第一話 魔物狩りの家系
この物語はゴルト歴紀元前三年、つまり、エストリア帝国を建国する三年前より始まる。
後にゴルト大陸で栄華を極めるエストリア帝国を建国した初代帝皇となる男はこの時、トリアの街に住んでいた。
彼は妹とふたりで暮らすしがない駆け出しの若い冒険者。
普通ならば、若い冒険者など大した稼ぎを得られない厳しい生活状況なのだが、その境遇に似合わず大きな家で暮らしている。
それならば裕福な家庭かと言うと、それとも少し違っており、その生活の中身はやはり慎ましく、底辺に近い冒険者の暮らしぶりだ。
そんなアンバランスな状況なのは、この兄妹の父親がこのトリア冒険者組合の前組合長だったからという立場もある。
事故で両親が死去してから、兄妹が引き継げたのは『家』と言う財産だけであった。
冒険者組合の中で優遇が得られている訳ではない。
だからこんな状況になっているのだ。
このような状況で今回の物語が始まる・・・
「兄さん、そろそろ行きましょう。会合の時間に間に合わないわ」
俺は妹に身体を揺すられて、頭が覚醒した。
「・・・んん? そうか・・・すまない、二度寝をしてしまったようだ」
まだ回らない頭は、昨日、あまり慣れない酒を飲んでしまった影響によるものだろう。
いつもは早起きの俺だが、今日はまだ酒精の影響が残っており、まだ頭がボゥッとしている。
「いつまで寝ているのよ! 今日は月に一度の配分会議の日よ。調子が悪いならば、私一人で行くわよ!」
「いや・・・大丈夫だ。少し待ってくれ、支度はすぐに済ませる」
俺は重い身を無理やり起こして、出発の準備をする。
可愛い妹に重要な会議を任せるわけにはいかない。
そんな努力している俺をあざ笑うかのように、妹から厳しい言葉が続く。
「まったく。グラハンさんの相談に・・・ってあの人の口からは愚痴しか出ないわよ。どうせ酒の席でも永遠と『昔は良かった。お前のお父さんとお母さんが生きていた時代は良かった』と繰り返しているだけだったでしょう?」
至極的を得た指摘である。
普段から人を見抜く能力に長けている我が妹の姿は逞しいと思う。
「・・・そうだけど、そんな話でも、聞いてやるのが俺の役目さ」
「まったくそうやって、兄さんは・・・人望だけはあるんだから・・・」
妹の言葉には多少の嫌味も混ざっていることも解っている。
俺にはリーダとしての覚悟が足りない。
いや、足りないと言うよりも、避けていると言ったほうが正確なのかも知れない。
その理由は・・・いや、止めておこう。
ここで昔話を思い出しても憂鬱な気分なるだけだ・・・
「よし、支度は整った。冒険者組合へ行くぞ!」
俺はあえて大きな声でそう宣言し、気持ちを切り替えることにする。
家から十五分も歩けば、トリア冒険者組合に到着する。
ちなみにこのトリアは中堅クラスの都市であり、リドル湖の南岸に存在する人間の集落としては最大級の街である。
この時代、トリアの周囲を統治している王家は存在せず、都市単位で独立した統治を行っている。
過去にここら一帯を支配していた国家も存在していたらしいが、現在は明確な統治者は存在しないらしい。
聞くところによると、大きな国家組織になると不正の温床となるようで、統治が上手くいかないらしい。
人間社会では各地都市レベルが支配の限界だと偉い人が言っていたような気もする。
それが故に、都市毎に有力者が統治する現状が続いているらしい。
自らトリアを国と呼称しないのは、やはり支配規模がトリアだけならば狭すぎることが理由らしいが・・・俺達にとってはどうでもいい話だ。
俺は自分の所属している地域が平和であり、それなりに豊かに暮らしていければ、これ以上立派にする必要はないと考えている。
そして、俺は・・・俺達は冒険者として生計を立てていた。
冒険者とは魔物の闊歩する領域に入り、そこで狩猟や素材収集で生計を立てる者達の総称だ。
俺と妹の二人だけのパーティなので、稼げる大物の魔物を狩るのは難しい。
それでも俺と妹だけで暮らしていくならば、ギリギリ何とかなっている。
このトリアは北側にリドル湖という巨大な湖があり、南側には魔物の生息する森のある豊かな土地だ。
そして、水資源にも恵まれるので農耕地としても悪くない。
そんな豊かなトリアの冒険者組合は歴史があり、周囲の都市と比較してもトリア冒険者組合は一番規模の大きな組織でもある。
だから所属している冒険者の数も多く、競争も激しい。
そんな事を思い出しながら、俺は冒険者組合の建屋へと入る。
「ランスとナァムだ。遅くなった」
冒険者組合の建屋に入って受付係にそう伝えると、俺達はすぐに中の会議室へと通された。
受付の彼らがやけに丁寧に応対してくれるのだが、これは現在の俺達の身分に相応しくなく、かつての威光――所謂、親の七光りってやつだ――が働いた結果であることも忘れちゃいけない。
そして、通された会議室の中には既に他の冒険者達が集められていて俺達が一番最後だった。
「悪い。遅くなった」
視線が一手に俺達に集まったことで軽く詫びを入れる。
元々冒険者という身分の人達は気さくな人間が多い。
ちょっとぐらいの遅刻で怒る人はいないが、それでも今日集まっているのはそんな気楽な冒険者仲間だけではない。
「ランス、遅いぞ! 日が昇ってから一刻以内に集合せよと通達を出した筈だ。遅刻は厳禁のはずだが・・・」
厭味ったらしく今回の失点を突いてくるのは現在の組合長に就任しているドライドさんである。
「申し訳ありません。遅くなりました」
俺にしても反論できる訳もなく、ここは素直に平謝りするしかない。
「フンッ! 時は金也だよ。以後、気を付けたまえ!」
俺が素直に謝ったのが多少面白くないのか、不承不承な態度を接してくるが、それでもこの件はこれで終わりにしたようだ。
このドライドさんは俺にとっても苦手な人である。
かつては父の部下であり、優しい人間――と言うよりもヘラヘラとした態度の人間――だったが、父と母の死後に冒険者組合長の座を引き継いでからは人が変わったように厳しい姿になった。
きっと、人を率いて行くには大変なプレッシャーがかかっているだろう。
俺は安直にそう考えて、空いていた席に着く。
「私、ドライド組合長が嫌い! エラソーにしてさぁ!」
早速、実直な妹は愚痴を零してくる。
それでも一応他人には聞こえないようにヒソヒソと話しているのは最低限のマナーは持っている訳だが・・・
「しかたない。今回は俺達が悪い」
「そこは俺達じゃなくて、兄さんだけよ! 私は何も悪くないもん!」
痛いところを突いてくる我が妹。
我ながら正論である。
そんな俺達のやり取りを見ていた隣に座る友人が笑いを堪えていた。
「お前達、相変わらず仲良い兄妹だな・・・」
呆れ声と共に密かにそんな声をかけてくれるのは幼馴染のフォルスだ。
フォルスは元々戦闘向きではない体躯もあり、成人した現在は冒険者組合の事務方として働いている。
俺の親友であり、ナァムの結婚相手としても良い男じゃないかと思っていたりする。
しかし、現在は配分会議の時間だ。
「あのなぁ~、俺はこれでも真面目人間なのさ。現在は野暮な話をしている状況じゃない。組合長からの今月の配分計画の話を真面目に聞こう」
茶化してくる親友の言葉を有り難く受け止めながらもそれを遮り、配分会議の内容に集中しようとする。
「・・・まったく、変なところで真面目だよなぁ~ ランスは・・・」
諸手を挙げるフォルスの姿に、ナァムが自慢の兄だ、どうだ、と勝手に偉そうに振る舞う姿は既に見慣れた光景。
そんな友人とのやり取りを尻目に、俺は組合長が述べる配分会議の内容に耳を傾ける。
「・・・というわけで、最近の不景気に対応すべく、今月の冒険者諸君には森の深くに潜り、より多くの獲物を取ってきて貰いたい。明日から最低でも一週間は森に入り、帰ってこないように!」
「え!? 一週間も潜るのかよ! 俺のパーティじゃ難しいぞ!」
「それでも・・・組合長の命令ならば、実行するしかない! そして、一週間も潜れば、いつもの二倍の稼ぎになる」
「・・・しかし、危険が何倍にも増えるぞ!」
「それは仕方がない。最近の不景気で冒険者人口が増えているんだ。皆に利益の配分を考えると、今回の組合長の命令も理解できるぞ」
ドライド組合長の命令でざわつく冒険者達。
元々配分会議と言うのは獲物の魔物を限られた上位の冒険者パーティが独占しないための事前の話し合いの場のようなもの。
特に最近の配分会議は今日のようにドライド組合長の一言で決まる命令のような雰囲気になっている。
従わないのも自由だが、そうなると冒険者組合の和を乱す者として糾弾を受ける雰囲気になりつつあるので、実質的に強制に近いような勧告だ。
今回の命令は明らかに危険が増すものであり、集まった冒険者達も不安が脳裏に過っているだろうが、誰もが糾弾されるのが怖くて逆らえない状況だ。
しかし、ここで明確に異を唱える者が現れた。
「私は、その方針に反対です!」
そんな発言した者に視線が集まる。
ここで勇気ある発言をしたのはウエルティカ・オンス・トリアと言う身なりの良い女性。
このトリアを治める領主の娘だ。
しかし、彼女の考えは単なる危険な行為を止めるためではなかった。
「実力のある冒険者達を長く森に潜らせるのは反対です。彼らは有事の際に力となります。最近は近隣領地でバルディ王国の不穏な動きも聞きますから、冒険者は一定数、領地の守りのために残すべきです」
彼女が指摘しているバルディ王国というのは最近目立つ行動をしている侵略者だ。
王国と名乗っているが、野蛮な戦士も多く、規律が悪いと聞く。
そして、その国の本拠地も明らかになっていない。
野党崩れの荒くれ者が勝手に『国家』と名乗っているのではないかと言うのが専らの噂だ。
彼らは巧妙な組織活動が得意であり、近隣の都市で無視できない被害を出している。
このトリア領地の安全も考えると、ウエルティカの述べている事はまともな主張だ。
本拠地であるここを守れずして、狩りなんかに行っている場合ではない。
しかし、この主張をあざ笑ったのはドライド組合長であった。
「ウエルティカ様。失礼ですが、我々にも生活があります。霞を食って生きろと言われるのですか? 国防に力を割いても彼らを食べさせることはできません。領主から冒険者組合に特別な依頼でもあれば、私も一考しますが・・・」
全く取りつかなかった。
「そーだ、そーだ、領主の私兵を使えばいいじゃねーか。あいつらを高い給料で雇っているんだろ?」
他の冒険者からも揶揄する声が出る。
彼らは普段からドライド組合長に媚を売る低級な冒険者達。
そんな声を聴いたウエルティカは顔を真っ赤にする。
怒っているのだろう・・・な。
俺は幼いころからウエルティカの性格を知っているので、彼女がトリア領のことを一番に考える真面目な女性である事も解っている。
そんな想いを踏みにじる罵倒は、まったく賛同できない。
俺も何か言って助けてあげるべきだろうか・・・
そんな迷っていると、ドライド組合長から拒絶する言葉が出た。
「領主様より依頼を出してもらえないならば、我々にもただ働きはできません。狩猟によって利益を得る権利があります。よろしいいですね、ウエルティカ様?」
そして、配分会議は一方的に終了が宣言される。
「とりあえず、これで配分会議は終わる。諸君らは明日から森に入れ! いいか最低一週間だぞ! たんまりと魔物を狩ってこい。大物を狩ってきた奴には特別ボーナスを考えていい」
「おおーっ!! 流石は我らが組合長、話が解っていらっしゃる!」
欲の皮の突っ張った連中が騒ぎ始めた。
誰もが魔物を狩って安全な人間の活動領域を増やしたいが、そう簡単にいかないのが現実だ。
同じことを感じていたのか、隣のフォルスからも脇腹を小突かれた。
「こりゃあ、今月は死人が出るかもなぁ・・・遺族補償の積立金を確認しておかないと・・・ランスもほどほどにしておけよ」
「・・・解った。誰かがピンチになっていれば、俺のできる範囲でなんとかしてやるさ」
「お前莫迦か! 俺が言ってんのはそういう事じゃねーよ! 適当に魔物狩って、怪我せずに戻ってこいって言ってんの。冒険者稼業も命あっての事だぜ。お前の両親の二の舞を踏むなってことだよ・・・あ・・・いや、悪い・・・」
フォルスが最後バツ悪そうに言葉を濁したのは、きっと俺の顔を見たからだ。
「・・・いや、こちらこそ悪かった・・・そうだよな。俺もまだ死にたい訳じゃないし、ナァムが嫁ぐまでは大切に育てないと」
俺も雰囲気を察して、そんな心にも思っていない言葉が口よりスラスラと出た。
冒険の前に悪い雰囲気にしてはダメだ。
そして、口から出た言葉は真実となる――所謂、言霊って奴だ。
俺はそれを信じている。
そんな俺の配慮もあったのか、現在の会議後の雰囲気事態はそこまで悪くはならず、冒険者各位はこれから得られるであろう大きな報酬を夢見て、意気揚々とこの会議室から出て行く者が多かった。
気分が高揚している事は悪い事だけではないだろう。
少しだけ気がかりだったのは、ドライド組合長の方針に真っ向から反対表明をしたウエルティカの事だ。
今回、彼女の意見は盛大に無視される結果となった。
彼女は冒険者組合の構成員ではないが、それでも領主の一人娘として重要なオブザーバーである。
ウエルティカもトリアの将来を心配しての発言だろうが・・・それを冒険者組合の誰もが聞き入れなかったようなもの・・・
そんな現実に打ちのめされているに違いない。
俺はまだ直立したままの彼女に近付き、優しくフォローしてやる。
「ウエルティカ・・・俺だけはできるだけ早く戻ってきてやるよ!」
「ランス!」
ウエルティカはこの時冒険者の中で唯一理解を示してくれた俺のことが嬉しかったらしく、少しだけ笑顔を見せてくれた。
しかし、そんな俺の行動にケチがつくのは、ここが冒険者組合という場所だからだ。
「ケッ! この場に及んで、自分だけウエルティカのポイントを上げようとして、詰まらねぇお世辞を言うんじゃねーよ。この嘘つきランスがっ!」
俺に対して罵る言葉を浴びせてくる男はフィーザー。
彼はドライド組合長の息子であり、俺とも当然、小さい頃からよく知っている仲だ。
そして、昔から俺の事を目の敵にしている人物でもある。
「別に嘘なんかついていない。意味もなく一週間も森に籠る必要はないさ。大物を狩ってくれば、それで早めに引き上げてくる・・・それならば何も問題無いだろう?」
「何を寝言ってやがる! ランスのパーティメンバーって妹だけだろ? そんなのはソロの狩人と変わらねぇ。大物なんて無理だ!」
「そんなものやってみなければ解らないさ。冒険者たる者、挑戦を忘れれば、ただの人さ」
「なに格好つけてやがんだ。そんな偶然、起こる訳がない! 精々ネズミを数匹狩って帰ってくるって宣言した方が信じられるぜ!」
フィーザーから罵声が浴びさせられる。
しかし、俺は気にしない。
この程度の嫌味にいちいち腹を立てるほど器量は小さくない。
「まぁ、見ていろ・・・」
「へんっ! 面白い、僕のパーティよりも大物を狩ってくれば、ウエルティカと付き合うのを認めてやるよ。逆に僕のパーティが勝てば、俺がウエルティカと付き合う!」
ここでフィーザーからの賭けの申し出にギョッとしたのは俺ではなく、当のウエルティカだった。
「それはダメだ。ウエルティカは商品じゃない・・・勿論、彼女が自分の意志でフィーザーと付き合うと言うならば、俺としては邪魔しないが・・・」
「そ、それは・・・」
ウエルティカの顔を見れば、絶対にそれはないという顔だ。
逆にフィーザーは「俺が邪魔しない」という部分の言葉だけを捉えたようで、勝手に想像力を膨らまして下品な笑みを浮かべている。
「へへへ・・・俺がウエルティカと付き合うのを認めるのか! そりゃ悪くねぇなぁ~」
ヘラヘラとしたフィーザーの顔は、彼の頭の中でいかがわしいことを考えているに違いない。
困惑を深めるウエルティカと、それとは逆に爆笑を堪えているナァムの姿が対照的だったりする。
そんな奇妙な雰囲気だが、フィーザーが奇声を発した。
「ヒャッハー! 最高だぜ!! その約束忘れんなよ! かぁーっ、がぜんやる気が出てきちまったぜぇ! 今回のために凄腕の剣術士を雇ったんだ。高い契約金を払った元を取ってやるぜぇ~!」
終始ご機嫌になったフィーザーはこれで退出していく。
「がぜん莫迦じゃない。あいつ、死ねばいいのに!」
ナァムが本気で軽蔑した声で退出したフィーザーを見送る。
そんなナァムの言葉に軽く頷きを見せるウエルティカの姿を俺は見逃さなかった・・・
翌朝、冒険者達がトリアの街から出発する。
家族で出発を見送る者、恋人同士でしばしの別れを惜しむ者、それぞれの立場によって状況はバラバラだが、俺達にも一応見送りしてくれる人物が来てくれた。
「ランス、本当に早く・・・いいえ、無事に帰ってきてね。欲張って大物なんて狙わなくていいから」
俺の手を握り、甲斐甲斐しくそう述べて激励してくれるのはウエルティカだ。
傍から見れば、俺達は恋人のように映るかも知れないが、それでも俺とウエルティカの関係は幼馴染以上でも以下でもない。
昨日のフィーザーの賭けの言葉があったから、こんな状況になっているのだろう。
しかし、何かを勘繰る友人フォルスがニタニタとしている。
「おおっ! ランス、羨ましいねぇ。ウエルティカといつの間に・・・」
そんな茶化したフォルスの言葉にウエルティカが意識したのか、顔が真っ赤になる。
「阿保な事を言うな。俺達はそんな仲じゃないよ。それよりも、俺はいつもどおり確実に狩りをして帰ってくるだけだ。どうせ二人しかいないパーティたのだから大物なんて狙えやしない」
「そうね。でも、ネズミ狙いじゃないわよ。少なくともフィーザーのパーティよりも戦果を狙いましょう。私達は伝説になっている魔物狩人の家系よ。下手な戦果ならば、ご先祖様に申し訳が立たないわ」
ナァムは無理な目標を掲げてくる。
妹は俺と違って冒険者としての才能もあるし、彼女が伝説になっているご先祖様の魔物狩人に憧れているのも知っている。
本当にナァムだけの活躍で大きな戦果が得られるかも知れない。
俺は彼女の言霊を信じてみたくなった。
そして、奇しくも俺達の競争相手となってしまったフィーザー。
彼のパーティ情報も事務方であるフォルスが教えてくれた。
「フィーザー達は実力者を集めたパーティだぜ。最近、凄腕の剣術士を雇ったらしい。それに加えて一流の装備・・・まったく親の七光りってやつだね~」
確かにフィーザーは現在の組合長であるドライドの一人息子。
金も権力もある。
しかし、俺やナァムだって前組合長の子息だ。
金や贅沢な装備は無くとも、冒険者として一流の技術を教えられてきた。
負ける気はしない・・・たぶん・・・
「まぁ、死なない事・・・これが冒険者には一番重要だ!」
一応、フォルスはそんなフォローしてくれた。
冷静に考えれば、これは俺達に分の悪い賭けだ。
「・・・そうだな。まあ、無理せずに精々頑張ってくるさ。じゃあな!」
まだ心配の募らせているウエルティカをこれ以上気落ちさせないように、俺はここで半ば強引に話を切り上げた。
さあ、冒険に出かけるぞ!
こうして、俺達、ランスとナァムのふたりだけのパーティは魔物の潜む森に向けて出発することになる・・・




