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ラフレスタの白魔女 外伝  作者: 龍泉 武
第五部 帝皇の罪、銀龍の罪
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第二十二話 グロスの戦後


「嫌ゃぁだぁ~、死にたくない~っ!」


 俺の目前で魔法の炎に焼かれて、のたうち回るパロス。

 数刻前までは一国の主として君臨するに等しい横柄な態度の男であったが、現在の彼の姿にそんな余裕は無い。

 領土を不当な手段で奪った悪党に等しく、元領主の娘より断罪を受けているのだ。

 魔法の炎は相克する魔力で対抗しない限り、施術した術者が魔法解除しないと炎は消せない。

 勿論、このような仕打ちをした魔術師メリージェンは彼を許すつもりは無いだろう。

 パロスの股間に着火された炎は小規模なモノ――所謂、下級魔法の属する火炎魔法だが、それが故にゆっくりとした進捗でその身を焼かるパロス。

 パロスが敢えて苦しむようにそうしたのかは解らないが、その施術者たるメリージェンはただ無表情でのたうち回るパロスを見下している。

 周囲は静まり返り、すべての者が焼かれているパロスに注目を注ぐ一種異常な光景だ。

 パロスの味方であった筈の兵の誰もがパロスを助けようとしない。

 それは、きっと先程パロスが魔法の力で変身した事によるものだろう。

 

 ――魔族――

 

 そのキーワードが彼らの脳裏に過っているのだと思う。

 『魔族』とは、かつてこの世界を支配していた種族であり、魔力素質に優れた人型亜人の総称を示す。

 彼らは人間と似た姿だが、耳は長く、頭から角が生えているのが特徴。

 かつて魔族は自らを人間族の上位者と宣言し、恐怖と圧倒的な魔力で人間世界を支配してきた種族。

 魔族は人間を格下として扱い、反抗すれば容赦なくその魔力で人間を虐殺した。

 だから我々人間は魔族を悪魔の同位者として、その暴力的な支配に必死に抗った歴史がある。

 我々の先祖も悪魔狩人として主導的なそんな魔族達と争った一員でもある。

 そのご先祖の働きもあって、魔族は衰退し、百年前に完全に滅んだとされている。

 バルディ王国の兵達はそんな魔族の末裔がこのパロスなのではないかと疑っているのだろう。

 俺もそんな事を思っていると・・・

 

「くっそう、俺達は魔族に仕えていたのか!」


 予想どおりそんなことを呟き、武器を投げ捨てる敵兵が現れた。

 やっぱりそうだろう・・・これほど人間離れした魔法、異形の者に変身する能力・・・パロスが魔族である事を疑う余地は十分にある。

 そんな流れは加速していき、敵兵として対峙していた者達は次々と武器を放棄して、戦闘は終焉を見せた。

 そして、パロスが絶命して動かなくなる頃にはここでの戦闘は完全に終結する。

 そんな結果に静かに満足していたのはメリージェン。

 

「ありがとう。アナタ達のお陰で勝つ事ができたわ。これでお父様やお母様、そして、バルディ王国に蹂躙された人々の恨みを少しでも晴らすことができた・・・」


 ずっとパロスの死に逝く様を眺めていたメリージェンがそんな感慨深い一言を述べる。

 そして、次に彼女は息を大きく吸った。

 

「ここにグロスの秩序を取り戻したことを宣言する。私はメリージェン・グロス!」

「「おおーーーっ!」」


 メリージェンの勝利宣言に沸いたのは彼女の部下の魔女部隊だけではない。

 遠くでこの戦いの成り行きを見守っていた数多のグロスの民達もその宣言に喝采を贈ってくれた。

 バルディ王国の王弟パロスを討てた事で一気に形成が逆転した。

 圧倒的な勝利である・・・


 こうして、バルディ王国から支配権を取り戻したメリージェン・グロスの元で迅速に戦後処理が進められるだろう。

 

 俺もホッとする。

 一時は巨大化したパロスにどう対処すべきか迷ったが・・・

 あっ!・・・そう言えば、あの時にウェンから「舌を攻撃すべき」と意見具申があり、それで事態が好転したんだった。

 俺はあの時のブレイクスルーを思い出し、ウェンに何故そう思ったのか問う。

 

「ウェン、どうして巨大化したパロスの舌が弱点だと解ったんだ?」

「う~ん、それは・・・勘かなぁ~」


 はぐらかすウェンをしばらく無言で眺めていると、彼は観念したようで真面目に答えてくれた。

 

「俺は魔法なんて技術は解らないけど、舌ってヤツは神経が多く集まる部位だ。それは所謂『急所』ってヤツさ。巨大化の魔法で人間離れしたパロスだが、魔法ってのは能動的だと聞く・・・つまり、自分の考えの及ばないところには作用しない。ヤツは自分の舌を蛙のように伸ばす事以外に強化の必要は無いと思っていたのだろうよ。どうしてそう思ったのかって? それこそ、勘・・・パロスは女性を辱めることに快楽を求める人物だと思われる。女性をいたぶるため、そして、その感覚を感じていたいために自分の舌に人間的な感覚を残したんじゃねーか?」

「なるほど・・・」


 多少の偶然もあるが、これはウェンの洞察力によるものだろう。

 そこに思い至ったウェンには驚かせられるが、そんなウェンの作戦を真っ先に信じて実行したクレアさんに次の称賛を贈りたい。

 それを彼女に伝えると・・・

 

「ウェンが珍しく真面目に言ったので思わず反応してしまったのです。今回は全くの偶然ですよ」


 と謙遜して応えてくるクレアさん。

 彼女はその見た目どおりクールな対応だ。

 しかし、ウェンはそんな彼女に夢中な訳で・・・

 

「やっぱ、クレアちゃん。俺達って愛があるんだよねぇ~」

「寄ってくるな、気持ち悪いっ!」


パシンッ!


「ウギャッン!」


 スキンシップを図ろうとするウェンを足蹴にするクレアさん。

 クリアさんの長い脚はウェンの顔面を直撃して、一撃で黙らせる。

 悶絶するウェンだが・・・

 

「ハハハ」


 こんな喜劇のやり取りを見せられた一同は笑いに包まれる。

 殺伐とした戦闘の雰囲気は文字どおり一蹴できた。

 今回はそんなウェンとクレアの協力によって戦闘が一気にこちら側へと傾いたのだ。

 パーティリーダーとしては彼らに特別な報酬を与えても良いだろう。

 俺がそう思っていると反乱分子のリーダーであり、今後、このグロスを統治すると思われるメリージェンと目が合う。

 

「今回はアナタ達の協力で助かったわ。報酬の話だけど・・・」

「それは後日で良いだろう。周りを見てみろ。グロスの解放を喜ぶ領民ばかりだ。メリージェン、今のアナタの優先すべき仕事は彼らと喜びを分ち合うべきだ。余所者の俺達は今日グロスに来たばかり、良い宿を教えてくれれば、それで良い」

「・・・そうね・・・今日は素直にアナタの進言を聞くしかないようねぇ~」


 彼女は少し残念な表情になるが、それでもそんな表情を一蹴させて、グロスで一番の宿を教えてくれる。

 

「冒険者ランス一行は、しばらくグロスで一番の宿で静養してください。アナタは私にとっても、私達にとっても救国の英雄よ。最高のもてなしと褒章は期待して」

「うむ、ありがとう。しかし、パロスに最後のとどめをしたのは貴女だ。メリージェンはその功績を遠慮なく誇って欲しい」


 最大の功績者はメリージェンであると言う。

 俺のそんな言葉(リップサービス)に喝采を贈る領民達は皆、喜んだ。

 そして、俺は盛り上がるこの場を後にしようとする。

 メリージェンは為政者の務めとしてこの場を仕切る必要があるだろう。

 そんな忙しいメリージェンから案内を託されたのは妹のキャサリンだ。

 彼女は姉の名代として俺達を宿まで案内してくれた。

 そのキャサリンは、危ないところをグラニットさんに救って貰ったのを恩義に感じているのか、グラニットさんを少々意識しているようだ。

 顔を赤らめたキャサリンはグラニットさんの腕を引き、身を寄せるようにして俺達を宿へ案内する。

 そんな彼女の解りやすいアプローチを目にしたアルヴィが俺に小声で話しかけてきた。

 

「ねぇ? 彼女ってグラニットに気があるのかしら?」

「さあ?・・・それにしてもグラニットさんは顔色ひとつも変えないなぁ~ あの人の精神は鋼鉄でできているのだろう」


 美女に手を引かれても顔色ひとつ変えない剣術士グラニットは煩悩を完璧に克服していた卓越した人格者のように見える。

 俺だったら、豊満のメリージェンの妹らしく美人でメリハリのある身体の女性魔術師に手を引かれれば、自分の顔がだらしなく緩まないか必死に耐える必要がありそうだ。

 

「へぇ~ 人間の男性ってあの程度(・・・・)の女性に手を引かれるぐらいで興奮するものなのねぇ~」


 エルフのアルヴィからしてみれば、キャサリンぐらいならば美人の範疇に入らないのかも知れない。

 そんなことを思っているとアルヴィが悪戯っぽく笑い俺に腕を絡ませてきた。

 

「それじゃあ、私がランスの腕を引いてあげる。これは私からの今回の戦いの勝利の報酬よ」

「うおっ!」


 アルヴィは華奢な身体付きだが、それでも今は平服。

 俺も半袖の平服だから、肘の外側にアルヴィの女性としての柔らかい感触が伝わってくる。

 たとえ彼女の胸は豊かでなくても、柔らかいものは柔らかいのだ!

 そんな主張が肘を介して俺の脳に情報伝達がなされる。

 これは拙い、この状況で男として興奮しないのは不能者だけだ。

 そんなアルヴィのおふざけは一瞬にして妹の逆鱗に触れる。

 

「コラッ! 野良エルフ、お兄様にじゃれないで。お兄様もお兄様です。アルヴィに甘過ぎますよ!」

 

 妹のナァムはアルヴィの度の過ぎた俺へのスキンシップを不適切として、引き剥がそうとする。

 その度に肘に当たる場所が動いて・・・ぷにょ、ぷにょと・・・

 アルヴィの乳房の全貌が俺の肘へと伝わってくる。

 彼女の意図は何だろう?

 ハッ!? 俺が色仕掛けで簡単に落ちるか試しているのかも?

 下品なパロスのような輩を見た直後だし、アルヴィは人間種族の誠実さを疑っているのかも知れない。

 俺は人間代表としてこの誘惑には負ける訳にいかないぞ・・・

 ムラムラと下半身から湧き上がってくる雄の欲望を抑えつつも、アルヴィからの愛撫に無反応で通そうとする。

 女性陣から幾分かの冷たい視線を感じたが、それよりも俺は自分の下半身が反応してしまわないか必死に耐えた。

 

 ヤバイ・・・グラニットさんを見習え、グラニットさんを見習え。

 

 俺は敬虔な神父の如く自らの煩悩を捨てるために、無欲なグラニットさんを神の如く崇めようとした。

 ・・・そう言えば、グラニットさんがバルディ王国を恨む理由をまだ聞いていなかったな。

 グラニットさんの余裕の後ろ姿を見てそんな事を思い出す。

 しばらくは宿で暇を持て余すことになるだろうから、そこで聞いてみるか・・・

 

 

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