取引
しばらくすると元々薄暗かったライブ会場は更に薄暗くなる。
すると突然ステージのみに明かりがともされ、ステージ上には背丈の似通った3人の女の子が楽器とマイクを持って現れた。
3人はいずれもレースのふんだんにあしらわれた黒いゴスロリ風のドレスに身を包まれていたが、出てきた瞬間の会場の異様な盛り上がりにレノアはあっけにとられた。
会場の熱気に押されつつボーッと見ているとふと気付く、真ん中にいる人ってシンじゃないか?あとの二人は分からないけれど。
さっき変装していたままではないか。
(さ、詐欺だっ!)
「「「みんな―!今日も来てくれてありがとう!私達、三人そろってゴスロリっ子。ライジングでーす。」」」
3人が声を出せばうおー!と歓声が上がり、歌い出せば会場には歌に合わせた振り付けで皆が皆踊り出す。
青砥遥人の時に一度だけ友人に勧められてそういう会場に足を運んだことがある…。
これって、まんまそれじゃん?
日本が誇る秋葉原文化のあれです。あれ。
そして、なぜか前列の踊っている人垣の中でキレッキレの動きをしている人2人に目が行ってしまった。
(エリック先生とロゼッタ……。)
エリックに関しては着ている服にご丁寧に《シン命》と書いてある。
エリック以外はシンが男だと知っているのだろうか?
そんな疑問は目の前で一心不乱に踊り続けているエリックとロゼッタを前に消えていった。
シンが男でも女でもどっちでもいいんだよねきっと。とりあえずロゼッタは見なかったことにしておきたい。普段とキャラが違いすぎて今後に差し支えると悪い。
うん。見なかったことにしよう。
レノアは意識をライジングの3人に移し一時間ほど本気でライブだけを楽しむ事に集中した。
「あー!楽しかった!レノアはどうだった?」
ライブが終わるとさりげなくシンは戻ってきてレノアを楽屋に引き入れた。
「楽しかったよ。すごく楽しかった。ただ、エリック先生がいたのは少し気になったけど。シン命って服着てたよ。ライブ中のシンって男だって隠してるの?」
「隠してないよ。最初は男カッコでしてたけど、女の子のカッコした方が受けが良くってさ。ファンにしてみればどっちでもいいんじゃない?エリックなんて俺が存在してれば良くって、あのカッコしてれば神なんだっていってたよー?まぁ、色々変わった人だからとりあえず記憶から抹消してあげて。アレでも先生だし。でもライブ楽しんでもらえてよかった!で、本題に入るんだけどさ。メリー!」
シンに呼ばれるとさっきシンと一緒にステージに上がっていた、ゴスロリのカッコをした女の子が現れた。
「初めまして。私はメリー・リリアン。リリアン伯爵の娘よ。」
「あ、えっと。レノア・エレクです。」
いきなり始まった自己紹介を軽く済ませると、メリーと名乗った少女は唐突に話し出す。
「自己紹介の後いきなりで悪いのだけど、レノア様。私と取引しませんか?」
「取引?」
「ええ。貴方はこの世界がはっちゃけパラダイス☆の追加更新アプリだという事が分かるのでしょう?それならばあなたにはこの先ほとんどの確率でバッドエンドが待っているのもお判りでしょう?だから、私がちょっと助けてあげるわ。その代わり、あなたはレノ様から手を引いてちょうだい。」
「へ?レノ?」
なんだか間の抜けた声を出してしまった。
「なんでレノ?」
「なんでって、それは私がレノ様を愛しているからよ!私はレノ様推しよ!」
鼻息荒く顔を赤くしてメリーは叫ぶ。
オー!レノにもついに春がやってくるのか。こんなにかわいい子に好かれるなんて良かったなレノ!呑気にレノアは心の中でレノを祝福してしまった。
そんなレノアに気付いたのかメリーは更にレノアに迫る。
「だから、私にレノ様を譲って頂戴!」
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