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ラフレスタの白魔女 外伝  作者: 龍泉 武
第一部 ランガス村の英雄
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第十七話 悪党達の目的

 次の日、アドラント様からランガス村の警備隊に管理局の調査の終了が伝えられる。

 監査を受けていた警備隊の上層部は目に見えて安堵していたが、その中でもプリオニラ隊長とエリック副隊長がホッとしていたのは俺から見てもよく解った。

 こうして、アドラント様とシュトライカ様はラフレスタへ帰る事になり、バンナム様はここで休暇に入り、しばらくランガス村に残る事になる。

 バンナム様がランガス村に残る事にプリオニラ隊長とエリック副隊長は怪訝な表情を漏らしていたが、バンナム様から「趣味としている釣りをするため、クラップ湖の湖畔にしばらく滞在する」と説明されると、彼らは再び安堵する。

 クラップ湖はランガス村の中心地から最も離れた場所に位置していたため、彼らのも少しだけ安心したのだろう。

 こうしてお目付け役が帰ることになり、安心する彼らだったが、俺はそんな事を許さねえ。

 

 「ああん? なんで今頃持っくるんだよ!」

 

 そんな罵声に似たエリック副隊長の声が警備隊の詰所に木霊する。

 定時刻になってエリックが帰ろうとしていたタイミングで、俺はしょっ引いた犯罪者の調書書類を持ち込み、彼に裁可を要請したからだ。

 奴が機嫌を損ねるのも無理はない。

 エリックの奴が考えている事はだいたい解る。

 これから帰ってシエクタとイチャつこうとしているのだろう。

 しかし、そいつはやらせねぇ。

 俺が持ってきた書類は逮捕した犯罪者を処断するための書類であり、優先的に処理しなくてならない書類だったからだ。

 奴の権限で明日の処理にもできるが、それは『そういう判断を副隊長がした』という記録が残る書類でもあった。

 管理局の人間が帰ってすぐに、元のいい加減な裁可に戻ったとあっては、すぐに誰かに通報されてアドラント様が戻ってきちまう。

 それぐらいは頭の回るエリックだったので、今は我慢して仕事するだろう。

 そう思っての、これは俺からの嫌がらせだ。

 別に俺が考えたんじゃなくて、これもバンナム様からの指示だ。

 「できるだけイライラさせた方がいい。その方が早く足を出すだろう」と言われて、俺はその実行役を買って出ている。

 奴がシエクタと会うのも妨害できるので一石二鳥だ。

 俺は心の中で邪悪な笑みを浮かべ、エリック副隊長に「どうしても今日中に裁可して欲しい」と懇願した。

 奴は怒りによって眉間をピクピクとさせている。

 作戦は成功しているようだ。

 

 

 

 「ふざけんな。てめえ!」

 

 そんな罵詈荘厳がエリック副隊長の口から出たのは、俺がそんな事を三日続けてやったときだった。

 

 「明日だ、明日。この書類を俺に出すときは午前中までだと昨日命令をしただろう! この無能野郎がっ!」

 

 奴は遂にキレて職務を放棄して帰って行った。

 しかし、俺達の嫌がらせはこれでは終わらねぇ。

 奴がイオール商会に向かうのは既に見越している。

 その時間はバンナム様がイオール商会に詰めていたのだ。

 バンナム様は自分の釣った魚を買い取ってもらうため、毎日その時間にイオール商会を訪問することにしていたのだ。

 そこでエリックの奴がバンナム様の顔を見て、ギョッとしたらしい。

 自分が職務放棄した事をバレると思ったのだろう、シエクタと二、三会話して、すぐに警備隊の詰所に戻ってきやがった。

 奴が自分の机で嫌々仕事をする姿を観た俺は笑いを堪えるのが大変だった。

 その後の奴は、外見上は警備隊の詰所内で真面目に仕事するようになった。

 バンナム様と顔を合わせたことで、自分がまだ疑われているのを察したのだろう。

 いい気味だ。

 そして、俺は外で警ら活動する際にシエクタと毎日顔を合わせるようになった。

 俺が積極的にその時間を選んで警らに出かけたためだ。

 これも職権乱用に問われ兼ねない行動だったが、仲間からは多少目をつぶって貰っている。

 シエクタへの心のケアが必要だとライゴンが言ってくれたからだ。

 そんな訳で、シエクタと会った時、エリックが外に出られないように俺が細工していることを彼女に伝えると、彼女は密かに喜んでくれた。

 そして、他の隊員達もシエクタがエリックの奴に殴られたのを噂で知っていたため、俺に喜んで協力してくれた。

 その結果、俺以外の奴もエリックが帰る頃合いを見て事件の調書を出すようになった。

 こうして、奴の帰りはさらに遅くなったのだ。

 ある種の組織的な虐めだったが、これは彼の普段からの徳の無さが招いた結果なのだ。

 仕方あるまい。

 

 そんな日々が一週間ほど続く。

 俺達の反撃は地味にエリックの奴に効いているようで、奴のイライラは日に日に増していった。

 顔色も悪くなり、ちょっとしたことでキレ易くなった。

 犯罪もまた増えてきたので、エリックの仕事の負荷は増えるばかりだ。

 そんな折、バンナム様がイオール商会に顔を出さなくなった。

 「そろそろ変化が必要だろう」というバンナム様の判断だったが、それがそのとおりで、顔を出さなくなった三日後、エリックのヤツが久しぶりに無罪釈放の判断をするようになった。

 俺はいつものように反発したが、エリックの方もストレスが溜まっていたのだろう、すごい剣幕でキレられた。

 俺は堪らず、口論負けする。

 勿論、これはフリだ。

 その後、体調不良を理由に、俺は警備隊を三日休むことにした。

 それはこの無罪放免した犯罪者のその後を追跡するためである。

 俺は警備隊の牢屋周辺の物陰に隠れて、犯罪者が釈放されるのを待つ。

 しばらくした夜の時間に、俺が逮捕した盗賊崩れの犯罪者が釈放された。

 その犯罪者は牢屋を出ると、周囲を警戒して夜の村を進む。

 俺はそいつに気付かれないように、後を付けた。

 この犯罪者は野宿をして、二日間ランガス村の中を彷徨い、そして、三日目にはなんとイオール商会へと入って行った。

 犯罪者がそこで何をやっているのかは調べられなかったが、シエクタが脅されている何かに関係している予感があった。

 そんな事を思いながらも、この犯罪者はイオール商会からはすぐに出てきて、次の目的地を目指すようだ。

 俺も、この犯罪者の後をつける。

 そして、次の目的地はエリックの奴が定宿にしている比較的高級な宿だった。

 金の無さそうな身なりの犯罪者だったが、彼は平気で宿へと入って行く。

 ここでも俺は宿の中には入らない。

 入ると尾行がバレてしまうので当たり前だが、この中で誰と会い、何を話しているのかは知る由が無かった。

 こんな時に魔術師が居れば良かったなと思ってしまうが、そんな能力のある魔術師などこんな片田舎にはいないのだ。

 そう思っていると先ほどの犯罪者ともうひとりの男が出てきて何やら会話している。

 俺は気付かれないように近付き、彼らの会話に耳を澄ました。

 

 「・・・まったく、あのエリックとか言う野郎はがめついヤツだぜ」

 「悪りぃな。アイツも今は気が立っているのさ。いろいろ見張られていたからストレスも溜まっているのだろうな」

 

 犯罪者と話していた相手の男はチンピラ風の商人のようだった。

 

 「お前はもうこれから帰るのか?」

 「そうだ。これから夜通し歩いて隣村のメルディまで行くぜ。そこで一休みするさ」

 「夜中だからな。魔物には気を付けろ」

 「へへ。俺を誰だと思っているんだよ。これでも砂漠の国じゃ名前知られているんだぜ、デニアンの旦那」

 「ああそうだったな。悪りぃ」

 

 この会話からもうひとりの男の名前がデニアンだと俺は解った。

 その後、この男達は二、三会話して別れる事になる。

 犯罪者はこれから隣村に向かうようだったが、流石に俺もそこまで後を付けることはできない。

 そんな事を考えていると、このデニアンとかいう人物は宿に戻らず、どこかに出かけるようだった。

 俺は尾行対象をこのデニアンという男に変更した。

 そして、この男が向かった先は村の集会場。

 夜なので誰も居ない筈・・・だったが、そこには先客が居て、待っていた相手はなんと副村長のウェイルズだった。

 俺は物陰に隠れて、再び耳を澄まして彼らの会話を盗み聞く。

 

 「・・・まったく、参ったぜ。あのエリックにはよう。ストレスが溜まっているのは解るが、自分の味方の運び屋にも恩着せがましく釈放してやっただの、もっと金を寄越せだの・・・ホントにアイツの欲深さには反吐が出るぜ」

 「フン、何を言う。それを制するのがデニアン、お前の仕事だろう。だからあんな青二才でも副隊長に推薦してやったのだ。もしエリックがヘマをやったら、儂にも責任が及ぶのだぞ。この前も警備隊の管理局が儂のところまで探りに来たのだ。解っているのか!」

 「へへ、解った解った。大丈夫だぜ。ちゃんとエリックのヤツが暴走しないよう俺が手綱引いてやるよ。アイツの頭の中には金と女の事しかねぇ。まぁ、俗っぽい方が操り易いからな任しときな。愚痴って悪かったな」

 「ふん・・・儂がお前を呼んだのは、貴様の愚痴の聞いてやるためではないぞ」

 「ああそうだったな。すまねぇ。それで何か問題が起ったのか?」

 「そうだ。お前たちのやっている違法薬物の取引の件だが、村長に情報が漏れたようだ」

 「ああん! 何だって!? 誰が漏らしやがった!」

 「イオールだ。アイツ、もう良心の呵責に耐えられないとか言って村長に相談持ちかけやがった」

 「ちっ、イオールの奴、裏切りやがって。脅しが足らなかったか・・・・・・いや、脅し過ぎたのかも知れねぇな」

 

 暗がりで良くは解らなかったが、このデニアンとか言う男が怒りに顔を歪める姿が俺には容易に想像できた。

 しかし、こいつらの会話からすると、イオール商会で違法薬物の取引をやっているらしい。

 先程、夜な夜な犯罪者がイオール商会に入っていたのはそう言う事か・・・

 どうやら、シエクタ達が脅されているのは、この事だろうと俺は思った。

 どうしてイオール商会が薬物取引なんかに手を出したかのは解らなかったが、今はそれよりも、こいつらのやりとりを聞く事に俺は専念した。

 

 「それで、この情報はどこから?」

 「フン。村長のヤツが警備隊プリオニラ隊長のところに相談しに来たところで止めたのだ。プリオニラが味方で良かったな。彼が儂のところに話しを持ってきて発覚したのだ。プリオニラから村長へはこの話を口外しないようにと釘を刺しておいたらしい」

 「ふぃーー、危ねぇ、危ねぇ。まだ部外者には漏れていねーんだな。助かったぜ」

 「何を呑気な事を言っておる。村長がいつ、他に口を割るか。儂もだいぶ金をばら撒いて味方を増やしておるが、この前来たようなラフレスタ中央の警備隊管理局の人間とかにバレたら、もう終わりだぞ」

 「確かにそうだな・・・じゃあ、殺るしかねぇなか」

 「そうだな。フフフ、少々予定が早まったが・・・致し方あるまい」

 

 俺は身震いする。

 この副村長ウェイルズの口調から、彼は以前から村長を害する計画があったようだ。

 どうやら、このデニアンとウェイルズはグルで、両方とも悪党なのだと俺の中で確定した瞬間だった。

 そして、このデニアンと呼ばれた男は少し考える素振を見せた後、殺害計画をウェイルズに説明し始めた。

 

 「少し急になるが、明日の夜に決行するぜ。ちょうど明日の深夜はイオール商会で大きな取引がある。これを使って村長を()めよう」

 「夜の取引現場に村長を呼びたすのか?」

 「応よ。取引現場に警備隊が押し入るから取引現場の証拠を確認するために立ち会ってくれと言えば、安っぽい正義感のある村長の事だ。ノコノコとやって来るだろう」

 「フフフ、そうだな。あの村長は変なところで正義感が強い。それが今回は仇になるか」

 「そうだ。現場で犯人を取り押さえるフリをして、こいつを使うのさ」

 

 デニアンはここで小さな紙袋をだしやがった。

 それを何かは俺には見えなかったが、彼らの話しぶりから大体予想がついた。

 あれこそ違法薬物―――麻薬の類だろう。

 

 「このクスリで頭がおかしくなった警備隊員に村長は刺殺されました。ハイ、御臨終・・・って次第さ」

 「フフ、なるほど。押し入る現場も全てがこちらの味方の人間だしな。これはいい見世物だ。儂も参加しようじゃないか。村長が刺殺されてその悲嘆にくれる副村長の姿を見事に演じてみせるぞ」

 「そりゃいい。特別席でいい劇を見させてやるさ。題して『正義の村長が善良な村民を守るために、麻薬でラリッた警備隊員に刺れて倒れる』だな。こりゃ泣ける劇ができそうだぜ。ククク」

 「よし期待しているぞ。これで村は儂らのモノじゃ。フハハハハ」

 

 下品な笑いが夜の集会場に木霊する。

 俺は大変なものを聞いちまった!

 この話しぶりからすると、村長の殺害計画は明日の夜に決行されちまう。

 俺は気付かれないようにゆっくりと集会場を後にすると、バンナム様が泊まっているクラップ湖畔にある空家を目指して真夜中のランガス村を駆けて行くことになった。

 

 


『登場人物』を更新しました。


さあ、ロイの反撃だ!

明日からお楽しみに。


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