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ラフレスタの白魔女 外伝  作者: 龍泉 武
第二部 蒼い髪の魔女
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第十四話 女達の密かな闘い

 ここはマースの街にある警備隊が所有する修練場。

 この広い敷地には数々の訓練施設があり、そのなかには森を模したものもある。

 それはこのマース領の南に辺境の森が存在するためであり、時折そこから溢れた魔物を討伐するために、その訓練施設として整備されていた。

 辺境開拓軍が集結しつつある現在、この施設を用いて訓練をするのはある意味当然の事である。

 そして、今、この森の施設では否が応でも二人の女性に注目が集まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 シュルシュルシュル、ドーン!

 

 風を切る弓矢の音と、それが遠く離れた的を正確に命中する音がとても心地よい。

 今日何度目かになるこの音を耳にして、私は満足の笑みを浮かべる。

 私とリーナは女同士でこれから始まろうとしている辺境開拓軍の軍事行動を前に、ここで訓練をしているのだ。

 

 「イザベラ奥様、素晴らしいです。的の中心に当たっています」

 

 それにしても、この女はまったく・・・

 口先だけは丁寧だが、まったく素晴らしいとは絶対に思っていないような軽い口調でリーナからの褒め言葉が聞こえた。

 彼女の本心は私の事を絶対に素晴らしいとは思っていないだろう。

 そう勘繰るものの、別にこの程度でもう怒ることはない。

 何故なら、それは慣れたからだ。

 数日間、彼女と過ごす中でリーナの性格が大体にして解ってきた。

 このポワーンとしているのが彼女の通常運転であり、悪気はないのだろう。

 そして、彼女が私の事を奥様(・・)と呼ぶことだけは、私の心を少しだけ愉快にしてくれる。

 彼女は私とグレイの関係を知っていて、私の事をそう呼んでくれるのだ。

 正確に言うと私達は婚約状態であるので、奥様と言う呼称はまだ早いのだけれども・・・彼女がそう呼びたいのならば、そこは否定しない。

 んん? 半ば私が強制したような気もしてきたが・・・まぁ、細かい話しはいいだろう。

 私は心地良いため、この際そんな細かい指摘などは野暮な話しだと思う事にする。

 少しだけしっくりこないところもあって、まるで魔法にでもかけられたようだが・・・まぁいいわ、気にしない、気にしない。

 

 「そんなリーナも大概じゃない? この距離であれ程の数の的を空中に浮かせるなんて・・・」

 

 私が指摘するとおり、この傭兵の女魔術師リーナも天才的な魔術師ぶりを発揮している。

 今も、彼女の魔法によって多数の丸い的が空中に浮いている状態なのだ。

 私も風の魔法が少し使えるから解るが、魔法というものは集中力の維持がとても重要で、その集中によって魔力が魔素を変質させて力が発揮できるのだ。

 そして、その魔力は魔法が作用する物まで距離が自分の身体から離れれば離れるほど多く必要になる。

 現在の的までの距離は二百メートル。

 それ程離れた位置にある丸い的を空中に浮かせて、しかも、それを二十個以上も・・・大した芸当だわ。

 しかも、そんな高等な魔法を無詠唱で発動させている。

 それでいて当の本人は、ポワーンとしてまるで集中力ゼロの自然体・・・いや、天然ないつもどおりの顔だ。

 リーナ、きっとアナタの頭の中には、グレイが次にどんな甘味を持って来てくれるのか・・・そんな事ばかりを考えているでしょう?

 解っているわよ。

 最近のグレイはこのリーナに甘い、甘すぎるのよ!

 彼女の好みが甘い食べ物だと知ると、彼は次々と事ある毎に彼女の為にいろいろとおやつを買ってくる。

 一応、私の分も買ってきてくれるが、私がついでなのは良く解っているのよ。

 女の勘を舐めるな。

 そんな小さな嫉妬から、私はリーナに少しだけ意地悪をする。

 

 「リーナ、的を動してみせてよ。アナタならばできるのじゃない?」

 「え? こうですか?」

 

 リーナはいつもどおりポワーンとしながらも、魔法だけはすぐに発動させた。

 そうすると二十個ほどの丸い的は縦横無尽に各々がバラバラに動くのだ。

 まるで意地悪をした私に仕返しするように、当てるものならば当て見ろと言わんばかりの動きである。

 く・・・意地悪をした私への仕返しね。

 歯を食いしばり、私は少しだけ本気になって愛用の長弓に矢を当てがった。

 

 「大いなる風よ。私に力を貸して頂戴」

 

 私は精霊に願うような仕草で短い詠唱を実行して、風の魔法を発動させる。

 感覚で風の魔法が私の弓矢に纏わりついた事を感じた私は、一気に弓を引き、そして、矢を放った。

 

 ヒュゴーーーーーー

 

 先程とは比べ物にならない速度で空間を切り裂く矢は、普通の矢では聞いたことの無いような風切り音を響かせた。

 

 ドカーーーン

 

 そして、動いている的のひとつの命中にし、見事にその中心を射抜き、更に勢い余って的を粉々に破壊した。

 

 「うおぉぉぉ! すげぇ」

 

 いつの間にか集まっていた観衆からはそんな大きな歓声と感嘆の声が聞こえる。

 リーナ、どうだ!?

 

 「イザベラ奥様、とても(・・・)素晴らしいです。的の中心に当たりましたよ」

 

 リーナには先程とほぼ同じ印象だったようで、私の素晴らしい技を見ても、だから? という感じ。

 く、くっそう!

 

 「リ、リーナめ。見てなさい。次はこうよ!」

 

 私はムキになり、矢を三本同時に番えて長弓に掛ける。

 

 「風の魔法よ、荒れ狂う力を宿し、そして、我が意のままに!」

 

 少し複雑な風の魔法を唱えて、私は再び矢を放った。

 

 ヒュゴゴゴゴーーーー

 

 長弓より一度に放たれた三本の矢は風の魔法の力を纏い、今度はただ速いだけではなく別々の複雑な動きをする。

 まるで個別の意思を持つかのように軌道を変えて、そして、各々が別々の動いている的を目掛ける。

 

 ドカーーン、ドカーーン、ドカーーーン

 

 そして、三つの矢はそれぞれが別々の動いている的を正確に射貫き、先程と同じように勢い余って的を破壊した。

 そんな超絶な弓の技を目にした観客からは・・・

 

 「ウォー――! なんだ、これは!! こんなのは見た事ねぇぞ!!! すげぇー!!!!」

 

 観客達(ギャラリー)からは大層な歓声を発していた。

 それもそうだろう。

 私はこの大技で、去年、帝都にて開催された弓の大会で優勝したのだ。

 滅多に見られる芸当ではないのよ。

 

 「どうよ、リーナ!」

 

 私は彼女に詰め寄る。

 

 「イザベラ奥様、これは本当(・・)に素晴らしいです。全てが的の中心に当たりました」

 「ぐっ、先程と同じ言葉の繰り返し・・・アナタ、絶対に私の事を莫迦にしているでしょう!」

 

 私は負けた気分になり、そんなことで吠えてしまった。

 それにはリーナからフォローが入る。

 

 「そんな事はないですよ、イザベラ奥様。今の技には『本当に』という単語が入っています。その前の技は『とても』でした。つまり、本当に、とても、すごーいと思っていますよー」

 

 通常運転でそんなふざけた事を答えるリーナに、私は脱力するしかなかった。

 このリーナと言う魔女は、本当に底知れない女か、それても天然の阿呆者なのか・・・私は彼女の底を図りかねているのだ。

 

 「イザベラ奥様、ほら、的も奥様の技を祝福しているじゃないですかぁ」

 

 残念がっている私を慰めるためにリーナの次なるフォローが来た。

 リーナが言うように的は一斉に弧を描くように左右に揺れてを見せて、私の技を祝福してくるように・・・いや、違うな。

 小刻みで規則正しく左右に動くその的はまるで私の事を小莫迦にしているように動いているぞ。

 動かしているのが、あのリーナならばっ!

 私は笑うに笑えず、グググと言葉にならない呻き声を漏らす事しかできなかった。

 そんな漫才のようなやりとりをしている私達に近付いてくる存在が・・・

 私達の事を遠巻きに見ていた傍観者の中から、ひとりの若い貴族が抜き出て、彼は自分の護衛をぞろぞろと連れてこちらへとやって来た。

 そして、その若い貴族は私に向かって彼なりの友好的な言葉をかけてきた。

 

 「全く以って素晴らしい。力強くて、その凛としたその美しさ。まるで戦の女神が地上に降臨したようだ」

 

 歯の浮くような美辞麗句の台詞を述べたこの若い貴族男性。

 上品な格好と言うよりも、高価な宝石を散りばめて実用度外視の煌びやかな鎧を纏う男。

 いかにも金持ちそうな雰囲気を全面に出している。

 顔だけはいいが、それ以外は全く以って私の好みではない。

 突然現れたこのキザな男に対して怪訝な視線を送っているのは私だけではなく隣のリーナも同じだ。

 そんな私達の警戒した視線を気にしたのだろうか、この男は勝手に自己紹介を始めた。

 

 「おっと、これは貴婦人に失礼したようだ。私の名前はイーロン・アシッド・シュラウディカ。旧貴族ならば私の名前ぐらいは聞いたことあるだろう?」

 

 このイーロンとか言う男は、自分の事などさぞ知っているだろうと当たり前のように聞いてきた。

 莫迦なのではないだろうか? 貴族の一御曹司程度を私がいちいち知る筈もない。

 

 「私の名はイザベラ。そして、彼女はリーナ。残念ながら私達は貴方の名前を存じ上げていないわ。失礼ならば、申し訳ないわね」

 「なるほど、ここで私の名前を知らないとは・・・どうやら、君達は貴族ではないようだね。平民の傭兵か何かかな? それならば私の名前を聞いて驚かなくても当然か・・・」

 「ええ、私は旧貴族(・・・)ではないわ。このリーナもよ」

 

 私は敢えて自分の家名を隠した。

 旧貴族の根城となっているこの場で自分が新貴族であることを主張しても碌な事にはならないと思ったからだ。

 それに私はもうじき旧貴族のラフレスタ家に嫁ぐ。

 自分はもう新貴族ではないと言っても、あながち嘘ではない・・・そう都合よく自分の立場を解釈して、この場では敢えていろいろ喋らないようにした。

 

 「君達が平民ならば話しは早い。射手のイザベラと魔術師のリーナ。君達の腕前を認めてあげようじゃないか。これから私の所へ来なさい。家来にしてあげるよ」

 

 そう言ってこのイーロンとか言う失礼な男は、私達の将来を勝手に決めた。

 自分の思いひとつだけですべてが決まると勘違いしているのだろうか。

 本当に莫迦な輩だ。

 リーナはともかく、私はこんな男に自分の人生を捧げるのは御免。

 それに私の事を平民だと勘違いして舐めているのだろう・・・怒鳴り返してやろうとしたが、ここで私よりも早くリーナが反応した。

 

 「イーロン様、残念ながら私達は既に売約済みです」

 「んん? 売約済みとは?」

 「ええ、私は偉大なるご主人様であるグレイ様と契約を果たした傭兵です。私の役割は全ての脅威からグレイ様をお守りすることです。そして、そのグレイ様の伴侶となられる予定の方こそが、そこのイザベラ奥様にございます」

 

 私は顔を赤くして喜ぶ。

 このリーナ、偶にはいい事を言ってくれる。

 

 「尤も、その予定は未定であり決定ではございません。イザベラ奥様がどれだけ努力しても、グレイ様と安泰に結婚できるかどうかは神様しか解らない不確定な未来でもあります」

 「何を不吉なことを言っているのよ!」

 

 私は思わずリーナに噛み付いた。

 ちょっといい奴だと思った私が莫迦だったわ。

 

 「イザベラ奥様、私は一般論を述べたまでです。完全に約束された未来など、本当に存在しないのですから」

 「ぐぬぬぬぬ」

 

 ムカつく事だが、こんな時に正論を言うリーナ。

 彼女の言っている事は間違ってはいない・・・それは正しいが、釈然としない。

 私には怒る事が許されていない・・・そんな釈然としない気持ちもある。

 リーナめ、本当に私に魔法をかけていないでしょうね。

 ぐぬぬぬ、とやるせない気持ちに支配される私であった。

 そんな私達のやり取りを見たイーロンからは、ハハハと笑われてしまう。

 

 「君達は本当に愉快だね。益々気に入ったよ。今日、持ち帰ってあげようかな?」

 

 そんな軽い事を言って私の身体に触れようとする。

 私は迫る彼の手を反射的に避けて、サッと後ろに下がった。

 

 「あれれ、私の誘いを断るのかい? そんなことは許されないのに」

 

 イーロンは不愉快な顔へと変わる。

 主人の不機嫌を察したのか、彼の護衛になっていた女魔術師の三人が前に出てきた。

 

 「マイア、エレクトラ、タイゲタ。この無礼な村娘達に現実というものを教えてやれ」

 「はい、坊ちゃま」

 

 女魔術師達は私達に向かって手をかざす。

 まずい、魔法だ。

 その直後に、私は魔法発動の気配を感じた。

 くっ、しかも、無詠唱の使い手!

 私は焦り、迫り来る魔法攻撃に身構えようとしたが、もう間に合わないかも知れない・・・

 私も風の魔法を使う事のできる魔術師のひとりだが、それは弓矢の技に特化したものだ。

 本職の魔術師に敵う訳もない。

 そして、放たれる突風の魔法・・・私は自分が木っ端のように飛ばされる事を想像した。

 ・・・

 ?

 しかし、実際はそれが来なかった。

 

 「そ、そんな・・・」

 

 驚いているのは相手の魔術師三人。

 彼女達は口を開けてガクガクと震えていた。

 私は彼女達の視線の先を追い、そして、そこには気を漲らせているリーナの姿があった。

 普段のポワーンとした彼女の姿からは想像のできない、覇気・・・いや闘気を纏う彼女の姿。

 えっ? 本当に同一人物だろうか?

 緊迫している状況だが、このときの私はそんな呑気な事を考えてしまった。

 そんな凛としたリーナは、彼女が睨みを利かすと、相手の魔術師三人を後ろへと吹っ飛ばす。

 

 「「「キャッ」」」

 

 敵の女魔術師達は女性らしい悲鳴を挙げて、後ろに飛ばされて、ローブのフードが開けた。

 端整な顔に、切れ長の瞳、茶色の短い髪をしている彼女達の顔は皆が似ていた。

 姉妹だろうか?

 

 「私達に危害を加えるのは止めておきなさい。実力の違いはこれで解ったでしょ?」

 

 普段のリーナからは絶対に口にしない尊大な言葉。

 しかし、格の違いは本職魔術師ではない私にも十分に解った。

 リーナが今やった事は、純粋な魔力のみで相手を吹っ飛ばしたのだ。

 膨大な魔力が一瞬のうちに放出して作用した力の結果。

 そんな事ができる者など・・・果たして彼女は人間なのだろうか?

 そう思ってしまうほどの力技だった。

 

 「ぐっ・・」

 

 一瞬怯む相手の魔術師だったが、それでも主人の体面を守ろうとして歯向かって来ようとする。

 

 「止めなさい、主人のアナタ。彼女達を止めないと死ぬことになりますよ」

 

 リーナそう言ってイーロンとか言う青年に忠告をする。

 

 「ぐっ・・・少しばかり魔術ができるからと言って、調子に乗るな。平民め!」

 「そうです。私はイーロンお坊ちゃまに恥をかかす訳には・・・うッ」

 

 先頭の女魔術師のひとりがそう言って、再びイーロンの前に立とうとしたが、リーナが手をかざすと苦悶の表情で固まってしまう。

 拘束の魔法だ。

 それもかなり強力なヤツ。

 

 「格の違いが解んないんですね。アナタ達は動物以下ですよ。それにイーロン様。アナタ様にも上司に対する敬意が無いようです」

 「何を言っている? 訳の解らない事を!」

 

 イーロンの顔にはもう余裕の笑顔は無く、怒りで顔を歪めていた。

 彼は自分のプライドを打ち砕いた無礼な平民に対して怒っているのだろう。

 

 「アナタ様はシュラウディカ家のデリカス様のご子息のようです・・・つまり、辺境開拓軍でこれから後方支援部隊に所属をしますよね」

 「そうだが、それがどうした!」

 「それならば、アナタ様は後方支援部隊の部長であるグレイニコル・ラフレスタ様の部下ということになります」

 「・・・だから、それがどうしたと言うのだ!」

 「今、アナタ様が手を出している私達はグレイニコル様直属の部下なのですよ。私はグレイニコル様の一番の護衛であり、そこのイザベラ様はグレイニコル様の伴侶と成られる予定の方」

 「何!?」

 

 イーロンはこのとき初めて驚いた顔になった。

 私はいい気味だと思う。

 

 「尤も、現状ではイザベラ様の『自称』ですので、まだ予定が未定の『奥様』となりますが・・・」

 

 ええい、またややこしい話しを。

 こんな時に言わなくても良いのに。

 格好がつかないじゃない。

 それに私は自称ではない。

 私とグレイは既に両家合意の元で婚約まで果たしているのだ。

 村娘が軽い気持ちで相手と約束するのと覚悟が違うのよ。

 私はそのように盛大に否定したかったが、そんなことよりも相手のイーロンが困惑した顔に変わって行く方が見物だったりする。

 

 「そんな私達を手籠めにしようとしたアナタ様・・・失礼で低俗だとは思いませんか?」

 

 リーナの容赦のない言葉にどんどん顔色が悪くなっていくイーロン。

 その後、余裕の無くなった彼の口から何らかの言葉が漏れる事は無かったが、リーナはそんな彼等を容赦なく睨み続けている。

 

 「・・・ぐ、お前達、行くぞ!」

 

 しばらくの沈黙の後、イーロンは負け犬のように尻尾を撒いて私達の前から去って行った。

 彼の後を追うように護衛の女魔術師達も続いたが、私達に攻撃を加えようとしたひとりの女だけはまだリーナの魔法の虜のままだである。

 そんな彼女の元にリーナが近付く。

 

 「アナタ・・・名前は・・・そう、エレクトラさんね・・・そして、アナタは何故、彼を殺そうとしたの・・・そう・・・そういう理由(わけ)ね」

 

 リーナは独り言のように虜囚にしている彼女を目にして呟き、そして、何かを納得する。

 

 「キャッ!」

 

 女の悲鳴が漏れたのはリーナが拘束の魔法を解いたからだ。

 彼女は項垂れて、玉の汗を掻いていた。

 魔法で必死にリーナに対抗していたのだろう。

 まったく勝負になっていなかったが・・・

 

 「もういいわ、エレクトラさん、行きなさい。今回は特別です。アナタの愛は確かに見ました。それ故に今回だけは見逃してあげます」

 

 そんなリーナの言葉にキッとなる相手の女魔術師。

 

 「でも、次は無いよ・・・もし、同じ事をしたら、アナタの敬愛する主人にも同じ事をしてあげるよ」

 

 リーナからの脅し。


 「・・・フン」


 それを受けた相手の女性はそんな風に短く応え、足早にイーロン達の後を追って行った。

 そして、残されたのは私達だけとなったけれども、周りの観衆からは嬉々の視線が注がれている。

 あれだけ派手な争いをしたのだから当然だろう。

 私はもうこの場にいる意味がないと思った。

 リーナに視線を戻せば、もう彼女の闘気は全て失せていて、元からのポワーンとした雰囲気のリーナの姿に戻っている。

 あれは一体何だったのだろう?

 そんなことを思ってしまうも・・・私はその事が段々と気にならなくなってきた。

 ものすごく引っ掛かりを感じるが・・・

 

 「リーナ、行きましょう。私達の訓練の時間は終わりよ。早く帰ってグレイと甘い物でも食べるわ」

 「ええ、賛成です。是非、そうするべきでしょう!」

 

 リーナは満面の笑みを浮かべていたが、私は終始、心のどこかでその笑顔に引っ掛かりを感じてしまうのだった。

 

 



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