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ラフレスタの白魔女 外伝  作者: 龍泉 武
第一部 ランガス村の英雄
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第一話 ランガス村の乱暴者

 ここはラフレスタ地方の外れにある中規模の農村、ランガス村だ。

 広いトウモロコシ畑が良く似合う風景は平原の多いエストリア帝国でありふれたものであり、特に大きな特徴もない田舎村。

 俺の名前はロイ。

 農家の息子で現在はこのランガス村の中等学生をやっている。

 そして、今、この村でひとつしかないランガス村中等学校の校舎の片隅で、俺は同級生を殴っていた。

 

 「ぐぎゃっ!」

 

 そんな擬音交じりの叫び声を上げて、殴った相手は吹っ飛び、校舎の壁に叩きつけられる。

 打ちのめされた衝撃で相手はフラフラになっていたが、俺は構うことなんて無い。

 何故なら、こいつの仕出かした事は正義に反するからだ。

 『頭が良くなるクスリ』を後輩生徒に売りつけて金を巻き上げていやがった。

 当然そんなクスリなんて存在せず、普通の小麦粉・・・所謂、詐欺だ。

 後輩達もそんな都合の良いクリスなど存在する訳ないと思っていたが、怖い先輩の言葉には逆らえず、このエリックの奴から仕方なく買わされていたらしい。

 要求する金額がだんだん大きくなり、困った後輩達が俺に相談して事が発覚した。

 俺は激怒して、同級生であるこのエリックの野郎をとっちめている最中だった。

 

 「ひぃ~、やめてくれ。金は全部やるから。ロイに渡すから赦してぇ」

 

 エリックからの必死の懇願が俺の怒りに火をつける。

 俺は乱暴者だが、曲がった事が嫌いだ。

 こいつは売買で得たアガリを俺に渡すから赦してくれと言っているのだ。

 

 「そう言う問題じゃねぇ!」

 「ぐぎゃーっ」

 

 再び俺は怒りのパンチを炸裂させ、エリックを吹っ飛ばす。

 エリックは殴られた拍子に口の中を切ったのか、口から血を溢してした。

 

 「赦じでぇ~ 赦じでぇ~ 」

 

 苦痛のあまり言葉が上手く喋れず、地面から起き上がれないエリック。

 此奴をどうしてやろうか・・・そう考えていた矢先に邪魔が入る。

 校舎の陰から飛び出してきたのはふたりの女生徒。

 学年筆頭のシエクタと彼女の友達であるエルアだった。

 

 「ロイ!。 また、こんな事をして! 止めなさい!」

 

 シエクタは優等生よろしく、俺の事を乱暴者のような物言いで喧嘩を止めに入る。

 彼女は俺とエリックの間に入って、俺にこれ以上の攻撃をさせないようにした。

 

 「うるせぇシエクタ。こればっかりはエリックを赦せねえ。どけよ」

 

 俺は怒気を高めて彼女を押し退けようとするが、それでも気丈にシエクタは両腕を左右に広げて俺を阻もうとする。

 俺は中等学生徒の十五歳だが、これでもランガス村で一番のパワーを持っていると自覚している。

 (オグル)もかくや、という怒気を放っていた俺に、恐れを見せることなく止めに入るシエクタは、女ながらにたいした奴だと思うが、実は今回のような事はこれが初めてではない。

 シエクタという同級生は、俺が女を殴らない事を知っているようで、こうして平気なのだろう。

 

 「もう一度言うぜ、シエクタ、そいつを殴らせろ。今回、エリックが後輩達にやった事を俺は赦せねぇんだよ」

 「解っているわよ。詐欺紛いのカツアゲでしょ。でも、それはロイが制裁を加えないといけない事なの?」

 「ぐっ・・・」

 

 そう言われると反論しづらい。

 このシエクタは頭が回る。

 それに、美人だし・・・人望もあって、家も金持ちだ。

 まったく、俺には無いものばかり持っていやがる。

 俺が少しだけ答えに窮していると、シエクタは両手で俺の拳を包み込み、そして、拳を下げさられた。

 柔らかい掌で、良い香りがする。

 ちくしょう・・・女ってのは(ずる)いぜぇ。

 俺はそう評しながらも、怒気が発散されていくのを感じた。

 とりあえず俺の怒りの矛が納まったのを一番安心したのはシエクタの方だったりする。

 彼女は、ふぅ、と息吐き、事態がひとまず収拾したのを確認した。

 

 「まったくロイは・・・いつも感情的になるのだから・・・」

 

 彼女は愚痴を交えるが、俺にだけ見えるように笑顔を向けた。

 俺はその意味を理解しかねていたが、ここで一番助かったと思っていたエリックが口を開いた。

 

 「助しゅかったぁ~ シエクタぁ、ありがとう」

 

 エリックは自分の窮地を救ってくれたシエクタに抱き付こうとしたが、それを俊敏な動きで躱す彼女。

 

 「別にアナタを助けたかったから、助けたのじゃないわよ、エリック! アナタのやった事は悪い事に違いないわ。自分やった事を反省して、お金は後輩達全員に返しなさいよ」

 

 冷静にそう採決するシエクタにエリックは涙目のままで呆けていた。

 なんだ!? その「暴漢から自分を守ってくれたのに、突き放されてガッカリしている」顔は・・・

 呆けたエリックの姿は莫迦みたいだったが、やがて彼は「・・・わかったよ」と弱々しくシエクタの言い付けに従う。

 そんな校舎の裏側での一幕だったが、こうしているうちに騒ぎを聞きつけた先生達がやって来て、俺達は全員職員室へと連行される。

 エリックの奴が叱られたのは当然だったが、そこで俺もこっ酷く叱られてしまったのは不本意だった。

 鉄拳制裁で相手に血を出すまで殴ったのが良くなかったらしい。

 俺は間違っていないと思ってやった事だが、この件で親まで呼び出されてしまった。

 シエクタが俺のことを庇ってくれたので、今回は厳重注意だけで済んだが、それでも、次やったら退学だと言われた。

 もう半年もすれば、俺も中等学校の卒業を控えていたので、さすがに退学処分はマズイと思う。

 なぜなら、こんな俺にも夢があるからだ。

 その夢を実現するためには最低限中等学校の卒業資格が必要だからしょうがないぜ。

 

 「解ったよ。反省する」

 

 俺は不承不承だが、職員室の皆の前で反省の言葉を述べた。

 いつもはゴネて、なかなか謝らない俺だったが、今回は意外なほど素直に反省した俺の態度の変化に、叱った先生の方が驚いていたようだ。

 訳を聞かれたから、俺は言ってやった。

 

 「だって、ここで退学処分にされちゃ、叶わないからな・・・」

 「叶わないって?」

 

 全員を代表してシエクタが俺に真意を問いただす。

 

 「そうだ。俺の夢はランガス村の警備隊になるんだ。そのためには中等学校の卒業資格が必要だからな・・・俺は悪党から村を守る『英雄』に成りたいし・・・」

 

 そんな俺の言葉に、皆が目を丸くしやがった。

 そして、しばらく後に・・・

 

 「・・・・ふ、ふふふふ、あははは」

 

 シエクタの奴が大爆笑してやがる。

 そして、彼女に釣られて友達のエルアが大笑いし、親と先生が笑って・・・あのエリックまでもが俺の事を笑いやがった。

 な、何故だ!?

 そんなに俺の言った事が面白かったのか??

 不本意ながらも、この時の俺の言動が瞬く間に学校中に広まって、しばらく俺の渾名(あだな)が『英雄』になってしまったのは言うまでもない・・・

 

 


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