第二十九話 エピローグ
こうして、後のエストリア帝国で確固たる地位を築くアストロ魔法女学院は設立された。
その後のエピソードを少しだけ述べておこう。
帝国歴七百年に設立されたアストロ魔法女学院。
始めはラフレスタ居城内の一室で細々と始めた学校であったが、二年後の七百二年には現在のラフレスタ第二地区内にて学校をしている。
これは初代学長であったアストロリーナが時々放つ強力な魔法によりラフレスタ城の壁がよく破壊されたことも理由のひとつだが、それに加えて、このアストロ魔法女学院の魔女更生クラスが中央政府から好調であり、ラフレスタ城内の一室では立ち行かなくなったことにもよる。
この頃の帝国国内には強力な素養を持った魔女が多く存在していて、そんな彼女達が悪事を働くことも多かったようで、その収監先としてアストロ魔法女学院が重宝がられたのも背景にあった。
このアストロ魔法女学院を生涯の永きに渡って運営したのはグレイニコル・ラフレスタ理事、イザベラ・ラフレスタ副理事、アストロリーナ・ラフレスタ学長の三名である。
彼女達の元で優秀な生徒が数多く育っており、その後のエストリア帝国の魔法文化発展に多大な貢献をしたとされている。
帝国中央政府の宮廷魔術師長に就任した者や、魔術師協会の総会長、紋章学の権威、魔道具職員組合の代表など、帝国の要職に就いた者の名は数えきれない。
要職に就かないまでも、この学校の卒業生は魔術師として一流の腕を持つために、地方で弟子を取るなどで帝国の魔術師の価値をひと段階上げたとも言われている。
卒業後、教員としてこの学院に残る魔女も沢山いた。
こうして彼女達が生活するアストロ魔法女学院は生活に必要な多くの需要が発生し、それを賄うためにラフレスタで商取引が活発になる。
そこがラフレスタを商業都市としても有名にしたところであり、帝都ザルツから馬車で三日ほどの距離だったため、人が集まるのも容易だった。
そうなると街の規模はどんどん大きくなり、そこに新たな需要が生まれる。
こうして街は益々大きくなり、やがてここに次の大規模な学校である『ラフレスタ高等騎士学校』が設立されると、ラフレスタは学園都市としての機能が着目されるようになった。
こうして需要が益々拡大していき、気が付けば三重の城壁を有する帝国有数の城壁を持つ学園都市に変貌して行く。
街の人口が増えたため、税収も一気に上がり、ラフレスタはエストリア帝国で屈指の富に恵まれる都市へと発展する原動力となったのだ。
ラフレスタ領主に伯爵号が与えられたのもこの時である。
それはこの都市の活躍を永年気に入っていたエトー帝皇からの報奨でもあった。
エトー帝皇は辺境開拓であれほどの被害が出るとは想定していなかったようだ。
あの時に失われた命の中には、デリカス卿のように困った旧貴族には死んで貰いたが、それ以外の、できれば死んで欲しくない旧貴族の命もあったと言われている。
自分で発案した事とは言え、エトー帝皇はあの惨事の後、気を悩ますようになったようだ。
その反面、かなりの数の旧貴族が家ごと滅亡してしまったため、彼らに宛てる予定だった交付金が減り、その事により帝国の収支は大幅に改善して、懸念されていた財政難は短期間のうちに解決できてしまった。
そういう意味では目論見どおり、いや、その後に発生した旧貴族同士の権力争いにより、結果的に旧貴族全体の勢力がかなり弱体化したので、思っていた以上の成果があったりする。
皮肉な結果である。
その後のエトー帝皇は旧貴族に何かと便宜を図ることも目立っていた。
それは自分のしでかした贖罪のためだと言われているが、詳細は本人しか解らないため、定かにはなっていない。
そんなエトー帝皇のお気に入りのひとりが、グレイニコル・ラフレスタであった。
彼を辺境開拓の英雄と称え、グレイニコルが推し進める魔法女学院の設立に多大な協力をしたとされている。
エトー帝皇としても本来ならばこのグレイニコル個人に爵位を与えたかったようだが、それは本人から丁重に断られたようだ。
そんな無欲の偉人がグレイニコルという人物の評価である。
そして、彼の第一の妻であるイザベラ。
彼女の評判は後の歴史に残る記録を見ると、あまり良くはない。
辺境開拓後、グレイニコルとの婚姻を果たした彼女は一介の家庭に入る・・・こともなく、グレイニコルの女学院運営を一身に補佐した。
学院の経営を切り盛りし、何らかの交渉時には必ず出席して相手の貴族と折半するのがイザベラの役割だったようだ。
イザベラはアストロ魔法女学院の利益を優先するあまり、強引な交渉をする事も多かったと記録に残っている。
交渉相手であった一部の貴族からは、イザベラが強欲の夫人として忌み嫌われていたが、その噂を流した貴族が学院の経営を乗っ取ろうと暗躍していたことが後から解ったりする。
このことから、彼女の悪評のみを信じるのは不公平であろうと思う。
そんな気の強い性格のイザベラだったが、夫のグレイニコルとの仲はとても良く、その後にふたりの子を出産している。
そして、このイザベラが生涯で最も仲の良かったのは第二夫人であるアストロリーナであった。
世間の一般論として、第一夫人と第二夫人の仲はあまり良くないのがこの世の中の常であるが、彼女達の友情は夫であるグレイニコルという存在を共有しても崩れる事は無かったとされている。
それもグレイニコルの持つ優れたバランス感覚であるとされているが、詳細は彼女達しか解らないだろう。
そんなグレイニコルには生涯の友としてヒューゴ・デン・クリステという存在がいた。
辺境開拓時代に知り合った彼らだが、その後も友誼は続き、これが帝国で西のラフレスタ家と東のクリステ家の交流の始まりとされている。
そんな彼らはアストロ魔法女学院において郊外活動をする際に『エストリアの夜明け』という傭兵団(と言うよりも冒険者に等しい規模)で活動をしていた。
その傭兵団に必ずと言っていいほど参加していたのがこのヒューゴなる人物だ。
リーダがグレイニコル、魔術師アストロリーナ、射手イザベラ、戦士ヒューゴという主要メンバーで行った数々の冒険は、その後のエストリア帝国でもよく御伽噺に出てくる。
ナナでの岩亀の退治、リドル湖に潜む大水蛇との戦い、クローツでの海賊との攻防など、帝国の縦横無尽に冒険している彼らは、今でも子供たちに人気の御伽話だ。
無敵の強さを誇っていた彼ら『エストリアの夜明け』は当時の同業者から多く妬まれていたとされているが、『エストリアの夜明け』に依頼したのが殆ど帝国中央政府からであったため、他の傭兵が競合になる可能性は低い。
つまり、これについても『エストリアの夜明け』の活躍を妬んだ悪意のある噂話であろう。
その傭兵団の活躍にいろいろな伝説を持つ『エストリアの夜明け』の中で、最も有名なのがアストロリーナという魔術師の存在だ。
彼女の行使する魔法は人間離れしていた。
ある時は見渡す限りの海を凍らせたとか、千匹の魔物を地の果てに飛ばしたとか、リドル湖を半分干上がらせたとか、どれも信じがたい。
彼女が本気になると髪が蒼い状態になるのだが、その姿を見た者はあまりいない。
その姿を多くの人の前で晒したのは、彼女がかつて辺境の奥地で銀龍と対決したときの一回のみとされている。
そんな本気の彼女の姿をいつでも見られるのが、アストロ魔法女学院の敷地内であり、この姿見たさにエトー帝皇がここを訪れた事もあるらしい。
ラフレスタ居城近くに帝皇一族の別荘があるのはその時の名残だとされている。
そんな最強の魔女アストロリーナは夫であるグレイニコルとの間に三人子供を残している。
ただし、その子供達にはアストロリーナの優れた魔法素養は遺伝しなかったようで、周囲からとても残念がられたと記録に残っていた。
しかし、当の本人達はこれで厄介事が減ったと笑っていたらしい。
そんな、グレイニコル達は晩年、アストロ魔法女学院の運営からはきっぱりと引退する。
自分達の信頼できる者に学院の運営を委譲した彼らは、その後に彼らがの出会ったマースに引越しした。
それは自分達がラフレスタに居ては、その影響力が悪い意味で学院に及ぼしてしまうと思ったようで、これを避けた事がマースに引越した理由であったようだ。
子供達も既に一人前となって巣立ち、晩年は残された三人でマースのリドル湖畔に屋敷を構えて、静かに老後を暮らしたとされている。
そんな偉大な先人達が造った学院―――アストロ魔法女学院は、今日も帝国で最強の魔女を育成する学校機関として変わらぬ役割を果たしているのだ。
歴史研究家ダン・マール著「アストロ魔法女学院の創生とその後の備忘録」より
ラフレスタの白魔女 外伝 第二部
『蒼い髪の魔女』 完
2020年2月15日
ご愛読ありがとうございました。
これにて外伝の第二部が完結しました。明日、登場人物を投降して完了とします。
次の外伝はしばらく先となりますが、来週月曜日からは本編『ラフレスタの白魔女/第二部』を投降開始いたしますので、そちらをお楽しみください。
今後ともラフレスタの白魔女シリーズをよろしくお願いいたします。




