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ラフレスタの白魔女 外伝  作者: 龍泉 武
第三部 ヴェルディの野望
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第二十六話 狼たちの胎動


「全く以て、これはどう言う事ですかっ!」


 私、エレイナ・セレステアは今が自室で一人なのをいい事に罵詈荘厳を遠慮なく吐いた。

 この言葉を吐いたところでストレス発散にもならず、私の負の感情は蓄積するだけだ。

 そして、私の足元にはクチャクチャに丸められた手紙の一片が転がっている。

 それは私宛に届けられた二通の手紙である。

 一通目は先日解決を約束してくれたアドラント・スクレイパー氏からの手紙。

 内容を要約すると、次のような事が書かれていた。

 

――今回の一件、私の手に負える案件ではなく、非常に不本意だが、手を引かせて欲しい――


 そして、もう一通の差出人は私の父からである。

 

-――エトワール様がライオネル・エリオス氏の失脚に本気になった。これ以上は関わるな――


 このふたつ手紙の内容は異なるが、結局は同じ案件について書かれている。

 つまり、ライオネル様に掛けられた不可解な容疑を晴らす事ができないとの結論である。

 

「ふざけんなっ!」


 私は今まで使った事の無い汚い言葉を再び罵る。

 結果は先程と同じであり、理不尽な怒りが増すばかりだった。

 ライオネル様が不当に警備隊に拘束されてから既に一週間が経過している。

 商売仲間の間ではもう悪い噂が広まっており、「ライオネル・エリオスは手を出してはならない闇の商売に手を出して捕まった」とか、悪意のある噂が広まっているのが特に気に入らない。

 それが原因なのか、客足は徐々に遠退き、売り上げも僅かに減少しはじめていた。

 商会の職員達からは不安と不満がひしひしと伝って来る。

 一部の望みをかけていた管理局からはこんな返事が返って来たので、もうどうしたらいいのか・・・

 

「だめよ。エレイナ。貴女が諦めたら駄目」


 そう自分に言い聞かせて、不安を払拭しようとした。

 確かに、今の私は確かに不安だ。

 どうしてだろう。

 ライオネル様が傍に居ないと不安で仕方ない。

 あの人に依存していた? 確かにそうかもしれない。

 あの人の傍に立ち、あの人の役に立つことで、私は安心と共に快感を得ていたのかも知れない。

 帝都で泣いた時、ライオネル様には一晩中抱いて貰った事がある。

 あの時までは、私はエリオスの父様と母様が死亡する事故に責任を感じて、自分の過失を嘆いていたのだが、それもライオネル様から優しく抱かれことで、乗り越える事ができた。

 自分のしている事の正しさに悩んでいた私であったが、私はあそこで決意したのよ。

 私がライオネル様の役に立つこと、それが正しい事なのだと、自分の居場所を見つけた気分に浸っていた。

 エリオスの父、母を守る事は出来なかったが、私はライオネル様を守る事が最終使命なのだと・・・いや、それは使命じゃない、運命だ。

 私はもう、彼を監視する事を真面目に行ってはいない。

 実家への報告は、適当・・・いや、彼の不利となる事実はもう一切伝える気は無い。

 それほどまでに私はライオネル様に多く依存したいと思っているのだろう。

 

「ああ、ライオネル様に会いたい」


 場面が違えば、こんな呟きを漏らしている私は乙女の恋心を示すものだと思われそうだが、これはそんな安っぽいものではないと思う。

 私がライオネル様へ期待するのは、そんな自己の欲望を満たすものではない。

 もっと崇高な、公的な・・・何かだ。

 

「ああ、どうすれば、ライオネル様を無事解放できるのかしら」


 私は考える・・・考えて、考えて、そして、ある結論に達した。

 

「これは、もう実力行使しかないですね・・・」


 私は自分の考えを実行するため、準備を始めた。

 時間はまだ夕食時を過ぎた所だ。


「まだ、大丈夫よ。今日は徹夜になるかも知れないわ」


 こうして、私はある企みを実行するため、作業を始めた。

 先ずはエリオス商会の魔道具の倉庫の魔道具を漁るとしましよう・・・

 

 

 

 そして、次の日の朝、出勤してきた信頼できる警備部の職員からふたりを選び、機密性の高い地下の会議室へ集めた。

 

「皆さんにお話しがあります」


 私は改まりそんな口調で話し始める。

 集められたふたり――ジェンさんとアタラさん――は私がいつもと雰囲気が違うのを察して、身構えている。

 うん、いい緊張感だ。


「ジェンさん、アタラさん。これからの会話は秘密事です。もし、賛同できないならば、遠慮なく言ってください」

「・・・はい」

「・・・了解」


 彼らは実力も高く、そして、口も堅い、信頼できる者として選んだつもりが、それでも一抹の不安がある。

 

「先ずは確認しますが、現在、ライオネル様は警備隊組織に不当に拘束されています。この事実をご理解されていますよね?」

「ええ、警備隊、特にあのでっぷり太った野郎は気に入らないな・・・会長が拘束された理由も納得いかない」

「そうです。あの第二警備隊は腐っている。ルバッタ商会からどれほどの賄賂を貰ったのでしょうか、ムカツキますね」

「解りました。貴方達と現在の私の価値観は等しいようですね」


 私はこのふたりはやはり信頼できそうだと判断する。

 だから、次に話を進められる。

 

「私も同じ意見です。ライオネル様をお救いするのに、グローナットさんやアドラントさんからの情報を集約すると、正攻法での解決は難しいようです・・・残された道は、少々()に抵触する形となりますが・・・」


 私が言い難そうにしていると、ここでジェンさんは私の考えを察して、笑顔を浮かべた。

 

「やはり、そう来ましたか。そうなるとここは力尽く(・・・)での解決となりますね。勿論、私は協力させて貰います」

「私はまだ何も言っていないのですが、ジェンさんはもう解っていらしたのですね」

「それは、私はこれでも年長者です。いろいろと人生経験ありますから」


 まだキョトンしていたアタラさんと違い、ジェンさんからはそんな涼しい事を言ってくれる。

 

「ふたりでだけで納得していないで、僕にも詳しい話を教えてくださいよ」


 若干仲間外れ感のあるアタラさんが少し膨れて、そんな抗議の声を挙げる。

 

「解りました。明瞭簡潔に説明すると、今度、クロスビー氏を襲撃します」

「しゅ、襲撃ですか!?」


 私の過激な一言でアタラさんはそんな驚きの反応をした。

 

「そうです。襲撃して、彼が不当にエリオス商会を嵌めている証拠を探し出します。それを白日の元へと晒し、彼らが悪であり、ライオネル様が正しい事を世間に正します。そうすれば、ライオネル様を拘束する理由も無くなりますから」

「結構過激な活動ですね」

「それは承知しています。しかし、アドラント氏を初めとした公的権力が封じられてしまった今、我々も力業に出るしかないと思っています」


 私は自分の判断が間違っていないと信じ、そんな結論に至ったことを言う。

 ここで、年長者のジェンさんは私の考えを支持してくれた。

 

「エレイナさん、思い切った事を選びましたね。しかし、私は反対しません。頭の良い貴女ならば、何か勝算あっての判断だと思います。それにライオネル会長をお救いする他の方法が残されていないのも事実だと思います。私はエレイナさんを支持しますよ」

「ありがとう・・・ジェンさん、勿論、策は考えています」


 ここで私はできるだけ効果的で成功率の高い案を説明するため、奥の棚にしまってあった衣装を取り出す。

 

「これは?」


 それを見たジェン達はまた理解が及ばないようで目を白黒させている。

 

「これはエリオス商会特製にある魔道具を集めて作った秘密の刺客のための衣装となります」


 私はそう言い、昨日準備した黒い布の衣装を自分の服の上から纏わせた。

 そうすると、漆黒の衣装は微弱な魔法が生じて、身体へと張り付く。

 

「こうすると肌に張り付きます。顔を隠せば、誰だかすぐには解りません。そして、こちらの飴を舐めれば声が変わります。これらを用いれば、秘密の刺客者として化ける事ができます。正体がバレることは絶対にありません」

「おお、これだと誰だか解らないですね」


 ジェンさんは私が考えたこの変装衣装を絶賛する。

 

「なるほど。これで変装してルバッタ一味に正義の鉄槌を下すのですね」

「そうです。ジェンさん、アタラさん。決行は明日の真夜中を考えています。いいですね」

「解りました」

「エレイナさん、ひとつ質問があります」

「アタラさん、何でしょうか?」

「この黒い装束を着た者達のグループ名はあるのでしょうか?」

「グループ名ですか?」

「そうです。何だか、義賊団のようでカッコいいじゃないですか。名前はあった方がいいかと思うのですが・・・」

「名前ですか・・・・・」


 私は考え込む。

 名前、流石にそこまでは考えていなかったからだ。

 黒い装束は夜を連想するから・・・考えて・・・

 

「月光の・・・聖戦士(パラディン)、はどうでしょうか?」


 私はここで思い付いた名前を口にしてみて、少々違和感があったが、ここではこれ以上の名前が私の頭から思い付かなかった・・・

 


この時点ではちょっと名前が違います(笑)が・・・そろそろ反撃がはじまりますよ!


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