第三十一話 反省と白魔女から授かりもの、そして、燃え尽き症候群
「はぁ~」
俺は浮かない様子で、現在、店の奥の中庭が見える自室に籠っている。
エリオス商会の会長としての仕事も今日はまったくせず、溜息をつき続けるのは、俺が大いなる反省中だからだ。
「ライオネル様、もっと元気を出してください。貴方の判断は間違っていなかった」
そんな声を出して俺を励ましてくれるのは警備部のジェンだ。
そのジェンも顔が傷付き、所々に出血の痕が残っている。
それは例のルバッタ商会の襲撃で手痛い反撃を喰らった証拠である。
痛々しい姿だが、彼はまだマシなほうだ。
何故ならば、彼は負傷する程度で済んでいたからである。
先日の作戦は負傷者が多数発生、その上、死者六名という『月光の狼』が始まって以来の大被害を出している。
これは当初から定められた事であるが、もし、裏家業で死傷すれば、それは表の業務の運搬作業の最中の事故で亡くなった事になっている。
流石に六人が一度に死ぬのは、そんな言い訳だけでは無理があるのだが・・・
エリオス商会の職員の凡そ半数が、『月光の狼』の構成員なので、何とか誤魔化せている。
死んでしまった仲間には本当の死因を公にできなくて本当に申し訳ないのが・・・それも仕方が無い、これも組織を守るためだ。
「ライオネル様、まだ浮かない顔して・・・元気を出してください。これで俺達は仇敵に勝てたのだから」
「ジェンにアタラ、すまないな。まだ、私はあのときの判断が正しかったのか悩んでいてねぇ・・・」
俺は商会の会長として、また、義賊団の統領として、他人に弱音を見せることが憚れる立場ではあるが、気心知れた彼らの前ならば別だ。
遠慮なく、現在の気持ちを晒してしまう。
「確かに永年我々を目の敵していたルバッタ商会を壊滅できたことは嬉しい限りだ・・・彼の商会はラフレスタの裏社会では要的な存在である。その組織を壊滅できたことは、本来ならば大いに喜ぶべき状況なのだが。しかし、今回は犠牲が大き過ぎた・・・」
「・・・会長」
俺の重い雰囲気に釣られて、彼らの表情も暗くなる。
しかし、そこで喝を入れてくる女性が・・・
「否。それこそ、否です。ライオネル様。亡くなってしまった彼らが、もし、今のライオネル様の姿を見たならば、とても立腹するでしょう。会長がこう沈んでいられては、自分達の犠牲は一体何だったのかと!」
「・・・エレイナ・・・」
「彼らはこのラフレスタに蔓延る巨悪を成敗するために、明日のラフレスタの正義のために、自ら進んで作戦に参加した同志です。こうして、ルバッタ商会という巨悪が倒せたのは、そこには彼らの犠牲があってのこと。ライオネル様が次に進なければ、逆に彼らの魂は浮かばれません!」
「それは理解できる・・・できるが、しかし、彼らとて自ら進んで命を散らした訳ではないだろう。部隊の運用にもう少し考慮できなかったかと猛省しているのだ」
「ライオネル様・・・貴方様はなんて優しい方でしょう・・・いや、優し過ぎる・・・我々、構成員は使い潰されることを覚悟の上で月光の狼をやっています。これ以上お悩みになられるのも、それは考え過ぎですよ!」
「エレイナ・・・私はそこまで割り切れていないのかも知れない。覚悟が甘いと言われればその通りなのだが・・・」
そんな煮え切らない態度を続ける俺は、やはり覚悟が足らないのだろうか・・・
そもそも、どうして、こんなに義賊活動に人生を費やしてしまったのだろう・・・そのことを再考してしまう。
「初めは、我が商会に降りかかる火の粉を払うために始めた義賊活動の筈なのに・・・いつの間にか、我々は正義という名の職務を果たすため、夢中になり過ぎていたようだ・・・」
「ライオネル様・・・」
俺からの哲学的な呟きに、エレイナからも何とも言えない返しが来る。
俺の憂いに共感・・・しているのだろう・・
そう思うと、エレイナは俺にとって共感型のイエスマンだ。
「ライオネル会長・・・こいつは凄いっすね」
ここで重くなってしまった雰囲気を変えてやろうと、ここで敢えて明るい雰囲気を出して、別の話題を振ってくるのはアタラである。
ここで彼は何が凄いと賞賛しているのかと言うと、先日、白魔女エミラルダから供与された魔道具のことを示しているのである。
「魔女の腕輪と首飾り、か・・・」
アタラが中庭で後ろ向きに三回転宙返りをして遊んでいる。
彼の普段の運動神経は悪くないが、決してこんな曲芸染みた動きを見せられるほどの腕では無かった筈だ。
それを実現化させているのが、白魔女から供与された魔道具の存在である。
その魔道具――腕輪と首飾り型の魔道具を装着すれば、装着者は人外の能力が出せた。
「アタラさん、今は昼間ですよ。そんな規格外の魔道具を装着して、もし、他の人にバレたら・・・」
「エレイナさん、ちょっとぐらい良いじゃないですかー。僕もこれの扱い方を慣れておかないと・・・それに今の時間、ここには関係者以外誰も来ませんよ」
そんな言い訳を述べるアタラは、今も飛んだり跳ねたりして遊んでいる。
まぁ、魔道具の扱いについて、慣れておくこと自体は悪い話じゃないだろう。
この魔道具は白魔女エミラルダから我々月光の狼の構成員に供与して貰った特別製の魔道具だ。
彼女曰く、「貴方達の行動は見ていて危なっかしい」と言われて、これを貰った。
それは彼女からの厚意であり、身体能力強化用の魔道具を供与して貰った形だ。
この魔道具がまた・・・とてつもない代物であり、腕力や俊敏性を恐ろしいほど向上させる代物だった。
これほどの性能を持った魔道具は今まで見たことが無い。
構成員達の身体能力を強化すれば、それだけ死傷する可能性は低くなる。
俺は有り難く使わせ貰う事にした。
「アタラほどほどにな、もしかすればその魔道具には常習性があるかも知れない。自分がとても強くなった気がする魅惑の魔法が籠っているのかも知れないぞ」
「ええ? これって、呪われている魔道具ですか?」
一瞬動きが止まるアタラ。
そんな筈はない・・・『呪いの魔道具』・・・それはあまりも強い魔力が籠っている魔道具に纏わる都市伝説だ。
「そんな訳はない。白魔女様の愛が籠っているって意味さ!」
「ハハハ・・・」
ここで、俺の冗談に笑ってくれたのはジェンだけだった、アタラは複雑な表情のまま俺の言葉の意味をどう受け止めていいか固まっているようだ。
そして、エレイナも複雑な表情。
「私はあの魔女のことを・・・完全に信用できません・・・」
エレイナはこの魔道具の有用性を理解しつつも・・・それだからこそ、こんな国宝級の魔道具を簡単に供与してくれる白魔女を疑っているようだ。
「エレイナさんは、きっと、白魔女様に妬いているんですよ。あの人はとても美人でスタイル抜群ですからねー。ライオネル会長も興味津々の様子ですし」
ここで、ジェンがいらん事を言った。
これにはエレイナも余計な反応してしまう。
「ライオネル様。私はあの魔女から危険な匂いがします。ライオネル様が騙されているのではないかと?」
「私が騙されている?」
俺が意味解らんと言う顔をしていると、アタラが答えを教えてくれる。
「だって、ライオネル会長の視線が、自魔女の臀部とか、くびれとか、巨乳とかに注目しているのがバレバレですよ・・・そりゃあ、全てエレイナ姐さんには持っていないものなので興味あるのは解りますが・・・ぶへぇっ!」
ここでアタラが蹴られた。
どうやらエレイナも密かに強化の魔道具を装着していたようで、アタラが二、三メートル蹴り飛ばされていた。
・・・死んで無いよな?
やはり、この魔道具を無断で使わせるのは止めておこうと、考えを改めた瞬間でもある。
「アタラさん、余計な事を言わないでっ!」
ご立腹のエレイナを見ると、どうやら俺が白魔女エミラルダに色目を使ったことが彼女の不機嫌の原因らしい。
それで白魔女のことを信用していないと言ったのだろう。
彼女の直感とだろうが・・・しかし、それは彼女の誤解である。
あの白魔女が敵なはずが無い。
俺の勘がそう言っている・・・白魔女は絶対に俺の味方だと・・・俺が契約をした女性だ。
俺は滅多な事で人の評価を間違わない、そんな根拠のない自信が俺にはあった。
この判断はこれからも変わらないと思う・・・たぶん。
「エレイナ、気を鎮めてくれ」
「何ですか? ライオネル様。私は別に怒っていませんよ!」
絶対に滅茶苦茶怒っていると思いながらも、俺はここで深く追及しない。
八つ当たりを喰ったアタラはジェンに助け起こされている。
良かった、無事だ。
強化の魔道具のお陰で防御力も上がっているのだろう。
俺は余計な負傷者が出ずに良かったと思う。
「まったく、エレイナさんもアタラに当たらないでください。これも・・・ライオネル会長、貴方が悪いんですよ!」
「どうしてそうなる!?」
「だって、エレイナさんと言う人が居ながら、白魔女様に宇津々を抜かすから・・・偶にはエレイナさんの胸とかお尻を優しく触ってあげればいいのに・・・」
「ジェンっ!! どうやら綱紀が緩んでいるようね。今週の強化訓練は特別メニューにしますからね」
ジェンのセクハラ発言に、うちの鬼姫騎士長は顔を真っ赤に発現させて怒っている。
綱紀粛清の宣言が出た。
これにジェンは震え上がる素振りを見せるが、勿論、これも冗談である。
俺が放っていた暗い雰囲気を払拭させようとしているのだろう。
彼なりの気遣いだ。
ありがたい仲間だと思う。
俺はフッと笑いを浮かべて、これからの事を・・・新たな目標を考えてみる。
そうだ、俺達は『狼』だ。
ひとつの目標を超えたところで満足していてはいけないのだ。
次の目標を見つけて、それを超えて、さらに次の目標へ向かわなくてはならない。
それが、俺達『月光の狼』の役割、ラフレスタの正義のため、いつか帝都の老商人に宣言したように、俺達が希望ある未来を切り開くのだ、それを手本として世の中に見せなくてはならないのだと思う。
こうして、気持ちを新たに切り替える俺であった・・・




