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ラフレスタの白魔女 外伝  作者: 龍泉 武
第三部 ヴェルディの野望
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第十二話 悪徳ルバッタ商会の企み

 ここはラフレスタの東地区にあるルバッタ商会という豪商の執務室。

 ルバッタ商会はラフレスタでも一、二を争う大商会だが、その商いには黒い噂が尽きない。

 それはラフレスタの裏社会とつながっており、一言で言うと利益優先の悪商会だ。


「ぐふー、この酒は美味いな」


 自分の執務室で品薄の高価な酒を味わうのはこの商会のトップ、一代にて財を築いたルバッタ商会のルバッタ会長である。

 豚男(ブーマ)のように太ったその醜悪な肉体は、日々、贅沢なものばかりを食した結果を示している。

 

「ささ、どうぞ、ルバッタ様」


 そんなルバッタ会長へ媚びへつらうのはチビの魔術師クロスビーである。

 現在、この執務室にはクロスビーの他に彼の子飼いであるチンピラのゲスコーとダスコーの二名もいて、クロスビーと同じようにルバッタ会長へ媚びへつらっている。

 それを対し、面白くなさそうに受け応えるルバッタ会長。

 彼にとって、自分に取り寄ってくる野郎共の相手をしても何も面白くないのだ。

 

「ふん。それよりもクロスビーよ、例の件はどうなっている」


 ルバッタ会長が報告を求めるその一件とは、そこに主語は無かったが、それでもクロスビーは正しく理解していた。

 

「例のエリオス商会の件ですが・・・今、いろいろと嫌がらせをしているのですが、なかなか向こうも頭の回る奴がいて・・・」


 その嫌がらせが上手く進んでいない事を報告せざる得ないクロスビーの顔色はいまいちだった。

 それを聞かされて、ルバッタもあまりいい顔をしなかった。

 

「お前達、生温(なまぬる)いぞ。儂のバックにいるフェイザー卿より、『くれぐれも』とお願いをされているから、このまま状況が変わらないと、儂が怒られてしまう」


 ルバッタは自分のパトロンの貴族の名前を出して、現在の状況を打破するようにと指示を出す。

 

「ハハッ。解りました。おい、ゲスコー、ダスコー、お前達、もう少し本気でやっていいぞ、多少の荒事は構わん!」


 クロスビーは自分の手下のチンピラ達に更に指示を出す。

 指示は出すがそこには具体的なものではなく、ハッパを掛ける程度しかできないのがこの男の小物ぶりを示していた。

 ふたりのチンピラ達は、これは自分達が試されているのだと理解して、自分の頭で考えてみて、その具体策を述べてみる。

 

「それでは、ルバッタ様。最近、エリオス商会に入った若い娘を拉致監禁してやりますか」


 チンピラの内ゲスコーがそんな提案をしてみる。

 彼は最近エリオス商会に入った若い美人秘書女性を拉致監禁して乱暴する姿を想像して、口元が緩んだ。

 しかし、それはルバッタによって却下される。

 

「駄目だ。それでは犯罪になってしまう。合法的にエリオス商会を廃業にするのだ。それに、フェイザー卿からはその美人秘書の事をくれぐれもと頼まれている。彼女名前はエレイナ・セレステアだ。セレステア家の三女で、お前達が手を出していい相手じゃない。彼女はフェイザー家のご子息がご所望のようだからなぁ~」

「その凡々(ボンボン)は美人秘書をどうするおつもりですか?」


 ゲスコーが興味を持ちそんな事を聞くが・・・

 

「さあな、この世界で長く生きるのならば、我らはそんな事を知らない方がいいぞ」


 ルバッタは警告する。

 

「ま、最終的にやることはお前達と変わらんだろうがなぁ・・・・グフフ」


 男性が女性を欲しがる理由など、想像できると下品に笑うだけである。

 

「儂はあのエリオス商会の店舗の土地が手に入ればそれでいいのだ。そのために、フェイザー卿も資金提供を惜しまないと約束してくれている。エリオス商会を買収しても良いが、一番簡単でコストが掛からないのは、彼らが自己破産してもらうのがいい。評判を落として売り上げを下げるんだ。いいな」

「へい」「解りやした」


 ここで悪党の如く返事するゲスコーとグスコー、彼らは外観からして悪党であった。

 

 

 

 

 

 

 数日後、ここはエリオス商会。

 

「オイ、ペテン師のライオネルって奴はいるかっ!」


 大きな声でゲスコーが怒鳴って入ってくる。

 

「キャッ」


 邸内にいた他の女性客の顔が強張った。

 チンピラの凄みに怯え、身の危険を感じて、一斉に大多数の客がエリオス商会から出て行ってしまった。

 

「また、貴方他達ですか・・・」


 俺は鬱陶しい顔を隠さず、店頭に顔を出した。

 

「もしかして、この前の『光の炎』の魔道具の件ですが、あれは壊れた品物を持ってきていただければ対応しますが」

「ペテンめ。持って来てやったぞ。ほら」


 バンッ、と机に叩き付けるように以前ここで購入した『光の炎』を出しいチンピラ。


「取り扱い良くないですね。そんなことをしたらここで壊れてしまいますよ」


 俺は取り扱いが悪いと注意するが、それでもこのチンピラは納得していない様子。

 当たり前か、どうせこれは強請(ゆす)りなのだから。

 

「それで、クロスビーさんは?」

「ああん。先生は忙しいんだよ! 俺じゃあ役不足だって言うのか?」


 喧嘩腰で凄んでも俺には効かないぜ。

 おっと、エレイナが自分の部屋から護身用のレイピアを持ってこようとしている。

 いきなりそれは駄目だと目で合図してやる。

 この手の輩は一度暴力沙汰になると今度はそれを盾に金をせびって来る筈だ。

 相手の挑発に乗ってはいけない、力で対処するのは、自己防衛が成立してからだ。

 

「これを購入されたのはクロスビーさんでしょう? ならば、本人が交渉に来るのが当然だだと思いますがね。まぁ、今回は特別に対応致しましょう」


 俺も嫌味っぽくそう応え、不具合品だと主張している魔道具を受け取った。

 チンピラを見ると額をピクピクさせている。

 こいつも面倒だから怒らせて、正当防衛を成立させてやった方がいいかも知れない。

 俺はそんな事を考えながら、魔道具に魔力を注ぐ。

 すると、やはり、魔道具は起動しなかった。

 

(これは、壊れているよりも、壊されていると見るべきだな)


 心の中でそう思い、魔道具を分解した。


ガチャ、ガチャ


 俺は器用に工具を使って『光の炎』の魔道具を分解した。

 チンピラの方は目を丸くしやがる。

 俺が魔道具を分解修理できるほどの腕前を持っていないと思っていたようだ。

 俺を誰だと思っている天才ヴェルディ様だぞ。

 魔道具が起動しない原因については直ぐに解った。

 

「原因はコレですね。ほら魔法陣が改造されています」


 俺は工具で魔道具の中に仕組まれた魔法陣が新たな魔法塗料で改変されているのを示した。

 

「そんな訳ねぇ。俺を解らない者と思っていい加減な事を」

「だから、専門知識を持つクロスビーさんに見て欲しかったのですが・・・いいでしょう。エレイナ、倉庫からこれと同じ魔道具を持ってきてくれたまえ」

「はい」


 彼女は素直に俺の言う事を聞き、倉庫に向かった。

 先日はこの『光の炎』と呼ばれる魔道具の存在を解らなかった彼女だが、今はそのことを反省して、しっかり勉強したようだ。

 しばらく待っていると、倉庫から正しく『光の炎』の正常品を持ってきた。

 俺はそれを受け取り、素早く分解して、正しい状態の魔道具の内部構造を見せてやる。

 

「ほら、見てください。新品のこの魔道の魔法陣はこうなっています」


 俺は新品と比較して、クロスビーに売った『光の炎』の魔道具と横並びで比較を示した。

 これなら、どんな馬鹿でも、魔法陣の形状が異なっているのは解るはずだ。

 

「これは、明らかに魔法陣だけ(・・)が違っているのは解りますよね。初めは正しく使えていたことから、これは途中でこのように書き換えられたと見るべきです。これはどういう訳か、是非、クロスビーさんに問いたいですね」


 俺はしてやったりと、相手からの因縁にこの証拠で反論した。

 俺は初めから、これは言い掛かりの詐欺だと思っていだ、その証拠を相手に突き付ける。

 ここでチンピラの顔色は一気に悪くなった。

 

「う・・・」

 

 何も言い返せないか。

 これでこの勝負あったな・・・俺はそう思っていた。

 しかし、ここで追い詰められた相手は逆ギレする。

 

「うるせぇ~っ!」


ドンッ!

 

 チンピラはナイフを取り出しい、壊した魔道具を上から串刺しにして怒鳴ってきた。

 

「キャッ!」


 まだ残っていた女性客や、新たに雇った女性職員の悲鳴が店内に響いた。

 

「俺を舐めんなよ、この若造め!」

「別に舐めていませんが・・・私は正しい事を申したまでです」


 俺は冷静に事実だけを述べる。

 ここで、下手に恐れては負けだ。

 俺はそっと護身用の剣の在処を確認した。

 万が一戦闘になった時を心配したが、流石にそこまでこのチンピラは馬鹿じゃなかった。

 

「俺達を莫迦にするな。せいぜい夜道に気を付けるんだな!」


 それだけ凄むと、ナイフを抜いて去って行く。

 後ろを確認すると、うちの新しく雇った職員は明らかにホッとしている様子。

 流石にエレイナは動じていないが、新人職員は明らかに緊張していた。

 他の残っていた客達も客同士て何かゴニョゴニョと話している様子。

 

(不味いな、悪い噂を立てられている・・・)


 俺は店のイメージダウンを感じて、敢えて大きな声でこう宣言する。

 

「これは困った・・・警備隊に相談に行ってくるか」


 お店の治安維持と、イメージを改善しないと・・・

 

 

 

 

 

 

 騒動があってから俺はすぐに街の警備隊の詰所へ相談に行った。

 

「すみません。店に暴漢が入って来て、因縁をつけられて困っているのですが・・・」


 俺はそう訴えて、その詰所に居る隊長が対応してくれた。

 

「どこの店で、何をやられたのだ?」

「エリオス商会です。売った魔道具が不良品だと因縁をつけられて、金品を要求されています。相手はルバッタ商会に所属するクロスビー魔道具師の小間使いのガラの悪そうな男です。ナイフを突きつけて脅されました」

「うむ。そうか・・・」


 恰幅の良い警備隊の隊長は、表面上は俺の話を真剣に聞いてくれた。

 しかし、結果的にはただ話を聞いてくれただけで何かアクションをしてくれる訳ではない。

 

「時々、警備隊の巡回コースには入れておいてやる」

「あのう・・・何かあってからでは遅いのですが・・・」

「怪我人が出たのか?」

「いえ、まだそこまでは・・・」

「それでは、我々もこれ以上は動けないのだ。商会同士のトラブルは我々の権威外だ」

「あの・・・今は、相手から刃物で脅されている状態なのですが・・・」

「それでも、まだ、誰かが刺された状況じゃないだろう」

「そうですが・・・」


 駄目だ。

 話にならない。

 こいつは初めから市民の安全を守ろうなんて気持ちは存在しないらしい。

 

「それならば、アドラント・スクレイパー様にお目通りできませんか?」

「警備隊管理局の局長様に!?」


 俺はヴェルディ時代の友人の名前を出してやった。

 奴は警備隊をまとめる総隊長の家系であり、今は管理局の局長の任をしている筈。

 つまり、この隊長の上司の上司となる訳だ。

 隊長の顔色が変わった。

 俺の相談事を商会通しのいざこざと決めつけていたが、これは真面目に対処しなくはならないと思い直したようだ。

 

「一介の商会が局長にお目通りなんてできないだろう!」

「いや、私も一応の貴族ですから、無碍にはできないでしょう」

「よし解った。明日から巡回してやる」


 そがこの男はこれが限界らしい。

 これがラフレスタの警備隊の実力か、話にならんな・・・

 俺は市民を守る責務を果たさない警備隊組織にガッカリして、他の手段を考えることにする。

 一端、エリオス商会に戻り、そこでエレイナに声を掛ける。

 

「エレイナ、ちょっと私に同伴してくれ。ああ、商会ギルド本部に行く」


 俺は行き先を告げる。

 商会ギルド、それはこのラフレスタの商会の組合だ。

 商会同士のトラブルならば、あそこならば、相談に乗ってくれるだろう。

 俺はエレイナを伴い、貴族街にある第一地区の立派な建物へと向かった。

 その受付で組合(ギルド)長の面会を申請すると、直ぐに許可される。

 やはり、エレイナを連れて来て正解だな。

 セレステア家はここでも名が通っている。

 受付嬢もエレイナの顔を観て、セレステア家の者だと解ったようで、緊張の色が伺えた。

 こうして、我々はギルド長の執務室へと通される。

 そこには老練の少し痩せた男が執務していた。

 

「おお、これはライオネル・エリオス君か、そこに掛けたまえ」


 ソファー勧められたので、俺とエレイナは席に着いた。

 このギルド長、実は今回が初めてではない。

 ギルド長の名前はグローナット・アイザック。

 私と同じように貴族籍を持つこのギルド長は俺が商会の商品の取り扱いの幅を増やしたいとしたときに、エリオスの父から紹介された相手だった。

 商いを盛んにしようとする俺に好意的で、様々な新たな取引先を心地よく融通してくれたのだ。

 俺に対しても友好的な人物である。

 

「実は・・・」


 俺はチンピラに因縁をつけられている現状を正直に相談した。

 

「そうか・・・それは大変だな。店の治安維持もあるし、相手はクロスビーか・・・」


 グローナット氏もそのチンピラの親玉の魔術師のことを知っているようだ。

 

「クロスビーはルバッタとは旧知の仲だ。あまり良い噂がない。ルバッタ商会の件については・・・調べておこう」


 グローナット氏はギルド長として今回の案件を調べてくれるようだ。

 これも具体的にはあまり進展ないが、それでも俺は気分的に楽なった。

 やはり、ギルド長として頼れるところがある。


「ありがとうございます。私の方は店の警備を強化します。トラブルになってからでは拙いですから」

「その方がいいだろう。傭兵のコストは掛かるが、商いは安全あってのものだ。相手もチンピラ如きだろうから、それほど恐れることもないだろうが・・・腕の良い傭兵を紹介してやろう」


 ギルド長も俺の警備強化には賛成してくれた。

 このご時世、我が身は自分で守らないといけない・・・警備隊だけでは当てにならないので尚更だ。

 こうして、商会ギルドから店の警備強化のための傭兵数名を手配して貰う。

 コストは掛かるが、客や自分達に危害があってはならない。

 

「エレイナ、お前も気をつけるんだぞ」


 俺の心配に彼女はニコっと笑顔で返し、護身用のレイピアをポンと叩く。

 そうだ、こいつは俺よりも強い魔法戦士だった。

 自分の身は自分で守れる女だった・・・

 

 


2021年5月7日


登場人物を更新しました。

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