表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラフレスタの白魔女 外伝  作者: 龍泉 武
第一部 ランガス村の英雄
9/172

第八話 悪党達の悪巧み

 私は学校から帰るとすぐに両親から呼び出された。

 

 「シエクタ、エリックさんが来ているわよ」

 

 そう言う母はニコニコ顔だ。

 どうやら母の中でエリックは好印象な青年のようで、彼を私の結婚相手に推しているのはすぐに解った。

 確かにエリックは自分の同世代の中では一番成功している人物であるのは違いない。

 若干十八歳の年齢でランガス村の警備隊の副隊長という職を任されているし、お給金だって悪くない筈だ。

 清潔だし、身嗜みもしっかりしている。

 そして、三日に一回はこのイオール商会に顔を出す。

 別に商会に用事がある訳ではない。

 私に会うのが目的で、とても分かりやすい好意を示してくれる。

 母や父がそんな彼を気に入るのも無理はない。

 でも・・・なんだろう。

 私は別に彼の事が好きではないのだ。

 これは私の直感で、うまく説明できないのだけども・・・

 そう思いながらも、女の嗜みとして多少のお洒落をして居間へと向かった。

 普段は付けないけれども、このときにエリックから貰ったイヤリングをしてしまう私は強かな女なのだろうか・・・

 そう思いながらも居間の扉を開けると、そこには彼が居た。

 

 「やあ」

 

 白々しいぐらいに清々しく応えるエリック。

 私は自分の中にある違和感を押し殺して、女として百点の愛想を浮かべて彼に挨拶を返した。

 そんな私は、実は小さい頃から猫かぶり娘だ。

 自分の心内を簡単に男子へ晒すような無様な真似はしない。

 エリックは私が彼の来訪を喜んでいると本当に思っている。

 彼といろいろと会話をするが、両親は気を遣って私達をふたりだけにしてくれた。

 しかし、私はそれほど嬉しくない。

 エリックは私にいろんなことを話してくれる。

 特に都会のラフレスタの話しは私にとって刺激的だった。

 数えきれないお店や、学園都市と言われるだけあって、多くの同世代の学生がいる。

 そこには帝国最高峰とも言われるアストロ魔法女学院やラフレスタ高等騎士学校とか、私からしても手の届かない名門校だってあるのだ。

 とても興味のある話しだったし、私もいつかは観光してみたいとも思う。

 しかし、それらの話題には興味があるのだけども、なんだろう・・・エリック自身に私は興味を抱かないのだ。

 彼と話していても空虚な気がして、ただ時間だけが過ぎて行く。

 私の中に何かが残る事もない・・・そんな気がする。

 こうして二時間ほど彼と会話し、そろそろ終わりの雰囲気となってきた。

 そこで、彼が切出していた。

 

 「今度、ふたりきりで出かけないか?」

 

 所謂デートの誘いで、行先はこのランガス村では恋人たちの定番と言われている見晴らしの良い丘だった。

 私はあまり気乗りせず、言葉を濁す。

 『はい』とも『いいえ』とも捉えられない煮え切らない回答をしていると、エリックの方が今日は諦めたのか、「今度、考えておいてくれ」と言い残すと彼は帰っていった。

 私は少しホッとして彼を見送ると、その後、母に呼び出された。

 

 「シエクタ、あなたはそろそろ結婚相手を決めないといけない年齢だという事は解っているわよね」

 

 私は不承不承頷く。

 これから母が何を言うか、大体が予想できたからだ。

 

 「あの(・・)エリックさんが、あれほどシエクタの事を誘っているじゃない。彼以上の男は今のランガスに居ないわよ」

 「お母さんの言う事は解っています・・・でも、私・・・決められなくて」

 「どうして? 他に好きな人でもいるの?」

 

 そう問われると私も困ってしまう。

 他に好きな人が居る訳じゃない・・・でも、なんかエリックとは無いな・・・そう思ってしまうのだ。

 私が無言でいると、母は私を諭すように言った。

 

 「シエクタ。そうやって選り好みをしていると、時間ばかりが益々過ぎて行くわ。男は良い人から売れて行くの。商品と一緒よ。残り物に福なんて無いわ」

 

 商人らしい例えだ。

 それは尤もだと同意できるけど・・・私は結局、エリックを選ぶ踏切(ふんぎり)がつかず、私の将来を心配してくれる母さえもヤキモキさせる結果になったのは言うまでもない。

 結局、その後の母からはいろんな小言を貰ってしまったが、私が母を喜ばすような返答をする事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 場面は変わって、ここはランガス村の宿だ。

 部屋でふたりの男が酒を飲んでいた。

 

 「畜生、シエクタめ。なかなか首を縦に振らねえ!」

 

 汚い言葉で苛立ちを口にするはエリックだ。

 もし、昼間の彼しか知らない者が今の彼を見れば、とても驚いたかもしれない。

 それほどに下品な態度で、汚い言葉を口にしていたからだ。

 そんなエリックをなだめる男性がひとりいる。

 

 「まぁ、落ち着けやエリック。くくく」

 

 それはデニアンだった。

 口ではエリックをなだめる彼だったが、その表情からは似焼けた態度でエリックに接しており、この場面だけを切り取って観れば、チンピラふたりが酒場で悪巧みをしているようにも見えるが、実はそのとおりだった。

 

 「デニアンさん、笑い事じゃないですよ。シエクタをモノにできるって言われたから俺はアンタに協力したんだ!」

 

 唾を飛ばしてそう抗議するエリック。

 

 「だから落ち着けって。あのシエクタって嬢ちゃんは、あの(・・)ルミィ姉ぇの娘だぜ。そりゃ性悪に決まっているじゃねぇか」

 「おい、シエクタの事を悪く言うなよ!」

 

 ムキになるエリックだったが、それを見たデニアンは、こいつ・・・まだまだ女のことを解っちゃいねぇ青二才だな・・・そう思ってしまう。

 それほどまでに彼の姉であるルミィは、一族の中で一癖も二癖もある存在だった。

 デニアンの目に映るルミィと言う女は、金のためにそれまで付き合っていた男を捨てて、今の夫と一緒になった女だった。

 いや、彼女だけじゃない。

 自分達の母もそうだったし、自分と三年前まで一緒に暮らしいていた嫁もそんな女だった。

 デニアンから金の匂いがしなくなると、嫁は一気に愛想をつかし、そして、離婚することになってしまったのだ。

 勿論、その原因の一端にはデニアンの普段からの素行の悪さが主原因だったのだが、そんな事実に気付く彼ならば、そもそも離婚などには至っていないのだ。

 自分が悪いとは思っておらず、結局、相手が悪いと思い込む・・・つまり、デニアンは女性不信になってしまった。

 デニアンは女性を恨むようになり、それは自分の姉であるルミィもその対象だったりする。

 その上、今のデニアンには大金が必要だった。

 彼はとある商売で大きな損失を出しており、その時に負った多額の借金の返済に追われる毎日なのだ。

 これを乗り切るために、彼が考えに考えて、たどり着いたものが、違法薬物の取引だった。

 法的に取引が禁止されている薬物ではあるが、これを闇の市場に卸すと、恐ろしいほどの利益が得られるのだ。

 尤も、これを本格的に取り扱おうとすると、どうしても裏社会に顔が利く存在が必要となる。

 デニアンは(ワル)だったが、それでもチンピラ止まりである。

 裏社会と渡り合うだけの度胸と組織力を持っている訳ではない。

 そこで彼が考えたのは、この違法薬物をラフレスタとは離れた場所で一時保管するという役割だった。

 ここにクスリを集積し、ここからラフレスタに運んで、捌くのは別の商会―――大手のルバッタ商会にやってもらうと考えた。

 自分はルバッタ商会の手先として、この遠地であるランガス村を拠点にして砂漠の国からいろいろな経路で密輸入される違法薬物を集積するのだ。

 ラフレスタ中央の警備隊も、まさかここに拠点があるとは思わないだろうし、ここならば欲深いヤツが大勢いることも知っていた。

 姉のルミィもそうだと思ったし、ここの副村長のウェイルズだって相当に悪いヤツだ。

 それは昔、(ウェイルズ)と一緒に仕事をした経験があってのことだったが、その話しは今はいいだろう・・・

 こうしてデニアンは、この計画をルバッタ商会の会長のところに持っていく。

 それを聞いた会長はご満悦になり、デニアンの借金の半分を帳消しにしてくれた。

 そればかりか、指折りの暗殺者を駒として貸してくれたし、ランガス村に所縁のある若い奴を紹介もしてくれた。

 それが、このエリックだった。

 彼は着の身着のままでランガス村から家出をしてきて、ラフレスタでチンピラ生活を送っていたらしい。

 そんな小物をデニアンは拾い、彼を偽物の警備隊員として仕立てる。

 ラフレスタの裏社会には金さえ払えば、なんでもしてくれるヤツがいるのだ。

 そんなのところにエリックを一年ほど預け、彼を偽物の警備隊員として仕立て上げた。

 そして、外見だけはエリートに見せかけると、いろんな伝手を駆使して、商隊の警備部隊長にする事ができた。

 そして、ランガスに来てからは、ウェイルズとの取引によってエリックを副隊長として就かせる。

 現役だった副隊長を不慮の事故に見せかけて殺害したのはデニアンのアイデアだ。

 そして、それを実行したのは、ルバッタ会長から貸して貰った凄腕の暗殺者。

 確か、キリュスとか言う若い魔術師で、今も部屋のどこかに隠れていて、デニアンに万が一の事が起れば助けてくれる手はずになっている。

 そのお陰でデニアンはいつも安心して悪巧みができるのだ。

 今も不機嫌なエリックをどうしてやろうかと考える。

 この若造は愚かな奴だが、それでも便利な駒だったし、彼に一年投資したものはまだ回収できていない。

 これから、このランガス村の薬物取引では必要不可欠な役割を果たして貰わないと・・・

 そう思いながら考えるデニアンに、ひとつの名案が浮かんだ。

 

 「閃いたぜ、エリック。お前の願いをすぐにでも叶えてやろうじゃないか」

 「え?」

 

 いきなりそんな事を言うデニアンにエリックは本当か?と疑ったりする。

 しかし、デニアンは下品に笑ってエリックに自分の策を伝えるのだった。

 

 「いいか、エリック。これが成功すれば一石二鳥だ。俺は仕事を早く進められるし、お前はシエクタと一緒になれるぞ」

 「ほ、本当か!?」

 「俺は嘘を言わねぇ。いいかよく聞いて行動しろよ。これはタイミングが重要だ。それはな・・・・・・」

 

 こうして悪党達の新たな悪巧みがここに始まった。

 

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ