第十話 追撃と裏切者
「待て! 逃がすなっ!」
空に夜明けの明星が見える頃、俺達は逃走を図ったバルディ王国の兵達を追っている。
領主の館より大通りを下り逃走を図る敵兵。
それは手際の良すぎる撤退であり、彼らが目指すのはリドル湖に面した港のようだ。
「追撃のご協力、感謝します。ランスさん」
「君は・・・」
走りながらも律儀に挨拶をしてくるトリア領主の私兵のひとり。
「私はスウォード。守護警ら隊に所属しています」
「俺はランス。冒険者組合に所属している冒険者。そして、彼女達はナァムとアルヴィリーナだ」
俺も律儀に挨拶を返す。
礼儀には礼儀で返せと親より厳しく教え込まれていたので、これはもう反芻行動に等しい。
本来、のんびり挨拶を交わす状況ではない。
憎き敵を追撃行動中の今には不似合いな会話と思えるやりとりだ。
しかし、この青年は俺のそんな律儀な受け答えに良い印象を覚えたようだ。
「冒険者はもっと利己的で、プライドの高い人達だけだと思っていましたが、ランスさんのような人もいるのですね」
「俺のような人?」
「ええ。話し易く、無償でトリアのピンチに駆けつけてくれて。そして、敵の親玉も退治してくれたじゃないですか。アナタこそ真の英雄だと思いますよ」
「やめてくれ。俺は自分の成すべき事をしたまで、トリアは俺の故郷でもある。ここを守ることはそれだけで十分利益になるよ」
「それでもアナタは良い人だと思います。冒険者って利益優先主義じゃないですか!」
ここでスウォードの言う人物とは、組合長のドライドさんのような人の事を言っているのだろうか。
確かに普段から「利益、利益」とうるさく、その思想に感化された冒険者も多いのかも知れない。
それでも・・・
「すべてが利益至上主義者という訳でもないさ。冒険者の本質・・・それは自由であること・・・だと思う」
「自由ですか・・・羨ましいことです」
スウォードは何かを勝手に想像して、羨ましがっているようだ。
自由・・・それは嘘じゃないと思う。
俺がここで口から出まかせを言っているように見えなくもないが、実はこれも父である先代組合長から言われ続けた遺言のようなもの。
『冒険者たる者、自由であれ』とは今の経営方針とは真逆・・・当時の組合の経営は火の車で、利益はあまり出せなかったが、それでも所属していた冒険者達は楽しく刺激的な生活していたように思う。
俺がよく愚痴を聞かされるグラハンさんなんかは正にこの事をよく言っていた。
俺が勝手にそんな感傷に浸っていると、港の詰所に到着した。
ここは森側の街の入口と同じく、外敵の侵入を防ぐ関所の機能もある筈だが、何故か逃走した敵はこの関所を素通りしていったようである。
当然、そんな様子に疑問を感じたスウォードが守備警ら隊を代表して口を開く。
「何故、敵を逃がした!」
「はぁっ? 敵だと??」
応対した衛視は本気で困惑していて、訳の解らない様子。
「ああ、領主様の屋敷が奴らに襲われて、領主様が殺されたんだぞ。奴らはバルディ王国からの刺客だ」
「そ、そんな! 俺達は派遣させてきた傭兵だと聞いている。隊員が訓練で怪我をしたから船で治療すると言われて・・・」
「莫迦な奴め。騙されやがって!」
「し、しかし・・・彼らは正式な招聘状を持っていたんだ。彼らは出征した冒険者の代わりに領の防衛の任に就くとして雇ったと冒険者組合長の署名で・・・」
「何!?」
俺とナァムが顔を見合わす。
思考が整うのにしばらく時間は掛かったが、改めて考えてみるとすべてが合致した。
「兄さま、これは・・・」
「うむ。どうやら俺達は嵌められたようだ。初めからバルディ王国とドライド組合長はつながっていたと見るべきだな・・・」
どうやら、俺達へ執拗に森に入るよう薦めたのも、この襲撃の布石だったようだ。
「そう言えば、夜半に彼らの船に乗り込んで行くドライド組合長の一家の姿を見た者がいる・・・表敬訪問だと言っていたようだが、やけに荷物が多かったらしい」
「それは・・・」
これで確定だと思った。
「なるほど。どうやら、そのドライド組合長は我々を裏切っていたようですね」
スウォードも裏切りの真実に気付く。
確かにこのトリア領には屈強な冒険者の数は多い。
その冒険者達が街に多くいれば、バルディ王国の兵がトリア領を制圧するのがより難しくなる。
なので、適当な理由をつけて俺達を街から遠ざけたのだろう。
くっそう。
俺達はまんまとドライド組合長に騙されたようだ。
「そんな! 俺達は解らなかったんだ。その招聘状は正式な冒険者組合が発行した書類だったし・・・」
「だから、それは当たり前でしょ! その組合長がグルだったんだから」
ナァムから容赦の無い指摘は腑抜けた衛視にとどめをさす一言であったりする。
「ともかく、奴らは領主様を殺した。そして、ここのトリアを不当に占領しようとした大罪人に違いない。奴らは成敗させなくてはならない。逃げた船はどこだっ!」
ここで誰かの責任を追及してもしょうがない。
俺達は今なすべき事を優先するべきだ。
「ちょっと待ってくれ、すぐに調べる」
衛視はせめともの挽回にと躍起になる。
そして、その成果はすぐに現れた。
「あの三隻の船だ。見ろ! 出港しようとしているぞ!」
衛視は素早く対象の船を特定したが、その船は今、出港しようと碇を引き上げている。
「逃がしてならない!」
スウォードは守護警ら隊の威信にかけて、バルディ王国の侵略者を許さない姿勢。
その姿勢に俺も激しく同意する。
俺も領主様――ウェルティカの父親を家族の目の前で撲殺した罪は許せない。
俺達は出港を急ぐ三隻の船を阻止するため、行動を開始する。
今回は短いです。ここ以外の場所で場面を切ると、話の流れ的にキレが悪いので・・・ご容赦ください。




