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ラフレスタの白魔女 外伝  作者: 龍泉 武
第一部 ランガス村の英雄
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第二話 告白、そして、卒業と現実

 「おい、ロイ。こっちだ」

 

 俺は友人のライゴンに連れられて校舎の片隅へと向かう。

 エストリア帝国の中等学校の教育は満十六歳を以って終了となる。

 帝国では一般的に義務教育は初等学校までらしいが、このランガス村では金に余裕があるのか、村の補助で実質中等学校までが義務教育のようになっている。

 学校へ通うのに金がかからないのならば、俺達のような貧乏人でも中等学校へ進学するもんだ。

 そして、十六歳に近くなった俺達は誕生日の早い者からポツポツと中等学校を卒業していき、これにて実質的な義務教育は終了となる。

 普通の平民ならば、これで社会に出て行くのだ。

 尤も、一部の裕福な家庭の子供や頭の良い奴、そして、貴族なんかは高等学校へ進む事もできるが、こんな片田舎のランガス村で高等学校に進むのは同世代で十人も居ないだろう。

 そして今日はエリックの奴が卒業する日なのだ。

 いけ好かない奴だったが、あの事件以来、奴は大人しくなり、それほど目立つ事はしなくなった。

 でも、俺は信用していない。

 今日もアイツはシエクタを校舎の片隅へと誘い出したようだ。

 きっと悪い事をするに違いない。

 俺はそう決めつけて、現場に急行する。

 いた。

 エリックの奴はシエクタを壁際に追い込んで、何かを話している。

 何時ぞやの事件以来、俺は少しだけ慎重になるようにした。

 エリックの奴が悪い事をする寸前まで、その様子を見る事にしたのだ。

 恐らく、この状況で奴はシエクタに婦女暴行をするのではないか?と思っている。

 それ程にあの事件以来、奴はシエクタの事をチラチラと見ている。

 きっとあの時、先生にチクられた事で恨みを持っているのだと思った。

 それに、シエクタは美人で、世話焼きであり、学内でも人気の女性だ。

 エリックの奴が卒業の思い出に、悪い事をする可能性は十分にあった。

 俺と友人のライゴンは、エリックに気付かれないように校舎の陰へ隠れたが、そこには先客が居た。

 

 (おい、エルア! 何をしているんだ)

 (あ? ロイとライゴン!? 貴方達こそ何をやってんのよ、バレちゃうじゃない。今いいところなんだから、静かにしててよ)

 

 彼女は俺達に黙れと指示を出し、向こう側を指差す。

 何やらエリックがシエクタに話しているようだった。

 俺はそっと耳をすませて、彼らの会話を盗み聞くことにした。

 

 

 

 「・・・ずっとシエクタの事が好きだったんだ。付き合って欲しい」

 

 そう言ってエリックはシエクタに手を差出す。

 このエストリア帝国でよくある愛の意思表明・・・所謂、告白である。

 どうやら、奴はシエクタに悪い事をするのじゃなくて、告白をしたかったらしい。

 俺は、他人の告白を目撃して、少しドキっとした。

 それに、あのエリックが・・・と思うと、ドキッよりも少し腹が立つのは何故だろうか。

 どうして俺の中で腹が立ったのか、この時は自分でも理解できなかったが、事態は次の場面へと進む。

 

 「ありがとう。でもごめんね。別に私はエリックの事が好きじゃないの」

 

 シエクタはあまり悩まず、一層清々しいぐらいにエリックからの愛の告白に否の返答をした。

 言われたエリックは、この世の終わりのような顔をしていた。

 それを見た俺は、ざまぁ見ろ、と心の中でエリックの事を汚く罵ったのは、きっと心が小さいからだろうか・・・

 

 「ど、どうして・・・」

 「どうしてと言われても、アナタの事は別に好きじゃないわ」

 「で、でも、この前、俺の事を助けてくれたじゃないか?」

 「あ・・・あれね」

 

 シエクタは思い出したようにエリックを助けた経緯を説明する。

 

 「あれは、ロイが次々と問題を起こすから・・・ほら、あの人って独りよがりの『正義』が多いじゃない。興奮しやすいし、すぐ頭に血が登るし、やり過ぎてエリックの事を殺しちゃうんじゃないかって心配して・・・それにロイって私の言うことぐらいしか聞かないし。あの人『英雄』を目指しているから、こんなところで足止めなんか勿体ないじゃない?」

 

 彼女の口から出た『英雄』という言葉に俺は再び顔が赤くなってしまった。

 それを横目で見たライゴンとエルアの奴がニタニタとしている。

 ち、ちくしょう、殴りてぇ~。

 俺はそんな事を思いつつ、シエクタとエリックのやりとりに視線を戻す。

 

 「・・・・・・もしかして、シエクタの好きな相手って・・・」

 「そんなことをエリックには教えないわ。でも、アナタの事が好きでないのは確かよ。アナタを助けたのは成り行き。勘違いさせてしまってごめんなさい」

 「そ、そんな・・・」

 

 ワナワナと崩れ落ちるエリック。

 アイツはいけ好かない奴だが、こんな姿を見せられると、男として少しだけ憐れだと同情してしまう。

 

 「ど、どうしたら、シエクタに振り向いて貰える? どうしたら俺の事を好きになれるんだ!!」

 

 切迫な表情で懇願するエリック。

 彼も必死で、なかなか諦められないのだろう。

 シエクタの方もどう答えたらいいか困っているようだ。

 ここで彼女の答えようによっては、エリックの奴が逆切れして彼女に襲い掛かって来るかも知れない。

 いざという時のため、俺は少しだけ身構える。

 そして暫くの間を置き、シエクタがエリックに答えた。

 

 「私が好きなのは・・・成功している人よ。都会的な人が良いわ・・・そう、少なくともお金に不自由なく暮らせて、私だけを愛してくれて、私をいつも楽しませてくれて、世界中の旅に連れて行ってくれて・・・・・・アナタじゃ無理だとは思うけど」

 

 残酷な彼女の要求。

 俺と同じ貧乏農家に生まれたエリックには無理な話しだと思った。

 落ち込んでいたエリックがガバッと立ち上がる。

 あの野郎め、自暴自棄になっていよいよ狼藉を働くかと思い、俺も取り押さえる準備をする。

 

 「ち、ちくしょーーーーーーーーーーーーーーっ」

 

 エリックは飛び上がったが、しかし、彼が動いたのはシエクタとは逆方向。

 つまり、逃げ出したのだ。

 あまりにもコテンパンに自分を拒絶されたので、心がへし折れたのだろう。

 エリックは泣きながらこの場から去り、そして、学校からも去ってしまった。

 その後、彼は二度と姿を見せなくなったが、風の噂に聞くとエリックは家出をしてしまったようで、このランガス村からも逃げ出したらしい。

 そう思うと、少し憐れに思ってしまった。

 そんなある意味で残酷な仕打ちをしたシエクタは、この時、少しため息をついてから校舎の隅を後にする。

 残された俺達はエリックの盛大な失恋劇を多少呆気に捉われていたが、シエクタの親友であるエルアが俺に向かって邪な笑顔で問いかけられた。

 

 「ねぇ、ロイは告白しないの?」

 「・・・だ、誰にするんだよ」

 「それは勿論、シエクタに決まっているじゃない? あの娘、ロイからの告白を待っているわよ」

 「・・・な、なんで俺が・・・」

 

 不覚にも、俺の頭の中でシエクタと付き合い、そして、結婚して、子供を授かって・・・と想像してしまった。

 自分の実家である農家で夫妻仲良くトウモロコシ畑を耕す姿はあまりにも現実感が無く、違和感だらけだ。

 シエクタはこのランガス村で一番のお金持ちの家であり、彼女が先ほどエリックに要求したように、都会で優雅に暮らす姿の方があまりにも自然にイメージできてしまう。

 俺なんかと結婚していいのだろうか・・・そう思っていると、そんな事を聞いたエルアの顔に邪悪なものがあることに俺は気付いた。

 俺が、程よく揶揄われていた事を悟ったのは、その後だったりする。

 

 

 

 そんな、エリックの告白事件以降、多少はシエクタの事を異性として意識するようになったが、これが俺の思春期だったのだろう。

 俺が中等学校を卒業するときには、シエクタに告白・・・などする筈もなく、エルアに散々煽られたのはいい思い出だったりする。

 そして、俺は学校卒業と同時にランガス村の警備隊の試験を受けることにした。

 親や友達からは、頭の悪いお前には無理だと散々に莫迦にされたが、俺を誰だと思っている。

 英雄(の卵)だぞ!

 筆記試験は難解だったが、実技は満点だったと思う。

 俺はランガス村で一番の力持ちだからな。

 頭の悪さは、力でカバーするぜ。

 そうして、合否通知の手紙が俺の家に届いた。

 固唾を飲み込んで手紙の封を切る。

 ・・・そして、出てきた結果は・・・

 

 『不合格』

 

 ガクッとうなだれる俺に、親父から肩に手を置かれて、こう言葉をかけられた。

 

 「現実はこんなもんだ。さぁ、明日からウチの畑の仕事を手伝えよ」

 

 英雄はまだ卵のままらしい・・・

 

 


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