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ラフレスタの白魔女 外伝  作者: 龍泉 武
第五部 帝皇の罪、銀龍の罪
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第二話 魔物の森の入口の序章


「兄さま、ウエルティカ様と付き合うのですか?」

「ブブーッ!」


 唐突に妹のナァムから聞かれて、俺は歩きながら飲んでいた水を思わず吹き出してしまう。

 

「はぁ!? 何を言っている! 俺がウエルティカと付き合える訳ないじゃないか!! だって相手は領主のひとり娘だぞ!」

「そんなこと、ありませんよ! 私達の親だって元冒険者組合の会長。そして、由緒ある魔物狩りの一族なのです」


 自信満々とナァムもそんなことを述べてくる。

 しかし、俺は呆れるしかない。

 

「お前なぁ~。それは過去の栄光・・・とまでは言えないが、それでも現在の俺達の立場はしがない冒険者のひとりだよ。領主の娘と付き合うというのは・・・」

「ウエルティカさんと付き合う意味、それは将来このトリアの領主になるという事です・・・私は反対しません。お兄様ならば、その器はあります!」


 根拠の無い自信でそのように強く進言してくるナァム。

 気持ちは嬉しいが、それとウエルティカと付き合うというのは少々違うと思う。

 相手はトリア領主の娘というよりもトリアでもっと美しいと言われている女性であり、ただでさえ人気のある女性。

 

「それよりもウエルティカがどう想うか・・・彼女にだって相手を選ぶ権利はあるぞ」

「それこそ、お兄様は最適だと思います。ウエルティカさんのあの眼を見ましたか? あれこそ、本気の恋する女性の顔ですよ!」

「何を解った風な事を言っているんだナァム。お前が人を本気で好きになったことがあるのか?」

「それは・・・」


 急に勢いのなくなる我が妹。

 こと自分の恋愛に関しては苦手なのは解っている。

 ナァムも美人で可愛い女性だと思うが、それでも巷では冒険者としてのナァムの方が有名だ。

 我々は有名な魔物討伐者を祖先に持っている。

 我が妹もそれを誇りに思っているようで、幼い頃から自らの鍛錬を怠った事がない。

 冒険者として俺よりもナァムの方が優れていると思うし・・・

 そんな腕っぷしの強い妹には喧嘩の話はあっても、恋愛の話は今まで聞いたことがない。

 

「フォルスなんてどうだ? 良い奴だぞ」


 俺は親友をここで推してやる。

 

「う~ん・・・」


少し悩む様子を見せてきたナァムだが、結論はすぐに出してきた。

 

「やっぱり、無いわ・・・フォルスさんは優しいかもしれないけど、あの人って事務方よね。私、弱い男に興味は無いの。せめて組織力があれば・・・」

「組織力か・・・ならば、フィーザーなんかどうだ? 彼は現在の冒険者組合の中で一番のパーティを率いているぞ?」

「それを本気で言っているの? フィーザーなんかのクソ野郎、もっと無いわ。あれこそ親の威を借りるナントカよ。実力も無いくせに、金で腕の立つパーティメンバーを雇っているだけじゃない。今回だって、トロルを二、三匹討伐するって言って張り切っていたし。仕事するのは自分じゃないのに莫迦じゃない!?」


 本気で嫌な顔してフィーザーを拒否する。

 俺が話題転嫁した事にも気付かないようだ。

 俺はウエルティカから話題が逸れた事に少々ホッとして、そして、別の気配もここで気付く。

 

「お! お出ましだぞ!」


 俺は木の上に向かってナイフを投擲する。

 

ドスッ! ギャアッ!


 鈍い命中音と甲高い悲鳴が響く。

 木の上に潜んでいたワルター・エイプを撃退した。

 

「チッ、小物よ・・・こんなの奴をやっつけても自慢にならないわ」


 妹のナァムは全く脅威と感じていないような魔物であった。

 小型なのでまだ子供かも知れない。

 しかし、それでも魔物である。

 放っておけば、無防備な人間に害となるだろう。

 

ドンッ!

 

 牙を剥いて威嚇の声を挙げているが、俺は容赦なく落下してきたワルター・エイプに剣でとどめをさす。


ギャア!


 断末魔を叫ぶ魔物に罪悪感などなく、魔物狩人としての仕事を淡々と熟す俺。

 

「それでも討伐しておこう。この場所も魔物が出没する森としてはまだ浅い領域。冒険者以外の人間がここに来るかも知れない。有害な魔物が残っていれば脅威になるだろう」


 そう述べてワルター・エイプ討伐の証となる尻尾を切断した。

 

「兄さんも真面目ねぇ。でもそれがいいところだわ・・・だけど、まだこんな浅いところでワルター・エイプがいるなんて・・・偶々かしら?」

「さあ? 解らない。ワルター・エイプは群れで行動するタイプの魔物だが、単独で行動するのも不思議だ。過去の事例では強力な魔物が出没して勢力図が変わった場合にそんなこともあると言われているが・・・そう易々と起きないと思うが・・・」


 いろいろ考察してみるが、結局自然相手なので解らない。

 俺はかぶりを振った。

 

「とにかく、先に進もう。ただし警戒は怠らない事だ。変化があるときは何らかの想定外が発生する可能性もある。これは父の教えだ」

「・・・そうね。私達のお父さんも実力のある魔物狩人だったからね。それでも死んじゃう時はあっさりと死んじゃうから・・・」


 ドライに応えているようで少し寂し気な内情を覗かせるナァム。

 彼女としてももう少し親には甘えたかったのだろう。

 そんな年頃で俺達の両親は亡くなった。

 

「精々警戒しよう。いつもと状況が違うかもしれない。我々が無事に帰ることも重要な任務のひとつだ」

「・・・解ったわ・・・そのとおりね」


 いつも勝ち気で、慎重さの足りない妹だが、この時だけは俺の言う事を素直に聞いてくれた。

 きっと、亡くなった両親の事を思い出したのかも知れない・・・

 ともかく俺はホッとする。

 俺達はベテランとまではいかなくても、それなりの腕に覚えのある冒険者だと自覚はしている。

 慎重に行動すれば、そう易々と死んだりしない筈だ。

 いつもとは状況が違うと予感はしていたが、その予感が具現化するのは、ここから一時間ほど森を進んでからの事であった・・・

 

 

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