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ラフレスタの白魔女 外伝  作者: 龍泉 武
第四部 三王女の物語
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第八話 姉様の温もりに触れて


「姫! シルヴィア様、如何なされた? 無事でしょうか!? うぉっ!!」


 騒ぎを聞きつけて、現場に血相を変えて現れたのはファルナーゴ達。

 しかし、既に遅く、事件は解決した後であった。

 ファルナーゴ達は私が半裸の状態で人間の男性に抱きついて泣く現場を目にして困惑している。


(いけない、変な誤解をされると困る・・・)


 私はそんなことを思い、言い訳をしようとするが上手い言葉がなかなか出てこない。

 

「ファルナーゴ、遅かったわね。警備体制がなってないわ! しかし、事件は無事解決しました。シルヴィーナは無事よ」


 私に代わり、冷静な姉様が的確な状況説明をしてくれる。

 姉様はレヴィッタよりも遅れて、この部屋にやって来たが、落ち着いており、人間のウィルさんや仮面魔女が事件を解決してくれるのを解っていたようだ。

 さらに遅れてこの部屋に入ってきたファルナーゴや他のエルフ達は私に狼藉を働いた犯人を目で探す。

 

「寝込みをコニカに襲われそうになったの。でも私達が阻止したわ」


 一瞬、私が抱き着いている人間を疑ったようだが、全裸で(うずくま)るコニカは状況証拠としては十分過ぎた。


「コニカっ! 貴様、どうしてっ!」

「うぅぅっ うぉぉん!」


 怒りでコニカの身体を揺らして犯行理由を問い正すファルナーゴだが、コニカは急所を押えて痛がるばかり。

 私からの最大の反撃のダメージがまだ残っているようである。

 心の中では「くたばりやがれ」と思っていたが、それでも犯行の動機を調べるのは犯罪者を処断するに必要な行為だ。

 それが解っている仮面の魔女は命令を下す。

 

「面倒だけど犯人に自供して貰うためにも治療が必要だわ。レヴィッタ、治してあげなさい!」

「えーえっ! 私が? ですかぁ!」


 彼女(レヴィッタ)の顔を見れば明らかに拒否。

 しかし、仮面の魔女は厳しかった。

 

「レヴィッタがやらないでどうするの? この中で一番治療魔法が得意でしょう? それとも、私にやらせる気? こんな汚いのを触るのなんて嫌だわ! アナタ、帝国の臣民でしょ? 私の命令を聞けないの?」

「ええぇーーっ、くっそう!」


 美人に見合わない悪態を放つ人間(レヴィッタ)だが、結局、彼女はソレを実行することを選ぶ。

 悲しき下端だ。

 彼女は痛がっているコニカの局部に布を被せて、できるだけそれを見ないようにして手を添える。

 そして、魔力を発生させて治療魔法を施した。

 

「ふぅぅ。気持ちいい」


 痛みが引いて変な顔へと変わるコニカ。

 私とレヴィッタはそんな恍惚の雄の顔をできるだけ見ないようにしたが、姉様と仮面魔女だけはコニカに対して厳しい視線を外さない。

 女性に狼藉を働いた暴漢は決して許さないぞという態度であり、彼女達は頼もしかった。

 

「さあ、喋れるでしょ? コニカ、どうして私の可愛い妹を襲ったのかしら? アナタの目的は何?」

「私は・・・シルヴィーナ様のことをお慕いして・・・」

「嘘は結構よ。私はともかく、この方はアナタの心の真意が魔法で読めるから、下手な言い訳は時間の無駄よ」


 姉様の指摘に仮面の魔女はゆっくりと口角をあげる。

 その残忍な笑みはコニカを振るえ上がらせるには十分な迫力があった。

 

「それは・・・ローラ、お前のせいだ!」

「私? それも訳が解らないのだけれども?」

「お前が、黒エルフのスレイプの野郎と通じて異端の子をもうけた。私という者がいながら! それが赦せなかったのだ。白エルフの血統が益々穢れていく」

「私がスレイプと結ばれたのは私の自由意思です。アナタにとやかく言われる所縁はございません。しかし、それこそ妹を襲った理由と何の関係があるの?」

「本気で解らないのか? 白エルフの族長の娘ともあられるお方が・・・だから駄目になるのだな・・・ハハハ」


 コニカは不敵に笑う。

 姉様の顔が強張った・・・私は姉様が相当怒っているようだが、コニカはどうやらその事に気付かないらしい。

 

「だから、我ら白エルフの地位が、血筋の価値が下がるのだ。お前の妹も同じ口だ。昼間に人間の剣術士へ色目を使っていたではないか!」


(違う!)


 と、私は否定したかった。

 しかし、現在、その男性に優しく抱かれて、私の心はとても落ち着いていた。

 いや、落ち着いているのではない・・・喜んでいる・・・それが解ると単純に否定ができなくなってしまった。

 

「莫迦ね。それはウィルさんが格好いいから仕方ないの。そうよね? シルヴィーナ、女性といは恋愛感情を抜きにしても素敵な人は素敵だと思えてしまうものわ」

「・・・え、ええ。そうよ! あの素敵な剣裁きと、ソロにも勝ったのよ。アナタは勝てるの?」


 私は嘘をつく。

 人間への好意など認められない。

 そう心では解っているのに・・・

 

「そうですよ。それにウィルさんは私の夫です。既婚者ですから!」


 ここでレヴィッタが私達の間に入り、彼と引き離された。

 

「あっ・・・」


 私は思わずそんな声を挙げてしまったが、私の身体から薄い毛布が落ちないように今度はレヴィッタが私の身体を抱くようにして抑えてくれる。

 私の縋るような視線にウィルという人間の男性は反応しない。

 反応したのはまだ私の事を色目で観ているコニカだけである。

 

「嘘をつくな! この色狂いの女め。白エルフの雌には白エルフの男が似合うのだ。私が白エルフの男性のすばらしさを教えてやろうと思っていたのに・・・ぐぐっっ!」


パシンッ!

 

 ここで、コニカが打たれた。

 怒りが頂点に達した姉様の仕業である。

 

「そんな下らない理由で妹を穢そうとしたのね・・・ちなみに後生だから教えてあげるけど。アナタのその小さなモノで満足する女性ってどれほどいるでしょうね?」

「へっ!?」


 驚くコニカ。

 私もまさかあの(・・)姉様からそんな下品な言葉が出るとは思わなかった。

 

パサリ・・・


 コニカの局部から布が落ちる。

 姉様から蔑みの言葉を受けて、脱力したようだ。

 私は恐る恐る彼の局部を見てみれば、確かに完全に委縮したソレがそこにあった。

 言われた方のコニカもすごく落ち込んだようで、完全に意気焦心している。

 

「オイ。行くぞ!」


 ファルナーゴは自分の役目を思い出したようで、狼藉人を縛り、この場から退散した。

 その後、私は治療や心のケアも兼ねて、母屋の方へと移された。

 

 

 

 私が案内されたのは母屋の姉様が使う部屋。

 それほど大きくない部屋は白エルフの姫君としては少し手狭だが、それでも清潔でキレイだった。

 

「服が破かれてしまったわね。シルヴィーナ、アナタは私とそれほど体形が変わらないから私の服をあげるわ」


 姉様はそう言い、私に服をくれた。

 くれた服は白を基調とした可愛らしいワンピース。

 白エルフ伝統の服とは違う意匠であり、新鮮だった。

 

「悪くないでしょ? 人間の造った服だけど、白エルフの森では見たとことがない意匠(デザイン)よ。尤も、森で着るには少々目立ち過ぎるけどね」


 確かのそのとおりである。

 森で白い服なんか、目立ち過ぎていつ魔物の標的になるか解らない。

 しかし、私も女性だ。

 綺麗な服、美しい意匠には興味ある。

 

「ありがとう、姉様」

 

 久しぶりに姉様へ感謝を伝えられたような気がした。

 私にとって姉様とは何だったのだろうか。

 ふと、そんなことを考えてみる。

 白エルフの矜持を捨てた恥知らずの姉様。

 しかし、今回、姉様は少なくとも私の事を守ってくれた。

 私が乱暴されていた事実に酷く怒ってくれた。

 そんな姉様が本当に恥知らずな人なのだろうか?

 森の巫女の役割を放棄して、自分の愛を優先し、男の元に走った。

 それはあるかも知れない。

 でも、今の姉様は銀龍様からの信頼も厚いと聞く。

 本当に訳が解らなくなった。

 私は何がやりたかったのだろう。

 何に対して怒っていたのだろう。

 何が正義なのだろう。

 混乱している中で、壁に飾るひとつの絵が目に入る。

 綺麗な額縁に入られて飾られている絵はお世辞にも上手いとは思えない。

 しかし、どこか温かいタッチだ。

 私がその絵に着目していると姉様が気付く。

 

「あ、それね。娘が描いたのよ。天才的でしょ?」

「え、ええ」


 私は曖昧に返事を返す。

 

「この家に住んでまだ半年ほどしか過ごしていないけど、子供がいると次々と物が増えてくるわ」


 姉様の視線の先を追うと、木の箱が目に付く。

 

「子供って不思議よ。どこからでも自分の宝物を見つけてくるの」

 

 姉様がその箱に手をやると、姉様の娘が見つけてきた玩具で満載になっているのを見せられる。

 

「子供の価値観って新鮮なのよね。私達大人はゴミだと思っても、いろいろなものに価値を見出すわ。これかなんか草を潰して絵具にしたかったみたい」


 そう言って瓶詰めした草が入ったものを見せられる。

 

「サハラがこれで遊んでいるのを見たハルさんが、絵具を調合してくれたの。あ、ちなみにハルさんとはこの土地の所有者で私達の恩人のことね」


 姉様はさも普通の友人のように人間のことを扱っている。

 ここで私はハッとした。

 姉様は建前で人間と付き合っているのではなく、普通に友人として付き合っているのだと。

 そこにはエルフも人間も関係は無い。

 彼女の信頼できる友としてそのハルさんという人物がいるのだろう。

 だから、自分の娘も人間と付き合うこと、触れ合うことに何も恐れが入ってないのだ。


「それでサハラが絵具を気に入り、絵を一杯描いたのよ。これなんかは森の泉を思い出して描いたみたい」


 そんな説明を聞けば、描かれた絵は何となく理解できる。

 大きく透き通った水色が泉で、羽の生えた生き物は妖精のことだろう。

 そして、手をつないだ三人の人型は姉様と夫の黒エルフ、そして、娘本人。

 幸せそうな家族が想像できる絵だった。

 

「ね? 天才的でしょ? 将来は画家になれるかも知れないわ」

「そうですね・・・本当に幸せそうな絵・・・」


 あれ? 私、どうして泣いているの?

 不思議と涙が出てきた。

 

「あら? シルヴィーナったら・・・今日は散々でしたからね。今晩はここに泊まりなさい。母屋ならば警備は万全です」


 姉様は私の涙を清潔なハンカチーフで拭ってくれた。

 心に温もりを感じる。

 そうしていると、部屋がノックされる。

 

「・・・あの。ローラさん、シルヴィーナさん、よろしいですか?」


 ここで面会を求めてくるのはレヴィッタであった。

 姉様はソファーから優雅に立ち上がって応答する。

 

「何? レヴィッタ、構わないわ」

「皇女様が、シルヴィーナさんとお話がしたいって」

「・・・解ったわ。すぐに行く」


 姉様は軽く溜息を吐くと観念したように、私に移動を促す。

 そうだ。

 私には人間側と交渉しなければならない仕事がまだ残っていたと思い出す。

 あの傲慢な人間の帝国の皇女と対峙しなくてはならないのだ。

 私は白エルフの姫としての仮面を被り直すことにした・・・



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