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ラフレスタの白魔女 外伝  作者: 龍泉 武
第三部 ヴェルディの野望
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第八話 監視役


「どうして、アイツがいるんだ!?」


 そんな俺の感嘆は、彼女(エレイナ)の微笑みによって雰囲気が上書きされる。

 

「あらあら、エレイナさん。申し訳ないわね。うちの息子はそのあまり女性に慣れていないのよ」

「いいえ、気にしませんわ。エリオス夫人」


 朗らかにするエレイナの笑顔は他人受けの良さそうな雰囲気を溢している。

 しかし、俺はお前の本当の顔を知っているぞ・・・無表情なゴーレムのような顔、『使命』とか言う言葉に取り付かれて、自分の感情を押し殺した表情がお前の本当の顔だ。

 エリオスの父母に慕われようとしているのだろうが、俺は騙されん。

 

「こらっ! ライオネル、お前も挨拶せんか!」


 エリオスの父より叱咤される俺。

 

「ライオネル様、よろしくお願いします」


 エレイナは俺に向かって握手を求めてきた。

 俺は躊躇したが、結局、エリオスの父から急かされてその手を取ってしまう。

 それはとても柔らかい手だったが、ここで俺は思ったよりも力強く握ってしまったようだ。

 

「い、痛い!」

「す、すまない」


 非友好的と捉われかねない俺の握手行為だが、俺の心のどこかで感じていた彼女に対する警戒感が現れたのかも知れない。

 

「エレイナさん。ごめんなさいね。息子は女性が苦手なのよ・・・」

「いいえ、気にしていませんわ、エリオス夫人」


 エレイナは何とでもないと答え、好感度を上げてやがる。

 くそっ!

 俺は心の中で自分と彼女を罵った。

 

「そうそう、荷物は部屋に運んでおいたわ。部屋を案内しましょうね」


 エリオスの母とそんな会話をして、彼女達はこの場から去る。

 この応接室に残されたのは俺とエリオスの父。

 

「どういうつもりだ?」

 

 俺は遠慮なく、エリオスの父に誰何する。

 ここに主語はないが、勿論、今回のエレイナの件だ。

 

「どういうつもりも、何も、今あったとおりだ、ライオネル。彼女としては『自分の才能をこの商会で試したい』との希望で、このエリオス家でセレステア家の末娘エレイナ嬢を引き取ることになった」

「引き取るだと?」


 俺は呆れ半分にそう聞き返す。

 

「そうだ。実は、私は昨日セレステア家の当主に呼ばれて会ってきたのだ」

「セレステア家の当主と言うのはエレイナの父のことか?」


 エリオスの父の回りくどい言い回しに俺は一応確認する。

 

「そうだ。お前も知ってのとおり、先日、ヴェルディ様がお亡くなりになられた。その原因は噂に広まっているとおり、訓練中の事故だったらしい。その訓練の相手が、あのエレイナ嬢だったようだ。それは勿論、訓練中の事故であり、エレイナ嬢に責任はないが、貴族というものは対面もある。対面上の責任を取る形でセレステア卿は要職を辞し、そして、エレイナ嬢はセレステア家から放逐された。一応、本人からは『自分の実力を試してみたい』と希望としているが、それは表向きの理由だ。まだ若いのに可哀想だと思わないか? 快く引き取ってやるのも情けだ。それにセレステア当主からはもし、本人達が合意すれば、婚姻しても構わんと言われている」

「ん? 婚姻?? 俺とか?」

「そうだ。悪い話ではないだろう? ライオネル」


 エリオスの父からバンバンと肩を叩かれて、「美人でよかったなぁ~」と祝われた。

 頭の痛くなる思いだ・・・

 それにこの話には微妙に嘘が混ざっている。

 これは真意を確かめる必要がありそうだ。

 それを聞くのは本人に問い質した方がいいだろう・・・

 

――暫くって経ってから、俺はエレイナの部屋をノックする。


コン、コン


 「はい、どうぞ」

 

 何の警戒も無く、扉を開けるエレイナ。

 俺は、サッと足を挟み込んで、扉が閉められるのを阻止した。

 剣呑な俺の雰囲気に気付き強張るエレイナ、しかし、もう遅い。

 

「単刀直入に聞こう。お前は(グル)なのだろう?」


 俺は遠慮なく彼女にそんなことを聞く。

 エレイナはこの質問に対して、一瞬どう答えるか迷ったようだ。

 

「俺がコイツの身体に入っているのを解っているのだろう? 大方、ジョージオ兄側から俺の監視をしろと言われたのか?」

「・・・」


 俺は単刀直入に聞いてやった。

 エレイナからの反応は無言、その反応は俺の質問に対して『肯定』を意味している。

 

「俺はまんまとお前達の策に嵌った。だがな。俺はこのままでは終わらない男だ。ここからのし上がり、ラフレスタを支配してやる!」

「・・・小さい・・・」

「ああん?」

「小さい男ですね・・・そんな事をして一体に何になるのですか! そんなことをしてもラフレスタの為にはならない」

「何を言うか、俺様がラフレスタを支配すれば、ここはもっと発展するぞ。セレステア家も帝国有数の力を持てるようになるかも知れない」

「それがラフレスタ家の為、エストリア帝国の為になるのですか?」


 ここでエレイナは無表情になる。

 それは澄ました顔であり、元々が整った顔であるだけに、余計に冷たいと感じてしまう。

 これだ、これが俺の知るエレイナの本当の顔、無表情な顔だ。

 自分に言い付けられた『使命』と言うものを盲目的に信じて疑わない顔、俺の最も嫌いな顔、決まった事を慣例として受け入れて思考停止に近い表情、まるでゴーレムのような表情、だから俺は彼女を不憫に思う――ここで中途半端な情けを掛けてしまった。

 

「となると、俺が悪いことしないように、お前が監視役に駆り出された訳だ。可哀想な奴だな。お前まだ十五だろう? 学校はどうした?」


 エレイナはここで俺から莫迦にされたと感じたのか? 眉をキリっとさせて反論してくる。

 

ライオネル様(・・・・・・)、お気遣い、ありがとうございます。生憎、先日、十六になりましたので、中等学校は卒業しました。私はこの商会に来た目的は自分の実力を試したかったからです。これからもよろしくご指導、お願いいたします、ライオネル様(・・・・・・・)


 俺の事を絶対にヴェルディ・ラフレスタだと解っていて、まだシラを切るエレイナ嬢。

 白々らしく虚勢を張る姿を見て、このときの俺は無性に腹が立った。

 意地悪をしてやりたくなる。

 男の恐ろしさを教えてやるか。

 俺はここで彼女を押して倒し、ベッドの上に仰向けにさせて、彼女の身体の上に伸し掛かる。

 まるで暴漢が少女を乱暴するような姿だが、ほぼそのとおりの展開だ。

 

「キャッ!」

「エレイナ・セレステア!! 俺を舐めるな! このままここで犯して、強制妊娠させてやってもいいのだぞ!」

「・・・それこそ、望むところです。そうすれば、子供を人質に取り貴方に言う事を利かせられますから」


 彼女も負けず嫌いの性格なのか、平気でそんな反論をしてくる。

 それにしてもヤバイ、コイツの身体は意外に柔らかいぞ・・・痩せているように見えて着痩せするタイプなのか?

 俺はここでエレイナの女性の身体の柔らかさを身体で感じてしまい、この状況のままでいるのは危険だと思った。

 自分から襲っていて変な話だが、ここで興奮して、この女に夢中になってしまうと何かに負けてしまう・・・そんな本能に従って彼女を解放した。

 

 エレイナの姿を見ると押し倒した時に乱れた服装を直している。

 そこから覗く彼女の可愛らしいお臍が見えて、俺は何故か恥ずかしくなり、視線を逸らしてしまった。

 

「く、馬鹿野郎。早く服を整えろ!」

「それはライオネル様が迫ってくるからでしょう」

 

 そんな彼女の抗議は尤もであり、反論できない。

 

「と、ともかく。これ以上俺に構うな。ここで俺を見張っていてもエレイナの人生の浪費にしかならない。明日の朝、荷物をまとめて帰れ! いいな!」


 俺は彼女からの返事を待たずに、ドアを激しく閉めた。

 

 

 

 次の日の朝、エレイナはまだ居た。

 朝食後のお茶を淹れる彼女。

 

「どうしてまだ居る?」


 俺は不愉快を隠さずエレイナに聞いた。

 そうすると彼女は不敵な愛好を振りまく姿は変わらない、寧ろ、昨日よりも強くなったような気がする。

 

「お茶の味はいかがでしょうか? ライオネル様(・・・・・・)。私はエリオス商会の現会長様から本日より次代会長(ライオネル様)の秘書の役を承りましたので、お茶を淹れる作法を披露させて貰っています」


 見てみるとエリオスの父がサムズアップしている。

 仲良くやれという合図だろう。

 そのやりとりに、エリオスの母もニコニコ顔だ。

 愛息子とエレイナ嬢とのやりとりを彼らなりに楽しんでいるようだ。

 優しい陽光が降り注ぐ朝食後の温かい風景・・・それは平和で暖かかった。

 そんな暖かいエリオス家の雰囲気を壊したくないと感じて不承不承だが頷いてやる。

 

「まぁまぁ、旨いな・・・」


 そんな俺の照れ隠しの行動にニコニコ顔を崩さないエレイナ・・・

 昨日の無表情な顔よりもこの姿の彼女の方が百倍良かった。

 俺の新しい人生だ、こんな日常も悪くないと思えてしまった・・・

 俺も甘い男になったな・・・そう思える瞬間だった。

 

 


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