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ラフレスタの白魔女 外伝  作者: 龍泉 武
第三部 ヴェルディの野望
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第三十四話 甘美な罠

 最近のラフレスタは不可解な事件ばかり起きている。

 我々、月光の狼を討伐する為に、エストリア帝国の東部で活躍していた『獅子の尾傭兵団』なる強者達がこのラフレスタに居座っている。

 彼らの目的は俺達『月光の狼』の壊滅であると情報を受けている。

 そのために、態々(わざわざ)クリステ領からここに遣わせたのもジョージオ・ラフレスタ公の判断らしい。

 それは思い切った判断だが、どこかこの判断は彼らしくないと思ってしまう。

 ジョージオ兄は事なかれ主義であり、これほどに話を大きくするのを望まない筈だ。

 それでは誰が彼に進言したのか・・・少なくともエトワールではないだろう。

 彼女も俺を排除するならば、秘密裏に行いたい派だ。

 これほどに大規模な傭兵を招聘するのは彼女らしくない。

 もし、俺がエトワールならば、暗殺者を雇うだろう。

 しかし、昨年、ルバッタ商会を壊滅させたときに、『闇夜の福音』と呼ばれる、帝国一の闇の組織も白魔女エミラルダの自白魔法によって壊滅的な被害を受けたと聞く。

 そうなると、暗殺者を頼る宛ても難しくなっている筈だ。

 もしかすれば、砂漠の国に依頼すれば、新たな暗殺者組織を雇えるのかも知れないが・・・少なくとも、このために正規の名の通った大規模な傭兵団を雇うという発想は彼女には無い筈だ。

 それに、俺がこの月光の狼を指揮している情報はまだ向こう側の陣営にはバレていないと思う。

 やはり、ここで傭兵団が出現することに俺は違和感があった。

 それに加えて、最近のラフレスタで横行している人攫いの事件がある。

 これには白魔女が関与していると(ちまた)では噂が広まっており、白魔女と一体で活動している我々『月光の狼』にも非難の目が向けられている。

 我々は義賊であるため、民衆からの支持無くては活動自体が立ち行かない。

 白魔女エミラルダからは「自分はやっていない」と聞いているので、真犯人は別の誰かであることは明白。

 俺達はこの真犯人を探しているが、これもなかなか見つからない。

 この人攫いの犯人、それは結構な手練れによる仕業であり、我々のような裏社会にも表社会にも情報網があるのに、その網に全く掛からないのは、相手がプロ中のプロであることを示している。

 これはかつての暗殺者集団『闇夜の福音』よりも優れた犯罪者集団が関わっていると思っている。

 

「まったく、これで、第三皇子がこのラフレスタに出現するのもある。ここは呪われた土地なのか?」


 俺は解決策の無い状況に少々苛立を覚え、月光の狼の地下室でそんな愚痴を零してしまう。

 構成員の幹部であるジェンやアタラ、ベンは、この俺の苛立ちにどう応えて良いのか、対応に困っているようだ。

 そう思えば、俺は今までこれほどイラつく姿をこいつ等の前で見せてこなかった。

 いつも冷静で余裕のある男――人によっては飄々としていると言われるが――を魅せていたと思い直す。

 その姿を思い出し、俺は彼らに余裕の態度を示し直す。

 

「ベン君、何か解ったかね?」

「へい・・・アッシらは血眼で攫われた学生達を探しておりやすがぁ、てんで、痕跡が無くて・・・」


 強面のベンだが、今は月光の狼の正装である黒い覆面を被っているため、その顔は見せない、それでもこの荒い口調が山賊か何かを連想させてしまう。

 まったく、この男は言葉遣いで損をする男だな・・・と、俺はそんな無駄なことを考えて、次の報告を求める。

 

「先日は第三皇子ジュリオ様が、第二警備隊に混ざり警らごっこ(・・・・・)をしていました。これは白魔女様が既に対応し排除しております。その顛末で、ラフレスタ市民に第三皇子の存在がバレて大騒ぎとなっています。このため、皇子側からの横槍はしばらく入らないものかと・・・」

「なるほど、エミラルダが対処をしてくれたんだね。報告ありがとう、サリア君」


 俺は状況説明してくれた古株の女性構成員に礼を言う。

 この女性構成員サリアは初め全く戦闘に向いかない女性職員であったが、白魔女エミラルダより供与された魔道具によって大幅にパワーアップした女性である。

 彼女は新生エリオス商会になったところで新たに雇った職員のひとりだが、同期で雇ったロディとは恋仲に発展した女性で、俺としても育て甲斐のあった職員のひとりだ。

 現在は月光の狼の女性構成員としても優秀なひとりであるし、白魔女エミラルダからの覚えもいい。

 優秀な人材を得られて良かったと思う。

 その彼女からもたらされた情報によると、初め第三皇子はお忍びで警ら活動に参加していたようだが、エミラルダが襲撃することによってその存在が一般人に露呈したようである。

 詳しい理由は解らないが、ここラフレスタに皇族が来訪していたのは驚きである。

 彼らも俺達『月光の狼』を壊滅させたいのだろうか?

 どうして俺達が皇族から恨みを買っているのか、全く理解できないが、もしそうならば、そんな状況など上等だ。

 抗ってやろうじゃないか!

 闘志が沸いてくる。

 俺がこのライオネル・エリオスという身体へ魂を移された原因のひとつが、貴族の(しがらみ)と言うやつだ。

 その(しがらみ)の本丸とも言える存在が皇族だとも考えられなくはない。

 これは全くの逆恨みであるが、それでも皇族の存在が降りかかる火の粉であるとするならば、その火の粉を払い除けてやる覚悟はある。

 そんな状況によって俺達の義賊活動は大幅に制約されており、義賊団の統領として結構ピンチな状態なのだが、俺は負けたくない。

 余計に闘志が出てくる。

 そんな俺たちを鼓舞する存在がここに現れた。

 それまで何もなかった空間がここで揺ぎ、しばらくすると、白いローブを纏う女性が転移魔法で登場する。

 暗闇で支配されていた地下室において、ここで彼女だけが自ら白く輝くように見えてしまう白魔女エミラルダの登場だ。

 

「やぁ、エミラルダ。ご機嫌麗しゅう!」

「まったく・・・困った状況だと思うのだけど、貴方はいつも元気ねぇ~」


 呆れた表情を示す白魔女だが、これは俺に対するいつもどおりの彼女の反応だ。

 

「私もいろいろ調べているけど、攫われた人達の行き先は依然としてまったく解らないわ。本当にどこに連れ去られたのかしら・・・」

「そうだね。これは由々しき事態だね。巷ではその連れ去りを指揮しているのが君――白魔女だと、噂されているからねぇ~」

「まったく緊張感の無い統領よねぇ。その私と協力関係にある貴方達だってやり難いでしょう?」

「本当にそうだね~・・・困った、困った」


 俺がここで軽々しく答える理由は、こうやって余裕な態度で示しておかないと手下達が不安がるからだ。

 だから、俺はピンチの時ほど、飄々とした態度を示している。

 これは小さな事かも知れないが、俺は言霊という行為を信じているんだ。

 言葉と態度で示し続けていると、やがて、それが現実のものとなる・・・そんな精神論は嫌いじゃないのさ。

 

「あら? そんな軽い事が言えるなんて、随分と余裕があるじゃない」


 白魔女も俺の心を見抜いて、俺が(から)元気であるのは存分に理解している。

 俺の前向きな考え方を彼女も同意してくれているのだろう。

 ・・・そう思うことにする。


「それはそうだろう。だって、白魔女様が何とかしてくれるんじゃないかな?」

「全く、貴方は他力本願な人ねぇ」

「そうさ。元々、私はそれほどたいした事のできる人間じゃぁ無いのさ。精々できるのは、自分に課せられた運命の歯車を少しだけ狂わせてやるぐらいなものだよ」


 そう述べて、片方の眉毛をピーンと上げて格好つけてみる。

 

「運命の歯車・・・ねえ~」

 

 いつもは呆れるだけの彼女だが、今日な妙な感じで感心している様子だ。

 よし、少し揶揄ってやろう。

 ここで俺は調子に乗り、彼女の腰に手を回してやる。

 あれ??

 いつもはここで、「調子に乗るな!」と手をパチンとヤラレル(くだり)なのだが、今日の彼女は無抵抗で身体を触らせてくれた。

 俺は白魔女の細い腰へ手を回すと、薄い生地のローブ越しに彼女の身体の温かさが掌に伝わって来る。

 なんだか、恥ずかしいな・・・そして、今日の白魔女は妙に熱っぽかった。


「その運命の歯車を、私が回してあげましょうか?」


 ここで白魔女は俺の顔を両手で捕らえて、瞳を真っすぐに俺の顔を見つめ返される。

 

「・・・ど、どうした? 今日は何時になく積極的じゃないか?」


 ここで、俺は焦る、彼女を揶揄うつもりで誘いを掛けたのに、これに乗って来た白魔女の応答が予想外であり、突然に立場が逆になってしまった。

 部下達の視線もあるので・・・と思っていたら・・・俺の姿は地下室にはなかった。

 いつの間にか魔法で転移させられて、自分の寝室にいたのだ。

 一瞬のうちに腰に手をまわした白魔女ごと、彼女の魔法で転移をさせられたのだと理解する。

 あの地下室には魔法阻害の結界を施していた筈だが、この白魔女には全然意味をなさなかったようである。

 

「あら、ライオネルも焦ることがあるのね・・・それも可愛いわ」

「それは私が・・・うんぅ!」


 次に何かを応えようとした俺の唇は、白魔女の唇で塞がれた。

 思いがけない接吻に驚いた俺だが、やがて彼女の柔らかい唇の感触に、男としての感情が揺れるのを覚えた。

 長い接吻の後、唇を離した白魔女が魅惑の声で俺の耳元にこう囁く。

 

「もし、貴方がここで私を満足させることができれば・・・貴方のために一生働いてあげてもいいわよ」


 白魔女は妖艶に俺だけを見て微笑んだ。

 その姿は、俺の中の眠っていた雄の部分を十分に奮い立たせ、あるいは骨抜きにしてしまう雌からの誘い・・・


(これに応えなければ、男として廃る・・・)


 そんな気持ちに支配される俺。

 内心ここで必死な覚悟をした俺であったが、このときに俺の口から出た言葉は、何の面白みも無い一言だった。


「・・・善処しよう・・・」

 

 そして、その後、俺はエミラルダからの愛の誘いを受けた。

 ・・・

 それからのエミラルダの愛情表現はとても情熱的であり、俺は男としての責務を果たそうと頑張った・・・

 しかし、結果的には最後の最後でボロが出てしまう・・・肝心なところで、アイツの顔・・・エレイナの顔を思い出してしまい、行為の最後のところで躊躇してしまう俺。

 本当に情けない結果に終ってしまったが、それでも白魔女は満足してくれた・・・

 彼女からは、エレイナを抱いてやれ、と逆に応援されてしまう始末。

 まったく、今回の夜の関係は一体何だったのだろうか・・・

 こんな中途半端な結果に終わってしまい、俺は本当に男として不甲斐ないと思う・・・これは反省だな。

 

 


思ったほど上手く描けませんでした。今回のエレイナが化けたエミラルダとライオネルの〇〇シーンは・・・良い子の皆さんは想像だけしてください。R16版にするための作者の苦悩を解ってくれた?(笑)

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