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ラフレスタの白魔女 外伝  作者: 龍泉 武
第五部 帝皇の罪、銀龍の罪
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第二十三話 ひとときの休息とグラニットの過去

 俺達はキャサリンに案内されて宿に到着する。

 そこの宿を目にして、俺は絶句・・・

 その宿は街の中心地から少し外れたところにあり、大きな塀に囲まれた立派な門。

 それは宿と言うよりも金持ちの屋敷に等しい。

 そんな立派な門を潜ると、その内部は広大な敷地を贅沢に使った美しい庭園が広がっている。

 一部はリドル湖に面していて景観は最高だ。

 しかし、こんな見るからに高級宿――いったい一晩幾らになるだろう。

 

「キャーッ! 素敵っ!」

「そうですね、清潔で何よりです。アルヴィさんのエルフの里にもこのような宿はあるのですか?」

「無くもないけど・・・広大な湖が見渡せるのは素敵ね」


 テンションの上がる女性陣だが、少市民な俺は支払いの心配ばかりが頭に過る。


「旅の皆様、グロスで一番の宿に着きました。後日、姉より恩賞の話があると思います。それまではこちらの宿でお過ごしください」


 キャサリンから俺達へそんな事が伝えられるが・・・

 

「この宿は・・・その・・・一晩幾らぐらいに? 俺達は旅の冒険者だから・・・」


 無理すれば一晩ぐらいは払えなくもないが、それでも俺達は旅人と言う設定だ。

 あまり贅沢できる立場ではない。

 ソワソワとした俺の態度はキャサリンにあっという間に見抜かれる。

 

「支払いは心配しなくて大丈夫です。皆さまはグロス救国の英雄。費用は私達の領主持ちで考えておりますので」


 そんな一言にホッとしてしまうが、俺にも一応プライドがある。

 皆の前で、あまり金にセコイところは見せたくはない。

 

「いや、それはダメだ。俺達は施しを受ける訳には・・・」

「ランス様、ここはグロスの地です。領主側の歓待に謙虚過ぎるのも逆に失礼だと思います。歓待を素直に受けましょう」


 断りかけた俺の意見をエミリアが遮ってくる。

 彼女は元王族、この程度の歓待は贅沢のうちに入らないのかも知れない。

 それに加えて普段からのエミリアは言葉に出さなかったが、この世界の生活が不衛生であるのを気にしていたし・・・

 

「ランス様、ここは私の顔を立てると思って」


 エミリアから何かを懇願するような目つきで俺を見てくる。

 ダメだ・・・そんな目で俺を見れば、断れないな・・・


「・・・解った。エミリアは元々王族だしなぁ・・・キャサリンさん貴方達の歓待を受けよう」


 そんな俺の言葉にホッとするエミリアとキャサリン。


「ランス様、我々の歓待を受け入れて頂きありがとうございます。それでは、皆さん参りましょう」


 キャサリンに連れられて高級宿の敷地の中を進む。

 高級宿の敷地内は手入れに行き届いた宿の庭が美しい。

 

「なかなか雰囲気良いわね。特に湖の見える眺望が良いわ」

 

 特に自然の美を好むアルヴィはここを気に入ったようだ。

 そんな景観を楽しむ余裕もない俺・・・小市民の俺はこの宿が果たして一泊幾らかをまだ心配している。

 領主側の驕りなのだが、それでも気になるものは気になるのだ・・・

 そんな事を考えながら気を揉んでいると、俺はグラニットさんに聞いておかなくてはならない事を唐突に思い出した。

 

「グラニットさん、教えて欲しい事があります。アナタとバルディ王国の因縁について聞きたい」

「・・・」


 無言のグラニットさん。

 俺の脈絡ない会話に周囲も唖然としている。

 拙い・・・タイミングを見誤ったか・・・

 

「・・・無理にとは言わない。もし語りたくないのであれば・・・」

「いや・・・聞かせてやろう。だが、少々長い話になる・・・その話は夕食の後に改めて聞かせてやろう。そうだな・・・パーティリーダーであるランスには俺の過去を知って貰いたい」


 何かを少し考えるような間を経て、何か決意したグラニットさんが俺にそう漏らしてきた。

 

「その話・・・私にも聞かせて貰ってよろしいですか?」

 

 グラニットさんの過去に興味があるのか、キャサリンもそれを聞きたいと言う。

 

「いや・・・キャサリンさんは部外者で・・・」

「良いじゃないですか。彼女も私達と同じくバルディ王国に恨みを抱く筈・・・情報の共有は悪手ではありませんよ」


 俺はキャサリンの参加をやんわりと断ろうとしたが、またしてもエミリアが異を唱える。

 エミリアは妙にキャサリンの肩を持つのも気にはなるが、それでもこれはグラニットさんの内事情、どうするか? とグラニットさんに目で合図を送る。

 グラニットさんは少々考えて、やがてかぶりを振った。

 

「・・・構わない。ただし、あまり面白い話ではないぞ」


 結局、グラニットさんは了承した。

 こうして、夕食後にグラニットさんの過去を語る場が設けられる事になった。

 

 

 

 宿の夕食は高級宿に相応しく豪華で品の良い清潔な食事。

 俺は量的にも質的にも満足しつつ、一体これがどれぐらいの費用になるのだろう・・・と金の心配ばかり・・・嗚呼、俺は小市民的だなぁ~

 そして、その後、高級宿側の計らいで、他の宿泊客が入れない一室を貸して貰い、そこでグラニットさんの過去の話を始められる事となった。

 語らい易いようにと高級宿側が気を利かせてワインを提供してくれる。

 至れり尽くせり宿のそんな対応に感心する。

 品の良いワインの芳醇な香りが部屋に充満し、少し暗い室内が程よい雰囲気を醸し出している。

 そんなお膳立ても揃い、いよいよとグラニットさんの話が始まった。

 

「あれはもう・・・三年も前の話。俺達家族はリドル湖西岸の街ザクトに住んでいた・・・」


 グラニットさんの話は自身の簡単な生い立ちと彼の剣術の師匠が住むザクトの街から始まる・・・

 

 

 

 俺はどこから話そうかと考えて、過去の家族の事情から始めることにする。

 俺にとっては辛い記憶だが、ここから話さねば俺のバルディ王国――いや、その国王を名乗るドゥーボ・バルディへの恨みが説明できない。

 ドゥーボ・バルディ、その男は突然にザクトにやって来た。

 彼が何者で何処から来たのかは未だに謎だが、ドゥーボがここでした事は明確に覚えている。

 それは所謂道場破り――俺や妻の剣術の師匠に勝負を挑んできたのである。

 

「貴様はこの道場が名門カサンドラ流剣術と解っているのか?」

「フン。有名で歴史ある道場なのは解っている。そして、その道場の歴史は今日で最後になる」

「若造が、減らず口を・・・命の覚悟をしておけ」


 ドゥーボはチンピラ風貌の戦士崩れだ。

 時々現れる己の実力も解らない身の程知らずだろう――この時の俺はそう思っていた。

 自分達の師は人格者として優れており、心技体の調和が最高の剣術を生み出すとは我らが流派の極意だ。

 そんな名声を狙おうと時折、道場破りが現れるものだ。

 師匠がこんなチンピラ崩れに敗れるとは思っていない。

 

「それでは始めるぞっ!」


 掛け声と共に勝負の開始。


ガキーンッ! ガキーンッ! ガキーンッ!


 師匠の早くて重い剣戟がドゥーボに炸裂する。

 ドゥーボは得物の戦槌で防戦一方。

 実力の差は歴然。

 俺はこの勝負はすぐに終わると思っていた。

 しかし・・・

 

ガキーン、ガン、ドン・・・


 おかしい剣戟の音が進む毎に変化していく。

 その音を聞けば、力が失われて、速度の低下が解る。

 

「へへへ、どうしたんだ。辛そうだな。老いか?」

「ぐ・・・貴様・・・」


 苦悶の表情に変わる師匠。

 これは変だ・・・絶対に何かが行われている。

 もしかして、精神に作用する魔法的な何かか?

 神聖な剣術士の勝負に魔法など。

 俺は異変を察知して、この勝負を止めようとした。

 

ガンッ、ドゴッ!


 しかし、それが間に合わず、ドゥーボの凶悪な戦槌の一撃が師匠の脇腹に炸裂する。

 

「ぐおっ!」

「へへへ、勝負あったんじゃねーか?」


 口から鮮血を零し、悔しいがドゥーボの言うとおり、勝敗を決める一撃。

 信じられないが、それでも俺は一端の剣術士、これが勝敗を分ける一撃だと解る。

 

「師匠! ちくしょう」

「オッと待てよ! まだ勝敗はついていないぜッ!」


ドゥカッ!


 ドゥーボのとどめの一撃を放ち、鮮血が舞う。

 無防備となった師匠の頭部にドゥーボの重厚な戦槌の打撃が与えられる。

 それは悪辣な一撃、既に勝負がついた状態で相手を死に至らしめるとどめであった。

 

「師匠っ!」


 俺は飛び出しそうだったが、それは脇にいた姉弟子によって阻まれる。

 

「ダメよ。これは神聖な勝負の結果・・・生死は問われない」

「確かに剣術の世界ではそうだが、それでも師匠は君の父でもあるんだぞ!」


 俺を厳しく止めた姉弟子は師匠の実子でもある。

 剣の才能も師匠から引き継いだ姉弟子ニィールはこの道場で師匠に次ぐ実力者であり、俺の妻でもある。

 剣術に対して普段からストイックなニィールだが、この時ばかりはクール過ぎるんじゃないかと思った。

 そんなニィールに試合と言う名で師匠の命を奪ったドゥーボが厭らしく笑いかける。

 それに目を瞑って手を上げて応えるニィール。

 何だ? このやり取りは??

 ニィールは既にドゥーボという男を知っているのか?

 そんな焦燥感が俺の脳裏に過った。

 

「どうだ? これで俺の強さを証明したぞ」

「・・・ええ、解ったわ。約束どおり我らがカサンドラ一派はアナタにつくわ」


 俺は自分の耳を疑う。

 

「ニィール、何を言っているんだ? こいつは師匠を殺した奴。君の父を殺した奴なんだぞ!!」

「グラニット・・・それでもドゥーボは強い。私はね? ずっと父を超える男の存在を夢見ていたの? 残念だけどアナタじゃ役不足だったわ。この先何年かけても父を超えられない」

「ニィール、本当に何を言っている? 正気か?」

「正気よ。さあ、他の門下生もドゥーボの一派に鞍替えしましょう。今日でカサンドラ流剣術道場は終わり、師匠の負けで勝負はついたわ」

「莫迦な・・・莫迦な・・・」


 俺は我妻のニィールの言動が信じられず、動揺が増す。

 

「そうか・・・ドゥーボ・・・貴様がニィールを、妻を誑かしたのか!」


 俺は訳が解らず、あてずっぽでドゥーボを敵として認定する。

 真実はどうだか解らないが、それでもドゥーボを敵にとする事で俺は正気を保とうとしたのかも知れない。

 剣を抜きドゥーボに斬りかかろうとするが、ドゥーボ自体は俺に不敵な笑いを続けている。

 彼は俺の師匠を破ったときから態度を変えていない。

 

「この野郎っ」


 そんなドゥーボの態度が気に入らず、俺は剣に力を籠める。

 ここでドゥーボの視線の光が俺の眼に入ってきた。

 

グイーーーン!


「何だ!? この感覚は?」


 彼の目に吸い込まれるような感覚・・・不思議なそんな意思の途絶えを感じたのは数瞬だったが、それは戦う者にとって圧倒的な隙。

 気付いた時にはドゥーボの戦槌が目前まで迫っていた。

 

 ダメだ・・・殺られる。

 

 俺は自らの敗北を意識する。

 ・・・しかし、そこで受けたのは後頭部からの衝撃。

 どうしてそんなところから? 自分が意識を失う数瞬で見えたのは我妻ニィールの剣戟・・・どうやら彼女の剣の峰打ちで俺は意識を飛ばされるようだ。

 

「ニィール・・・どうして・・・」


 混乱する中、俺の意識は奪われてしまう・・・

 

 それからどれぐらいの時間が経過したのだろう。

 俺が意識を取り戻したのは日も落ちた夜中だった。

 道場で試合が始まったのは昼頃だったから、俺は十時間ほど意識を失ってその場に放置されていた事になる。

 周囲を確認すると、夥しい血痕と死体の山。

 それはカサンドラ流の門下生が斬られた後だった。

 

「・・・うぐ・・・これは剣術士の技・・・ニィールがやったのか?」


 あの場でドゥーボに恭順を示す事を言っていたのは彼女だけ、認めたくない気持ちが未だ強かったが・・・客観的に考えてニィールが殺ったとするのが正しいだろう。

 そうしていると瀕死の門下生をひとり発見する。

 

「おい。大丈夫か? 誰にヤラレタ!?」

「ハァ、ハァ、ハァ・・・ニィール様が賊の味方をして・・・そして、ニィール様に協力する幾分かの門下生も・・・グフッ!」


 事実だけを俺に伝えてその門下生は役割を終えたとばかりに息を引き取る。

 凄惨な現場であったが、俺はまだ現実を受け入れられない。

 

(ニィールは自分の考えに同意した門下生を引き連れて、ドゥーボの門下に下ったのか?)

 

 認めたくない事実が俺の脳裏から導き出される。

 彼女は道場を、カサンドラ一派を・・・家族を裏切った?

 そこまで考えて、俺は急に自宅が心配になり、慌てて家に帰る。

 するとそこは・・・道場以上に凄惨な現場になっていた。

 身の回りを世話する人達が大勢殺されている。

 その傷はすべて剣の切り傷によるもの――ニィールがやったのだろう。

 そして、俺の脳裏には最悪の事が過る。

 子供部屋に入り、そして・・・絶句。

 

「あぁ・・・どうして・・・どうしてここまでの事を」


 そこで目にしたのは我が娘の死体だった・・・

 心臓を一突きにされて絶命する我が娘の姿は、俺からさらに現実感を奪う。

 そして、脇に残された手紙の存在に気付く。

 そこには・・・

 

――愛するグラニットへ。このような結果になったのを謝るわ。先に書いておくけど、このような結果になったのにアナタは悪くない。私は常日頃から最強の剣術を求めていたのは解っていと思うけど、今回の結果はその延長線、つまり私の我儘(わがまま)よ。私はこれ以上剣の道を極めるのを父によって止められていたの。父は私にこう言ったわ。「お前は女だ。グラニットと幸せな家庭を築くことに専念しろ。女の役目は愛すべき家庭を築き、我が子を育てる事にある」・・・だから私の研鑽に父は邪魔になった。そんな日々で私の前に現れたドゥーボは私にこう言ったわ。「ニィール、お前の望みを叶えてやろう。俺と一緒に来い。俺の覇道を手伝え。そうすればお前の夢は叶えてやる。斬っても斬り足りないぐらいの敵を用意してやる」っね。これは正気の沙汰じゃないわね。それでも私はそんな覇道に落ちてみようと思う。そこに進まないと、もうひとつ上の高みに昇れないと思うの。そんなドゥーボは私との約束を果たして父を殺害してくれたわ。次は私が覚悟を見せる番・・・そして、私は娘の命を奪った・・・我儘(わがまま)な私の責任を取らされてこのままでは娘は不幸になってしまう・・・それならばいっそうの事、心臓の一突きでその命を奪ったわ。決して苦しまなかったと思う・・・それがせめてもの私の愛よ・・・ああグラニット、我が欲に走った私の事なんて早く忘れて頂戴。ニィールより――


「馬鹿な・・・こんなの嘘だーーっ!」


 俺は混乱の中、ここで起きている事は悪夢だと信じた。

 喚き、叫び、藻掻くが誰も俺を助けてくれない。

 やがて気付けば朝になっていた。

 街の衛視が道場の騒ぎに気付き、俺の家までやってきたが、凄惨な現場を見て絶句。

 始めは俺がやったんじゃないかと疑われて束縛・・・三日間独房に入れられたが、すぐに疑いは晴れて釈放となる。

 その措置が良かったのかも知れない。

 もし、誰かが近くに居れば、俺は手当たり次第に人を斬っていたのかも知れない。

 それほどの苦しみ・・・現実の受け入れ難さ・・・良く気が狂わなかったものだ・・・

 そして、幾ばくか冷静になった後に聞くドゥーボの一味の噂。

 彼はその後も名のある剣術士道場、魔術師道場を破り、仲間を増やしているらしい。

 都度に破った道場から配下の者を募り、それを率いてドゥーボの組織は確実に大きくなっている。

 そして、その陰には女性剣術の噂も聞く――凄腕で髪の長い女性が斬って斬って斬りまくるらしい・・・それはニィールの事だろう。

 俺は決意した。

 ニィールを連れ戻すことは最早不可能。

 ニィールはそれほどに人の道から外れたのだ。

 俺の役割は師匠の敵であるドゥーボを殺し、そして、自分の剣術(よくぼう)を追求するニィールを止める事。

 それは彼女の息の根を止める事に等しい・・・

 そして、俺は故郷のザクトから旅に出る事にした。

 目的はドゥーボが率いるバルディ王国の奴ら。

 彼らは神出鬼没で機動性がやたら高く、いつも寸でのところで追いつけないでいる。

 組織力の上がった彼らはその標的を道場から領土へと変え、リドル湖一体を支配しようと考えているらしい。

 行く国々は既にバルディ王国の占領を受けていたが、それでもそのトップにドゥーボが就く事は無かった。

 ドゥーボは玉座に着くことに興味は無いのだろうか?・・・その理由までは解らない。

 だから、俺は三年間バルディ王国の本隊を追いかけている。

 そして、今日、ドゥーボの弟へと辿り着く。

 兄と同じく不思議な能力を持つ奴だったが、それでも彼を殺せたというのは大きい。

 自分が引導を渡せなかったが、それでも構わない。

 この先、ドゥーボとニィールに引導を渡す役割が俺になれば、それでいいのだから。

 俺の願いは二人の命・・・彼らをこの世から抹殺する事で俺の旅が終わるだろう。

 

 

 

 そんな結びでグラニットさんの話は終わった。

 初めから「あまり面白い話ではないぞ」と前置きを貰っていたが、やはり・・・あまり聞いていて気持ちのいい話ではない。

 俺の心には陰気な気持ちが増大し、それを誤魔化すために手持ちのワイングラスをグッと煽る。

 そして、気が付けば、俺の手にアルヴィの手が添えられていた。

 彼女は顔が高揚して、俺に何かを懇願してくる。

 

「私が・・・ニィールさんの立場ならば、決して愛する人を裏切らない・・・私はランスを決して裏切らないわ」


 ニィールの選択は間違っている案に言うアルヴィ。

 それは人として正しい意見なのだが、それにしても今日の彼女はいつにも増して言葉に力が籠っている。

 グラニットさんの話に感化されたのだろうか、少し情熱的だった。

 グラニットさんを見れば、傍で話を聞いていたキャサリンが彼の手を握って涙を浮かべていた。

 傷付いた男を慰める女性の構図だが、俺とアルヴィも傍から見てそう見えるのだろうか?

 ここでいつもならば、こんな雰囲気を嫌う妹のナァムから注意されるのだが・・・

 ナァムに目をやると、ワインが並々と入ったコップ片手にフラフラとしている。

 グラニットさんの話が衝撃的過ぎて、落ち着かせるために誰かが彼女に酒を飲ませたのだろう。

 

「ナァムさん、ナァムさん。まぁ、酔っぱらわれてしまったのですね。解りました。私達が部屋に運びましょう」


 エミリアが筆頭に泥酔したナァムを抱えて部屋から消えて行く。

 去り際に俺に向かって何かのサインを送ってくるが・・・訳が解らん。

 エミリアは俺に何を求めているのだろう。

 そうすると俺の手はアルヴィに引かれた。

 

「ねぇ? あんな話を聞かされたら、女は不安でひとりでは眠られないわよ?」


 こんな状況なのに、何故か今日の彼女はありったけの甘い声で俺を誘惑してきた・・・

 


さて、この後の展開は・・・ご想像どおり・・・です。


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