お誘い
学校からレノと一緒に馬車で帰っていた道中だったのは覚えている。でも馬車からおりた記憶も、なぜかベッドに寝ている記憶もない。レノアは薄暗く月明かりに照らされる自室で一人ぼーっとしていた。
(全然覚えてない。というか思い出したくない。)
これがはっちゃけパラダイス☆の追加更新アプリの世界で、レノアがもがくところから奮闘するなぞのストーリが織りなす世界だとも、結局レノアの未来は戦争か幽閉かしかないのかも知れないという事も忘れていたい。そのせいでいきなりシュワルツ王子に迫られてしまった事やあっちゃんが王子をラリアットしたり、回し蹴りして気絶させていたことも。
エリックとシンが男同士で目の前で抱き合っていて、レノアの変化に気付かれかけていたことも、先生が生徒に下僕扱いされていたなんてことも思い出したくない。結局今日一日で全ての攻略対象者と絡んでしまった事など記憶から抹消してしまいたい。
(…。って、今俺さらりと今日の出来事全部思い出したよな。)
ため息が出る。
(今日はなんか疲れた。酒でも飲もうかな。)
こういう日は酒に酔って寝るのが一番。
レノアはロゼッタを呼びお酒を頼んだら怒られた。
リグサイド国ではお酒は18歳になってから。
(俺もう35歳なのに。)
こう言うときはもどかしい。
仕方がないのでロゼッタに湯あみの支度をしてもらい、湯船につかり本日は就寝とした。
(そのうち内緒で酒を用意しておこう。)
ベッドに入るとレノアはそう考えて眠りについた。
ちなみに寝ているレノアを起こすのはかわいそうだと眠ったままレノが寝室まで運び入れてくれたそうだとロゼッタから教えてもらった。その際他に何もレノとはなかったかとしつこく聞かれてしまった。ロゼッタはまだレノアがレノをいじめていると思っているのだろうか。いつかロゼッタがそんなことを心配しなくなる日が来るといいなあとレノアは思ってしまった。
翌朝目覚めると既にレノは学校へ愛馬と共に登校していた。
(まあ、お礼は学校に行ってからしよう。)
そう考えてレノアは重たい足取りを引きずって登校したのである。
「やあ、昨日はどうもレノア嬢。話の途中で君がいなくなっちゃうから僕らは困っちゃったよ。」
にこやかな綺麗な笑みを浮かべて隣のクラスのシン・ラミアがわざわざレノアのクラスにまでやってきたのだった。こういう時に限ってあっちゃんはまだ登校していない。
「…。」
レノアが眉間に皺を寄せて無言でいると、クスリとシンは笑う。
「ねえ、レノア嬢。僕と今度の休日町に二人きりでデートしに行こう。」
「はあ?なんで私があなたと。」
唐突な誘いに思わず声が裏返ってしまった。これは全力で拒否しよう。そう思っていたのに。
「君は転生者でしょうレノア。前世は男かな?ねえ、これが追加更新アプリだって知っているよね。破滅エンドを回避したいと思わない?」
思わずシンの顔を見てしまう。するとシンは更にかわいらしい笑顔でクスクスと笑いだす。
「決まりだね。次の学校のお休みの日に朝からデートだよ。あ、そうだ。変装してきてほしいからレノアは男装してきてね。僕は女の子になってくるから。約束だよ。」
そしてレノアの耳元でシンは更に呟く。
「誰かに言ったらだめだからね、レノア。」
そういうと頬に軽く触れるだけのキスをしてシンは隣のクラスへと戻っていった。
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