下校
「リス?」
「ん?リス?」
(リスなんていたか?)
レノアが周りをきょろきょろ見渡せばレノはゴホンと気まずそうに咳ばらいをして目線をそらす。
「何でもない、それより迎え。」
「あ…。」
そうだった。レノアは思い出してため息をつく。
(すっかり忘れていた。)
レノアとレノは今、同じ爵位にいる存在だ。それが通学の為とは言え今の爵位ではレノは侯爵子息だ。その為通学は馬か馬車を利用している。もちろん爵位に恥じないようにとエレク家の当主がレノために用意してくれていた。
普段のレノは馬で通学している為レノアとは一緒にそろって登下校する事は無いのだが、半年に1度だけどうしてもレノの愛馬を検診に出さなければいけないためレノとレノアは同じ侯爵家の馬車に乗って登下校する日があるのだ。そしてそれは今日だった。
以前まだレノアが遥人の記憶を取り戻す前、庶民と一緒に登下校するなんて恥さらしだと両親に泣きついてレノアは馬の都合がつかない日は学校を休んでやり過ごしていた。だけど遥人としての記憶がある今、レノアはそんなことはもうしない。現に今日は10年目の通学にして初めて馬車の中で会話する事は無いにせよ朝はちゃんとレノと一緒に通学してきていた。
そして今は登下校の時間。レノはレノアが課題を終えるまで待っていてくれていたようだ。
あっちゃんは既にレイドが送っていったようだ。
「あ…。うん。ごめんレノ。先に家に戻っていてもらえる?まだ少しやり残したことがあってさ。時間かかりそうなのよ。」
嘘。
今のレノアは攻略対象であるレノと正直一緒にいたくないと一瞬思ってしまっていた。
疲れた。
レノに先に帰ってもらって後で時間を空けてから迎えに来てもらおう。待たせていたレノには申し訳ないけれど。
そう思いレノアは来た道を引き返そうとするといきなり体が宙に浮く。
「へ?は?ええ!?」
浮いたと思った体はレノに抱きかかえられていて、驚いて下に降りようともがこうとするとすでに体は馬車の中にのせられていた。
「え?は?れ、レノ?」
驚いてレノを見れば普段は見降ろされているが馬車の高低差が手助けしてくれレノの青い瞳と目線があう。
その瞳は見慣れた汚いものを見る目でも、見下したような目でもなく、憂を帯びたものだった。
(レノ?)
「顔色悪いから。」
そういってレノは馬車に背を向け歩き出そうとする為慌ててレノアはレノの服をつかむ。
「え?ちょっ!ちょっとレノ!お前はどこ行くんだよ?」
思わず遥人言葉になってしまった。
「…………俺は歩いてもいいから。」
「何言って…」
レノアは途中で何かに気付き言葉を止める。
「レノアお嬢様?」
言葉を止めてしかめっ面をするレノアにレノが声を掛ける。
「レノ…。貴方、私に気を使ったの?」
そうレノアが言い放てばレノは黙り込む。
(やっぱり…。)
レノは10年間レノアが共に通学する事を拒んできた理由を知っている。自分が学校に通う為にその期間は侯爵子息に養子縁組してもらってはいるが、自分が平民である事をきちんと理解もしていた。だから、レノアが本当は自分と登下校するのを拒んでいると考えたのだろう。
「レノ、私に帰れというなら貴方も馬車に乗りなさい。侯爵子息なのに貴方を歩かせて帰したらうちが恥をかく事になるわ。恥をかかせたいの?」
そういえばレノが逆らわないのをレノアは知っている。
「用事は?」
「今日はやっぱりいいわ。もう馬車から降りるのも疲れて嫌だもの。」
(もう今日は本当に疲れた。ここが日本ならビールでも飲んで寝たい。精神的に疲れた。)
「レノ、私早く帰りたいから早く乗ってくれる?なんだったら屋敷に付いたら私を下ろしてくれてもいいわよ?本当にもう疲れたから。歩きたくも無い。」
この位の悪役令嬢ぷりは許されるかな?
本当に歩きたくない。面倒臭い。
そういえばレノはわかりましたと呟いて馬車に乗ってくれた。
ここまでお読みくださりありがとうございます!
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