第一話 最近のヴェルディ・ラフレスタ
帝国歴一〇〇六年の夏の朝、俺は目覚めた。
夏でも比較的過ごしやすいとされるラフレスタだが、昨夜は特別、暑苦しい夜だったと思う。
それは気候の影響だけではない。
同じベッドの傍らで眠る女の影響だ。
そう思った俺は怠惰に眠る隣の女を揺する。
「エルガ。起きるがよい。もう朝だぞ」
「ん・・・ヴェルディ様・・・ハッ!」
彼女は俺に起こされたことに驚いたようで、急に覚醒した。
飛び起き、そして、自分の身体を毛布で隠す。
何も着ない事実を今更理解したようで、その慌てぶりは見ていて可笑しい。
「エルガ、何を今更・・・昨日はあれほど楽しんだではないか?」
俺はできるだけ彼女を称賛する言葉をかけてやったつもりだが、それでもこの女の顔を観れば、その行為に少し後悔が混ざっているのを解る。
「ヴェルディ様、あれは・・・あっ」
否定的な何かを発しようとしているこの女に、俺は唇で塞いでやる。
そうするとこの女の緊張が少し緩んだ。
少し頭の悪い女だと思っていたが、ここだけは解る奴だと評価できる。
だから俺は助け船を出してやれる。
「昨日の夜はまやかしだ。これは俺達だけの秘密にしよう」
「・・・ええ、そうですわね。私にも主人と子供がいますから・・・」
遠慮がちにそう言うも、この女は俺からの提案について納得したようだ。
そう、彼女との関係は遊びである。
このエルガという名前の女は俺様の配下の貴族女性のひとりだ。
子供もいる既婚者だが、それでも美人でスタイルがよい。
まだ若く、齢の離れた夫では満足できないらしく、火遊びをしたがっているとの情報を得ていた。
だから、俺が遊んでやったのだ。
昨日の夜は互いにまあまあ楽しかったが、それでも今朝のこの女の顔を観れば、少しは後悔もしているようだ。
今更に不貞を働いたことに罪の意識が芽生えたのだろうか?
しかし、それは俺にとってどうでもいいこと。
エルガと彼女の夫との関係がどうなっても、俺の人生には関係ない。
そして、咎められることもないだろう。
何故なら、俺は偉いから。
俺様はラフレスタ領を治める領主の息子だからだ。
この程度の遊びでラフレスタ貴族の頂点に君臨する俺を貶めることなどできないのだ。
そんなことは俺がもう少し莫迦だったとしても解るぐらい簡単すぎる事実。
「さあ、早く服を着てくれ。もうすぐ執事と侍女が来る・・・それと、出るときは裏口を使ってくれよ。右側のドアから出て、そこから三つ先にある左ドアを開ければ中庭へと抜けられるから」
私の言葉に無言で相槌を打ち、指示に従う彼女。
美人が慌てて服を着る姿は滑稽であり、見て楽しい。
俺の密かな娯楽だ。
そんな気持ちで鑑賞していると、服を着た女が俺の指示どおり裏口から出ていこうとする。
「ヴェイルディ様。それではまた」
彼女は俺との再びも期待しているのだろう・・・
別れ際にそんなことをほざく。
俺は出来るだけ爽やかな笑顔で女を見送った。
そして、ドアが閉まった。
その直後に、俺は溜息をひとつ吐く。
「ふん、下賤で下品な女め! お前なんて一度寝れば十分だ」
俺は机の引き出しから秘蔵のノートをひとつ取り出す。
ノートにまとめていた表一覧からエルガの名前を探し出すと、その欄の脇に×印を付け、そして、四点と書いた。
「スタイルと顔はまあまあだったが、女としてはいまいち。頭も悪かったしなぁ」
俺独自の採点方法で彼女の価値をそのように評価する。
十点満点中四点なので、まあまあといったレベルだろう。
そんなデータを表にまとめるが、今までの最高点は七点であり、世の中は高得点を出せる女がどれぐらい少ないかを思い知らされる。
「これでまだ三割か・・・」
俺は他にも書かれた名前の一覧を見てそう呟く。
このリストには俺独自の情報で得た、関係の持てそうな女の名前をズラリと書いてある。
そのうちの三割の攻略をようやく終えたところだ。
「ひとり一週間かけたとしても、これではあと一年半もかかるってしまう・・・スピードアップしなくてはならないな」
俺は残された女達の攻略をどうやって短縮できるか考えながら服を着る。
人をどうやって屈服させられるか、どうすれば意のままに操れるか、それに頭を使うはとても楽しい。
そう、これは俺が最近考えた遊びのひとつである。
最近、暇を持て余している俺には、こんな余暇が必要なのだ。
「それにしても世の中は莫迦な奴らばかりだなぁ・・・いや、俺が天才過ぎるのだろうか。ハハハハ」
俺の乾いた笑いが部屋へ木霊する。
そうしていると、朝食と朝の身嗜みを整えるために執事と侍女が部屋へとやってきた。
俺は自分の予想どおりに進む展開に、口角をニヤッと挙げるのであった。
ヴェルディはゲス野郎です。
しかし、描いていてペン踊る俺がいる(笑)
次の更新は金曜日となります。(定期更新が木曜日と書いてしまいましたが、正しくは金曜となります)お楽しみに。




