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ラフレスタの白魔女 外伝  作者: 龍泉 武
第一部 ランガス村の英雄
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第二十二話 強かは誰のため

 私達に破滅をもたらしたあの忌まわしい事件から早いものでもう一ヶ月以上が経った。

 あの事件から私の人生は一変することになる。

 両親が捕まり、私の高等学校の卒業も保留になった。

 その後、学校には行っていない。

 そして、私が自主退学する旨を伝えると、すぐに受理されたようだ。

 今のような状況で学校に行ったとしても、私にとって恐らく何もプラスにもならないだろう。

 両親が突然いなくなってしまうのは私に辛かったが、それでも、いつかはこうなるんじゃないかって思っていたのも事実だ。

 それ程にあの違法薬物の取引はリスクの高すぎる商売だったから、自業自得なのかもしれない。

 こうして、私は残されたイオール商会を守って行かなければならなくなったが、それでも情勢はかなり厳しかった。

 「違法な取引で利益を上げている」・・・そんな噂はあっと言う間に広まった。

 あながち嘘じゃない。

 でも、全ての利益が違法薬物で得られたものではないのも事実。

 私はイオール商会を守るために、親の残した商いを続ける事にした。

 しかし、現実は甘くなかった。

 こんな小娘・・・しかも犯罪者の娘が簡単にできる仕事では無かった。

 次々と顧客の信用を失い、取引停止されてしまう。

 そして、信頼していた職員達はひとり、またひとりと辞めて行った。

 その後、親戚が新たな商会をこのランガス村で立ち上げると、元の顧客や職員達は一気にそちらへと流れた。

 新たな商会を立ち上げた親戚にイオール商会との統合を持ち掛けてみたが、断られた。

 まぁ、当然だろう。

 ブランドイメージの悪いイオール商会と組んでも、彼らにメリットは何も無いのは理解できる。

 私だって商人の娘だ。

 それが解らない程に莫迦じゃない。

 こうして、イオール商会はあっと言う間に落ち目になったが、生活もいよいよ苦しくなってくる。

 給料も払えず、僅かに残っていた職員達も全員が辞めて行った。

 金の切れ目が縁の切れ目とはこの事だろう。

 そして、あとに残された私はどう生活していけばいいのだろうか。

 普通ならば、私のような青二才の少女は悲嘆にくれて商会をたたみ、後は身売りにでもなって日々の糧を得るのが普通の末路であろう。

 しかし、私にはまだ宛てがある・・・だけど、この手は最後まで使いたくなかった。

 何故なら、それは『私が母と同じ生き方を選ぶ』と言う意味に近くなるからだ。

 両親が収監される際、アドラント様の情けで最後に少しだけ両親と会わせてもらった。

 私の両親はもう完全に観念していて、残された私に両親からひとりひとり言葉を貰った。

 父は「正しく生きろ」と、そして、母は「(したた)かに生きろ」と・・・

 残念ながら私はこれから「(したた)かに生きる」ことを選択するだろう。

 それは・・・収監された両親の死亡が知らされたからだ。

 収監された場所で大規模の疫病が発生し、運悪くふたりともそれにかかってしまったらしい。

 とても悲しい知らせだったが、私にはもう泣いてばかりはいられない。

 おそらく、もうしばらくしたらロイがこの家にやって来る筈だ。

 優しい彼は、私の事を気遣い・・・いや、もしかしたから彼は両親の死が自分のせいだと言い出すのかも知れない。

 しかし、私はそう思っていない。

 彼らの運命は自分達の選択の結果なのだ。

 死んでしまった事実は私にとって大きな悲しみだけど、それでロイのことを恨むほど私は子供じゃない。

 そんな私に残された最後の手段・・・それは・・・ロイと結婚する事。

 彼を私の身内にしてしまう・・・それが私に残された生きる道なのだと思う。

 私と言う商品を彼に買って貰うため、私は『(したた)かに』生きなければならない。

 彼の庇護に入り、私を一生守ってもらうために・・・

 そのために、今、いろいろと準備をしている。

 今、私が身に着けている下着だってそのひとつだ。

 あの事件の前に私の母から貰ったものだ。

 こんなスケスケの下着なんて私には無理だと思っていたが、今ならばできる。

 エリックには絶対に無理だと思ったけど・・・ロイにはこれで夢中にさせてあげる。

 私には男を喜ばせる経験は無いけれども、知識だったらそれなりにあるつもりだ。

 昔、エルアから借りた小説には、睦み合う時に、男の人がどうすれば喜ぶかを詳しく書いてあった。

 当時の私は眼を皿にしてそれを詳しく読んだものだけど、早くも役に立つ時が来るなんて・・・

 アレをするとき、男の人のアレをああしてあげて・・・ああ、ロイ・・・興奮してきた。

 鼻血が出そうになった私は、自分をできるだけ鎮める。

 冷静にならないと絶対に失敗する。

 私は『(したた)か』にならないと・・・・

 そう念じて、気持ちを落ち着かせる私。

 話しが逸れてしまったが、そんな理由で私は強かにならなくてはならない。

 しかし、それでも、母とは違う事がひとつだけあると私は思っている。

 母からは「結婚した人を好きになりなさい」と言われた。

 しかし、私は違うのだ。

 それは・・・私は「好きな人と結婚する」のだから・・・

 

 そんな事を考えていると、ほら彼が来た。

 さあ、シエクタ・・・これからが最後の勝負。

 強かな女を演じるのよ。

 そして、ロイに言わせるの・・・

 「大好きだ、シエクタ。愛している。結婚しよう」とね。

 

 



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