想い
「っつ!レノ様は誰にも渡したくない!」
珍しいレノの微笑みに気を取られていたらメリーは再び瓶の破片を持ち振り上げようとした。だけどそれは振り下ろされる事無く、シンの手によって止められた。
「駄目だよメリー。僕の大好きなメリーの手がケガしちゃう。だからこれは離して、ね?メリー?」
優しく語りかけるような穏やかな口ぶりと表情でシンはメリーに語り掛ければメリーはポロポロと泣き出し瓶の破片を離しながら座り込んでしまった。
「私…。本当に、ずっとレノ様が好きで大好きで。本当はレノアにうまれ変わりたかったの。ずっとレノ様と一緒に居たくて。悪役令嬢だってできちゃうもん!をすごくいっぱいやりこんだんだよ。それなのに、私…違う令嬢になるなんて…。まさか続編のヒロインになるなんて思わなかったの!」
ぽろぽろと泣き続けるメリーを優しくシンは抱きしめ頭をなで続けている。
「知っているよ。君がずっとレノを好きだったのも。でも、僕もずっと君が大好きなんだ。だからレノのせいで嫉妬に苦しむ君を見たくない。レノなんかやめて僕にしなよ。僕はあんな風に君にひどい言い方なんて絶対しないよ。あんな人の気持ちを迷惑だなんて否定する言い方なんてしない。」
そういいながらレノに向かてシンは凄い形相で睨んでいた。
(なんでレノア?ヒロインなんじゃないの?)
何となく聞いていたメリーの言葉にレノアは疑問を浮かべた。
「レノ…。お前、謝ってきた方がいいぞ。あのいい方はさすがに女性に言う言い方じゃない。」
レイドがそっとレノに耳打ちする。
「だけど俺はあの人の気持ちには添えない。優しくする方が酷じゃないか?」
「お前の気持ちも分かるが、それにしてもあのいい方はな。レノアがあんな風にこっぴどく振られたら、お前許すか?」
そこまでレイドに言われたらもはや紡ぐ言葉はない。それに万が一リスが誰かにあんな風に傷つけられたら俺は間違いなく相手に殴り込みに行くだろう。そう思えばレイドの言っている事はすとんと府に落ちる。
「ちょっとすいませんお嬢様。ちょっと謝ってきます。言い過ぎたようだから。」
止血する為に抑えていたリスの腕をそっと離すとリスはうんうんと頷くと小声で優しくなと声を掛けてきた。
(誰のせいで声を荒げたと思っているのだろうか。)
人の気も知らないでとレノはリスを軽く睨んでしまった。もっとも、身分差が有るが故に気持ちを伝えるなど出来ないのだろうが……。
そっとメリー嬢に近づけばシンに更に思いきり睨まれた。シンが睨んでくるその気持ちは、痛いほどわかる。だけど今はその視線を無視し、座り込んだままのメリー嬢の前にひざまずく。
「メリー嬢。先ほどは俺も声を荒げてしまってすまなかった。君を必要以上に傷つけてしまった。」
出来るだけ優しくメリー嬢に話し掛ければ泣きはらした顔でこちらを見上げてくれた。
「本当にすまない。だけど君の気持ちは受け取れない。でも、俺を好いてくれてありがとう。」
メリー嬢はもう泣いてはいなかった。
「レノ様‥‥。私も、声を荒げて‥‥レノア様を傷つけてしまってすいませんでした。」
そういうとメリーはレノアに顔向けもう一度同じ言葉を繰り返す。
「レノア様、先ほどはすいませんでした。お怪我を負わせてしまって…。私はなんて愚かなことを…。」
「大丈夫だよメリー様。こんなのかすり傷です。気にしないで。」
レノアは立ち上がるとメリーのそばに行きそっと手を差し伸べて立ち上がらせた。
「それより、ライブ楽しかったからまた今度是非見せて下さい。それにもしよろしければ俺と…。私とお友達になってください。」
そういえばメリーは優しく微笑みうなづいてくれた。
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