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ラフレスタの白魔女 外伝  作者: 龍泉 武
第五部 帝皇の罪、銀龍の罪
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第五話 早すぎる帰郷


「・・・だっからねぇ~ エルフの里の人達って本当に閉鎖的なのよ!」

「ふむ。そうか、そうか・・・なるほど、苦労したんだなぁ」


 適当に相槌を打つ俺だが、相手はそんな応対に気付きさえしない。

 エルダー・トレントから助けて以来この白エルフの女性はずっと喋りっぱなしである。

 妹の顔を見てみると呆れを通り越して辟易としているのが解る。

 うるさいっ、とナァムが怒ったことも一度や二度ではなかった。

 不用意に魔物を引き寄せてしまうなどの理由をつけて注意してみると、その瞬間はおとなしくなるが、またしばらくすると「沈黙が嫌!」とかで喋り始める。

 彼女としては人間に捕えられて奴隷として売られるのを恐れて、好感度を上げる作戦を必死に行っているのだろうが、お陰で自分の事をべらべらと喋り、俺達は随分とこのアルヴィの事が詳しくなった気がする。

 ちなみに『アルヴィ』と言うのはこのアルヴィリーナの愛称であり、近しい友人からそう呼ばれているそうな。

 俺達も漏れなく『アルヴィ』の呼称を使える許可を得ている。

 アルヴィ曰く、閉鎖的なエルフの村社会に嫌気が差して、ひとりで旅をしているらしい。

 それでも魔物の出る森をひとりで旅と言うのは些か無謀過ぎだと思うのだが・・・

 俺はそんなアルヴィを抱えて三時間。

 途中の旅程では運良く新たな魔物と遭遇はしていない。

 腕の立つナァムが遊撃できるようにと俺がアルヴィを抱えることにしたのだが、その心配も不要だった。

 それ以外に心配点があるとすれば・・・

 

「あっ、兄さま! どこを触っているのですか!」


 妹の指摘でハッとする。

 アルヴィの腰に回していた筈の俺の右手が、気付けば彼女の胸部に・・・

 

「うおっ! すまない」

 

 俺は慌てて手を元の腰の位置に戻す。

 アルヴィを所謂お姫様抱っこしている状態で運んでいるのだが、彼女は軽過ぎるのだ。

 身体を支える場所が掴みづらいという事もあり、時折アルヴィも俺の腕を掴んでくる。

 そうすると腰に回していた手がずれて彼女の乳房の場所に・・・

 しかし、乳房と言っても直接じゃあない。

 アルヴィは華奢であることに加えて、頑丈に固められた革製の鎧の上からである。

 不可抗力だと思っているのか、今のところアルヴィから抗議の声は出ないが、この狼藉は妹の方が気なるようである。

 

「まったく、男って嫌らしいわね。私がアルヴィを担ぐわ」

「ダメだ。ナァムは遊撃手として、ある程度身体が自由になっていないと拙い」

「そうよ。私はランスの腕の中で優雅に運ばれたいの。素敵な男の人に抱っこされるなんて機会はなかなか無いし、楽ちんだわ」


 いけしゃぁいゃぁとお姫様抱っこを堪能しようとするアルヴィの鋼鉄の精神に、ナァムが再び青筋を立てる。

 

「兄さま。やっぱり、この野良エルフを捨てましょう!」

「野良とは失礼ねぇ。ああ、ダメよ。私ってこんなに消耗していて・・・こんなところでひとりにされれば、生きていけないわぁ~」

「何、か弱い女性を演じてんのよ。図々しいエルフね。こいつ、めっちゃ元気だから、ここに捨てても死にはしないでしょう。そこら辺に生えている草でもなんでも食って生きていけるわよ!」

「まぁまぁ、ナァム、そんなに怒るな。エルダー・トレントに捕食されかけたんだ。お前が同じ立場だったなら、強がれるか?」

「・・・そ、それは・・・兄さまが優し過ぎますよっ!」

「喧嘩するな。ほら、トリアの入口が見えてきたぞ」


 アルヴィが喋りっぱなしだったのであっという間だ。

 なんだか、街の入口を守る見張りの様子も慌ただしい。

 その慌ただしさは、見張り達が俺達の早過ぎる帰郷の姿を確認したことだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ~、初めてエルフを見せて貰ったよ。それにしても綺麗な(エルフ)だよなぁ~」


 見張りのオヤジ達の鼻の下を伸ばしたような姿は、街に入場してしばらく経ってからも続く。

 やはり、俺がエルフの美女を抱えて帰郷したのが騒ぎの主原因だった。

 エルフはその存在自体が珍しく、森の深い領域で生息していて、人の街まで姿を現すのは珍しいことだ。

 しかも見た目が麗しく、全身食い入るように見られているアルヴィの方が警戒心を増したのだろうか、今は静かになっていた。

 

「それにしても、ランスのパーティも帰りが予想よりも早かったな」

「んん? 俺達以外にも早く帰ってきた冒険者がいるのか?」


 今朝方、冒険者一行が森に入ったのは、当然、見張りの人間達も事情を知っている。

 組合長の命令で長期間森に出かけるので、一週間は戻らない旨を出発時に伝えていた。

 

「そうだ。フィーザーのパーティだ。何やら想定外の魔物と遭遇したようで、傷だらけでさっき帰ってきた」

「「えっ!?」」


 俺とナァムの驚きの声が重なる。

 そして、見張りのオヤジ達から詳しい情報が聞けた。

 

「パーティが壊滅するほどの被害だったらしい。フィーザーと剣術士の二人だけで戻ってきたんだ。現在、冒険者組合でその報告を行っているらしい」


 俺とナァムは顔を見合わせる。

 それは自分達もエルダー・トレントという希少な強敵と遭遇していたからだ。

 

「解った。ありがとう」


 見張りのオヤジ達に別れを告げ、俺達は冒険者組合へ急ぐことにした。

 

 

 

 冒険者組合に着くと、そこはやはり騒然としていた。

 建屋一階の受付の前に人だかりができていて、その中心に怪我したフィーザーがいる。

 状況を必死に報告しているようだ。

 

「だから本当だって、まだ森に入って二時間ぐらいのところで、その魔物がいたんだ!」

「・・・」


 黙ってフィーザーからの報告を聞いているのはドライド組合長。

 その周りに一般人や組合関係者もいて、よほど慌てて状況を説明しているようだ。

 報告を受けるドライド組合長はフィーザーの話を真剣に聞いているようにも映る。

 自分の息子の言葉なのでそれは当然だろう。

 しかし、その隣の副組合長は怪しい顔をしていた。

 

「それは本当か? フィーザー君。その場所は別のパーティが三日間に通った記録もある。特に異常は見当たらなかったようだが・・・」

「だから嘘じゃねぇーよ。俺を疑うならば、そこのグラニットにも聞いてみろよ。一緒に戦ったんだから!」


 フィーザーはキレてそんな文句を言う。

 そして、フィーザーの指さす先にはテーブルに添えつけられた椅子に落ち着いて座る剣術士の姿があった。

 彼は戦闘で傷付きながらも冷静に足を組んで、細く生やした髭を弄んでいる。

 まるで今回の戦闘など全くダメージがないような余裕を醸し出している。

 

「その『一緒に戦った』と言う表現は正しくはないが、驚異的な魔物に遭遇したという話は事実だ。あの必殺の杭を隙なく飛ばす歩く巨木は間違う事なき『エルダー・トレント』」

「何っ!? エルダー・トレントだってっ!」


 俺は反射的に驚愕の声を発する。

 それにより、ここにいた冒険者組合一同の視線が俺に集まってしまった。

 それまでフィーザーが騒いでいたので、俺達が冒険者組合の建屋の中に入ってきたのにそもそも気付かれなかったようだ。

 俺の姿を・・・いや、それよりも俺が抱えるアルヴィの姿を見て、今更に俺達の存在を驚愕の表情で認識するここの一同。

 

「ランス。その女は? ・・・まさか、エルフかっ!? お前っ、俺がエルダー・トレントと戦っていた時に、そんなカワイ子ちゃんと楽しい事しやがってッ!!」


 フィーザーから掴みかかられる。

 これは言いがかりも等しい。

 そして、その衝撃で抱えていたアルヴィを落としてしまった。

 彼女はお尻から地面に着地。

 

ドンッ! キャッ!


「痛たた・・・何するのよっ!」


 小さい悲鳴で怒るアルヴィだが、その落とした原因になったフィーザー本人は応答ができない・・・

 何故なら、彼はまた別の誰かに胸倉を掴まれて、俺達よりも高い位置に晒されていたからだ。

 

「うぐぐぐ・・・苦しいっ!」


 俺に狼藉を働いたフィーザーは、既に別の誰かから制裁を受けているようだ。

 そのフィーザーを宙釣りにしている相手を確認してみると・・・先程の剣術士グラニットだった。

 えっ? 先程まであっちの椅子に座っていたのに、いつの間にここまで移動したんだ?

 全然、気付けなかったぞ。

 俺がそんな疑問を他人事のように感じていると、当の剣術士は怒り満載のご様子。

 

「見苦しいぞ! 弱者に強く当たるその姿・・・今のお前に足らないのは自らの行いに対する深い反省だ。そもそもエルダー・トレントと遭遇した時、お前が真っ先に逃げなければ、ここまで被害は大きくならなかった。少なくとも魔術師の女性が死ぬことは無かったんだ!」

「・・・や、止めてくれ・・・誰か助けてーっ!」


 足をバタバタさせて暴れるフィーザーの情けない姿。

 どうやらエルダー・トレントとの戦闘で逃げ腰だった醜態を、剣術士グラウニットは心の底から怒っているのだろう。

 この会話内容から察するに、フィーザーと剣術士グラウニット以外のパーティメンバーはエルダー・トレントとの戦闘で全員死亡したのだと推測できる。

 冒険者とは命がけの仕事であり、魔物との戦闘はある意味で極限状態だ。

 そんな中で信頼できない行動する奴は仲間と見なせない。


「ふんっ! 俺はパーティを抜ける。だからこれは受けとらん!」


 フィーザーを宙吊りから解放して、剣術士グラニットは懐に忍ばせていた小袋をフィーザーに投げつける。

 おそらくあの袋の中には今回のパーティ加入の際に受け取った契約金が入っているのだろう。

 そうか、この剣術士、フィーザーが最近勧誘した凄腕の剣術士という訳か・・・

 

「じゃあな!」

 

 よほどフィーザーの醜態が腹に立ったのか、剣術士グラニットはそれで踵を返してこの部屋から出ていった。

 所謂喧嘩別れだが、冒険者パーティではよくある光景であったりする。

 信頼できない者とパーティは組めないのだ。

 派手な醜態劇だが、ここに詰める冒険者達ならば日常のひとコマであり、そこまで深刻な場面ではない。

 残された人達の興味は俺達に移った。

 

「ランス、お前達もエルダー・トレントに遭遇したのか?」


 職員として詰めていたフォルスからそんな事を問われる。


「ああ、何とか討伐できたんだ」

「何だって!?」


 驚愕の言葉が冒険者組合の受付フロアを支配する。

 当然だろうな、エルダー・トレントとは伝説級の魔物、普通ならば俺達二人だけのパーティで討伐できるような代物じゃない。

 しかし、今回は実際にやった事実だし、運も良かった。

 どう説明してやろうか悩んでいると、先に動いてくれたのはアルヴィだった。

 

「本当よ。ナァム、討伐の証拠を採取していたでしょ。それを見せてあげないさい。そして、エルダー・トレントの捕まっていた私を助けてくれた訳よ。私が証言するわ」


 アルヴィもいつの間にか、エルダー・トレントの触手のひとつを採取していたようで、どこかから取り出して全員に見せていた。

 いつの間に・・・饒舌な彼女はお調子者エルフというイメージがあったが、いろいろな状況を考えてエルダー・トレントに襲われた物証を確保していたようである。

 実はしっかり者なのかも知れない。

 俺はアルヴィの評価を改める。

 ナァムもエルダー・トレントの破片を荷物より取り出して、それを鑑定専門の職員に渡す。

 

「・・・組合長、これらは本物のエルダー・トレントのようです」


 鑑定専門の職員は自分の覚えている特徴と一致したのか、真偽のほどを全員へ報告した。

 

「こりゃすげーな! ランスが勇者になっちまったよ!」


 事務方のフォルスがワザとらしく俺を称えてくれた。

 彼はいつも俺の評価が不当に低いと嘆いているひとりだ。

 これを機に冒険者組合内の俺の社会的地位を上げようと目論んでいるのかも知れない。

 組合長ドライドさんも渋々だが頷く。

 俺の手柄を認められずにはいられないのだろう。

 こうして、この事実を認めたくないのは悔しそうにしているフィーザーだけとなる。

 よし、これで特別ボーナスも期待できるぞ。

 俺がそんな呑気な事を考えていると、組合長のドライドさんから予想外の注文が出された。

 

「なるほど・・・ならば、君に新たな討伐依頼を出そう。フィーザーのパーティを襲ったエルダー・トレントも狩ってくれ。今すぐにだ!」

「「?!」」


 その急な討伐依頼に周囲はザワついた。

 

「流石にその依頼は無いでしょう! あんたには人の心があるのかい! ランス達は強敵との戦いで勝利して、消耗しきって帰ってきたんだぞ。それを休まず直ぐに次の討伐へ行けとか・・・」


 真っ先に怒り千万な様子で反論してくれたのは親友のフォルス。

 彼としてもこの時の組合長の命令はおかしいと思ったのだろう。

 当の組合長は冷たい目をしていた。

 

「フォルス、君に聞いているのではないのだよ。我々は冒険者だ。有害な魔物を狩る事で人々の安全な活動領域を増やしてきた歴史と勇気のある組合員だ。どうした? ランス、やってくれないか? それとも臆病風に吹かれたのかね?」


 やや挑戦的にも思えるドライド組合長からの言葉。

 血気盛んな冒険者ならば、ここまで言われれば出すべき結論はひとつだが・・・

 しかし、俺はそんな無謀な選択はしなかった。

 

「俺は・・・行きませんよ」


 そんな回答で周囲は別の意味でザワつく。

 組合長の命令にそぐわない俺の反論を臆病者として罵る雰囲気だ。

 彼らは組合長の取り巻き、イエスマン達だ。

 冒険者らしくない俺の回答を罵る言葉も聞かれる。

 しかし、俺には今優先すべき事があった。

 

「俺は、アルヴィ・・・エルダー・トレントに捕獲されていたこの白エルフの女性を保護する必要があります。彼女を保護し、回復させなければなりません。目前の人命を助けることが優先事項です」

「ならば、その白エルフの女をこちらで預かろう」

 

 組合長の目がギラリと光る。

 それにアルヴィが反応して、反射的に俺の後ろへと隠れた。

 俺はすぐに反論する。

 

「ダメです。彼女は人間を信用していない。人間の里に連れていかれれば、奴隷として売られる事を危惧しています。俺の責任で助けたんだ。最後まで俺が面倒見ます!」


 その言葉にナァムも頷く。

 血気盛んなナァムも今すぐエルダー・トレントをもう一匹討伐してこいと言う命令には従えない様子だ。

 

「ランスが言う事は筋が通っています。その白エルフの女性にも適切な治療と休養が必要でしょう」


 フォルスも再び俺の言い分を援護してくれた。

 有り難い言葉だが、ドライドさんからメッチャ睨まれている・・・拙いこのままだとフォルスの立場も悪くしてしまう。

 どう収拾着けようかと悩んでいると、悪くなりかけた雰囲気を変えてくれる者が現れた。

 

「まいど。神殿の者じゃ! 依頼のあったトレントに怪我させられた者はこちらかのう?」


 気前の良さそうな老婆の声が響く。

 神聖魔法の使い手が現れたのだろう。

 彼女達は癒し手として神に仕える身である教会の僧侶だ。

 神聖魔法は治癒に特化した魔法であり、教会と冒険者組合は付き合いが深い。

 尤も無料で治してくれる訳ではなく、治療の程度によって寄付金はしっかりと取られるが、それでもその腕は確かである。

 今回は熟練の老司祭が来てくれたので、冒険者組合としても破格の寄付金を提示したのだろう。

 

「ふん、ランスは臆病者だ。しかし、消耗しているのも事実。その婆様に傷を癒して貰え」


 ドライド組合長は不機嫌な様子を隠そうともせず、結局、俺に出そうとしていた命令を撤回した。

 俺達を顎で示し、自分はノシノシと歩いて自室に戻る。

 腹立たしい太々しさだが、ドライドさんが組合長であるので仕方がない。

 こうして、俺達は再び戦闘に駆り出させることは無かったが、それでも俺の心のどこかに不自然な何かが警鐘を鳴らしている。

 何か重要なものを見落としている・・・そんな違和感がずっと心の奥にあったが、結局この場でそれを見つける事はできなかった・・・

 

 

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