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ラフレスタの白魔女 外伝  作者: 龍泉 武
第三部 ヴェルディの野望
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第十五話 新商品


「さあ、安いよ。安いよ。買った。買ったぁ」


 ラフレスタの田舎町のランガス村にて行商隊(キャバラン)によるバザールが始まった。

 農耕が主の田舎町で市場(バザール)は珍しいのか、朝から多くの人で賑わっている。

 

「どうだい。これ帝都で今逸っている髪飾りだよ」


 俺の馬車の隣では何の因果かルバッタ商会が店を出している。

 派手な服を着たナターシャ自ら店頭に立ち、商いを活発にしている。

 大きく胸元が開いた服は刺激的であり、鼻の下を伸ばした男性客集めるのに効果はあるようで、助平親父共が群がる人だかりになっている。

 他の商会から見ても少し浮いた存在のナターシャであるが、本人は豪胆な性格なのか、自分が浮いた存在である事など気にせず、寧ろ、それを利用するかのように客集めに奔走している。

 敵ながら、商売の魂胆としては成功しているのが、また、悔しい限りだ。

 そんなルバッタ商会だが、彼女が売っているのは何の変哲もない髪飾だ、それを田舎者が知らない事をいいことに「帝都で逸っている」と(うそぶ)き、結構な価格で売りさばいている。

 利益を追求する商人としてはあり得る商法なのかも知れないが、俺はそんな商いはしたくないと思う。

 皆が購入する事で流行が発生し、結果的に嘘でなくなることもあるが、俺としてはそんなことまでして売りたくはないと思う。

 

「隣はすごい盛況ですね」


 閑古鳥の泣く状態のエリオス商会の馬車ではロディがそんなことを呟く。

 

「隣は、隣、うちはうちだ」


 俺はそう言い堅実な商売を続けることにした。

 そうしていると、俺達の馬車の前に小さな女の子が立っていた。

 どうやらこの子の父母がルバッタ商会の馬車の商いを見ていて、そちらに夢中なようではぐれてしまった子供のようだ。

 俺の悪戯心が刺激された。

 

「君が、我が商会に初めて来てくれたお客さんなかな?」

「・・・」


 子供は緊張しているのか喋ってくれない。

 それも半ば予想していた俺は、今回持って来た新商品である鉄の輪をひとつ取り出した。

 

「これは何の変哲もない鉄の輪に御座います」


 俺は道化師のように少し仰々しく、そんな台詞を喋り、ふたつの鉄輪を空中で交差させる。

 

 「合体」


キーーン


 この呪文と共に、鉄輪を空中で交差させたとき、甲高い音と光を発生させて、ふたつの鉄輪がつながった。

 閉じた輪の鉄の環の中にもうひとつの鉄輪が結合して、そこでカランカランと回る。

 これは魔道具の技術を利用した鉄輪であり、所謂、おもちゃの類だ。


「すごーい」

 

 そんな俺の手品のような芸を見ていて子供は喜ぶ。

 よし、受けた。

 俺は気を良くして、もうひとつ鉄の輪を取り出し、それを上に投げた。

 空高く舞った鉄輪は重力に引かれて、地面へと落下してくる。

 そこに既に二つにつながった鉄輪を出して、また俺は魔道具の発動の呪文を唱えた。

 

「合体」


ガキーーン


 先程と同じような音と光が放たれ、鉄の輪がつながる。


「わぉーっ」


 女の子が喜んだ。

 

「これは『連環の鉄輪』という魔道具で『合体!』と呪文を共に魔力を込めると発動するよ。ほらこのとおりね」


ガキーン


 新たな鉄輪がくっついて結合する。

 少女の目はもうこの魔道具に釘付けだ。

 

「ほら」


 俺は新たな『連環の輪』を取り出して少女へ渡す。

 

「やってみなさい」

 

 少女は頷いて、「合体」と掛け声とともに鉄の輪どうしを交差させる。

 

ガキーン、ガキーン


 なかなか上手く行かず、魔法が発動しない。

 

「違う、違う。ほらこうやって自分の中の魔力を高めて、鉄環が交差する瞬間にパッと魔力を解放するようにして『合体』と念じるんだ」


キーン


 魔道具が正しく発動して結合する。

 俺の例を見て、少女も何とか結合させようとする。

 しばらく待っていると・・・


キーーーン


 魔法が発動して効果音と共に鉄輪がひとつになる。

 

「やったーーー!」


 魔道具の発動が成功し、少女は大喜びする。

 

「おぉぉ!」


 その少女の様子を周りで見ていた大人達も感嘆の言葉を漏らす様子。

 少女も『連環の輪』を親に持ってき、「合体」とって鉄の輪を次々とつなげる。

 いいぞ、この『連環の輪』の面白さは伝わった。

 

「解除」


 俺は少女に向けて、輪のつながりを解く魔道具の使い方を説明する。

 少女も魔法素養の素質が高いようで、この『解除』も上手くできて、繋がった鉄の輪がバラバラになり地面へと落ちた。

 注目が俺に集まったのをいいことにここで俺はこの魔道具を売り込む。

 

「これは『連環の輪』という魔道具です。用途はいろいろあるります。例えば、これに紐を付ければ、家畜のつなげておくにも使えるでしょう。連結とその解除に必要なのは魔力だけです。このように魔道具発動のコツさえ覚えれば、少女でも使える魔道具です。子供の魔法教育にだって使える。玩具にもなるでしょう。これはエリオス商会の開発したオリジナルの魔道具『連環の輪』。今ならば、鉄の輪四個のセットで二千五百クロルです。どうですか?」


「おお、面白そうだ。ひとつくれ」

「私も・・・」


 こうして、この珍しい魔道具が飛ぶように売れた。

 

「おっと、君にはプレゼントしよう。君は宣伝に協力してくれたからね」

 

 少女の親も買おうとしてくれたが、これは宣伝に協力てくれたお礼に一組を無料で提供してあげた。

 庶民は魔道具なんて普段使わないだろうから、珍しがっている。

 『連環の輪』とは娯楽を想定して作って貰った魔道具だが、これを元にして、一般庶民にも魔道具が広がればいい。

 勿論魔法素養のある人にしか使えないが、それでも、田舎にも学校はある、魔法とは人が本来感覚的に覚えるものでもあるが、この魔道具は魔法を扱う練習にもなるんじゃないかと思っていたら、やはり同じ事を考えた人間もいたようで、教師らしい人物が俺に声を掛けて来た。

 

「私はランガス村の初等学校の魔法の教師をしている者です。この『連環の輪』を魔法教育として使いたいのですが・・・」

「それは結構なことですね。我らエリオス商会はアストロ魔法女学院にも教材を卸している業者なので、教材に関しては信用してください」

「おお、あの有名校に魔道具を卸しているのならば信用できますね」


 そんなとんとん拍子で話が進み、新たな固定顧客を確保する事ができた。

 こうして、我が商会の新商品『連環の輪』を百組み納入する、新規顧客を得ることができた。

 ここは田舎村だが、それでも公的機関ならばそれは公費を使っての購入となる。

 金払いも心配する事はない上客だ。

 それは取引相手としては上々であると判断する。

 本来ならば、ランガス村は見知らぬ土地であり、そこの学校と取引するのも一苦労になる話で、先ずはこの村の実力者と関係を築くなど、取引が成立するまでいろいろと手順が必要になるものなのだ。

 それを一気に学校関係者まで辿り着けるのは今回のバザールのお陰だと思った。

 上々の固定客を得て喜ぶ俺を隣のルバッタ商会のナターシャから睨むような視線が注がれたのが少し気になったりする。

 

 

 

 

 

 バザールを終えて、ランガス村の有力者を交えての夕食会が開かれた。

 ランガス村は簡素な村であるため、大きな宿などは少ない、そのため、私達は村で唯一の商会であるイオール商会の一室を宿泊所として借りることになった。

 行商隊の中の商会の何人かも同じで、その中でも上位であるグローナット氏やナターシャも同じくこのイオール商会にて寝泊まりする事になる。

 そしして、細やかな夕食会が開かれた。

 

「いやー、エリオス商会のライオネルさんは興味深い魔道具を取り扱われていますね」


 ここの家主のイオール氏はからも俺はべた褒めされた。

 

「それは、この『連環の輪』のことですか、あれは魔道具を一般庶民でも使える物が何かないかと考えてた新商品です」


 それは、最近の俺が考えた商品だった。

 製造コストも安く、一般庶民でも使えそうな魔道具は無いものかと、エリオス商会と付き合いのある魔道具製作者と協議して考案した新商品のひとつだ。

 確かに、面白さはあるが、正直、『連環の輪』を造った時、これが一体に何に使えるのかと売り方に困っていたのも事実だった。

 今回、物は試しと持って来たものだったが、運良く子供を楽しませてみようと使っただけである。

 家畜の繋ぎ止めなどは後付けであり、あの瞬間の思い付きの言葉だ。

 紐と組み合わせて、簡単に結合と解除できるものをと・・・簡単な魔力の基本動作で起動できる魔道具なので子供の魔法教育にも使えたりと、いろいろと需要があった事に今まで気付かなかったのは事実。

 全く、今回は持ってきて運が良かった。

 

「発想が素晴らしい。このイオール商会でも是非に取り扱わせて欲しい」

「ええ、構いませんよ。このランガス村の学校で教材として買ってくれるようですから、イオール商会さんに代理店契約してもいいです。その代わり学校納入の煩雑な作業を担って貰いますが」

「それぐらいならば構わない」

「それならば、うち商会も取り扱いたいですね」

「私のところも・・・」


 今度は『連環の輪』は次々と商会に対して売れていった。

 彼らとしても金の匂いがするのであろう。

 うん、一般商民に需要がある魔道具は重要だな、やはり市場規模(ボリュームマス)が違う。

 俺がそんな事を考えていると、ナターシャ―が自分のところにも利益をよこせと主張してきた。

 

「今回、ライオネルさんが販売の切掛けになったのは、私のところに来ていた客の子供に見せた展示販売(デモンストレーション)だったわよね。そうならば、あの女の子の親は私の店を目的で来ていたのよ。これは私にも利益供与があっていいのではないかしら?」

「それを本気で言っているのですか? どのような利益を望まれるのですか?」


 俺は少し苛立ち、世迷い事だと聞き返した。

 

「私の商会に、『連環の輪』を製作した魔道具師を紹介して欲しいわ」

「むむ、それですと、『連環の輪』を製作してルバッタ商会に卸しても、このエリオス商会には利益(リベート)が入って来ないことになるじゃないですか」


 俺はナターシャ―の強引な要求に、商人として当然の抗議をする。

 『連環の輪』の立案したのは俺だ。

 製作した魔道具師から直接『連環の輪』を融通してもらうなど、魔道具発案者としての俺の権利を蔑ろにしているにも等しい。

 

「ナターシャ―さん、それはちょっと・・・」


 さすがのグローナット氏もこのナターシャの要求は商会の倫理に反するとして注意をした。

 幾らルバッタ商会と言えども、こうも公に商会のルールを破るのは憚れるべきだ。

 

「そ、そうですね。私のとしたことが少々強引でした」


 ナターシャも自分の失言に気付いたようで詫びを入れきた。


「ナターシャ様、今日の商い(バザール)ではルバッタ商会が一番の売り上げでしたから、そんなに焦らなくても大丈夫ですよ」

 

 太るいつぞやの商人がそんなフォローをしてくる。

 彼はどうやらルバッタ商会に近い人物のようで、彼女におべっかを使っているようだ。

 そして、俺はここで違和感があった。

 どうして、このナターシャはこれほどに焦っているのだろう。ルバッタ商会はラフレスタでも豪商でありその娘の彼女。

 現在の地位からして一体何の不満足があるのだろうか。

 今回も商人としての実績作りのため、強引にねじ込んできている。

 そして、彼女は何処か功を焦っているように見えた・・・

 ここで俺の勘は、ナターシャ―にも何か裏がある、と囁いていた。

 

 

 


2021年5月18日

登場人物を更新しました。このヴェルディの野望に関して、細々としたことを活動報告に書いております。よろしければ、覗いてみて下さい。

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