パニック
(い、意味が全く分からない…。)
もうこれは、このゲームの設定がおかしいと思うんだ俺。俺がオッサンだからとか、悪役令嬢だからとかという範囲を超えていると思うんだよね。
だってよく考えてみてよ。
レノアの目の前に立つ人物を眺めて自分の眉間には皺が寄っていくのがよく分かる。
そもそもこんなこと日本の学校ではありえない。男の子に先生が抱きついていて(しかも学校で!)挙句抱きつかれている方は先生を下僕と言い放つ。
俺だって前世の日本でいくつかの非常識は体験してきたつもりだ。
生まれたてなのに赤ちゃんポストに入れられて、施設で引き取り手のないまま親を知らずただ時間だけが過ぎて35歳になって。挙句トラックにひかれて死亡し、ゲームの世界に転生。しかも転生したら前回と性別が違うバッドエンドしかない悪役令嬢。
ここまでだって十分非常識な人生だと思うけど、それなのにまだ俺に非常識を味わえと言うのか!
「…お前ら、いい加減にしろよ。」
なんで俺ばかりがこんな目に合わなきゃいけないんだ。そもそも絶対にこいつら攻略対象者と関わるという事は俺にはやっぱりバッドエンドの破滅しかないという事か。そう思うとだんだん怒りが腹からこみあげてきた。
世の中理不尽と言う強制力で動きすぎている。ちょっとくらい手加減してくれてもいいんじゃないか?
「「?」」
エリック先生とシンも呟いたままうつむくレノアに怪訝そうな顔を向けている。
だがしかし!そんなことは知った事じゃない。
バン!と勢いよくレノアは机をたたいた。
「大体!お前らの方が変じゃねえか!こんなところで男同士抱き合ってたり、合鍵もってたり!こちらとよく分かんない事だったり、色々今日一日で物事が動いてたりよく分かんないことだらけでてんぱってるのに!」
キッとレノアはシンとエリック先生を睨みつける。
「これ以上、俺の頭を悩ませることすんじゃねえええ!巻き込むなああ!俺はひっそり生きていきたいんだよ!」
意味が分からなくなりすぎて収集がつかなくなってきた。
…もう、おっちゃんの頭の中は大パニックです。
限界です。
現実からも目をそらすようにレノアは雄たけびを上げてシンを再びはねのけると先生の部屋から逃げ出した。
「あ、レノア君逃げちゃいました。御主人様。」
「そうみたいだなあ…。困ったねえ。これじゃあ僕がメリーに怒られちゃうよ。」
そういってポリポリと頭をかくシンにエリックは見入ってしまう。
「ああ、麗しのご主人様あ!悩んでるお姿も麗しゅうございますう!」
再び抱きつこうとするエリックにシンは急所蹴りをかますとため息をつきながらレノアの走り去って行った方向を見つめた。
「大体、エリックが抱きついてくる姿見られたのが良くないんじゃない?このイベントせっかくエレク嬢と近づくチャンスだったのに。まあ、何とかするしかないよね。僕の愛しのメリーの為に。ちゃんとエリックも手伝ってよね。僕にあの姿をしてほしいならさ。」
シンの足元で股間を押さえてうずくまるエリックは何とかうなづいてはいた。
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