第二十話 英雄の誕生
俺が宿に駆けつけた時、エリックの奴はシエクタを襲っている最中だった。
その光景を目にしたとき、俺の怒りは沸点を越えたのだろう。
全裸になった奴が節操もなくぶら下げていやがったアレを目掛けて蹴り上げてやる。
力があり余り、部屋の壁を突き破るぐらいの衝撃を与えてしまったが、その時の俺は怒りのあまりに構わねぇと思ってしまった。
後になってから、もし、部屋の弁償代を請求されたらどうしよう思って焦ったが、それはアドラント様が上手い事やってくれたお陰で助かったぜ。
そしてあの時は、半裸になったシエクタからは抱き着かれてキスされた。
彼女はブルブルと震えていたので、余程に怖かったのだろう。
俺も少々目のやり場に困ったが、これも警備隊の役得・・・いや違う、責務だ!・・・彼女の気の済むまで俺はされるがままにしていた。
そして、宿の店主と応援の警備隊員がやって来て、無事に安全が確保される。
シエクタの衣服を整えて、警備隊の詰所へと戻ってきた。
ここには簡単な寝所があり、今日の彼女はここで寝て貰う事にした。
彼女の家であるイオール商会は、違法薬物の取引現場だったので、今は取り調べで慌ただしい現場になっているからだ。
こうしてシエクタとは別れて、俺は興奮冷め止まぬまま、アドラント様のところに戻った。
こちらで戦闘は終わったと思っていたが、実はその後にもう一場面あった事を聞かされる。
それは、今回の首謀者と思われるデニアンが殺されてしまったことだった。
アドラント様から詳しい話しを聞くと、デニアンを護送しようとしていた時、彼は急に暴れ出したらしい。
「俺には『先生』って強い味方がいんるだ。さぁ、先生。俺を助けて・・・・あ!? 俺が燃えている。な、なんで? ギャーーーッ!!」
それがデニアンの最期だったようだ。
彼は突然、身体中から炎があがり、そして、文字どおり火だるまになって死んでしまった。
アドラント様は、それは魔術師の仕業だと言っていた。
しかも、暗殺に特化した闇の組織のプロの仕事らしい。
そんなプロの暗殺者はデニアンに協力するフリをして、本当の目的は彼の行動を陰から逐一監視していたのだろう。
デニアンのバックには大きな闇の組織がついていたと予測されていたが、そのつながりが発覚することを恐れて、デニアンがヘマをした瞬間に証拠隠滅されてしまったようだ。
まさにトカゲの尻尾切り。
こうして、デニアンの背後にどんな組織がいたのか解らず仕舞いになってしまった。
しかし、これでランガス村の平和が守れたのも事実。
俺の勇敢さはアドラント様から褒められた。
そして、殺されかけていた村長も息を吹き返した。
しばらくは療養が必要だろうが、アドラント様の連れてきた応援部隊の中にはとても優秀な神聖魔法使いである司祭が混ざっていたことも幸いした。
彼はラフレスタの神学校で教師をするために旅をしている途中であり、今回は偶然、アドラント様から声を掛けられて付いて来たらしいのだ。
確か、マジョーレとか言う名前で、有名な司祭らしい。
そんな幸運もあって、村長は無事に意識を取り戻す。
村長と面会すると、俺の活躍を覚えてくれたようで、俺の事を『英雄』として称えてくれた。
俺は本当に嬉しかった。
危険を顧みず、自分が正しいと思う事を通してよかったと思う。
そして、俺は家に帰されたが、騒ぎを聞きつけた親父や兄弟達に暖かく出迎えられた。
誰かが俺の活躍を家族にも伝えてくれたのだろう。
今日の俺の働きを全て知ってくれていた。
こうして俺は、家族にもランガス村を救った『英雄』として称えられたのだ。
本当に気分が良い。
俺はやったんだ。
遂に英雄として相応しい働きができたんだ。
シエクタも無事だったし、悪い奴はみんなやっつけた。
本当に良い事尽くめだ。
この時の俺は本当にそんな事を思っていたのだ・・・




