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ラフレスタの白魔女 外伝  作者: 龍泉 武
第二部 蒼い髪の魔女
52/172

第二十七話 魔法女学院の初代学長

 

―――辺境開拓事業から三年の月日が流れて、ラフレスタ領のいち場面から物語が始まる。

 

 「さぁ、出ろ。魔女め!」

 

 荒々しい言葉と共に馬車の扉が開けられる。

 差し込む光がやけに眩しい。

 魔法阻害の措置をした窓のない密室の馬車に入れられていた私にとっては、まだ目が慣れていないのだろう。

 

 「うるせぇな。今、出てやるから、いちいち怒鳴るなよ!」

 

 私は苛立って、護送してきた兵にそんな愚痴を言う。

 私の名前はブリューエ。

 帝都ザルツでは『魅惑の魔女』としてちょっとは名の知られている存在だった。

 生まれ持つ幻惑魔法の才能にはちょっと自信がある。

 幻惑―――つまり、人に幻を魅せる魔法―――そんな才能を持っていりゃあ、それを使わなきゃ損って事で、貴族の坊ちゃん達に次々と掛けまくった。

 彼らに甘い幻惑を見せて金品を巻き上げる。

 所謂、詐欺師が私の生業って訳。

 それがチョイとしたヘマをやらかして捕まっちまった。

 畜生め。

 悪い魔女は裁判で死刑になるってのが定番らしいけど、最近はちょっと違っていて、ここの『施設』に送られることになったらしい。

 一応、送り込まれる前に施設行きと死刑執行のどちらがいいかって聞かれたけど、(アタイ)には命が助かりゃなんでもいいね。

 迷わずこっちを選んでやったさ。

 そしたら即日でこの魔術師護送用の特殊な馬車に放り込まれて、昼夜問わず二日間走りっぱなし。

 やっと着いたと思えば、いきなり外へ出ろと怒鳴られる。

 これで不機嫌にならない奴など、聖女か、脳足りんぐらいだぜ。

 

 「ふん!」

 

 私はそんな短い不満の鼻音を漏らし、馬車から降りた。

 そして、周囲の様子を確認すると、重厚な石造りの目新しい建物があった。

 まだ建設途中なのか、所々が工事中のようで、門と思わしきところには「ラフレスタ領〇〇〇〇魔法女学院」と書かれている。

 この〇〇〇〇の部分はまだ彫刻が入っていない。

 製作中のようだが、私にとってはどうでもいい。

 それよりも、どうやら私は帝都ザルツの隣領であるラフレスタ領に護送されたようだった。

 

 「こんな田舎に(アタイ)を護送しやがって」

 

 私は自分を束縛した帝都警備隊に所属する女魔術師の顔を思い出し、再び悪態をついた。

 それを見た兵が私に近寄ってくる。

 私はまた殴られるのかと思い身構えてしまったが、兵士のした事は私を拘束している腕枷を外したことだけだった。

 

 「え?」

 

 ここで思わず予想外の声をあげる。

 魔術師の枷と呼ばれる魔法を無効化する魔道具を、ここで解除されるとは思っていなかったからだ。

 つまり、これで(アタイ)は自由に魔法が使えるという事なる。

 

 「どういう事?」

 「ここではこんなもの不要だ、という意味だ」

 

 若い兵は私にそう答えた。

 それを聞いて、私は顔をニィ~っと歪める。

 

 「(アタイ)を舐めているわね」

 

 私の事を普通の魔術師と思っているのだろう。

 しかし、私は天才だよ。

 幻惑の魔法を無詠唱で放てるのさ。

 私を荷物のよう扱ったこの若い兵にどんな幻を魅せてやろうか。

 生きたまま紅蓮の炎に焼かれる経験がしたい?

 それとも、臓物を引出して魔物に食べられる経験の方がいい?

 それとも・・・

 私が少しだけ魔法の選択に迷っていると、水をかけられた。

 

 「キャッ!」

 

 私は女らしい悲鳴をあげてしまったが、この水は魔法によるものだった。

 つまり、私は誰かに魔法の水を浴びせられた。

 少し寒くなり始めたこの季節、身体にローブが張付いて気持ち悪い。

 私は魔法の水を浴びせた犯人を捜し、そして、すぐに見つけた。

 ふたりの女魔術師がこちらに向かって歩いてきたので、すぐに犯人が解ったのだ。

 黒色ローブと灰色ローブのふたつ。

 私に向かって魔法を放ったのは黒色ローブの方である。

 直感で解った。

 そして、黒色ローブの女は偉そうにして私に向かってこう言ってきた。

 

 「また、威勢がいいのが入って来たわね。ここでは魔法を無暗に人に放ってはいけない」

 「ふざけた事を言うな! 今、(アタイ)に向かって水の魔法を無暗に放ったのだろう、テメェーッ!」

 「それはアナタが幻惑の魔法を放とうとしていたからよ! 調子に乗らないで頂戴。この学院では無暗に魔法を放ってはいけない。それが校則其の一」

 「何ィーっ!」

 

 すぐ頭に血が昇った。

 私は攻撃の標的として、この高慢に喋る女へ向けることにした。

 そして、幻惑の魔法を発動。

 地獄の業火に焼かれて死ね。

 どうだっ!

 私は自分の魔法が発動するのを待つ。

 しかし、いつかまで待ってもその効果は発せられなかった。

 

 「貴女は無詠唱で幻惑の魔法をお使いになるようですね。私が相克の魔法を使わせて貰いました。貴女の魔法は発動できませんわ」

 

 そう言うのは黒色ローブの隣にいた灰色ローブの魔術師だ。

 先程の黒色ローブもそうだが、こちらも無詠唱で魔法の放てる玄人か!

 しかも、私と同じ幻術使い・・・ん? どこかで声を聴いたような。

 相手もそう思ったらしく、灰色ローブのフードが開らけた。

 

 「どこかで見た事がのある顔・・・そして、覚えのある魔力の感覚・・・貴女、ブリューエですわね」

 「えっ! もしかして、アリアか??」

 

 私は思わぬところで会う知人に驚き顔になってしまった。

 アリアとは、自分の同業者―――幻惑魔法で人を惑わす魔女だった。

 しかも、アリアは結婚詐欺が専門。

 魅惑で男を惑わす術は娼婦以上の手腕で、あの手この手で男を手玉に取る。

 彼女に骨抜きにされた貴族男性など十じゃきかないほどエロい売女(ばいた)なのだ。

 それが何だ。

 今はまるで聖女のように清楚な女になっている。

 以前の彼女の姿を覚えている私でも、元の彼女の姿を想像できないぐらいの変貌だ。

 確かアリアは一年前に捕まり、そして、ラフレスタの施設に収監されたと噂で聞いていた。

 その施設の名前を思い出し、ここで私は同じ施設に入れられた事を理解する。

 それと同時に、とある噂も思い出した。

 

 「そうか、ここが例の魔女学院だねぇ」

 

 そんな私の邪な顔にアリアが反応した。

 

 「ブリューエ。貴女、一体何を考えているの。ここで問題を起こすことは赦されないわよ」

 「へへ、アリアの姿を見てピーンと来たわよ。アンタがここに居るという事は、ここは例の学院に違いないねぇ。それにいい()ぶっちゃって、本当に淑女になったつもり? アンタがどれだけ男好きだったかはよく知ってんだよ」

 「止めて、ブリューエ。私の過去の話は駄目。私はここで生まれ変わったのだから」

 「気持ち悪いのはテメェの方だよ。この女郎め! それよりもここが噂どおりの場所ならば理事長はあの男だろ。辺境開拓の英雄グレイニコル・ラフレスタ」

 

 私の言葉を否定しないアリア。

 収監の際、どこの施設に移送されるかは教えてもらえなかったが、これでハッキリした。

 

 「まぁ見てな。(アタイ)の魔法で理事長の男をゾッコンにしてやるよ。あの希代の英雄様は相当に甘ちゃんだと有名じゃないか。英雄気取りの若造なんて(アタイ)の熟練の幻惑の技で虜にしてやるさ。そうすれば、(アタイ)はここで自由になる。そうなれば、アリアもそんな更生したフリをしなくて良くなる」

 

 私の言葉に絶句するアリアとその隣の黒色ローブ。

 何んだ? こんな簡単な事などアリアだってできるじゃないか?

 そんなに無理して更生したフリなんかを続けていると、身体に悪いぜ。

 そんな事を思っていたら、そのふたりは私に向かって慌ててこう言った。

 

 「何を言っているんだ、この愚か者め。死にたいのか? グレイニコル理事長様のことを手玉に取ってやるなど、そんな発言は今すぐ撤回しろ」

 「そ、そうよ。悪い事は言わない。ブリューエ、あの地獄耳の学長のことだから絶対に今の暴言を聞いているわよ。今すぐ謝りなさい。さもないと・・・」

 

 何かに怯える彼女達。

 一体何に怯えているのだろう言うか?

 私がそんな事を思っていると、急速にどこからともなく暗雲が立ち込める。

 そして、大きな声が響いた。

 

 「聞・こ・え・た・ぞーーー!」

 

 「わわっ!」

 

 その声に、私は慄いてしまう。

 それはあのふたりも同じだ。

 

 「が、学長だ。拙い、やはり聞こえていたようだ。おい、新入り、早く謝れ!」

 「そうですよ。最近は理事長が第一夫人と旅行に出かけてしまったので、今の学長は大層機嫌が悪いのです。早く謝りなさい。殺されますよ!」

 

 アタフタと慌てるふたりに、私は正直理解が追い付かない。

 それに、この空を覆いつくすほどの暗雲も尋常な魔法ではない。

 私を護送してきた兵達も何事かと不安な様子だ。

 もし、これが本当の魔法ならば、確かにすさまじい魔力。

 しかし、私はこれぐらいで驚かない。

 そう、私はこの魔法のカラクリが解ってしまった。

 これは幻惑魔法であり、幻なのだ。

 そうでないと説明できない。

 こんな魔法を本当に現実世界で放てる者など、もはや人間レベルではないのだから。

 

 ピカピカ、ドーーーーン!

 

 私の近くで落雷。

 地面の石畳が破壊されて、粉々になった石が飛んでいた。

 

 ヒューーー、ドンッ!

 

 「い、痛てぇー!!」

 

 その石塊の何個かが私の身体に命中したので、とても痛い。

 ふ、凝っているじゃないか。

 幻惑にしてはリアリティあるじゃない。

 そんなことを思ってしまう私は、その落雷の中心に人がいるのが解った。

 蒼い髪をした美しい魔女だった。

 

 「げっ、が、学長ぅ!」

 「ヤバッ! ブリューエ、逃げてぇ~!」

 

 アリアの演技がついにボロを出したようだ。

 淑女のフリなんてアナタなんかには無理なのよ。

 そんな事を思い、少し鼻で笑ってしまった。

 そんな私を学長と呼ばれる蒼い髪の魔女は見下したように挑戦的な笑いを浮かべた。

 

 「やい、マイヤ。そこの新しい魔女がブリューエとかいう者かなぁ?」

 

 途方もない魔力を感じさせるこの女性だったが、身長は少し低く、言動にも幼さがあり、私はあまり脅威を感じなかった。

 なんだ、コイツが学長か?

 

 「はい。アストロリーナ学長。彼女がその新入りです」

 

 しかし、黒色ローブのマイアと呼ばれる女性はそんな幼そうな学長に対して姿勢を正し、緊張している様子だった。

 

 「何やら聞くところによると、アリアと知り合いの模様です」

 

 そんなマイアの言葉にアリアの顔が引き攣った。

 

 「えっ!? 私? ち、違います。こんな女、知り合いにはいません。赤の他人です。無関係です。私は無実! 無実~」

 「何、言ってんのよ、アリア。(アタイ)とアリアは同業者のようなものじゃない。変なところで赤の他人のフリしないでよ」

 

 私は彼女の変わり身の早さに悔しくなり、食い下がる。

 

 「(うる)せぇ、テメェとは、元からそれほど親しくねぇーだろう! 私を巻き込むんじゃねぇー」

 

 遂にアリアの擬態が割れた。

 この下品な言葉遣いが彼女の本性だ。

 うん、間違いがない。

 しかし、彼女はそれに気付いていない様子で大いに焦っている。

 それほどにこの学長と呼ばれる女が怖いのだろうか。

 その学長は私にだけではなく、アリアに対しても怒り始めた。

 

 「アリアも煩いねぇ。最近は行儀が少し良くなってきたみたいだけども、また悪くなってきたのかなぁ~? それなら、ついでにお仕置きしよっかなぁ??」

 「そ、そんな!!」

 

 悲痛な表情になるアリア。

 そして、その直後に、周囲が煮えたぎる炎の世界に変わった。

 溶岩が煮えたぐる灼熱の世界。

 所々で炎が輪を造り、火が踊り、旋風を上げている。

 恐ろしいほどの現実感(リアリティ)、とても幻術とは思えない程の完成度だ。

 それでも私は冷静。

 何故なら、これは幻術だから。

 熱いけど幻術だから、怖いけど幻術だから、学長が悪魔みたいな女にも見えてきたけど、どうせ威圧の魔法だから・・・

 そんな事を思っていると学長と目が合った。

 彼女の眼が光った直後、火柱が彼女の脇で立ち上がり、そして、私に襲ってきた。

 

 ヒューーーーーーーーーー、ドカーーーン

 

 特大の火柱が私の脇を掠め、遠くの壁に当たり、轟音がした。

 

 バラ、バラ、バラ・・・

 

 遠くで壁の崩れる音が聞こえたが、今はそれどころではない。

 私の髪の毛とローブの一部が燃えているのだ。

 火柱が私を襲った時に少し掠めたのか。

 そもそも、私が反応できる速度を超えていた。

 私のローブに燃え移らせるなんて、大した幻術じゃない。

 凝っているわ。

 まるで本当の炎の魔法のように、熱いし、熱いし、熱いし、えっ?

 

 「あ、熱っ! 本当に燃えている!? ひぎゃーっ!!」

 

 私は今更に現実を受け入れて、本当に燃えていることに気付く。

 地面に転がり、ローブの燃え移った炎を消そうとする。

 

 「あはは!」

 

 それを見て大笑いする学長は、本当に人の皮を被った悪魔だと思った。

 なかなか消えない炎だったが、その直後、大量の水の魔法を浴びせられ、ようやく鎮火した。

 私が焼かれていたのは魔法の炎だ。

 普通に消そうとしても魔力が続く限り簡単に消せないのは解っている。

 それでも、そんな冷静な事が解らないほどに私は焦っていた。

 あのアリアがそこまで恐れていた理由が、今、解った。

 私は魔物を見る目でこの学長と呼ばれる女性を目にする。

 そんな彼女は私を見返して、こんな事を問うてきた。

 

 「あなたは何人殺したの? どんな罪を犯したの?」

 「あ、(アタイ)は・・・三人よ」

 

 私は正直に答えた。

 自分が殺したのは幻術が破られて殺されかけた時だ。

 人殺しは喜んでやった訳じゃない。

 悪いことだと解っていた・・・それでも、自分が生きるためには・・・

 

 「言い訳はいいの」

 

 学長は私の考えている事などお見通しよ、と言わんばかりだった。

 

 「あなたは、これからその十倍の三十人の命を助ければいい。そうすれば、その罪は許される」

 

 学長がそう言うのは、最近できた法律によるもの。

 罪人はその罪を償うために十倍返しが必要なのだ。

 その通理だと、私の犯した罪が許されるには三十人の命を助けることが必要なのだ。

 

 「そんなこと、できっこ・・・」

 

 ない、と言う自分の言葉が出る前に学長の声が重なる。

 

 「やれるわ。そこのアリアはあと五人。マイアはあと二十人・・・もう、そこまで来ているのだから」

 「・・・」

 「私も大勢殺している。百五十殺して千四百人助けているから、あと百人助けなきゃいけないけどね・・・」

 

 私はその数に絶句する。

 それでも、アリアは私よりも殺した奴の数が多い事は知っていた。

 私達は皆、悪い奴だけと・・・それでも人が人を殺すのに罪悪感が消える事はないと思う。

 誰かが言ったけど、人間の心は魔物のように冷徹にできていないのが本質らしい。

 

 「大丈夫。ここではそれを学ぶわ・・・それがアナタ達の更生組の目的。卒業の条件・・・それは罪を償った時」

 

 この時、私はこの学長と呼ばれる女性を見て、とても大きな女だと思った。

 身体は私よりも小さいけど、心が大きい、強い。

 どうしたらこんな魔女になれるのだろうか。

 何を支えに、こんなにも芯が太くなれるのだろうか・・・

 そんな疑問を持ちながらも、何故か私はここで上手くやって行けそうな気がした。

 ここならば生まれ変わることができるのじゃないか?・・・そんな予感がした。

 そんな感傷に浸る中、その場を台無しにする黒色ローブ女性の金切り声が響いた。

 

 「学長ーーっ。大変ですよ。壁が、壁が!」

 「げっ! 昨日完成したばかりの外壁を! 仕舞った!!」

 

 見ると、学長が放った火柱の魔法を直撃した学校の外壁が崩れていた。

 

 「拙いですよ。理事長様に怒られます。学長があまりにもラフレスタ城を破壊するものですから、それを憂いでこの場所に学園を移したばかりなのに」

 

 アリアも卒倒しそうだった。

 

 「だ、大丈夫。まだ土台は残っている・・・その上部に土魔法をかけて、永続化の魔法を施して固めてしまえば、外観上は解らないよ。それに幻術の魔法を使って魔法付与しているように見せかければ、しばらくは誤魔化せる。その間に・・・」

 

 まるで悪事でも考えるように、次々と偽装工作のアイデアを述べる学長。

 そこには先程の強力な魔法を放った畏怖も、大きな女だと思った畏敬も存在しなかった。

 ただその場凌ぎで何とかしようとする過去の私達と何ら変わらない姿。

 身近な存在に思えた。

 

 「よし、マイラはアステローペとメローペを呼んできて、あと、アリアの友達に土魔法の得意なヤツも居たよね」

 「嫌ですよ。私に悪事の片棒を担がせようとしているのでしょう? 理事長だけじゃなく、副理事長も勘が鋭いのですから」

 「そ、そうですよ」

 「何を言ってんのよ、ふたりとも。今度、甘い物を分けてあげるからさぁ」

 「え゛ーーー。今度は買収っすか」

 

 そんな遊戯を続ける魔女達。

 まるで仲の良い仲間達のようだと思った。

 しかし、そんな魔女達の悪巧みは長く続かない。

 神様は悪いことをした魔女達に優しくなかった。

 

 「何か大きな音がしたみたいだけれども、何が起きて、あーーっ! リーナ、またアナタね!」

 「ゲッ、イザベラ! どうして!? あと一日旅行の筈じゃ」

 

 ここで姿を現したのは長身の美人だった。

 それに対応する学長の顔は、悪事がバレた時の悪党の顔になっていた。

 

 「それがね。グレイがソワソワするって言って予定を早めて帰って来たよ。ほら、あの人の勘ってものすごく当たるし」

 「ぐ、あんにょ野郎~ 能力の無駄遣いしやがって」

 

 学長は意味不明の事を言って逆切れしていたが、その件の男性が現れた。

 

 「やっぱり、リーナがやったのか、これをーーっ!」

 

 壊れた壁を見てガクリと肩を落とす男性。

 少しやつれているようにも見えた。

 

 「嗚呼、グレイ・・これには訳が・・・んん? 少々疲れているようだけと・・・むむむ」

 

 学長は少しやつれている男性と、生気に満ち溢れた長身の女性を交互に観て、急に怒りだす。

 

 「コラ! ひどい、イザベラ! アレは一日に一回までと言ったじゃないか!」

 「あら? そんな約束したかしら? 忘れてしまったわ。だって、私って第一夫人じゃない。第二婦人のアナタよりも先に子供を産まないと拙いわけで。ねぇ、グレイ」

 「あ、ああ・・・」

 「く・・・でも、私だって。グレイ、今日は私の番にしてよ!」

 「あ、ああ・・・」

 

 ふたりの女性に挟まれている理事長の男性。

 全く元気がない・・・

 

 「ねぇ、アリア、あの女と男の人って?」

 「ブリューエの察しとおりよ。あの男性の方がここの学院の理事で、グレイニコル・ラフレスタ様。そして、長身の女性が学院の副理事のイザベラ・ラフレスタ様。グレイニコル・ラフレスタ様の第一夫人である訳。その第二婦人が学長のアストロリーナ・ラフレスタ様よ」

 「やっぱり・・・」

 「イザベラ様とグレイニコル様はずっと忙しくて、結婚されてからずっと行けなかった新婚旅行に行かれていたの。だから最近は学長の機嫌がものすごく悪くて。でも明日からちょっと良くなると思う」

 「そうならばいいけど」

 

 私がこの学院で上手くやって行く・・・いや、生き残るためには学長の機嫌にかかっていると思った。

 それためには学長の機嫌の生贄となるグレイニコル理事長の今晩の働きに掛けるしかない。

 

 がんばれ、グレイニコル理事長。

 

 思わずそんな言葉を贈ってしまう。

 彼を手籠めにすると考えていたが・・・これを見て絶対に無理だと思った。

 何故なら、あの悪魔の様な学長と恋敵として戦って勝てる気がしない。

 そして、あの長身美人の第一夫人にも絶対に敵わないと直感する。

 何故なら第一夫人はあの悪魔のような第二婦人の学長と勝負をして勝っているのだから第一夫人なのだろう。

 あのふたりと勝負してはならない。

 生物として、それは絶対にやってはいけないことだと直感した。

|私が、あの魔法の化け物のような学長・・・彼女の名前の一部を冠するこの学院『アストロ魔法女学院(・・・・・・・・・)』で上手く生き抜いていくためには、絶対に必要なことであると初日にして悟ってしまった。

 

 



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