画面上だったら効果音出るかもね。)
げっそりした顔でレノアは王子を見る。
「レノア・エレク!貴様!この私の婚約者で有りながら私を裏切り勝手に婚約破棄など王家への侮辱だ!よって貴様をこれより我が王家へ幽閉とする!」
そう言って王子はレノアをガシリと掴むと力ずくで連れて行こうとする。
(はぁぁぁぁぁ?)
「ちょっ……ちょっと!全く意味がわからないんですけどー!!」
いきなりやって来ていきなり訳のわからないことをそれっぽく叫ぶとかまったく訳がわからないんですけど!?
レノアは抵抗すべく力を込めて王子に掴まれた腕を振り払おうとするも男と女では力の差が出てかなうわけも無く抵抗は無駄に終わる。
(だ、誰か!)
助けてとレノアが声を出す前にスパーンと小気味の良い音が鳴り響く。
(え?)
「いい加減にしてください!はるたん……レノア様が何をなさったというのですか?いきなり来ていきなり叫きちらして、それでも貴方は紳士様でいらっしゃるのかしら?」
先程の小気味の良い音はユアがシュワルツの頬を思いっきり引っ張たいたからであった。
顔を真っ赤に怒らせたユアは勇敢にもレノアを助ける為にシュワルツへ立ち向かってくれたのだった。
「貴様!私がこの国の第1王子だと知ってての狼藉か!」
頬を赤く張らしたシュワルツはレノアを掴んでいた手を離しユアに向き合い睨みつける。しかし、それに臆すること無くユアは言葉を続ける。
「あら!この国の第1王子様でいらっしゃいましたか。それならばなおのこと、この国の第1王子ともあろう方がか弱き乙女にこんな乱暴な振る舞いをするなど誠に残念でなりませんわ。貴方みたいな方が第1王子ではこの国はおしまいですわ!」
「き、貴様!重ね重ねの王子に対する暴言!態度!名を名乗れ!貴様の様な王族に刃向かう家など今すぐ取り潰しにしてやる!」
「ちょっ!ちょっと!それは流石に……」
レノアは慌ててシュワルツの言葉を遮ろうとすれば再びスパーンと小気味の良い音が響く。
「戯れ言は寝ておっしゃってくださいな第1王子様。我が名はユア・リリアン。リリアン伯爵家の娘。王族が怖くて曲がった意見をまかり通すなんてそれこそ現王および国への不義。主が間違った考えをもつなら身をもって正すのが家臣である爵位を賜った者達のつとめです。それに、貴方みたいな筋道通さず力任せの暴行をするような未来の暴君に仕えるなどこちらから願いさげですわ!」
王子の前で仁王立ちして言い切るユアに一瞬呆気にとられていた王子はなおも口を開こうとしていたので今度はレノアがユアを庇う。
「シュワルツ様は何か勘違いしておりますわ。私は婚約者になった覚えはありません。貴方の一、婚約者候補になるかもしれないとお約束していただけです。ですが、私は婚約者など恐れ多い事をしてしまったため辞退させて頂いただけです。もちろん正式な手続きも済ませたので貴方様を裏切るような事はしていないはずです。それでも私を気に入らないとなおも幽閉なさるようでございましたら正式な王のお許しを頂いてからにしてください。その時はエレク侯爵家も正式に私を差し出すでしょうから。それまでいくら王家の第1王子といえど侯爵家のものに理由なく行う狼藉は許しがたい侮辱ですわ。」
レノアとユア。二人から思わぬ反撃を受けた王子は覚えてろよ!と捨て台詞を吐くと再び走り去っていった。
(この国の第1王子があんなにヘタレで大丈夫なのだろうか?)
密かにため息をついて王子の背中が見えなくなるとユアに向かってレノアはお礼を言うために振り向いた。
「ユア……ありがとう。庇ってくれて助かったわ。」
ユアの手を取ればその時に気付く。ユアの可憐な手は小さく震えていた。伯爵家の娘が王族に逆らったのだ。それは本当は怖かっただろう。それなのにあんなに勇敢に……。
「ユア?ごめんね……。怖い思いさせたね。」
そっとレノアはユア抱きつく。
「……は、はるたん。」
ユアもギューッとレノアを抱き締める。
「こ、こわかったーーー!」
でも、はるたんに何にも無くて良かったわとユアが微笑めばレノアもつられて微笑み二人でクスクスと笑ってしまった。
出来れば王子がこのまま納得して引き下がってくれれば良いけども……。
ここまでお読みくださりありがとうございます。
ゆっくり進みます。




